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衝突1

「うおおおおお!!!」

「すごいです!!!」



 絶叫を上げながら俺達はビルの上を跳んでいる。全力で走り足に力を入れて思いっきり地面を蹴って跳ぶ。そして次の建物へ着地する。大通りなど距離があり過ぎる場所は厳しいが数メートル程度の距離ならもう慣れたようにジャンプできるようになってきた。




「このまま12階層へ行っちゃいましょう!」

「それはいいけど流石に目立ちすぎないか!?」

「そ、それは……仕方ありません。そろそろ降りましょうか」



 俺は適当な建物の上に着地し地面を陥没させながら足をつける。普通なら絶対足が骨折するか痛みで動けないはずだがこの身体だとその心配もない。そのまま足を止めず走りながら適当な場所に降りようと思っていると何か聞こえた。




「ん? 今のは……」

「あっちです! 女の子の声がしました!」

「どうするよ。助けに行くか」

「……こちらの安全を第一にして一旦近くまでいきましょう」



 声のした方へ走り4階建ての建物からジャンプして地面に飛び降りる。着地した先で2体の黒い虫のような姿をした生き物に追われている兎がいた。普通の兎より随分大きい。あれは間違いなく覚醒者だ。




「……ありゃなんだ」

「恐らくナイトメアです。そこの方! 助けはいりますか!?」




 そうリリアが叫ぶと兎がこちらを見て驚いたように声を上げた。虫の形をしたナイトメア。なるほど結構奥の方へ来たんだ。流石にスライムだけじゃないって訳だな。



「は、はぁ!? 今度はなに!? 包帯の騎士っぽい奴がきたんだけど!? もうアタシに何の用よ!」

「だからそのままだ。助けはいるか?」

「は、え? 何助けてくれるの? だったら早くして虫は苦手で……」



 幻想術(ファンタズマ)は使わない。見た目はキモイが多分素手で倒せる。俺が拾った爆発する剣は多分あの兎を巻き込むような気がするし、いきなり銃は普通に怖がるだろうと考えて素手で戦う事にした。

 俺は腰を落とし重力に逆らわない様に重心を移動しそのまま加速する。踏み込んだ足はアスファルトを陥没させ、そのまま一気に距離を詰めた。


 目前に迫るナイトメアらしき虫。見た目は蚊を大きくしたような感じだ。飛んでいるがそこまで早くない。十分手が届く。振り抜いた拳が1匹のナイトメアを打ち抜く。かなり柔らかい。これなら余裕そうだ。そのまま身体を回転させもう1匹のナイトメアに向けて蹴りを入れる。 銃弾さえ弾く俺の身体から繰り出される蹴りによって一撃で虫は身体を粉々にして死んでいった。

 周囲を警戒するが特に他のナイトメアはいないようだ。ナイトメアの死体が消え青い色のフラグメントが現れる。流石にこの弱さならまだ青色か。そう思い拾ったフラグメントをリリアに投げた。放物線を描き投げ出されたフラグメントをリリアがキャッチしてそれをそのまま自分に使用する。あと必要な経験値はどのくらいだろうか。そう思っていると、こちらを見たまま固まっている兎が目に入る。



「おい、大丈夫か?」

「もう、む……無理」

「はあ!? おいッ!」



 そう零すと兎は目を瞑り動かなくなった。まさか寝た? いや身体が残ってる。ってことは気絶か!?



「驚きました。気絶じゃ身体はこちらに残るんですね。これ結構重要な情報です」

「そうだな。っていうかリリアも最初は気絶してたよな」

「そうでした!? 今思えば危ない状況だったんですね」

「それでどうする?」

「うーん。放ってはおけませんし、とりあえず起きるまで待ちましょうか」

 

 

 とりあえずどこかに避難するか。そう思ってしゃがみ気絶している兎を抱えようとした時だった。





「貴様、何をしている!!」




 男の叫び声だ。すぐに立ち上がり声のする方へ視線を向ける。そこには……全身黒い豚の男がいる。いやあれは豚じゃない。オークか?




