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衝突2

 身体が空中にある状態、そして完全な無防備に近い状態で大ぶりの攻撃を受けてしまった。俺の身体はバウンドしながら吹き飛んで近くの壁に激突する。



「ディズ君! うそ、今のって幻想術(ファンタズマ)?」



 俺は地面に手をついて身体を起こす。特に頭の違和感はない。当然ダメージもない。視界も良好、思考もはっきりしている。殆どノーダメだ。だが――どうする?



 目の前のオークを倒すのは簡単だ。こっちも幻想術(ファンタズマ)を使えばいい。向こうがどういう幻想術(ファンタズマ)の能力なのか分からないが、恐らく対象を引き寄せるとかそんな能力のはず。



 普通に考えると汎用性が高くかなり厄介な能力だ。見えないため防ぎようがなく、恐らく一度捕捉されると逃げるすべがない。つまり防御不能の掴み技みたいな感じだ。


 厄介な能力だが俺なら気にする必要はない。あの一撃でこちらにダメージを与えられないのならもう向こうが俺に傷をつける事は出来ないと考えていい。問題はそっちじゃない。俺はあのオークを殺すつもりはない。ただ一方的にやられるのが気に入らないだけだ。恐らく俺の幻想術(ファンタズマ)なら簡単にやれる。



「ま、使わねぇけど」



 本当に俺って奴は面倒くさい。自分でもわかってる。だがこの性格はどうしても直らない。





 もう俺は、こいつ相手に幻想術(ファンタズマ)を使ったら負けだと思ってしまった。





 状況は俺に有利。なのにさらに有利な武器を使って喧嘩をする必要はない。向こうは知らないが殺し合いじゃないんだ。好きにやる。そして一発殴る。絶対殴ってやる。





「行くぜ」




 俺は走った。腰を落とし姿勢を低くしながらまっすぐオークへ向かって疾走する。向こうもデカいがこっちだって図体はデカいんだ。それに技術は負けてるかもしれないがフィジカルは負けてない。




「"スナッチ"」




 来た。俺の足が何かに捕まれる。そして俺は仰向けに倒れ足が宙吊りにされる。だが焦らない。分かっていた事だ。だから待つ。

 足からまだ何か掴まれている感触がある。そのまま引き寄せる気か。ならッ!





「これならどうだ!」




 思いっきり掴まれた足を動かし、掴んでいる何かを引き寄せる。だが思惑は外れる。手ごたえがない。向こうも特に姿勢を崩していない。そこまで簡単じゃないか。

 勢いよく引きずられオークは跳躍した。両足を揃えこちらの顔めがけて迫ってくる。大人しく攻撃を受けるつもりはない。腕を上げ両足のキックを防ぐ。腕に衝撃が走るがそれだけだ。だがオークはそのままマウントを取りにかかる。足に捕まれた感触がない事を確認し、俺はすぐに下半身を動かし迫るオークの背中を蹴った。僅かに軌道をずらしすぐに身体を起こす。



「"スナッチ"」




 今度は横に身体が引っ張られる。踏ん張れない。姿勢が崩れた瞬間を狙うようにオークの蹴りが俺の首を直撃する。





「――待ってたぜ」

「どんな身体をしてるんだ、バケモンか!」



 俺は蹴りを掴んだ。万力で絞めるように足を握る。その痛みにオークは顔を歪めていく。そのまま俺は足をひっぱり逆にオークの姿勢を崩した。



「くッ! "スナッ――"」

「させねぇえええ!!!」




 俺は拳を握りそのままオークの胸を叩いた。僅かにめり込む俺の拳を受けオークは口から血を吐き出す。そしてそのまま地面に叩きつけた。





「がはぁ!」




 よし、一発かました。





「もういいだろ。聞け、何か勘違いしてる」





 加減はした。そこまで効いてないはずだ。俺の負けず嫌いも晴れたしさっさと終わらせよう。


 


「な、何が……」

「はいはいはい! もうディズ君やりすぎです!!」

「悪かった。こいつ強いからどうしてもやり返したくて……」

「もう! 後でお説教です! オークさん。あちらの兎さんの知り合いです?」



 リリアがそう話しかけたのを見て俺は黙る事にした。こういうのはリリアの方が得意だし。




「……」



 オークは俺とリリアを見比べながらゆっくり立ち上がる。この様子ならいきなり殴りかかる事もないだろう。




「私はリリア。あっちはディズ君です。もう一度いいますが、あちらで気絶している兎さんはオークさんの知り合いですか?」

「……僕はオクだ。あっちはノエル」



 オク? もしかしてオークだから? 安直過ぎないだろうか。



「オクさんですか。まずこちらの事情から説明しますね。私たちはここへ来る途中にそのノエルさんの叫び声を聞いて駆け付けたんです。そうしたら虫型のナイトメアに囲まれていまして、そこをディズ君が助けたのです」

「なんだって! ならノエルはどうして気絶を……いやそうか。ノエルは虫が苦手だったな」

「よかった。納得してくれたようです。私たちはノエルさんが気絶してしまったので目が覚めるまでどうしようかと話し合っていた所だったのです。そこで……」

「なるほど。そこを僕が襲ってしまったという訳だ。すまなかった、恩人だったとは知らずこのような事を……」



 そういうとオークは、いやオクは俺に頭を下げた。



「気にしてねぇよ。俺も殴っちまったし」

「ふぅ。一応ようやく一息つけそうです」



 オクは口元の血を拭い気絶しているノエルの近くへ移動しそこに腰を下ろした。



「――――ずっと気になっていたのですが」



 リリアは俺の近くへ来ると内緒話をするように小声で話し始めた。



「なんだ?」

「いや。あのオクさん。…………めちゃくちゃイケボじゃないです?」

「は?」



 こいつは何を言っているのだろうか。




「いえいえ。何ていうんでしょうか。どこかで聞いたことがあるような声なんですよね。ディズ君ってアニメみます?」

「面白い奴なら見るぜ」

「なんていうんでしょう。オクさんって主人公声っていう感じしません?」

「……ああ」




 なるほど、何となくわかる気がする。




「聞こえているぞ」

「ひぃ。ごめんなさい!」

「……いいさ」



 僅かに視線をこちらに向けているオク。それにしても気になるな。




「なあ」

「なんだ」

「お前なんでいきなり俺達を襲ってきたんだ?」

「確かにそれは私も気になります。なんていうかオクさんって短絡的なタイプには見えないんですよね」




 そうだ。こいつは妙に冷静な所がある。なのにどうしてあれだけ激高して襲ってきた? もしかしてあのノエルって奴はオクの恋人だったりするのだろうか。



「もしかしてノエルさんってオクさんの恋人なんです?」




 すげぇな。ずけずけ聞いてるよ。




「……そう、だな。これは僕の落ち度だ。説明の義務くらいあるか」




 そういうとオクは視線だけではなく、ゆっくり顔を上げ俺達を見た。





「僕達はあるギルドから抜けて逃げてきたんだ」



 

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