2. 金欠にはダンジョン攻略がいいらしい
ダンジョン――――ようはトル○コの不思議なダンジョンだな。ある一定の周期で姿を変える不思議な場所のことをダンジョンというらしい。ダンジョンの道中には貴重な鉱石や魔石がたくさん眠っており、さらには、ダンジョンに挑んで命を落とした冒険者の装備品や持ち物なんかも宝箱として出現するらしい。つまりはとても稼げる場所ということだ。最奥には特赦な宝とボスが存在し、ボスが守るその宝はとんでもない価値があるらしい。なんでも、売れば一生遊んで暮らせるだけの金額になるんだそうだ。そして、ボスを倒し、お宝を回収するとダンジョンは活動を停止し、その時の姿のまま固定されるらしい。ダンジョンは世界にいくつも存在しており、見つかっている数でも数百は存在するらしい。見つかっていないダンジョンも含めたら数千はあるのではないかと言われているそうだ。そのうち五十のダンジョンは既に攻略されていて活動を停止しているらしい。ダンジョンを攻略することでそのダンジョンには攻略者の名前が刻まれ、何にも代えがたい名声が手に入るらしい。
つまり、ダンジョンとは富と名声が手に入る、夢と希望が眠る場所なんだそうだ。
「――――わかったかしら」
「はい、テレサ様。ありがとうございます」
僕は熱く語ってくれたテレサにぺこりと頭を下げてお礼を言った。
ダンジョンか。
なんだかとても心躍る言葉だ。
「つまりダンジョンなら雨に濡れずにお金稼ぎができるってわけ。幸い、近くにダンジョンもあるしね」
「この近くにダンジョンがあるの?」
「あるぞ」
僕の疑問にシスコが応える。
「ここから馬車で二日の所に、ダンジョンを中心とした産業で栄える迷宮都市アムテットという街がある。山奥に存在するその街には、街の中にも二つのダンジョンが存在し、その周辺にも無数のダンジョンがあると言われている。俺も一度は行ってみたいと思ってたけど、まだ一度も言ったことがないんだよなぁ」
シスコは物思いにふけるように遠くを見つめる。
近場で馬車二日もかかるんかい。
地球人感覚だと全然近場ではないな。
しかし、街の中にもダンジョンがあるとか凄まじいな。ダンジョンから魔物があふれ出たりしないのかな。
「ちなみに、街の中にダンジョンがあって安全なのかとよく言われるけど、基本的にダンジョンの魔物はダンジョンの外には出ないから、ダンジョンがあるから危険ということは全くないのよ」
なるほど。都合良くテレサが僕の疑問に応えてくれた。
異世界でダンジョン攻略。うん、とてもいい響きだ。なんだかすっごい冒険者っぽい。
僕はシスコの方に顔を向けた。シスコもなんだか目が輝いているように見える。こっちの世界でもダンジョン攻略というのは魅力的な話のようだ。
「行っちゃいますか?ダンジョン」
「おう!俺達で攻略して、ダンジョンに名前を残そうぜ!」
僕達はグラスを乾杯させながらダンジョンに挑戦することを決意した。
肩を組んで笑い合いながら、取らぬ狸の皮算用で盛り上がる。
そんな僕達を見て、ミーシャは微笑ましい物をみるようににっこりと笑い、テレサは呆れたように笑う。
「そんな簡単にダンジョンの攻略なんてできるわけないわよ。私とマリ―が挑戦した時だって、全くボスまでたどり着けなかったんだから。もしもダンジョンを攻略できたらどんな願いだって聞いてあげてもいいわね」
「それは本当か!」
テレサの軽口に、シスコが思いっきり食いついた。カウンターに身を乗り出し、興奮で持っていたお酒を盛大に飛び散らせていた。肩を組んでいた僕にもお酒がかかる。
「ええ、本当よ。アナタ達じゃ絶対に攻略できるわけないしね」
「その約束忘れるなよ。おい、タイチ!さっそくアムテットに出発だ。急いで準備しろよ」
そう言うと、シスコはものすごい勢いでギルドを飛び出して行った。
「どうしたんだ?急にはりきっちゃって」
「フ、新米冒険者が自分の実力に絶望するがいいわ」
テレサは出て行ったシスコを眺めながらにやりと笑った。
「テレサも行くの?」
ばっちりと冒険者衣装に身を包んでいたテレサに尋ねてみると、テレサはまさか!と目を見開いて否定した。
「行くわけないでしょ。もうダンジョンはこりごりよ。それに私には訓練教室があるからね」
嫌な思い出でもあるのかテレサは身震いしながらそう言った。
「じゃあ、ミーシャちゃん。僕達も準備して出発しようか」
「え!?私も行かないと駄目ですか?」
僕がミーシャに話を振ると、なぜだかミーシャはとても嫌そうな顔をしてそう応えた。
「え、いや、嫌ならいいんだけど。行きたくないの?」
「私はお金にも余裕があるので、できれば行きたくないです」
「フ、振られたわね」
テレサがお酒に口をつけながらにやりと笑う。
いや、しかし、まさかミーシャに断られるとは思っていなかった。コンビとしてそこそこ活動してきたし、てっきり一緒に行ってくれるもんだと思っていた。テレサも身震いするほどの場所で、ミーシャも行きたがらない。僕にとって絶対強者とでも呼べる二人がここまで拒絶反応を示すなんて。よっぽどダンジョンというのは危険な所なのか?
僕はちょっぴりダンジョンに恐怖心を抱いた。
しかし、このままでは金欠で死んでしまう。僕には選択しなんてはなからないのだ。と、必死にやる気を集める。
「わかったよ。今回は僕とシスコで行ってくる。大金持ちになって帰ってくるから楽しみに待っててよ」
僕はどしんと胸を叩きそう宣言する。
「はい、楽しみに待ってますね」
「せいぜい死なないように頑張りなさい」
テレサとミーシャ各々の反応を受け、僕もシスコに続いてダンジョンの準備をするためにギルドを後にしようとしたところ、遠くから呼び止められた。
僕は声のした方へと体を向ける。
「あ、あの、すみません」
そこには、このギルドで受付嬢をしている、エルフのぺルぺルの姿があった。
「どうしたんですか?」
「あ、あの、ちょっと聞こえてきてしまったんですけど、タイチさんはこれからアムテットに向かわれるんですか?」
「はい。そうですけど。どうかしましたか?」
「い、いえ、その」
ぺルぺルが何やら顔を赤らめながら、後ろに手を組んでくねくねと体をくねらせている。
一体どうしたのだろう。あの魔剣使いとの死闘以降、なんだかぺルぺルの挙動がおかしくなる時がある。第一印象のクールービューティが大分崩れてきてしまっている。まぁ、こういう動作も可愛らしいんだけども。
「どうしたんですか?」
僕が再度尋ねると、ぺルぺルがえいっと言いながら後ろに組んでいた手をほどいて、僕の方に伸ばしてきた。
「あの、これ、ダンジョンに関係するパンフレットなんで是非読んでください!」
伸ばした手には数冊のパンフレットが握られていた。
「あ、はい。ありがとうございます」
「銅貨三枚です」
あ、ちゃんとお金は取るんですね。
僕は懐から銅貨を取り出してぺルぺルに手渡した。
「じゃあ、気をつけていってきてくださいね」
ぺルぺルは僕にパンフレットを渡すと、ひらひらと手を振りながら受付へと戻って行った。
うん、問題なく平常運転だったみたいだ。
僕達の会話が聞こえて、パンフレットを渡したかっただけみたいだな。
こうして、僕は改めてダンジョン攻略の準備をするために冒険者ギルドを後にするのだった。




