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空を知らない子どもたちへ  作者: フワフワノイヌ
第一章 日常崩壊編
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第五話:封鎖

ヒロタカと一緒にシェルターへ避難した頃には、もう教室にいた連中はみんな中に収まっていた。みんな壁にもたれてしゃがんでるか、無言で天井を見つめてるか。

誰も、言葉を発しない。

ここだけ、別の時間が流れてるみたいだった。音が、感情が、全部どこか遠くに押しやられていく。

俺はといえば、放心していた。

思考が、うまくまとまらなかった。

カエデが、ナナの心臓を喰った。

それが頭から離れない。

人間のやることじゃない。

あれは、人間じゃなかった。

でも、じゃあ……あれまで一緒に笑ってたカエデはなんだったんだ。

何を信じればよかったんだ。

何が、壊れて、何がもう戻らないんだ。

ぐらぐらしてた。

足元が、地面のはずなのに、ずっと宙に浮いてるみたいだった。


「スグルくん!スグルくん!」


誰かが俺を揺さぶる。

体ごと、小さく震える俺の肩を、必死で揺さぶる手。

その声が、やっと耳に届いたとき、俺は目を大きく見開いた。


「……ユノ」


ユノが、俺の目の前にいた。

顔が近い。

額にはびっしょりと汗をかいて、目尻には涙が滲んでいて、唇は小刻みに震えていた。

本気で、俺のことを心配してくれてる顔だった。

必死で呼んで、俺を探してくれたんだ。

その顔を見て、俺はとっさに声を出した。


「ーーっ!すまん、俺は大丈夫だ!平気だ!ユノは!?怪我はないか!?」


そう言った俺に、ユノはほっとしたように笑って、それから、目を逸らした。


「だ、大丈夫だよ、私は……もう、心配しすぎ」


「……」


やっぱりこの子は、嘘が下手だ。

口調も、目線も、震えてた。

大丈夫なわけがない。

でも、その嘘が優しさなんだろうと思った。

俺が取り乱してたから。

彼女なりに、支えようとしてくれてたんだ。

ユノのそういうところ、俺は、ずるいくらい好きだ。

周りを見回す。

コンクリートむき出しの、無機質で広い空間。

備え付けの長椅子、簡易ベッド。医療キット。非常食。

シェルターっていうには快適すぎるくらい整ってる。

やっぱり、ここは“普通の学校”じゃない。

……でも、少なくとも、俺の仲間たちは避難できてる。

その事実に、少しだけ安堵が漏れそうになった。

だけど、そこで目に入った。

ヒロタカ。

あいつだけは、シェルターの隅で一人、いつも通り無表情に腕を組んでいた。

そうだ。

あいつは、あの場で、カエデもナナも「放置する」と言い放ったやつだ。

仲間を切り捨てた、冷たい判断を下したやつだ。

俺は、無意識のうちにユノのそばを離れて、ヒロタカに詰め寄っていた。


「なあヒロタカ!カエデとナナはどこだ!?」


言いながら、自分でもおかしいと思った。

こんな状況で助けに行くなんて、正気じゃない。

でも、それでも、言わずにはいられなかった。

ヒロタカは、相変わらず顔色一つ変えなかった。


「居場所を知ってどうする」


「助けに行くんだよ!」


「は?」


「あいつらを助けに行く。お前と違って、俺は薄情なやつじゃないからな」


ヒロタカの目が、すっと細くなった気がした。


「無理だ。現実が見えてないのか」


何かを返そうとした瞬間――シェルター内に、突然チャイムが鳴り響いた。

静まり返った空間に、電子音が反響して、俺たちの会話がかき消された。


『速報です。ヨミズ防衛省によりますと、今日13時33分にゾンビと見られる生物が発見されたとのことです。発生地はーー』


「……なんだ、これ」


「ニュースか?」


「どこから流れてるの?」


「ネット繋がんねーし……」


放送が流れた途端、周囲がざわつき始めた。

俺は、ただ、黙ってその声を聞いていた。

耳だけが、機械のように音を拾ってた。


『これ以上の被害拡大を防ぐため、国は緊急隔離政策を開始すると発表。該当地区は、ーー』


“カグラギ市”ーーその一言を聞いた瞬間、何かが崩れ落ちた。

今まで張り詰めてた何かが、急にぷつんと切れた。

それまでどうにか持ちこたえていたのに。

カエデが死んだことも、ナナが食われたことも、無理やり頭の隅に押し込んでたのに。


「……っ」


泣きそうになった。

もう、どうにもならないくらい、涙が込み上げてきた。

けど、泣けなかった。

泣き顔なんか見せたくなかった。

ユノが俺を見てる。

もし俺が泣いたら、ユノも不安になる。

だから、泣けなかった。

こらえるしかなかった。

シェルターに響く機械音と、クラスメイトたちのざわめきと、冷たいコンクリの匂いと。

すべてが、悪夢の序章みたいだった。

もしかして、あの80年前の悪夢が、

本当に――また始まってしまったんじゃないか。

俺は、心の奥底で、静かにそう思った。

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