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血のクリスマス

今回まで影打君の生活を覗いて来たが皆んなはコイツの人間関係はどうなっているんだと思わなかっただろうか?

私は影打君とコミュニケーションを取っているが影打君に取っては私は空気の様なものだ。

周りから影打君は厨二病の様に見えた事だろう。


しかし、影打君は決してボッチで便所飯を食っていた訳では無いし押入れでギターを弾いてもいない。

ギターはあるが。


今日は12月24日クリスマス・イブなのだ。

影打君は自前でケーキを作り1人スパークリングワインで過ごそうと考えていたのだ。

やっぱボッチじゃんと思うだろうがそんな時に厄介事はやって来る物だ。


「桐馬ァ!ダンジョン行くで。どうせ暇なんやろ!」


身長が178cmの影打君よりも背が高いカワイイ顔に細身の年若い女性が玄関を蹴破りノシノシと上がり込んでくる。

『真打 瑠璃』彼女は影打君の遠縁で本家筋にあたる幼馴染である。


「クリスマスにダンジョンなんか行く訳ないだろ。俺はケーキを食って酒飲んで寝る」


至極最もな影打君の言い分だ。

クリスマスにダンジョンなどマトモな思考では無い。


「なに言うとんのや、クリスマスは恋人とデートやろ。こんなカワイイ彼女と行かんでどうするんや」

「行き先がダンジョンってんのが間違ってんだ。お前も炬燵でケーキ食え。それに恋人じゃないだろ」

「煩いわ。もう決まっとんのや幼稚園の時に桐馬もウン言うたやろ」


中々にヘビーな愛である。

普通、幼稚園でのその手の話は良くある事だがそれが後になって成される事はまずない。


「それに家にも話通しとる。逃げ場は無いんや、往生しいや」

「あ~、そうだった。親父がそんな事言ってたな」

「分かったやろ。行くでダンジョン」

「待て、ケーキ食ってからだ」 


影打君は手が音を置き去りにするスピードで瑠璃の口にケーキを押し込む。

⋯よくケーキが砕け無かったね。


「それで何処に行くんだよ。もういい時間だぞ」


影打君はリュックを背負い靴を履く。


「箕面公園や。アッコまでやったら御堂筋のイルミネーションに寄ってから行けるやろ?」

「遠いわ!今何時だと思ってんだ」

「ウチのスキル忘れたんか?桐馬を抱えても直ぐやで」

「お前にしがみついた格好が情けないんだよ!」

「ええやん。恋人同士の軽いスキンシップや」


そう言うと瑠璃ちゃんはアパートの庭に降り立ちスキルの力を開放し始めた。

目が眩むまでの燐光が吹き上がる。

明らかに尋常なスキルでは無い。

そして彼女は謳い上げる美しい声音で。


「咲け!夢幻の青。一輪の蒼き閃光。ブルーム・アップ!――幻想魔導 ヘッドライナー・ルリ!」


瑠璃ちゃんの姿が蒼い閃きのレース姿に流れる様に変わり目元にピースサインが閃いた。

⋯⋯彼女のスキルは「魔法少女」幼い少女なら誰もが憧れる無敵のヒロイン。

だが、普通は一過性の物だ。

女性の精神の発達は男よりも早い。

直ぐに忘れ恋や現実の事を考え始めるのだ。

だから「スキル」を得る事ができる年齢まで心の底から「魔法少女」を願える人は殆どいないのだ。

まあ、影打君も「ヒーロー」だから人の事は言えないからお似合いとも言えるね。


「うるせーぞ!!」


近隣の人から苦情の声が上がる。

まあ、この時間で瑠璃ちゃんの大きな声と変身の光は近所迷惑だったね。


「さあ、桐馬掴まりや。背中でもお姫様抱っこでもしたろか?」

「うるせぇ。背中だ背中!」

「エロッ。桐馬後ろからウチの胸触るつもりやろ」

「ああ言えばこう言う、頭きたぞ!ホントに揉んでやるから覚悟しとけ!」

「え⋯ホンマにするつもりなん?」

「ヒーロー嘘つかない!」


影打君は瑠璃ちゃんの後にしがみついた。

もう、離すつもりは無いらしい。


「心の準備があんねん。ちょっと待ってな⋯」

「俺は覚悟完了したぞ。考えてみたらお前以外の女と付き合える機会がある様な気がしない!」

「消去法みたいに言わんでや!」


なんだか急にラブコメ始めるねぇ。

私もちょっと目のやり場に困ってきたよ。

そろそろ、ダンジョン行かない?

