16 誇り
閑話から時間は少し戻って…
敵第二防衛線の強行進出を決行してから一月以上が経ち、10月になった。
この間、損耗した本隊は再編が完了。
総数は進出前の9割に減り、敵要塞「マズル」に睨みを利かせながら補充員の到着を待っていた。
マルコシアス隊は他の独立部隊や本隊の一部部隊と同様にキャトラス軍の領域の確保(敵拠点の制圧・破壊)や侵攻ルートの調査等を行っていた。
そして本日の任務は、ここ数日敵機の巡回が頻繁になった宙域の強行偵察である。
とはいえ、敵巡回部隊は長距離機の一個小隊。
対象の宙域も「マズル」から離れた侵攻ルート外の、良くて哨戒船がいるような閑散とした場所だ。
(侵攻前はそれなりに行き来はあったのだろうが…)
かといって、敵要塞への攻撃を控えた現状、少しでも不確定要素を摘むべく出動したというわけだ。
(プライズ艦長からの提案だ。)
『レーダーに感あり。
これは…?
………………照合完了、個人船舶のようです。』
プライベートシャトルとは旅客シャトルと異なり数人しか乗れない超小型のシャトルだ。
所有するのは企業や金持ちが多く、総じてVIPが乗っている事がある。
『フロス大尉、どうしますか?』
ここがドギヘルスの領域である以上、確実にドギヘルスのVIPが乗っていると思われる。
軍の上層部の者であれば重要な情報を握っている可能性が高く、そうで無くても敵軍に対して何らかの影響はあるだろう。
『シャトルの確保を提案する。』
プライズ艦長はドギヘルスのシャトルを拿捕したいようだ。
「まずは呼び掛けからにゃ。」
敵の推定VIPとはいえ、シャトルは非武装だ。
初めから撃つ必要など無い。
(抵抗されたら、やむを得ないにゃ…。)
『レーダーに追加の反応。
数4、一個小隊です。』
護衛だろうか、シャトルに乗っているのは軍のVIPの可能性が非常に高くなった。
出撃のスタンバイをする。
『カメラに捉えました。
映像出ます。』
「…なっ!?」
モニターに転送された映像を見て声をあげる。
護衛と思われた戦闘機がシャトルに銃撃を加えたのだ。
『…どうやら内輪揉めのようだ。』
ブリッジで同じ映像を見たであろうプライズ艦長が言う。
ドギヘルスは未だに多種族かつ王政であり、王族は苛烈だと聞く。(諜報部が調べた。)
シャトルの者は王族の不興をかったのだろう…。
『ここ数日の動きはシャトルを捜索していたのでしょ
う。
介入しますか?』
分析官の報告。
『調査任務は完了した。
交戦は避けられるが…。』
プライズ艦長は先ほどと、方針を変えたようだ。
王家直属部隊の可能性が高い以上、下手に刺激するわけにはいかない。
敵小隊の撃破は容易だが、それにより王家が強行手段に出る可能性がある以上、手を出さない事が賢明だ。
「マルコシアス隊は現行の任務を放棄。」
『大尉、それは…。』
キャトラス軍の宇宙航行条文には、
『・任務中、脅威に曝される民間船舶を発見した場合、
直ちに任務を放棄し、これの救援にあたる事。』
という一文がある。
これは軍が各宙域を管理するにあたっての義務となっている。
ここはドギヘルスの領域、つまり条文の適用範囲外である。
『…分かった。
メインハッチオープン、大尉が出る!』
目を反らすのは簡単だ。
マルコシアス隊は闇に触れ過ぎた。
しかし、だからこそ、もがくのを諦めたく無い。
軍人として、力を持つ個人として、種族は違えど武力無き市民を守りたいのだ。
きっとプライズ艦長も個人としては同じだったのだろう…。
『発艦準備完了です。』
コントロールの委譲を確認。
「キマイラ1、フロス大尉。
民間シャトルの救援に出るにゃ!」
…………………………。
…………………。
…………。
…。
シャトルが戦闘機の小隊に襲われているポイントに急ぐ。
「見えたにゃ。
…っ!?」
メインカメラに捉えられる距離まで接近し、映し出された映像に困惑する。
戦闘機がシャトルに銃撃を加えている事は認識していた。
問題はシャトルである。
攻撃を受けながらも未だ健在であったシャトルだが、回避行動を一切取っていなかったのである。
確かにシャトルで戦闘機の攻撃を回避出来るものでは無いが、このままではみすみす墜とされてしまう。
「そこのシャトルのパイロット、諦め無いでにゃ!」
共通回線で呼び掛ける。
『なんだ!?』
『キャトラス軍のポッド!?』
『やはり救援に来たか…!』
当然、ドギヘルス軍機のパイロットにも聞こえたのか、無線を傍受する。
『たかがポッド1機で!』
ヴォッ
無線の内容に違和を感じていると敵機が撃って来る。
カカカンッ!
長距離機の小口径の機銃では中核どころか、外装装甲すら貫け無い。
ドンッ!
散弾のお返しだ。
ボッ
1機撃墜。
『シャトルだけでも墜とすぞ!』
撤退という選択肢は無いようで、再びシャトルに襲いかかる敵機。
(させないにゃ。)
シュパパッ!
対空ミサイルを発射。
『回避ぃ!』
ボッボンッ
2機撃墜、1機逃した。
『ああぁっ!』
シャトルに特攻する敵機。
ミサイルは間に合わない。
ドッ!
…咄嗟のリニアガンが命中。
敵機はその威力に粉砕された。
「ブリッジ、周辺警戒。」
『………敵影ありません。』
シャトルのエンジンは停止したようだ。
「良く耐えたにゃ。
今からキャトラス軍が保護するにゃ。」
「罪を憎んで人を憎まず」的な。
タラシネコと孤独狐が出会ったら…。
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