第九話:処理班編成
シェルターの広い部屋に、俺たちはぎゅうぎゅう詰めで集められていた。
なぜなら今日は、以前アキラ先生が言っていた“処理班”とやらの訓練を始める日だから。ざわつく空気の中、重々しい声が響き渡る。
「生徒諸君、初めましてだな。俺はトリマルだ。今日からお前たちの処理班訓練を担当する」
その声は厳格そうで、自然と背筋が伸びた。
俺らの前で今喋っているのは、訓練のために指導してくださる、新しい先生だった。彼の口調は淡々としていながらも、どこか冷静で威圧感を感じさせた。
トリマル先生は続けた。
「処理班とは、ゾンビと戦うための班だ。今日からその訓練を始める」
編成はすでに完了しており、俺たちに伝えられたのは決定事項としての説明だけだった。
「これから武器を配る。しかし君たちは、ほとんどが素人の高校生だ。武器なんて扱ったことがないと思うが、説明は短くする。時間がない」
そう言いながら、トリマル先生は銃やナイフを手際よく配り始めた。
俺の手に渡された銃は、予想以上に重く感じた。
今手渡されたこれを、何のために使うのか、考えただけで息が詰まりそうだった。ふと視線を右へ傾けると、ユキが手にした銃をじっと見つめ、細かく確認しているのが見えた。
彼女の銃は、柄のところが、俺のものと少し形が違っていて持ちづらそうだった。どうやら不良品のようだった。
「それ、壊れてないか?取り替えてもらった方がいんじゃね?」
彼女の返事を待つ前に、俺はトリマル先生に声をかけた。
「あの、先生。ユキの銃、なんか不良品っぽいんですけど」
俺の声に気づいたトリマル先生は、その厳格な表情を一ミリも崩さず言った。
「不良品なんて俺は知らない。上からの指示で配ったものに、たまたま扱いづらいものが混ざっていただけだ」
そう言うと、トリマル先生は俺と会話する意志がないことを伝えるかのように、視線を外した。
少し、怒りが込み上げてくる。
「ごめんスグルくん、言ってくれたのに」
「ああ、俺はいいんだけど……。ユキ、俺のと交換するか?」
ユキが俺に謝罪する。俺はそんなユキに銃を差し出したが、ユキはそれを受け取らなかった。
「いいよ。大丈夫、ありがとう。あの人が言ったように、たまたま私のとこに異物が配られただけだから。……理不尽だよね、こんな、急に」
彼女の声は控えめだったが、きっぱりとした口調で指摘した。俺も、彼女に同感だった。こんな唐突に以前までの日常が破壊され、保身のために手渡されたものは銃。世界は、どこまでも理不尽だ。
ーーバンッ!バン!
「ーー!?」
途端、俺の左斜め後ろから、二発、銃声が聞こえた。
振り返って見ると、そこには銃を見つめ目を輝かせているアキがいた。
「うおーーっ!これすげ。マジモンの銃じゃねえか」
武器を片手にふざけるように振り回し、笑いながら言う。
「これで戦うのか? まるでおもちゃみたいだな」
その軽い調子に、周囲からは思わず笑いが漏れた。なんだか、少しだけいつもの学校みたいだ。
しかし、トリマル先生の表情は変わらない。アキの一幕に触れる素振りもなく、次の説明を始めた。
「まずは基本操作を覚えろ。訓練は厳しい。中途半端な覚悟なら死ぬだけだ。今は手探りでいい。とにかく早く武器に慣れろ」
その冷酷な一声で、雰囲気がまたピリつく。
トリマル先生の態度で、俺たちはここが日常ではなく戦場であることを思い知らされる。現に今持っている物は武器で、戦いで生き抜くために使う物だ。また、これから行うのも、戦場で犬死にしないための訓練なのである。
もう、いつもの学校なんて戻ってこないのかもしれない。
俺たちは息を飲み、訓練開始の合図を待った。
俺たちはまだ何もできない素人だ。それでも、今日からゾンビと戦う戦士として立ち上がる。
それが現実だった。




