宝塚記念
やあ、読者のみんな。
前回はとても酷い惨状だったね。
センター街で仕留められなければ万単位の被害が出ていただろうね。
だけど、あの後は自衛隊と探索者協会は世間から酷いバッシングを受けた。
もっと上手く仕留めら無かったのかと遺族から訴訟も起こされた。
彼等は全力を尽くしたと言うのにね。
理不尽もいい処だよ。
まあ、それは横に置いておくとしようか。
この世界の説明がまだだったからね。
ゴホッ、ゴホッ。
ああ、ゴメンね。
喉の調子が悪くてね。
では説明するね、この世界は読者のみんなが生きている世界とさほど変わってはいない。
2006年にダンジョンが現れてから分岐したパラレルワールドだ。
それから20年間ダンジョンと戦い続けて自衛隊の対処能力が飽和してから外郭団体の探索者協会が設立されたんだ。
その20年間にモンスターを銃や弓といった遠距離ではなく近接でモンスターを倒した者に「スキル」 と呼ばれる異能が稀に生まれる事が分かったんだ。
だけど、それは人間だけの特権じゃないモンスターも「スキル」を得るのさ。
それが前回の異能個体だよ。
下手に素人がダンジョンに潜るとかえってモンスターを強化する事になる。
そこで探索者協会は免許制度とランキングを作ったんだ探索者の質と意欲向上の為にね。
免許はダンジョンに潜る最低限の力と知識を履修した証明でランキングは実績と定期的に行われる技能テストで決まるんだ。
技能テストで能力が足りないとされると即、免許の取り上げになる。
そしてランキング100位以内を俗にランカーと呼ぶのさ。
普通ランカーとそれ未満は隔絶した能力差がある「スキル」が如何にダンジョンに適応しているかだ。
そんな中、西宮すずはランカー入りが確実視されていたのに呆気なくランカー2人と共に死んでしまった。
大変だね探索者協会も。
彼女のファンが大挙して協会を襲撃したらしいよ笑える☆
そうそう、「スキル」について説明しておこうか。
簡単だよ、「スキル」はその者の潜在的な願望を具現化するんだ。
例えば金持ちになりたいと願った者は実際に「金を持つ」能力になった便利だよね。
伊藤 庄司君はせっかちだから「加速」だ。
そして、西宮すずちゃんは「棒の伸縮」だったね。
彼女の潜在的な願望はちょっとセンシティブだから言えないな。
影打君はだって?
彼の「スキル」はまだ先の話にしようよ。
まあ、そんは訳だ。
自衛隊や探索者によって何とか均衡を保ち廻っている。
世界中がそんな状態でかえって世界平和って事だ。
ダンジョン様々だよね。
じゃあ、今日の影打君を観てみようか。
---
「今日は勝つ間違い無くな」
影打 桐馬は勝利を確信していた。
宝塚記念。
競馬の上半期を総括する一大グランプリレースだ。
阪神競馬場までわざわざやって来たのだ。
「ヒーロー」は勝つ。
当たり前の事だ。
今日は1番人気ベラジジオペラを軸に連対を狙って行く算段の様だ。
甘いな、宝塚記念と言えばモールドシップだ。
その血を受け継ぐメクショウタベルを軸にするのが当たり前。
刻々とレースが進んで行く。
遂に11R宝塚記念のファンファーレが鳴り響く。
陸上自衛隊 第3音楽隊の演奏だ。
私も高まってきたぞ。
15時38分 各馬が次々とゲートインして行く。
桐馬の手に汗が握られる。
回りの人々も血走った目をしている最前列なのだからね。
15時39分 全馬がゲートインいよいよ決戦だ。
全観衆が息を潜めスタートを待つ。
「ぷっ」誰だ屁をこいたのは?
15時40分 「ガシャ!」スタートだ!
全馬がゲートから飛び出して行く。
「行きましたメクショウタべル!やはりこの馬がハナを叩きます。お父さんとは違って、今日はスイスイと、ゲートを飛び出していきました!」
やはりメクショウタベルが頼もしい。
素晴らしいスタートだ実況もタベル贔屓である。
モールドシップの血で宝塚記念で出遅れない。
勝ったなガハハッ!
