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Jazzが聞こえたら

私が来た合図だ!

前回の明石ダンジョンのスタンピードが収まって1ヶ月。

9月後半から10月上旬まで神戸の街はJazzで包まれる。

神戸はJazz文化の日本発祥の地。

プロアマ問わず大勢のミュージシャンや学生が楽器を持ってパレードやハウスでJazzを奏でるのだ。


特に10月上旬のJazzストリートは三宮駅北側の広場から出発し北野坂を40分かけて練り歩く国内屈指のパレードに様々な場所で有料になるが素晴らしいグルーブを響かせる。


定番のニューオーリンズ・スタイルの「バーボン・ストリート・パレード (Bourbon Street Parade)」や軽快なテンポで街を彩る「世界は日の出を待っている (The World Is Waiting for the Sunrise)」そしてパレードの代名詞の「聖者の行進 (When the Saints Go Marching In)」で最高潮に盛り上がるのだ。


先の異能個体や明石のスタンピードがあったと言うのに逞しい事だ。

既に「昨日の事」なのだ。

この世界になってからはね。


だけど悪くは無いよ。

私もJazzストリートのクラウドファンディングに課金するくらいにはJazzが好きだからね。

BL◯E GIANTは私の愛読書だ。

映画も素晴らしかった。

こんな音が漫画では響いていたのかと感動したよ。

熱い情熱の閃き、BGMとしてだけじゃない。

主役の音だ!


⋯おっと少々熱くってしまったね。

そんな訳だ。

暇があるなら是非ともJazzストリートに参加して欲しい。

観客だってPlayerなのだ。


では、そんなJazz鳴り響く神戸の街の影打君を観察して見ようか。


---


影打 桐馬は、北野坂のJazz喫茶のカウンターにいた。

褒賞金のおかげで、今はバイトを詰め込む必要はない。

目の前には、少し背伸びをして注文した「ブルーマウンテン」のカップ。

そして、その後ろには使い古された壁一面のレコードが立てかけられている。

店内に流れるのは、パレードの陽気な音とは対照的な、静かで、それでいて心臓を直接掴むような激しいモダン・ジャズ。

ビル・エヴァンスか、あるいはマイルス・デイヴィスか。

影打君は目を閉じ、コーヒーの熱い蒸気を吸い込む。


「…いい音だな」


ぽつりと、彼は呟く。

数週間前、明石の駅前でネコ型モンスターを肉塊に変えていた時の、あの血肉が弾ける「不快な音」を、この重厚なベースの音が上書きしていく。

だが、影打君の身体からは、相変わらず「スキル」の力が微かに漏れ出している。

その漏れ出した力の波動が、店内のスピーカーから流れる音と干渉し、わずかにノイズを混ぜる。

彼は気づいてないのだ。

自分が心静かにすればするほど、周囲の音に彼の力が混じり込んでいくことに。

ふと、店の扉が開いた。

カウベルが乾いた音を立てる。

入ってきたのは、楽器ケースを背負った一人の若い女性だ。

顔にはまだ、明石のスタンピードで家族を失った悲しみの色が、薄いヴェールのように張り付いている。

彼女は、カウンターの隅でケースを立てかけてコーヒーを啜る、冴えない影打君の隣に座った。


「Jazzが聞こえたら、少しは楽になれると思ったんですけどね」


彼女の独り言に、影打君は目を瞑る。

ただ、静かにコーヒーカップを傾けるのだ。

外ではパレードが最高潮を迎えようとしている。

「世界は日の出を待っている」のメロディが、店内まで漏れ聞こえてくる。


「…次は、もっとデカい音がしそうだな」


今月の家賃は払った。

パチスロも今日は打っていない。

パチンコは打った。


おっと、影打君。

せっかくのJazzを台無しにするような予言はやめてくれよ。

私は今、この素晴らしいグルーヴに浸っていたいんだ。

そもそもハードボイルドを気取るってガラじゃないだろう?

