” 魂送り ”
「_________」
レイチェルの実家の庭で、信じられない物を見た。
降り注ぐ雨の中、大きな魔法陣が青白く光っている。その真ん中で。
「~♪」
幽霊のダーインスレイヴや祭りで着る着物に似たものを身に纏うレイチェル。杖を持ち、歌っている。その周りを七耀の光がレイチェルと共に舞っている。
____それはまるで、雷に当たったような衝撃だった。
ずぶ濡れのはずなのに、軽やかに舞うレイチェルが………七耀の光と相俟って、美しくて。かける言葉すら見つからなくて。
ただただ魅入っている俺に、声が降りかかる。
「あら____これは珍しいお客様ね」
「………あ」
振り返ると___傘を持ったピンク髪、翠の瞳のサシャが立っていた。サシャは俺を傘の中に入れて言う。
「皇子が風邪を引くのはいけないわ。家の中に入って頂戴」
「そんなことより………あれはなんだ?」
「あれ?…………ああ、"魂送り"よ」
「タマシイオクリ?」
知らない言葉を聞き返すと、サシャは「まあ、知らないわよね」なんて言いながら言葉を続けた。
「次元には___沢山の魂があるわ。死んでいった魂。無念を抱えた魂………それは、龍神の血を引くアンタは知ってるでしょ?」
「…………うん」
「龍神が産まれたのは___この世界の"歌姫"が居なくなったからよ」
「ウタヒメ………?」
「そこからかぁ。うーん、まあいいわ。歌姫って言うのは、簡単に言うと魂を導く者、歌声と演舞で魂を"あるべき場所"に還す存在。
レイチェルは___その、"歌姫"なの。歌姫は雨季中、次元の何処かで舞い歌う。沢山の願いを言葉に乗せて、生命を慈しみ、また慰める。
あの子はお勤め中なの、声はかけないであげて」
「………………」
話はよくわからない。
けど、確かに思ったんだ。
____ずっと見ていたい、って。
____ずっと傍で見ていたい、って。
『一概にこれ、なんて答えは無いよ。でも、例えば好きな人を見て"そばに居たい"、"ずっと見ていたい"って感じたら、恋だと思う』
そう父ちゃんは言っていた。
なら、これは、この気持ちは、間違いなく______。
俺はサシャを無視して、ずっとレイチェルの舞いを見ていた。
* * *
惑う魂よ。
還る所にお送りします。
無念ですよね。悲しいですよね。
まだ生きたかったですよね。
大丈夫です。輪廻転生の輪は貴方を待っています。
貴方は生まれ変わり、新たに大事な存在を見つけるでしょう。
どうか、どうか。
皆様の『これから』に幸あらんことを_____。
聞こえる声に合わせて舞う、歌う、想う。
私の役目、私のすべきこと。
それが"歌姫"。私が誰かの力になっている事がこんなにも嬉しい。
____ば、化け物!
…………化け物で構わない。
____忌まわしい。
…………甘んじて受ける。
私はどう思われてもいい。
でも____やっぱり、悲しいよ。
そう思いながら、私は杖を眼前に持っていき、舞を終える。伝う涙を感じて、また泣いてしまった、と反省する。
___強く在らねばならないのに。
私は数少ない"アルタナの力を持つ歌姫"。
こんなことで泣いては____!
そう思った時、雨音とは違う音が聞こえた。音の方を見ると………ずぶ濡れのアドラオテル様が、私の方に向かって走ってくる。
見られてしまった。
___化け物!
やめて。
___忌まわしい!
アドラオテル様、言わないで。
貴方の口からは、聞きたくない___「レイチェル!
お前…………凄かった!」
「………え?」




