離れ離れ #01
「……………………………ゴチソーサマ」
「……………」
「……………」
「……………」
アドラオテルはそう言って席を立つと、さっさと皇族専用食堂を後にした。それを見ていた家族一同はアドラオテルが去ったのを見てから口を開く。
「…………アド、今日も元気がありませんね………」
「お母様、それは仕方ないのです。レイチェル様がいないのですもの。
レイチェル様のことを愛しているアドは元気が出ないのです!」
「………それにしても、上の空過ぎるよ。レイチェルと何かあったんじゃないの?」
「レイチェル様、流行病と聞いておりますが………大丈夫でしょうか………」
「わたくし、お見舞いに行きたいです」
「それはサシャ様が"しばらくは無理"って言ってたよ。シエルも会えないって残念がってた」
「…………」
アミィール達があれやこれやと心配している。それは仕方ないことだった。アドラオテルは本当に元気!っていうキャラだから、あんなにしょぼくれているのは新鮮で心配が過剰になってしまう。
でも_____蓋を開けてみればあれは、恋煩いなんだよな。
俺は1人パンを食べながら考える。
…………レイチェルちゃんが倒れた日、一部始終を俺とアルティア様、サシャ様が見てた。
___泣いているレイチェルちゃんに、「好きだと言わない!」と豪語していたアドラオテルが告白まがいなことを言っていたのだ。あの好きという言葉は決して友人としての好きではない、というのは見てる人間なら誰でもわかる。
しかも晴れて結ばれる___というわけには行かず、レイチェルちゃんは流行病………インフルエンザにかかったと言うんだから目も当てられない。告白したらその場で返事、欲しいよな。リアルの恋愛は漫画のように都合よくはいかないものなのだ。
そして、そんなアドラオテルは今、人生初の「好きな人と離れ離れ」を経験している。そりゃあ気持ちも沈むよな、と乙女男子の俺には手に取るように理解出来て涙が出そうだ。父親の威厳としては出したくないところだが。
こういう時は、知らないフリをしてそっとしておくのが_____
「わたくし、アドを元気づける為に久しぶりに稽古をつけて差し上げましょうか………」
「だめです!お母様!いまのアドは剣もきっと持てません!わたくしがアドを問い詰めます!なにがあったのか、赤裸々に話せば意見を出せるかもしれません!」
「僕がシエルにお願いして電話繋いでもらうよ。レイチェルから聞いた方が早い」
_____俺が聞こう。
セオドアは1人、そう思いながら強硬手段に出ようとする3人を宥めたのだった。
* * *
「はぁ~~~~~………」
「…………」
孤児院に向かう馬車、向かいに座るアドラオテルはやっぱり何百回目かの溜息をついた。早速聞くチャンスを得たのだから、聞かなければならない。
「アド、………何があったか、話してくれないかい?」
「………父ちゃんに話せば、レイチェルは帰ってくるの?」
「それは………でも、1人で抱えても悶々とするだけだろう」
「誰かに話したって悶々とするよ。俺は父ちゃんじゃなくてレイチェルと話したいんだから…………はあ~~…………」
アドラオテルはまた溜息をついて窓の外を見た。まだまだ子供だと思っていたが、一丁前に恋をするなんて………俺も歳を取ったからか涙腺が緩くなった気がする………いいや、泣かないけど「…………時間を戻せたら」………?
不意にアドラオテルが口を開いた。空を見ながらぽつりぽつりと言葉を漏らす。
「時間を戻せたら………もっとちゃんとしたこと、言えたのかな。少なくとも、返事は貰えたのかな………いいや、言わなかったかもな。でも……言えてよかったんだけどな…………」
「………………」
泣かない、と意気込んだのはどこへやら、泣きたくなってきた。アドラオテルはアドラオテルなりに悩んでいるんだ。「自分が好きだと言ってよかったのかどうか」を。返事ではなく、その事を。
そんなの、悲しいだろう?
恋愛は自由なはずなのに、アドラオテルには制限が多いんだ。
____俺が、なんとかしよう。
そう決意した。




