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閑話 ドギヘルス~ファーテイル家騒動~

思ったより長くなったので閑話とします

~惑星ドギヘルス 首都高級住宅地~

 

 その日、普段であれば閑静な高級住宅地では喧騒が起きていた。

 喧騒の中心は古くから軍務卿を務める妖狐族ファーテイル家の屋敷。

 そこの門番の雄たちに王家直属の憲兵隊が詰め寄る。


「早急に当主を出して貰おう。」


「ですから、今手が離せない状態でして…。

 少しお待ちいただけ無いかと…。」


 古くから王家に仕えてるファーテイル家に対し憲兵隊も強権を行使しにくく、屋敷の門前でかれこれ10分程は揉めているだろうか。


「何故!?

 何故我が家に憲兵隊が来るのだ!」


 当主の雄に心当たりは無く、仕事も上手くやっていた筈である。


「まさか…!

 あの獣がヘマをやらかしたか…!」


 たまに仕事を与えてやっていた、クーシーの元妻の腹から出てきた獣の事を思い出させられる。


(政略とは言え、素直に妖狐族の雌にした方が良かった

 というのか…!?)


「旦那様、とりあえず事情を聞いた方が良いかと…。」


 後悔していると補佐官の雄が提案して来る。

 いつまでも待たせて王家の不興をかうわけにはいかない。


「そうだな。

 おい、そこの!

 あの獣を部屋から引き摺り出しておけ!」


 通りがかった使用人にそう告げ、補佐官の雄と共に弁明の為、門前に向かう。


「ファーテイル卿、あなたには機密漏洩の疑いがかかっ

 ている。

 同行して頂けるだろうか?」


 …………………………。

 …………………。

 …………。


 場所は変わって、獣と呼ばれる雌の部屋。


「お嬢様…。」


 唯一の使用人が不安気に呼ぶ。


「いつかこんな日が来ると思ってた。

 …少し急過ぎるけど。」


 そう言いながらベッドの下からトランクケースを引き出す。


「シャトルはいつでも発射可能です。

 お送りします。」


 この雄は自らの主人が何をするつもりかわかっていた。

 二人は裏口からこっそりと屋敷の外に出て自家用シャトル発着場に向かう。


 …………。

 …。


「長年仕えてくれてありがとう。

 元気でね。」


 発着場に到着し、ファーテイル家のシャトルの前で獣の雌は使用人の雄に言う。


「時間がありません早く。」


 使用人の雄は獣の雌を促す。


キイィィィ…


 獣の雌が乗り込んですぐにシャトルが起動する。


(お嬢様、私は共に行けません。)


ゴオォォ…


 シャトルが動き出す。


(ですが、私の唯一の主人はあなたです。)


ブロロロ…


 装甲車両のエンジン音。


(もし、またお会い出来たら…。)


キィッ!


 ブレーキ音。


(また仕えさせて下さい。)


オォォォ…


 シャトルが上昇し見えなくなる。


「おい!

 貴様、獣はどこに逃げた。」


(…こいつはもう必要無い。)


 スーツの内ポケットに手を入れる。


カチャ…


「貴様、早く答えないと…!」


 当主の雄と補佐官の雄が拳銃を向けて来る。


「…どうするんです?」


バッ!


 素早く手を引き抜く。


「っ!」


パンッ!パンパンッ!


 合計で三回の発砲音が発着場に響き渡る。


ドサッ…


 倒れたのは使用人の雄。

 その手の銃は威嚇用の空砲であった。


ブロロロ…


(お嬢様…)


 雄が倒れた場所に血溜まりが出来て行く。


ガチャガチャ…


「貴様、これが答えだと?」


(どうか…)


 雄の意識が薄れていく。


「………………………………!」


「………………………?」


「………………………………!」


 最早、耳も聞こえ無い。


(ご無事で…。)


 付き人の雄の目が閉じられる。

 この後、当主の雄と補佐官の雄の証言によりシャトルで逃走したナナ・ファーテイルは国家反逆罪で憲兵隊の追っ手がかかる事となった。

 













~ナナ視点~


ゴォォ…


(ドーベルはお咎め無しで済んだでしょうか…。)


 一人で広く暗い宇宙を進んでいると自身の家族と言える雄の使用人の事を思い浮かべてしまう。

 彼は元々物乞いで、たまたま警備兵にストレス解消の為に暴力を振るわれていたところを気紛れで助けた。

 使用人の一人も付けられていなかった私は彼を付き人として、気がつけば十年以上も傍にいた。

 同情か仲間意識か、そんな後ろめたい理由で傍においただけなのにこうして離れて兄のように慕う自身に気がついた。


『ビビ-ッ!ビビ-ッ!』


 しんみりしていたが警告に緊張が走る。


(追っ手…。

 やっぱり来るのね…。)


 レーダーを見ると後方からすごい速さで4つの光点が迫る。


(この速さは軍用機?

 憲兵隊の要請で…。)


 現在位置はドギヘルスの最終防衛線を越え、第二防衛線の深部にあたる宙域だ。


(上手くいかないものね…。)


 キャトラス軍が侵攻して来ている現在、仕事柄保護して貰う事を期待していたが、その前にドギヘルス軍機に捕捉されてしまうとは…。


(やはり私は生きていては行けないの…?)


 獣、忌み子、モドキ。

 生きてきて散々浴びせられた言葉を思い出す。


『そこのシャトル、止まれ!』


 シャトルを止めたところで処刑、良くて生き地獄だ。


『最後の警告だ!

 止まれ!』


 ならばいっそのこと、この広い宇宙の藻屑と消えるのも良いと思う。


(自分で選んだ最期だもの…。)


ガガガッ!


『ピーピーピーピー!』


 遂にシャトルへの攻撃が始まった。


(さよなら、世界…。)


 やるせなさに涙が滲む瞳を閉じ、その時を待つ。


 …………………。

 …………。

 …。


『そこのシャトルのパイロット、諦め無いでにゃ!』


「っ!」


(ああ…っ!)


 自然と涙が溢れてくる。

 その声は辛く絶望しかないと感じていた世界で、希望を繋ぐ福音であり、その声の主は暗い世界を照らす光への先駆者であった。


 

 

ナナは漢字にすると名無となります。

親には獣と蔑まれ、唯一の味方とは別れ一人宇宙へ…。


君が!(幸せに)泣くまで!守るのを!止めない!



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