気づいてしまった気持ち
「…………………」
アドラオテル様は聞いたことないくらい冷たい声でそう言った。それを聞いた女性達は黙った。アドラオテル様は「帰れ」とまた冷たい声を出して、………私が隠れている木を通り過ぎて行った。
女性達はそれぞれ、アドラオテル様の悪口を言う。でも私の耳には何も入らなくて。私は木から離れて歩き出す。
____アドラオテル様には、好きな人がいる。
___誰のことを好きでも他人には関係ない。
きっと、…………コト様のことだ。
自然とわかってしまった。わかると不思議で、勝手に涙が流れて。
庭園の片隅にある、私の花壇の前で、私はへたりこんだ。
寒い。吐く息が白い。当たり前だ、冬なんだから。でも、目元はすごく熱くて、溢れる涙も熱くて。私はその場で体育座りをした。ドレスを着るようになってからしなくなった体育座り。でも、今はそんなこと考えられなかった。
____きっと、立ち聞きをした私にバチが当たったんだ。
____アドラオテル様に好きな人がいることが。
____それが私には「関係ない」の一言で済んでしまう。
____当たり前の事なのに。
…………それが、こんなに寂しい……………。
元々、仮初の婚約者。
本当の婚約者じゃない。
恋人らしいことはしたけど、……それだって余剰だ。
わかってる。わかってるよ?
_____でも。
そのでもが、更に涙を誘発した。
………ちゃんと、ずっと、憧れの人だと思えてたらよかったのに。
私______
「レイチェル!」
____アドラオテル様のことが、好きだ。
そう思った時、思考を切り裂くように…………アドラオテル様の声が私を貫いた。
* * *
_____少し時間を遡る。
「はぁ~…………さいっあく」
転移魔法を使って部屋に戻った俺は、ベッドに倒れ込んだ。
………今日も、顔すら知らない女が俺の元へ訪れた。
各国の姫。小さい頃からこういうことが割とある。突然押しかけてきては婚約を迫る女達。最初こそ母ちゃんが追っ払ってくれていたけど、女帝になった母ちゃんは忙しい。だから、自分で伝えることにした。
___よく、何も知らない男に告白できるよな。
俺だったら無理。好きな人と結婚するのが俺の中では当たり前で、それは譲りたくない。でも、今はそれだけじゃない。
俺は____レイチェルが好きだ。
コトが好きだったけど、……いや、レイチェルと関わるまではちゃんとコトが好きだったと思う。
けど、レイチェルと関わって、色んなことを一緒にやって、一緒に見て、……綺麗だって思って。
そりゃ、今でも色々溜め込んでしまうコトが心配で話すけど、前みたいに『好きな人』って感じではない。俺の好きな人はやっぱりレイチェルなんだなぁって話しながら思ってしまう。コトには悪いけど、俺の頭にはもう、レイチェルしかいないんだ。
浮気者だと自分でもわかっている。
けど、好きになってしまったものはしょうがないだろ?
そもそも………好きだとしても、俺はいつ死ぬかわからない。
そんな男に告白されて、女は嬉しいわけがない。
特にレイチェルは優しすぎるしか弱すぎる。………なら、俺がちゃんと気持ちを自制しなくちゃならないだろう?
「………はあ」
溜息をついていると、コンコン、とノック音が響いた。「入れ」と一言言うとフィアラセルが顔を出した。
「お兄様」
「なんだ、フィアか。なんで城にいる?」
「本を借りに戻ってきた。………それより、レイチェル知らない?」
「は?知らないけど。レイチェルに何かあったのか?」
「…………ひまわり畑に、居なかった?」
「___!お前、まさかレイチェルに俺がひまわり畑に居たこと、いったんじゃないだろうな!?」
ベッドから飛び起きてフィアラセルに詰め寄ると、フィアラセルは目を伏せて「ごめん」と言った。
「レイチェルがお兄様に会いたいって言ってて………お姉様に聞いたら、花畑だ、って………行くなとはいったけど、レイチェル、今日様子が変だったから………」
「~ッ、どけ!」
俺はフィアラセルを押しのけて、だだっ広い廊下を走った。レイチェルの部屋、講義室、食堂、図書室………どこを探してもいなくて。走っている途中、ある場所が頭に浮かんだ。
「___庭園か!」
俺は転移魔法を使って庭園に来た。
庭園のあちこちを探して___やっと、見つけた。
「レイチェル!」
「………あ、アドラオテル様………」




