『好きだから』
レイチェルは自分の花壇の前に、居た。よかった、と思うと疲れた身体に鞭を打って隣にしゃがむ。
「レイチェル、心配したぞ。こんな所でなにしてんだよ。………って」
覗き込んだレイチェルの顔は涙でぐちゃぐちゃだった。鼻先も赤い。無性に腹が立った。誰に泣かされたんだ、とかたくさんの疑問を飲み込んで、聞く。
「泣いてた、のか?」
「ハッ………だ、大丈夫です!これはその、目にゴミが入って………!」
「なっ、なら擦っちゃダメだろ!」
「きゃっ」
「!」
ゴシゴシと擦るレイチェルの腕を掴んだ。とても冷たくて、震えているのがわかった。………こんな寒い所で。
「あの、本当に、これはなんでもないんです………」
………泣いていたのに、なんでもない、なんて。
「見なかったことに………」
____そんなこと、言うな。
そう思ったら____体が勝手に動いていて。
俺はレイチェルを抱き締めていた。とくん、とくんと心臓の音がする。どんな顔をしているのか見れないのは残念だけど、今の俺には余裕がなくて。勝手に言葉が零れた。
「………俺は、レイチェルに、どんなことでも話して欲しいし、頼って欲しい」
「あ、ドラオテル様………?」
俺は肩を掴んで、少しだけ離れる。
涙を浮かべて、鼻水を垂らして、ボロボロの顔を赤らめているレイチェルに、伝わるように。
「_____好きだから」
「……………え…………?そ、それ、って…………私___「アド?」「チェル?」………!」
レイチェルが何かを言う前に、声が頭上に降りかかった。見上げると、父ちゃんとサシャ、ばあちゃんが居た。
サシャとばあちゃんがにやにやといやらしく笑う。
「…………おじゃまだったかな?」
「ごめん、続けていいよ」
「おっ、お構いなく!!!!」
「あ、……」
レイチェルは俺から離れて立ち上がった。そして言葉を紡ぐ。
「ほんと、えっと、なんでもない!なんでもないです!いや本当に……っ」
「チェル!?」
「レイチェル!?」
ぐらり、レイチェルが揺れた。俺が支える前に、サシャが抱き留めた。しかしレイチェルは喋るのを辞めなかった。
「ほんと、えっと、これは何かの間違いで、その……告白って勘違いしただけで……それで………」
「わかったから!………って、おでこあっつ!チェル!そんな寒そうなドレスでこんな寒空に居ちゃ風邪引くわ!
ごめんアルティア、セオドアくん!チェルを連れて帰る!」
「城にも医者はいるわ!呼んでこよっか!?」
「ううん、チェルの身体は特殊だから専門家の所に行く!」
「お、俺も行く!」
がやがやとばあちゃん達に向かってそう言うが、父ちゃんの手が肩に乗った。
「アド、お前は城に居なさい」
「なんでっ___「今」………?」
振り返ると___いつもの甘いマスクはどこへやら、厳しい顔をしている父ちゃんの顔が目に入った。
「お前がレイチェルちゃんのそばにいられたら困るって………わからないか?」
「…………ゴメンナサイ」
「わかればいい。ほら、城に入るぞ」
そう言われながら俺は、レイチェルと引き離された。振り返っても、レイチェルはもうそこにはいなかった。
* * *
「インフルエンザだな」
___下界・別荘にて。
ベッドの上で横になる私と、部屋にいる身内に聞こえるようにお父さんがそう言った。次はお母さんが口を開いた。
「げ、人外なのにかかるもんなの?」
「知らない。……が、事実かかっている」
「ままごとしてるからだ!ったく、だから俺は反対したんだよ!大事な孫を別次元なんてよ!」
「たっちゃんうるさい」
身内の声を聞きながら、ぼーっとした頭で考える。
____相談の仕方も、答えの出し方もわからないや。
きっとアドラオテル様はこういう冗談は言わない。慰めでもきっと好きなんて軽々しく言わない人だってわかってる。
じゃあ、「好き」って何?
………落ち着け、私。そんな都合のいいことが起きるわけない。
それでも。
『好きだから』
「レイチェル!?」
アドラオテル様の言葉を思い出して、私は両手で思いっきり自分の頬を叩いた。心配する家族を放って、確かに思ったんだ。
_____それでも勘違いしたくなるような、少女漫画みたいな台詞だ、って。
私はそのまま意識を手放した。




