おまけ:僕の頼れる相棒達
魔剣使いとの激闘の翌日、僕とミーシャとボッスンの二人と一匹は薬草を取りに森までやってきていた。激しい戦闘の後だからのんびり安全な依頼をこなそうというわけだ。
それなのに......
「なんじゃこりゃ~!!!」
僕達の目の前には大きな大きな熊がいた。
普通の熊でさえ、一般人の僕にとってはどうしようもないほどの強敵となりうる。というか、熊視点から見たら僕なんてただの餌としか認識されないだろう。普通の熊でさえだ。
それなのに今僕達の前に立ちふさがっているこの熊は、普通の熊というにはあまりにも色々と逸脱しすぎていた。
体長は五メートルを超え、重さだって一トンはあるのではないかと思われるほどに巨大だ。それに何といっても異様なのが、その爪だ。まるでそういう爪を装備しているのではないかと思われるような立派な爪が、丸太のようなぶっとい腕の先に飛び出していた。
この熊から見たら僕は何だろうか。
餌?いや、最早ゴミと言っても過言ではないだろう。
「グリズリ―ですね。これは立派なサイズです」
僕の横でミーシャは冷静にそんなことを呟いた。
僕から見ても巨大な熊だ。僕の半分くらいの身長のミーシャから見たらもっと巨大に映るはずである。普通なら驚いて気絶してもおかしくはないだろう。
それなのに、この子は短剣を取り出して構えを取った。
「何してるの!早く逃げよう」
僕はミーシャの手を取って逃げ出した。
「タイチさん。何やってるんですか。戦わないんですか?」
「戦うわけないでしょう。あんな奴にかかったら僕たちなんて一瞬でミンチになっちゃうよ」
「そんなことないですよ。よっと」
「あっ!!」
ミーシャは僕の手を振りほどいて、熊と向き合った。
「見ててくださいね」
ミーシャはそう言うと、おもむろに熊の方に向かって歩き出した。
「グォオオオオオ!!!」
熊はもの凄いうなり声をあげて迫っている。まるでトラックが迫ってきているような迫力だ。
そんな熊に向かってミーシャは自分から歩き始めたのだ。
「駄目だ!無茶だ!」
僕は必死にミーシャを止めようと呼び掛ける。
しかし、ミーシャは僕の方に向き直ってにやりと笑ってさらに速度を上げた。
熊がその丸太のようなぶっとい腕を振り上げて迫る。そして、突進の威力をそのままに、腕を思いっきりミーシャに向かって振り切った。
ヤバイ、僕は悲惨な場面を想像して目を閉じた。
ミーシャの悲鳴が鳴り響くのではないかと身構えたが、しかし、想像した声はいつまでたってもやってこなかった。
代わりに、ブオン! ブオン! という空を切る音が聞こえてくる。
僕は意を決して目を開けた。
ミーシャが華麗に熊の攻撃を避けているのが目に入った。
「焦らず相手の動きを読めば、避けるのはたやすいです」
ミーシャは熊の攻撃を避けながらそんなことを言っている。
いやいやいや、全然たやすくなんてないと思うんですけども。
少なくとも僕はどんなに特訓してもできるとは思えない。
だって熊の腕が空を切る音が最早生物が出せる音じゃないもん。それに、少し離れてる僕にまで、熊が腕を振る度に突風が吹いてますから。こんな攻撃かすっただけで死ぬと思う。
僕がそんな感想を抱いている間も、ミーシャは華麗に熊の攻撃を避け続けている。
まさに猫のような俊敏さである。
そして、遂にはその懐にまで迫った。
「そして、ここまでくれば後は剣を突き刺すだけです」
そう言うと、ミーシャは短剣を両腕でしっかりと持って熊に向かって突っ込んだ。
――――フニ
ミーシャが熊の足元に降り立つ。
「あれれ?ちょっと毛皮が厚くて私の短剣じゃ刃が届かないみたいです」
苦笑いをしたミーシャがこちらをちらりと振り返った。
そんなミーシャに熊の腕が迫る。
「危ない!!」
「キャッ!!!!」
僕が危険を知らせるも間に合わず、かすっただけで死を予感させる熊の腕がミーシャに直撃した。
「ミーシャちゃん!」
吹き飛ばされたミーシャに向かって僕は駆けだした。
しかし、そんな僕の前に熊が割り込んだ。
「グルルルルルルルル」
涎を垂らしながら僕を見降ろしている。
「はっはは」
僕はただただ笑うしかなかった。
そんな笑うだけの僕に熊が両腕を振る。
――――ああ、安全な依頼なんてないんだな
僕がそんな風に思いながらこれから起こりうる衝撃に備えた時、僕の目の前に一つの影が割り込んだ。
「ボッスン!?」
突然割り込んだ僕の相棒であるカラスのボッスンが、大きく羽を広げた。
熊も突然現れたカラスに一瞬驚いたようなそぶりを見せるも、そのまま腕を振りおろしてくる。
熊の腕がボッスンと僕に当たろうかという瞬間、ボッスンが広げた羽を素早く閉じた。
すると......