あっ、行きますか。

瑠璃ちゃんは背中に影打君を引っ付け空を翔る。

そのスピードは複葉機並だが輝く魔法の障壁で空気抵抗を相殺される快適な空の旅だが時折フラフラしてるね。

西宮から尼崎を抜け途中、梅田の御堂筋の眩しいイルミネーションを一瞥し箕面公園ダンジョンにスッと重力を感じさせないまるで羽の様に着地する。


「危ないやん!」

瑠璃ちゃんの顔は時期外れの紅葉の様に紅く色付いていた。


「危なくなど無い。お前はあれしきで落ちはしない。落ちても俺が何とかするから大丈夫」

「もう、どんな信頼や!」


「さあ、行くぞ。ダンジョン探索だ。さっさと終わらして家に帰るぞ」

「ちょ、ちょっと待ってぇな!」


箕面公園ダンジョン前の検問で探索者証を翳しいざダンジョンへと向かう2人。

何となくラ◯ホに向かうカップルに見えるのは気の所為だろうか。

何はともあれダンジョン内へ。

箕面公園ダンジョンのモンスターは巨大なシカ、イノシシ、テン、稀にキツネやアナグマと鳥類に豊富な種類の巨大な虫だ。

国内有数のモンスターの種類を誇る難度が高い場所だ。

決して初心者が入っていい場所ではない。

大都市近郊であり定期的に自衛隊の掃討作戦が行われるのだ。

だが、ランキング上位者にとっては美味しい狩場でもある。

モンスターの素材、特にキツネの毛皮や巨大な昆虫の外殻や羽は貴重だ。

昆虫モンスターの素材は本来なら自重で潰れるはずの重量を支えているマジカル素材で非常に人気。


「ウォォォ、キツネモンスターだ逃がすかぁ!」


「ザシュ!」キツネにシャベルが突き立ち首が飛ぶ。


「これでキツネ6匹目。最高だ、瑠璃に毛皮のコートをプレゼントしてやるよ。何時もはこんなにモンスターに会わないのにな!」

「そう言えば桐馬はモンスターにあんまり会わないんだっけ?」

「そうそう。ゴブリン一匹なんて事は良くあるな」

「そうなん、ならちょっとココのダンジョンおかしいんかな?」


基本的に難度はともかく箕面公園ダンジョンは一般的な洞穴型ダンジョンではあるね。

普通なら影打君のスキルでモンスターはほぼ現れ無いが⋯⋯なる程ね。

影打君、レイドモンスターだ。

ダンジョンの奥から湧き上がって来てるよ。


「なんやアレ……ビルか?」


ダンジョンの奥からヌッと現れたのは、体高15mはあろうかという巨大な鹿ジャイアントディアだ。

だけど、ただデカい鹿じゃないね。

その体はメカニカルな鈍い銀色に光る鋼板を何重にも貼り付けた、バケモノじみた装甲に覆われている。

積層チタニウム合金――影打君の直感にとってそれは「絶対にシャベルが通らないヤバイ塊」だ。


「グルァァァァァン!!」


ダンジョン全てが軋むような咆哮。

鹿が前足で地面を叩くと、衝撃で岩盤に小さなクレーターが刻まれる。


「桐馬!アカン2人で勝てる相手やあらへん!逃げるで!」

「ダンジョン内では逃げ切れん。瑠璃、お前は後ろから援護してろ。俺がコイツの動きを止めるからその隙に目から脳を撃ち抜け」


「ドクン!」影打君の心臓が高鳴る。

異能個体テナーには負けっぱなしだが今回は力の勝負だ。

燐光に稲妻が走り始める。

「ヒーロー」が顕現するギリギリのスキル開放。


『負けはしない』


「ドゴォドゴォ!」と影打君の駆けだす足音が大地を穿つ重機と化した。

明らかに人間のそれでは無い密度を伴っている。


鹿とぶつかるその間際。


「瑠璃!」

「よっしゃ!」


影打君の背中から蒼い光が爆発する。