ちょっと雰囲気で言った事は分かってるんだよ。


そして、パレードは続く北野坂の頂上を目指して。


---


「いたぞ!逃がすな!」


六甲山ダンジョンからまたしても異能個体が飛び出してきた。

目標は以前と同じ三宮の方向を示しているぞ。

ちょっと待って今はJazzストリートの真っ只中なんだ。

明日にして貰えないですかね?

「今日でないと駄目」ですか。

自衛隊からの追撃も十分振り切れるですか。

仕方無いですね。

やりたくは無いですが。


影打く~ん、いっちょヤッちゃって!


---


キュュュルピキーン


「ハッ!今なにかが見えた様な気がする。北野坂の上?」


丁度コーヒーを飲み終えた影打君に電信は上手く届いた様だね。

さあ、急ぐんだ。

今回の異能個体は前回よりも強いぞ。

厳戒態勢の中をリズミカルに突破して来たのだ。

君でなければ無理だ。


「バッ」と店を飛び出し⋯


「お客様、ご会計を」


「バッ」と会計を済ませる。


あら、やる気が削げたって?

そんな事を言わずに早く坂を登って。


影打君はパレードを追いかけ坂を登る。


よし、最後尾を捕まえた。

先頭まで駆け上がるんだ。

いや、しまった!

既に異能個体が先頭に辿りついている!


逃げ惑う観衆とパレード隊。

異能個体がパレード隊の1人からテナーサックスを奪いパレード隊の前に立ちサックスを構える。

泰然とセルマー(H.Selmer)の「Mark VI」をだ。

その姿!

Jazzを愛する者なら誰もが見える。

青い青い輝きを。

やがて、その輝きに導かれ吸い寄せられる様に逃げ惑っていた観衆やパレード隊が戻って来きた。

そして演奏が始まる。


『聖者の行進』


陽気なはずのその曲で異能個体のサックスは異質な咆哮を上げた。


「プォォォオオオオン!!!」


それは、調和を目的とした音楽ではない。

聴く者の胸倉を掴み、無理やり引きずり出すような、重く、鋭い「音の塊」だ。


彼の額からは、滝のような汗が石畳に滴り落ちる。

首の血管はち切れんばかりに浮き出し、目は何処か遠い、自分だけに見えている「世界」の光景を凝視している。


自然とパレード隊からも音が出始める。

だが、周りのトロンボーンやトランペットがどれだけ華やかに鳴ろうとも、彼のテナーがひとたびフラジオ(超高音)を響かせれば、街の空気そのものが震え、塗り替えられていく。


沿道の観客は、最初は怯えていた。

しかし、彼のソロが熱を帯びるにつれ、一人、また一人と足が止まる。ただただ圧倒され、その「デカい音」に射抜かれたように立ち尽くす。


心の中で叫びながら、異能個体はさらに息を吹き込む。

使い込まれたセルマーの管体が、彼の情熱を受け止めて熱を帯びる。


パレードという枠組みすら忘れ、ただひたすらに、命を削るようにして吹く。

その一音一音が、神戸の古い街並みに深く、深く刻まれていった。

この曲が終わる時、誰の心に一番深く「Jazz」が突き刺さっているか。

決まっている。

この演奏を聞いている全ての人達にだ。


それからのパレードは彼を中心に熱く燃えたぎる様な熱狂を放ちフィナーレを迎えた。


そして演目が終わったその足で彼は近くのJazzハウスに飛び込み残った全ての力で吹く。

その曲は⋯


『FIRST Note』


「ガクッ」と私と影打君の腰が砕けた。

もう足の力が入らない。

彼は「ジャイアント(Giant)」だ。

青い輝きを放つジャイアントなのだ。


---


それからの事は覚えていない。

気がつけば影打君はアパートに、私は何処かに倒れ伏していた。

影打君と私に残されのは歓喜と敗北の入り混じった何とも言えないものだった。


後日、神戸のJazzハウスには彼が稀に現れる様になった。

Jazzが聞こえたら彼が来た合図なのだ。

それを待ち望む観衆は多い。



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今回の異能個体のリザルトだよ~


市民 3000人の心


テナーサックス セルマー(H.Selmer)「Mark VI」




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