12 彼女の望みが叶う時(最終話)
「はっ!!」
ナナの意識が戻ったのは脱出中のエイトの肩の上だった。
「ひいいいっ!」
現状を把握したナナは思わず悲鳴を上げてしまった。
しかし、それはお化けを思い出したからでも超がつくほどの方向音痴であるエイトがダンジョンの中を爆走していたからでもない。──ダンジョンの壁やら天井やらが崩れ落ちていたからだ。
・・・短い人生だったとナナは思った。(既視感)
「・・・身体動きそうなら自分で走ってもらっていいか?」
呆れたようなエイトの声が聞こえた。エイトはこの状況を理解し、目的を持って走っている様だったが、ナナの記憶はアトラスが仮の身体として使っていたナナのデビルハムスター(限定品)を脱ぎ捨てたところで途切れていた。
「わ、わたしのデビルハムスター・・・」
あの光景を思い出し、泣きそうになっているナナにシャイニーがキレイにしてくれたヌイグルミを押し付けると、エイトはナナを肩から下ろした。
「死にたくなかったら出口まで走れ。安心しろ。魔獣は消えた。俺たちに敵はいない。因みに今12階層だ」
デビルハムスターが無事で魔獣がいないのならただ走るのなんて朝飯前だ。ナナたちは、そこから出口まで一気に駆け抜けた。
シャイニーは“しばらく起き上がれない”的なことを言っていたのに、流石ナナだなとエイトはこっそり笑った。
*――*――*――*――*――*
「我が国初のS級ライセンスの取得、おめでとう。名実ともに君たちが我が国最強の冒険者だ」
数日後、エイトとナナは51階層のクリアとダンジョン崩壊の報を受けた王城から、呼び出しを受けた。
てっきり怒られるのかと思っていた二人を待ち構えていたのは満面の笑みの前国王陛下だった。ブレアの孫であるはずの目の前の貴人は90に手が届いたばかりのジジイのハズなのだが、妙に若々しく見えた。
「──ダンジョンを攻略してくれてありがとう。これを直接君たちに伝えたかったんだ──」
ただ、お礼を言われ、何故か多量の褒美を取らされ、ディナーまで御馳走になってから、エイトとナナはテンション高めのジジイから解放された。
前国王陛下にとって、ダンジョンの51階層攻略を見届けることが悲願だったらしい。
クライムと血は繋がっていなくとも、この国の王族と貴族たちがリリーを冤罪でダンジョンに堕としたことには変わりない。
はじめナナは「ムカつくので褒美はいらないから一発いれても良いですか」と前国王陛下に言うつもりであったが、そのあまりの喜びように一発入れなくても悲願達成に安心してポックリ逝きそうだと、手を出さないことに決めた。後々ナナのせいだと言われては敵わないからだ。
あとでそれを知ったエイトが心底ホッとしたのは言うまでもない。
クライムは国王になってすぐ、魔法を行使できる者がいなくなった今、不要だとダンジョンを閉鎖した。
その為、前々国王陛下が即位したときに秘密裏に高位の冒険者にダンジョンの調査を依頼したところ、最下層には漆黒の百合が咲き誇り、その中央に実体を持たない漆黒の髪の美しい令嬢が眠っていたとの報告が上がって来たのだ。
それを聞いて動揺したのがブレアとクライムの専属執事だった。
ブレアは息子である前々国王に全てを話し、クライムに気付かれないように最下層の令嬢を解放したいのだと願った。
しかしダンジョン内は魔獣が蔓延っており危険が伴う。最下層まで辿りつけるものは限られるだろう。そして事情を話さずにリリー解放の依頼を出すのも無理がある。あの出来事を知る者は当時まだ沢山生きていたのだ。
そこで前国王は権力を使って冒険者のライセンス取得の条件をダンジョンの攻略へと変更した。冤罪とはいえ王家が聖女殺しの罪人を救出しようとしていることを知られるわけにはいかないため、攻略の結果として解放してもらう形を思いついたのだ。
しかしここで想定外の出来事が起こった。リリーが眠る最下層に足を踏み込める者が一組もいなかったのだ。
時が立ち、最下層に眠るリリーが難攻不落の『黒百合の魔人』と呼ばれるようになった頃、ブレアは冥府に旅立ってしまった。
しかしその意志を継いだ前々国王はリリーの解放を諦めなかった。その全てを王位を継いだ息子に話すと、『黒百合の魔人』のことを託して逝ってしまったのだ。
それからも51階層を攻略できる者は現れなかった。
そこで前国王が目を付けたのがエイトとナナのコンビだった。
「はぁ・・・ソウデスカ・・・」
二人にその話を聞かせてくれたのは、ナナの推し魔獣であるデビルハムスターの等身大マスコット(番ver.オス・限定品)に入ったアースことアトラス元第二王子だった。
前国王にお礼を言われたとき、エイトは「何故?」と思ったのだが、どうやら前国王は事情を知っていたらしい。その上でエイトとナナを──・・・?