あまりの閃光にジャイアントディアも目が眩む。

その隙に前足にシャベルを突き込むが⋯

「バキ」とあっさりとシャベルの柄が折れる。

ジャイアントディアも足がむず痒かったのか足を振り回した。

それを喰らい影打君は吹き飛び地面に転がった。


「痛ってぇ、クッソ鼻血でた」

「桐馬、大丈夫なん!」

「ああ、まだまだやれる。次は爆裂魔法を頼む」


再び駆けだし目が回復したジャイアントディアの踏み潰そうとする足を頭上で受け止める。

影打君の足元が大きくめり込む。


「横からだと吹っ飛ばされるが上からならイケるな!」


影打君の鼻血が勢いを増す。

額の血管も強く浮かんできたね。


「今や!――咲け!アズール・ブルーム 」


蒼い花が咲き誇り、そのままに美しく爆発する。

ジャイアントディアの積層された装甲の節々が破砕されバランスを失い倒れこんだ。


――ズドォォォォ


「うっし!首を押さえつけてトドメと行くか!」


ココぞとばかりにディアの首に取り付くが⋯


「首が太過ぎて抑えきれねえ!」


破裂する様に首を振るディアと振り回される影打君。

その嵐によりダンジョンの壁が地面が破壊され破片が無数の弾丸となり辺りにまき散る。


「キャ!」


その弾丸の1つが瑠璃ちゃんの頬を掠め血が滲む。

それを見た影打君の顔に憤怒がうつる。


「テメェ!瑠璃に何してくれとんのや!」


燐光に赤が混じり始める。

影打君の全身の筋肉が膨れ上がりディアを掴む腕が積層チタニウムの装甲を巻き込みめり込んで行く。

そして――ズンッ!

ディアの自重を利用して両足をバンカーの様に地面に突き立てた。


「瑠璃!大丈夫やったらトドメや!」

「大した事あらへん――行くで!エイズ・オブ・アズール」


一輪の花から放たれた一条の蒼がダンジョンをディアの目の最奥を貫き花びらが散るが如く吹き抜けた。


そして、ディアの身体は暫くビクビクと跳ねたがやがて力を喪いだらりと垂れた。

影打君は血に塗れた腕と突き立てた足を引き抜き瑠璃ちゃんの元に駆け寄った。


「傷はどんな具合だ見せろ」

「大丈夫やってちょっと掠っただけや」

「傷口に砂が付いてるな。もっと良く見せろ」

「ん。ほら、どないや」


影打君は一頻り顔を眺めた後に。


「ペロッ」


大胆だなぁ。

影打君は瑠璃ちゃんの頬の傷口を一舐めして砂を拭ったのだ。


「キャ!なにすんのやビックリしたわ!」

「手がこんなだからな。口がてっとり早い」

「それでも言うてからにしてや!」


真っ赤な顔で彼女は言う。

それに対して影打君は返す。


「良いだろ。恋人と言うか婚約者なんだろ?」

「せやけど⋯」

「ゴタゴタ言うな。とっととキレイにして帰るぞ」

「⋯わかったわ」


その後、影打君達はダンジョン入口の自衛隊基地にて身を浄めアパートに帰ったのだが影打君達は忘れていたのだ。

先ほどの一部始終は配信されていた事を。

影打君は951位で瑠璃ちゃんは121位の実力者だから配信をみている人は多い。

今回のレイドモンスターを2人で倒したならそりゃバスる。

その直後にイチャコラだから大炎上だよ。

瑠璃ちゃんのユニコーンは多いし「魔法少女」なので年少の女の子も見てる。

こりゃ明日が愉しみだね。


ちなみにアパートに帰った2人は同じ布団でシタ。








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