焼きそばスタンピード
影打君が貧乏なのは「ヒーロー」だからだ。
と言うのは半分は嘘だ。
確かに世間一般では孤独なヒーローや辛い過去を持つ人間を想像したりするだろう。
だけど彼の場合は数字の計算が苦手なのだし金銭感覚も無い。
彼の◯面ライダー1号みたいにIQ600では無いのだ。
大学だって「スキル」が身に付いた時に喜び勇んで辞めてしまってバイト生活だ。
全く何やってるんだい影打君。
それはそうとして今日の影打君は須磨海水浴場での焼きそばの調理販売のバイトだ。
冷静に考えると美味しく無い屋台の焼きそば。
祭りや海水浴場で食べるからこそ美味しく感じるジャンクな味と質。
駅近のハンバーガーショップで美味しいハンバーガーを食べれば良いのにね。
唐揚げ屋でビールを飲みながら唐揚げも良い。
「焼きそばあがりました!順番でお渡ししますのでお待ち下さーい」
おや、影打君の焼きそばは結構売れている様だ。
実は影打君は結構料理ができるのだ。
私も少し頂こうかな⋯うん、案外悪く無い。
ビールが進むね。
昼食時が終わり一息つく時間だ。
照りつける太陽に熱を伴う風。
日陰が恋しい暑さだが私も少し泳いで涼を取るとしようかな。
そんな中、警報が鳴る。
沿岸でサメが出たそうだ。
これは「ヒーロー」の仕事か!?
と思ったら漁協の船からのスピアガンで早々に退治されてしまった。
影打君、その振り上げた手は降ろそう。
君の活躍の場はココではなかったのだ。
夕暮れ前にシフトが終わる。
さっきの無念は須磨シー◯ールドで癒そうじゃないか。
シャチのショーはきっと楽しいよ。
あれ?シーワー◯ドには行かないのかい?
ああ、PATISSERIE T◯◯TH T◯◯THでケーキか。
悪くないね。
私も美術館近くの店舗でお茶をするのが大好きだよ。
うん、美味しいね。
夕日を眺めながらのケーキもまたオツな物だ。
なんだい、影打君。
少し涙が浮かんでいるよ。
大丈夫、君の活躍の場はキットあるからね。
「帰るか⋯」
J◯に乗り神戸駅そしてトボトボと北にある自宅のアパートに
帰る。
明日のバイトに備え早めに就寝する。
身体からのソースの香りが布団に充満した。
⋯風呂に入り給えよ影打君。
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さて、影打君が寝てしまったので少し話をしようか。
まず彼の実力からにするか。
ランキングは1346位なんだ何十万人もいる中ではかなりの実力者と言えるね。
スキルを使わずにだ。
正確にはスキルの力が多少漏れているから完全に使ってない訳じゃない。
ただ彼の場合は「スキル」に大きな欠陥があるからおいそれと使う訳には行かないのだ。
そんな状態に加えて漏れ出した「スキル」の力を恐れてモンスターは中々寄ってこない。
だから彼がダンジョンで金を稼ぐ事は難しいし貢献ポイントを稼ぐ事も出来ない。
つまり、彼が大学を辞めてまで望んだハッピーな生活を送る事は出来なかったんだ。
更に言うとこの事に彼は気づいていない。
これが彼の貧乏な理由の残り半分だ。
それにしてはランキングが高い?
それは簡単だ。
技能試験で高い成績を常に残しているからだ。
それに僅かでも漏れ出した「スキル」は強力だ。
マトモにこの漏れ出した力でランキングを駆け上がる事が出来ればランカー目前まで行けるはずなのだ。
まあ、無理なんだけどね☆
次はダンジョンについてかな。
ダンジョンと言うと洞穴や古代遺跡なんかを思い浮かべると思うけどこの世界でも殆どそうなんだけどそれ以外ではその限りでは無いんだ。
ただのダンジョンと思っては大きな怪我をする。
楽しいギミックが沢山あるよ☆
勿論、スタンピードなんてメジャーどころも各地で起こってるね。
じゃあ、試しに。
お~いスタンピード一丁お願いね!
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影打君の住む神戸市から西に明石市と言う鯛やタコが有名な町がある。
最近は住みたい町ランキングの上位になる事も多い神戸市や大阪などのベッドタウンだ。
かつては松平家などが治めた交通の要所だった場所だ。
その歴代の殿様が住んでいたのが明石駅の北にある明石公園にある明石城だが今は明石ダンジョンである。
駅の直ぐ北にあるダンジョン。
つまり駅近なのだ。
非常にアクセスの良い探索初心者なら先ず明石が近畿圏の常識となっているのだ。
駅前のマンションも非常に人気になっている。
ダンジョン目当ての人口の流入も多いホットな町。
今日も大勢の探索初心者が駅のホームに降り立ち駅ナカの牛丼を喰らい明石ダンジョンに向かうのだ。
明石ダンジョン内部はダンジョンとしては珍しい石垣造り。
元の形質を色濃く残している。
現れるモンスターはネコや鴨に鷺、川鵜型と飛行系が多いがあまり強いとは言えないものばかりなのだ。
これがアクセスの良さと相まって初心者御用達となる訳だ。
オマケにスタンピードが起こった事も無い。
でもね、こんなに優しいダンジョンだけど未だ攻略はされていないんだ。
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今日も朝から影打君は須磨海水浴場で焼きそばの調理販売のバイトだね。
ソースの焦げる匂いに多くの海水浴客が惹きつけられる。
上々のスタートと言えるんじゃないかな?