――――キィィィィイイイイン!!!
突然もの凄い高音が鳴り響いた。
「ゴルア!?」
「うわ!?」
ボッスンの後ろにいた僕でさえ、耳が壊れるのではないかというもの凄い音の衝撃であった。たまらず耳をふさぎながら地面に膝をつく。
必死に耳を押さえながら前を見ると、音の爆弾とでも言うべき爆音の直撃を受けた熊は目や鼻、口から体液を垂れ流し、放心したように突っ立っていた。
そんな熊に向かって、ボッスンは動き始めた。
一度空高くまで飛翔すると、向きを変えて熊に高速で迫る。
自身の体を高速で回転させながら接近し、そのまま熊のお腹に直撃。そして、その熊のお腹に見事な空洞を作って突き抜けて行った。
突然お腹に大穴は開いた熊は何が起きたのか全くわからないような表情を作りながら、ドサリと地面に倒れ伏したのだった。
「な......ななな......」
僕はそのショッキングな映像にただただ腰を抜かして驚いていた。
そんな僕のそばにすたりと着地するボッスン。
「カ―」
そして、まるでほめてくれと言わんばかりに体をすりよせてきた。
僕はそっとその毛並みをなでてやる。
すると喜んだように「カ―」と泣いて、満足したように倒した獲物の元まで近づいて、その死体をついばみ始めた。
「ものすごいですね」
「ミーシャちゃん!?無事だったんだね!?」
腕に手を当てながら茂みのなかから顔を出すミーシャ。
「ええ、なんとか直撃する瞬間に飛ぶことができましたから」
「それは良かった」
「そんなことより、ボッスンってただのカラスなんですよね?」
自身もさりげなくすごいことをしておきながら、ミーシャはボッスンのことが気になるらしい。
確かに僕も気にはなる。
そもそもカラスが魔法を使えるというのも普通じゃないらしいし、昨日の戦闘では魔剣使いとも良い戦いをしていた。残像とか作ってたし。それに今日の音波攻撃も始めてみたけど、一体どれだけ魔法にバリエーションがあるんだろう。
「多分、そうだと思うけど?」
僕もちょっぴり自信をなくしながらそう応えた。
「そうですか。タイチさんはいい相棒と巡りあったんですね」
そう言うとミーシャは熊の死体をついばむボッスンを眺めた。
「確かにそうかもね。ミーシャにも会えたことだし」
僕もミーシャと同じようにボッスンを眺めながらそう呟いた。
確かに僕はいい相棒に巡りあえたものだ。なぜだか魔法を使えてめっちゃ強いカラスに、巨体の熊にも全く動じずに迫る獣人のミーシャ。相棒だけに限らず、マリ―やテレサやメルにぺルぺルと、僕はこの世界に来てから本当に良い人達と巡り合えている。
ボッスンの正体は確かに気になるけど、別にそんなのはどうでもいいか。
僕にとっては頼れる相棒のカラスだ。
僕はちょっぴり感慨深い気分になった。
「タイチさん......」
ミーシャもうっすらと瞳を湿らせている。
全く涙もろい子だな。
「さ、ボッスンが全部食べちゃう前に持って帰れるものは持って帰ろう」
「そうですね。これだけ立派なグリズリ―なら相当いいお金になると思いますよ」
「どれくらい?」
「金貨十枚位にはなるんじゃないでしょうか」
「ぶふぇっ!金貨十枚」
「ええ、この立派な爪だけでも相当高くなるはずですよ」
ありがとうボッスン!帰ったら美味しいお肉を買ってやろう。
僕は思いがけない幸運ににやにやしながら熊の解体に取り掛かるのであった。




