7 模倣
主人公が四苦八苦するだけの話です
「それじゃまずは、こっちから試してくれ。」
正式に協力を受諾し、事務処理が完了すると、早速指示が飛ぶ。
示されたのはシルバーのコアフレームであった。
「それが先にゃ?」
再現するならば、ピコの機体のコアでないのかと、技師に確認する。
「ああ、これもメタモメタル製だ。」
新規に生産されていないのであれば、このコアの機体のパイロットはミケコ姐さんだろう。
寂しさに鼻の奥がツンとしてしまう。
(使わせて貰うにゃ。)
なんとなく心の中で、ミケコ姐さんに断りを入れ、コックピットに座る。
(「それで、どうすればいいにゃ?」)
自身の中にいる“私”に問う。
(『………とりあえず、毛を腹から順に手のひらまで逆
立てるようにイメージするにゃ。』)
フワ…フワワッ…
“間”が気になったが、指示に従って、毛を逆立てる。
(ん…何か熱いにゃ?)
数瞬遅れて、体温と別の、じわりとした熱を感じる。
(『その熱が魔力にゃ。』)
(「なるほどにゃ。」)
熱なのに暑くない、不思議な感覚だ。
(『そしたら、コアにも魔力を流して、獣の型を思い
浮かべるにゃ。』)
握った操縦桿に、熱が流れて行くのが分かる。
(「獣…獣にゃ…。」)
思い浮かべるのは、ウィング家でみた彫刻のマルコシアスだ。
………ピキ………ピキピキ………
何かが割れる音がかすかに聞こえる。
フッ…
「っ!?」
突然、熱が消える。
(『あ~、やっぱりにゃ…。』)
“私”の呆れたような声。
(「“やっぱり”って、どういう事にゃ…?」)
頭痛と目眩がしてくる。
(『魔力切れにゃ。』)
この体調の不良は、魔素欠乏症の…。
『中佐、どうした!?
…実験は中止だ!』
技師の焦った声の通信を最後に、ピコの意識は失われた。
…………………………。
…………………。
…………。
ピコが目覚めたのは翌日、開発本部の救護室のベッドの上であった。
シャッ
ベッドを囲っていたカーテンが開かれる。
「あら、目が覚めたのね?
良かったわ。」
……いつもであれば、ここで来る衛生官はミーコだっただろう。
恒例のバイタルチェッカーを取り付けられながら、そんな事を考える。
「バイタルに異常なし。
……。(魔素値が急に下がるなんて、どうしたのか
しら?)」
そう呟いた衛生官は、しかし異常が見当たらない為、ピコに無理をしない事を言い含めるに留まった。
…………………………。
…………………。
…………。
衛生官に、違和感を感じたらすぐに救護室に行く事を念押しされたピコは、再び開発本部のハンガーへと訪れていた。
「済まない。
素材の性質上、注意する事を言い忘れていた。」
技師が言うには、メタモメタルの製造において、最初期に製造員の多くが、体内魔素値低下による体調不良を訴えていたらしい。(現在は改善されているとか)
「だがここを見てくれ。」
技師が示す箇所を見ると、銀色のコーティングがされていたコアの一部が薄青を覗かせる。
「中佐が倒れて元の形状に戻ったが、それまでは流動
していたのだよ。」
技師が言うには、このコーティングは基本剥がれる事は無いらしい。
実際、ミケコ姐さんの機体は、数発のミサイルの直撃を受けたそうだが、コアは新品のようであった。
「これで、パイロットの意思による可変の可能性が証
明された。」
しかし、あくまで可能性であり、ピコの機体が見せたような機構の再現はまだ不可能だと技師は続ける。
「さて、本日の可変実験だが、先に言っておく事が
ある。」
今日試すのはピコの機体のコアだった筈だが、何が問題なのだろうか?
「中佐の機体のコアなんだが、内部の配線が悉く切れ
てしまっていてな…。」
当たり前と言えばその通りだ。
ポッドの配線は最適化されていて、極力シンプルかつ、効率が良くなるように引かれている。
それはつまり、遊びが無いと言う事で、球形のポッドから四足の獣型に形が変われば、という話だ。
「まあ兎に角、試すだけ試してみよう。」
前回と同じように、身体を巡る熱を集め、機体に流す。
(ん?)
ミケコ姐さんの機体のコアより、魔力の流れが速く感じる。
(『…………。』)
“私”の落ち着きが無いように感じながらも、マルコシアスをイメージする。
…カシャ
前回より早い反応。
しかし、楽観はしない。
身体の熱を意識すると、前回と比べまだまだ余裕がありそうだ。
カシャカシャカシャ…
反応が進み、音が継続的になる。
グウン
コックピットが収縮し、視点が低くなる。
カシャカシャカシャン
反応が無くなる。
身体から流れた熱は、コアフレームを巡り、ピコに戻って来る。
その循環は、コアフレームと一体となった感覚をピコにもたらす。
『中佐聞こえるか?
成功だ!』
携帯している無線に技師から連絡が入る。
どうやら無事に変形は完了したようだ。
「聞こえるにゃ。
体調は良好、次はどうするにゃ?」
無線に返答し、次のタスクを尋ねる。
『機外の様子は見えるか?
床の円が見えるか?
可能そうならそこまで移動してみてくれ。』
奇跡的に配線が生きているのか、モニターにはハンガーの光景が映されている。
しかし、コアフレーム単体に移動能力は無い。
だが、今のコアには四本の足がある。
(「いけるにゃ…?」)
(『ならイメージしてみるにゃ?』)
(「床の円に移動…。」)
ドッ!
コアのあった床が爆ぜた。
果たして結果は…!?
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