「何で俺たちが目をつけられたんだ?」
自分たちがいくら強いと言われていたとしても、ちょっと納得が出来ない。
『なんとナナはリリーの、エイトは私の母の実家の公爵家の血を引いているらしいんだ』
いくら公爵家といえども跡継ぎは一人。その他の子は婿入りや嫁入り、親の持つ別の爵位を継いで血を繋いでいく。そうして枝分かれしていった隅の方にエイトとナナはいるらしい。
『それを知った前国王は二人ならダンジョンを攻略してリリー嬢を解放してくれるはずだと確信したらしい』
ダンジョンに潜ったばかりの時に恨んだ冒険者ライセンス取得試験をダンジョンの階層クリアにしたのも、男やもめのギルマスに無理を言って泣かせたのも王族だったというわけだ。
この話を聞いたのが前国王との面会後で良かった。面会前に聞いていたら例えその後にポックリ逝く可能性があったとしても「ムカつくから一発いれたい」とかナナが言い出していたかもしれない。
当然エイトも腹は立っていたが、全て終わったことなのでツベコベ言っても仕方がない。
それよりエイトには別に気になることがあった。
「ダンジョンの最下層で分かれたはずのお二人が何故ここに?てっきり成仏したとばかり・・・」
「いいじゃないエイト。こうして二人とも幸せそうにしてるんだから」
エイトの質問に答えたのはニヤケ顔のナナだった。
「・・・」
『私の願いは精霊と一緒に過ごすことと精霊が与えてくれた力を自由に使うこと、そしてアトラス様と添い遂げることですわ。成仏してしまっては何も叶わないではありませんか』
「そう言われてみれば、そうっすね」
ナナの手の上でデビルハムスター(番ver.メス・限定品)が『おかしなことを仰るのね?』みたいな感じで仁王立ちしている。遠くても流石ナナの親戚だ。我慢を止めたリリーは結構自由な性格になっていた。
リリーの「好きな人のお嫁さんになりたい」という願いは、アトラスと番(ヌイグルミの設定だぞ!?それでいいのか?)になったことで叶ったそうだが、人間、精神体になっても願いが叶えばその先を望むのは当然だ。二人でしばらくのんびり過ごしたいらしい。
そしてもう一つの願いである精霊に関してだが──ダンジョンから解放された精霊たちは今もリリーのそばにいるそうで、エイトには見えないがその辺には結構精霊が飛んでいるらしい。リリーは話して笑って、たまに魔法でエイトに悪戯を仕掛けてくる。生前満たされなかった分、幸せそうで何よりだ。
まぁ、エイトの目には心が通じ合ったばかりの二人より、推し魔獣である二体のデビルハムスターの等身大マスコット(番ver.・限定品)が揃って動く姿を眺めているナナが一番幸せそうに見えるのだが・・・。
リリーに聞いた話なのだが、精霊には実体がないため直接力を行使することが出来ないらしい。だから素養があり気に入る者がいれば善悪関係なく加護を与えるそうだ。51階層で精霊が黒百合の花になっていたのも実体を得て力を行使する為だったらしい。
精霊たちは、気に入った人間がいれば、また加護を与えるつもりではあるらしいが、しばらくはリリーのそばにいるそうだ。
リリーの遠縁で大聖女シャイニーの生まれ変わりであるらしいナナについている光の精霊を除いては。
「よしっ!折角S級ライセンス取ったんだし、何か記念になる依頼を受けようよ!」
ナナがライセンス持ち冒険者用のクエストボードを覗き込む。記念になる依頼ってなんだ?とエイトは思う。
二体のヌイグルミはワクワクした顔?でナナのカバンにぶら下がっている。どうやら生前行くことが出来なかったところに行け、体験できなかったことが出来る今の環境が楽しくて仕方ないらしい。
しかしダンジョンが崩壊した今、アトラスとリリーは好きなところへ行けるのだ。なのに何故二人がヌイグルミに入っているのかがエイトには理解出来なかった。
それはヌイグルミとはいえ“番”であるという設定をリリーがいたく気に入っていることと、ヌイグルミという実体を得て“冒険”とやらについて行き、魔法を思う存分行使するためなのだが・・・。
「エイトっ!これにしよう!!」
ナナが一枚の依頼書を手にエイトの方に掛けてくる。
「どれどれ・・・え!?ドラゴン討伐!!?」
「そう、記念になるでしょう?多少怪我しても光の精霊がついてきてくれるから大丈夫だし、ドラゴンのお肉って美味しいらしいよ──?」
一回食べてみたかったんだぁと、はしゃぐナナと“新婚『冒険』旅行”だと盛り上がる番のデビルハムスター。
ドラゴン相手に多少の怪我って・・・。
いくら強くとも、このメンツの中、エイトは一人だけ精霊の加護ナシ、魔法ナシの常人なのだ。
危険を冒してまでお前ら精霊の愛し子たちの面倒を見てるんだ。
一人くらい俺に今すぐ加護を授けようっていう精霊がいてもいいんじゃね?と思うエイトであった。
(おしまい)
最後までお付き合い頂き、ありがとうございました
(*´▽`人)




