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第28話 傷だらけの正義

トウマがいなくても、人は誰かを守れる。


その事実は、救いであり、時々ひどく苦い。


事件が起きたのは夜だった。


体育祭準備の帰り道、下級生数人が校外の公園で半グレまがいの連中に絡まれた。


直接の原因は分からない。


ただ、スマホを取り上げられ、金を出せと言われ、ひとりが抵抗して殴られた。


最初に連絡を受けたのはシュウだった。


相手は後輩。陸上部つながりの一年。


シュウはトウマに連絡しなかった。正確には、しようとしてやめた。


「今回は呼ばねえ」


後でそう言った。


「何で」


「お前を外したかったから」


「……」


「頼りたくなるからだよ」


その夜、現場へ行ったのはシュウと斑目トオルだった。


トウマが知ったのは、全部終わった後だ。


病院の待合室で、シュウが腕に包帯を巻かれ、トオルが口の端を切って座っていた。


「何で呼ばなかった」


「呼んだら来ただろ」


「当たり前だ」


「だから呼ばなかった」


シュウの声は荒いが、芯はぶれていない。


「お前が来たら、一番早かったと思うよ。たぶん一言で終わった。でも、それじゃ駄目な気がした」


「何が」


「俺らが、自分で守れなくなる」


隣でトオルが低く笑う。


「風間、言い方だけはかっけえな」


「だけって何だよ」


「実際、めちゃくちゃ殴られてたろ」


「お前もだ」


二人とも傷だらけだった。


けれど、その顔に奇妙な晴れやかさがある。


「後輩は無事?」


「無事」


「スマホも返した」


「警察沙汰にして、学校にも話通した。今回は逃がしてねえ」


トオルが言う。口は悪いが、その内容は驚くほど真っ当だった。


「お前がいなくても、やれたよ」


シュウがそう言った時、トウマの中に複雑な感情が渦を巻いた。


安堵。


誇らしさ。


そして、取り残されたみたいな痛み。


「……そっか」


「拗ねんな」


「拗ねてない」


「嘘つけ」


シュウは笑ったが、そのあと少し真面目な顔になった。


「でもな。お前がいなくて良かったって意味じゃねえから」


「……」


「お前が毎回それで背負う方に行くの、もう見てらんねえだけ」


病院の白い灯りの下で、その言葉は妙にまっすぐだった。


帰り道、トオルがトウマにだけ少し遅れてついてきた。


「羨ましいか」


「え」


「自分なしで何とかなったの」


「……最低なこと言うな」


「図星なんだろ」


返せなかった。


トオルは肩をすくめる。


「でも、それでいいんじゃねえの。王様一人で全部片づけるより、ボロボロの人間が何人かで守る方が、たぶんまともだ」


その言葉は、乱暴なのに妙に核心を突いていた。


家に帰ると、トウマは手帳を開き新しい行に書いた。


『風間シュウ/斑目トオル 力なしで守った』


続けて、少し時間を置いてから。


『俺がいなくても、守れる』


その一文を書いた瞬間、胸の奥がきしんだ。


救いなのに、なぜか少しだけ苦しい。

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