どうした影打 桐馬。
顔色が悪いぞ。
「あなたの、そして私の夢が走っています。初夏の仁川、夢の共演。先頭は依然としてメクショウタベル、武貧!」
良いぞ武貧!
素晴らしいペースだ。
仁川の坂に入るぞ。
うおおおお!
「さあ、お父さんが愛したこの仁川の坂!息子タベルが先頭で駆け上がる!外からベラジジオペラ、内を突いてジャスティンアパレル!しかし、メクショウタベルが止まらない!」
そうだ!
父モールドシップは坂に異常に強い。
宝塚記念は彼の庭だったのだ!
「これが令和の、そして武貧の逃げ切りだ! メクショウタベル、父の無念を晴らす仁川独走!メクショウタベル一着でゴールイン!武貧、5度目の宝塚記念制覇!」
観衆の熱狂。
タベルはモールドシップの仔だ。
負けた人々も声援を投げかける。
モールドシップの仔なら仕方がない。
納得なのだ。
結果12-1の1着メクショウタベルと2着ベラジジオペラである。
影打君はベラジジオペラを軸に連単狙いであった。
一応12-1も買ってはいたが本日は計マイナス9800円である。
甘いぞ桐馬!
私はタベルの単勝11.4倍の104000円勝ちである。
影打君は馬券を投げ捨てフラフラと1Fの宝塚カレーでヒレカツカレーを注文する。
幾種の野菜を煮込んだ懐かしの味が敗戦の身体に沁みわたる。
少し力が湧いてきた様だ。
脳内で宝塚記念の敗因を導き出そうとする。
競馬はブラッドレースと騎手のハイブリッドだ。
それは単なるギャンブルではなく、「血と技の結晶」への投資になるのだ。
分かったかな影打君。
「あ~もう競馬分かんねーわ。予想と倍率だけで選ぶのは無理だ」
何だね。
そんな時はD.ラメールを買えと言う必勝法があるのだよ。
勿論、馬が勝てるポテンシャルがある場合に限ってだがね。
「しゃーねぇ。ダンジョンで小遣い稼ぎでもすっか」
阪◯電車に乗り神戸駅から北にある自宅のアパートへ戻り探索装備を持ち六甲山へひた走る。
既に夕暮れ今からダンジョンかい?
まあ、ダンジョンに昼も夜も無いけれど。
六甲山のダンジョンには、自衛隊が大挙して警戒体制をとっていた。
無理も無い先日の異能個体出現の再現性の確認があるからダンジョン内への探索にも入っている様だ。
こりゃ取り分は無いかもね影打君。
案の定、ダンジョン内では自衛隊がモンスターを掃討中だ。
あちこちから銃声が木霊している。
「⋯やる事無いじゃねーか」
「糞がよ!」汚い言葉を吐き捨て奥底に走りだす。
1.2.3層、次々と駆け抜けるが自衛隊が何処にでもいる。
そりゃそうだよ。
彼等は優秀だ。
取り零しなんてしない。
一人ひとりがランカーに匹敵するのだ。
民間と自衛隊では練度も装備も違う。
その上で「スキル」も必修だ。
あえて言う、先日の異能個体が異常に強かったのだ。
彼等を責めるのは筋違いだとやがて知るだろう☆ミ
そんな彼等の隙間をスルスルと走り抜け5層前に到達する。
「君!この先は現在立ち入りを制限している。戻りたまえ」
自衛官が前に立ちはだかる。
「ダンジョン内では探索者自身の判断で行動できる。探索者法の基本でしょ?」
「⋯ぐっ。確かにそうだ。だが、他の探索者達は皆引き返した。助けはないぞ」
「大丈夫ですよ。俺はコレでも「ヒーロー」なんで」
影打君は自衛官の胸をトントンと叩く。
「分かった、行き給え。だが自分を英雄視していると長生きは出来ないぞ」
ヒラヒラと手を振り脇を抜け5層へ。
そして⋯
「なんでゴブリン一匹なんだよ!」
そんな生活の理由は明白だ。
人々を救う希望の光。
つまり「ヒーロー」だからだ。
「ヒーロー」を救うのは並大抵の事では無い。




