皇配と皇子
俺と同じ群青色の髪、紅と黄金の瞳のアドラオテル・リヴ・レドルド・サクリファイス。俺の息子で、今年で16になった。
無骨で俺の仕事に興味が無いアドラオテルが来るなんて珍しくて、首を傾げた。
「?どうしたんだ、アド。服でも解れたのかい?」
「そうじゃないぞ!聞きたいことがあってきたんだ!」
「聞きたいこと…………?」
更にわからなくて首を傾げる俺をよそにカツ、カツと靴を鳴らして俺の肩を掴んできた。
「と、父ちゃんは…………どうやって!母ちゃんを好きだと気づいた!?」
「………はあ?」
思わず声が漏れた。
藪から棒になんなんだ。いや、よく考えたらこういうシーンは前世の漫画で見たことがあるな………とはいえ、こう聞く相手は母親なんだが。ポジションが確実に母親になっている気がする、俺。
なんて考えている俺を真剣に見つめる我が息子。………大きくなったなぁ。今じゃ婚約者も居るもんな………ん?もしかして、レイチェルちゃんが好きなのか不安で聞きに来た感じなのか?半ば無理やりの婚約だったけど、傍から見たら2人は仲睦まじい。親に公認されてないとは思えないほどである。
………なら、ちゃんと答えた方がいいよな。
そう結論づいた俺は少し考えてから、言葉を紡いだ。
「………俺は気づいたら好きになってたな。なにか特別なことがあったわけじゃない。そりゃ、色々な気持ちを抱いたりしたことはあったけど………でも、なにをしててもアミィールのことを考えてた」
「………………それが、好きってやつ?」
「一概にこれ、なんて答えは無いよ。でも、例えば好きな人を見て"そばに居たい"、"ずっと見ていたい"って感じたら、恋だと思う。
………"会いたい"、とかもな?」
「____ッ」
俺がそう言うと、アドラオテルは目に見えて顔を真っ赤に染め上げた。………これは完璧に"好き"だよな。確かにレイチェルちゃんはいい子だし、おどおどしているけど根本はしっかりしているし、躁病なアドラオテルはああいう子を娶ってくれた方が親としては安心できる。
アミィールはやや反対気味だけど、それはレイチェルちゃんだからとかじゃなくてアルティア様の勝手な行動に、だし。こういう恋愛も俺は___「………とめないぞ」……ん?
ボソボソとアドラオテルは何かを言い始めた。耳を傾けた時、アドラオテルは真っ赤な顔を上げて息を大きく吸った。
「俺は!!!!認めないぞ!!!!」
「っう!?」
キィーン、と耳鳴りがする俺を放ってアドラオテルは消えた。な、なんだったんだ、アイツ……?
1人残されたセオドアは呆然としばらく立ち尽くしていた。
* * *
「はっ、 はっ………!」
俺は雨の中、走る、走る。
父ちゃんの言葉を聞いて、…………認めかけた。父ちゃんが紡ぐ言葉は全て俺の心を見透かしたような言葉で、いてもたってもいられなくてばあちゃんの家に転移した。そこからレイチェルのばあちゃんちに向かって走っている。
………俺は好きな人だろうがなんだろうが婚約者を持たないと決めていた。どちらにしても俺は相手を不幸にするとわかっていたから。
レイチェルとは"二人の秘密"がきっかけで話すようになった。
レイチェルは周りに何を言われても怒るどころか困った笑顔を浮かべて、目を伏せているだけの女性だった。
影で色々言われているのは知ってる。その度に不快だったが、レイチェルは誰も責めなかった。………コトに似ているから守らなきゃ、と思った。
コトとは婚約出来ないから、コトに似ているレイチェルを仮初の婚約者にした。完璧に俺の我儘だった。
でも。
レイチェルは___当たり前だけど、コトじゃなかった。
コトのように自分を押し殺してなかった。コトのように受動的じゃなかった。卑屈だけどちゃんと自分の考えている事を相手に伝えたり、コトのように自分のことばかりではなく、周りのことを考える女性だった。それを知る度に嬉しくて、楽しくて、……居心地が良くて。でも、この感情がなんなのか、わからなくて。そこに父ちゃんの言葉だ。
確かめなければ、と思ったのだ。決して認めたわけでなく、確かめる。
この気持ちはなんなのか、名前が欲しかった。
馬鹿臭いって自分でも思う。自分らしくないとも思う。けど、ぼうっとなんてしていられない。
そう思って走ったら、大きな家を見つけた。………確か、此処だよな…………ん?
不意に、何かの気配を感じた。俺は玄関を通り過ぎ、庭に向かった。