そこの僕ちゃん焼きそば美味しいよ。
買っておきなよ、そうそう良い子だ。
ほら、影打君もありがとうって言いなさいね。
パシャパシャと暑い夏に海水浴。
気持ち良いねぇ。
影打君も来れば良いのにね。
バイトで忙しい?
そうですか残念だよ。
のんびりとした昼前の合間。
誰もが気が緩みパラソルの下や屋台などで飲み物を買い飲んでいる。
うん、そろそろかな。
警報が鳴り響きアナウンスが流れる。
「明石駅前のダンジョンでスタンピードが起こりました海水浴客及び各店舗の人々は避難して下さい!繰り返します⋯」
須磨から明石までは15kmほど、実際に避難するかは悩む所だね。
電車も明石への区間が止まったみたいだ。
避難しようにも車が無い人は難しい。
それならと駅前のタクシーに殺到する。
影打君の焼きそばバイトも中止になった。
食い扶持が無くなったねぇ。
仕方が無いね。
行こうじゃないか。
明石ダンジョンへ。
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走り走りて途中で自衛隊の車両に飛び乗ってひた進む。
「君は⋯探索者か、かなりの上位者だな。助かるが装備が無いのか予備のヘルメットとチョッキがある使い給え。武器はどうする?」
「俺はなんでも良いですよ。そうだな、このシャベルで良い」
「そうか。では地上の掃討を頼む大量のネコ型がいるらしい。空は我々が担当するダンジョン外へ出た鳥型は非常に厄介だ。ネコ型も町の隙間に潜み根絶が難しい。出てきた今のうちに駆除しなければ何時までもモンスターの脅威に晒される」
そうだろうね。
かえって大型のモンスターの方が都市部では発見駆除しやすい。
大量の鳥やネコ型の様な潜伏や飛行型は弱いが駆除が難しい。
このトレードオフ。
デカい強いだけが脅威では無いのだ。
オマケにモンスターと動物の見分けが難しい。
読者のみんなも良く覚えておいてね。
そうしている間に明石駅周辺に到着する。
空と辺りを埋め尽くすモンスター達に逃げ惑う市民と立ち向かう探索者と現地自衛隊。
既に血の海だ。
生きながらモンスター達に齧り取られる人々とモンスターを薙ぎ払う銃弾。
だが圧倒的にモンスターの数が多い。
弾が尽きれば接近戦だ。
幸い探索者の練度はともかく人数はいる。
スタンピードが終わるか防衛側が力尽きるかの必死の消耗
戦。
そこに増援の装甲車から飛び出す我らが影打君。
「お前等は俺の晩飯に変われ!」
シャベルの先でネコ型達を凄まじい速度で肉塊に変えて行く。
明らかに常人のそれでは無い。
駅の血と臓物の香りのする南側コンコースから北側に抜ける。
石垣の上に鎮座する悪辣とした色に変わった明石ダンジョンが見えた。
薙ぎ払い薙ぎ払う幾ら殺しても一向に終わりが見えない。
明石公園内に突入するが力尽きた探索者達や市民の死体に齧りつくネコ型が多く見えた。
「いい加減にしろ!」
シャベルを振るう力が強くなる。
影打君の身体から「スキル」の力の漏れが大きくなる。
いけないな影打君。
君の力はこの程度の事に使う物じゃない。
落ち着き給え。
それでも、影打君の漏れ出した力に怯えた周囲のモンスターがダンジョンへ逃げ出していく。
モンスターにも帰巣本能があるみたいだね。
だけど、まだまだ残ったモンスターは数知れない。
終わらない追撃戦が始まるのだ。
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やっとの事で一応の収束を見せたのは3週間後だ。
案の定、鳥型やネコ型は市街に取り付き潜伏し駆除は非常に困難を極めたのだ。
それでも、3週間はかなりの早かったのではないだろうか。
頑張ったねぇ。
そして残りはいるだろうが殆どが駆除できたとの発表がされた。
ちなみに発表の裏でダンジョン内部では更なる掃討作戦が行われていた。
これで影打君の仕事は終わりだ。
「暫く探索はいいわ。割に合わねーよ」
あれ、バイト生活に逆戻りかい?
今回の褒賞金はかなり貰ったよね。
ダンジョン深部に興味はないかい?
ランキングも951位になったじゃないか。
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今日は海水浴シーズンの終わりの時期、屋台も終わりだ。
次のバイトを探さないといけないね。
何だって、褒賞金があるから暫く仕事をしないだって?
全く影打君は影打君だなぁ。
そんな生活の理由は明白だ。
人々を救う希望の光。
つまり「ヒーロー」だからだ。
⋯今回は少し「ヒーロー」だったね。
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今回のスタンピードのリザルトだよ~
市民 7600人
自衛隊 42人
探索者 280人