「誰だ」

「黙れ、さっさと彼女から離れろ!」



 どういう訳かすげぇキレてる。何か誤解しているだろ。



「おい、待て! 俺達は――」

「はぁあああ!!」



 

 そう地鳴りのような声を上げながらこちらへ急接近してくる。




 速い。




 重心を前に倒し両腕を上げながらこちらへ接近するオーク。話し合いは無理と判断し行動を起こす。俺は突進するオークの顔面は避けただ腹目掛けて拳を振るった。




「なッ」



 その巨体とは見まがう速度で俺の拳を躱した。そして無謀になった俺の顔面にオークの拳が叩き込まれる。かなり重い拳だ。ダメージはない。だが重心がずれた。その隙を狙うようにオークは身体を回転させ追撃するように俺の側頭部へハイキックを叩きこまれる。




「ディズ君!」




 確信する。こいつはやってるやつだ。




 不良の喧嘩自慢とは何度も絡まれたから大体分かる。こいつは格闘技を習っている。動きのひとつひとつが洗礼されている。こっちの俺の頭に脳みそが入ってるか分からねぇが脳を揺らされるといくら身体が丈夫でも流石にやべぇか。



「待って、待ってくださいです! 私たちはッ」

「どついて頭は冷やしてやるよ!」

「ちょ!?」




 戦うつもりはなかったがこうも一方的にやられるとムカついてくる。俺は負けず嫌いなんでな。今度は加減しない。オークの顔を狙う。出来るだけ大振りにならないように、コンパクトに拳をぶつける。だが奴は後ろ足に重心を移動させ上半身を後ろに引いた。俺の左の拳が空を切る。そのままオークは俺の腹に向かって足を突き出した。




 前蹴りか!




「舐めんなよ」

「何!」



 前蹴りを強引に耐える。そもそも生身じゃない。こっちは鎧もしてる上に頑丈さには自信がある。こいつ戦い慣れてるが実戦経験は少ない? いやこっちの覚醒者相手の戦いは経験が少ないと見た。相手は片足が宙に浮いている。狙うならいまだ。俺は身体を半歩前に出しそのままオークの軸足を狙って蹴りを放つ。



「くッ」



 膝に命中した俺の蹴りを受けて苦悶の表情をするオーク。現実ならともかくこっちの世界なら俺のフィジカルは何よりも有利になる。ただの格闘技戦でそうそう後れは取らないはず。



 蹴った足をすぐに戻す。どこまで効いたか分からないが今の俺の蹴りはそう弱くはないはず。なら数秒程度足は奪えるはずだ。そこを叩く。

 

 

 油断せず相手の動きを見ながら拳を放つ。顔面を狙ったがそれを奴は腕を上げてガードした。冷静だな、しかし!



「腹ががら空きだぜ」



 足を前に突き出す。こっちも前蹴りだ。先ほどのオークに比べれば不恰好だが気にしない。俺の足がオークの腹に刺さりそのまま吹き飛ばした。




「ちょ、ディズ君!? 逆にぶっ飛ばしてどうするんです!?」

「――手ごたえが薄い」

「……はい?」

「派手に飛んだがたいしてきいてねぇ。自分で同じ方向に身体を動かして軽減しやがったな」

「いやいや。とにかく落ち着きましょう。あのオークさんは多分初日に説明会にいた人だと思うです。ならどう考えても何か誤解が――」



 そうリリアが話している最中に何か聞こえた。

 




「"スナッチ"」



 


 そう確かに聞こえた。





 その瞬間、俺の身体は宙に浮く。いや浮くなんて生易しいものじゃない。見えない何かに捕まれたかのように俺は凄まじい勢いで身体が前に吹き飛んでいく。




 そしてそれを待っていたかのようにオークは大きく振りかぶった右の拳を俺の顎へ叩きこんできた。


 

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