おまけ:受付嬢の崩れ去る日常生活
ぺルぺル視点です
私の名前はぺルぺルと申します。
モルカドの街の冒険者ギルドの受付をしています。
実は私、ハーフエルフです。
耳のとんがりが普通のエルフよりもピンとしてません。
ハーフだとどちらの種族にもなじめずにひとりぼっちになりやすいのですが、私もそんな例にもれずに基本的には一人でいることが多いです。ハーフエルフだからかはわかりませんが、冒険者にも嫌煙されているようで、私の受付に並ぶ人は少ないです。
でも私は悲しくなんてありませんでした。子供の時の生活を思えば、今の生活は天国のようなものです。だって寝てる時に魔物に襲われる心配をしなくていいのですから。心が揺さぶられないで過ごす穏やかな日々は、少し退屈だったけど幸せな日々だったのです。
これからもそんな日々がずっと続いていくんだろうなと思っていました。
しかし、私のそんな穏やかな生活は突然崩れ去ってしまうのでした。
これから話すのはその時の話です。
「おはようございます」
冒険者の方が軽やかな足取りで私の受付までやってきてぺこりと頭を下げて挨拶をしました。
あ、私の受付は嫌煙されがちだと言いましたが、この人はなぜだかいつも私の受付を利用してくれるのです。
いつもどおりの風景に、しかしちょっぴり違うものが映ります。
なんと冒険者が奴隷を連れてきていたのです。
その冒険者はまだまだ駆け出しの冒険者で、まだまだそんなお金に余裕はないはずです。買った経緯を嬉しそうに話してくれましたが、なんだかとても奴隷詐欺っぽい雰囲気を感じました。忠告してあげようかとも思ったのですが、冒険者の嬉しそうな表情をみてたらとても言い出すことはできませんでした。
私は心にもやもやを抱えながら冒険者を見送りました。
そして、冒険者の方はいつもよりたくさんのウサギの角を集めて帰ってきました。
私達がそのことを話していると、突然他の冒険者が絡んできました。いつもは下を向いて何も言い返さずにやり過ごしていたのですが今日はどういうわけか、冒険者の方は大声で反論しました。
一気にギルド内が騒ぎ出します。
私では事態を収拾するのは困難だと思い、急いでマスターを呼びに行きました。
「すみません!」
私がギルドマスターの部屋に入ると、マスターは葉巻を吸ってのんびりとされていました。
「おお、なんだぺルぺルじゃないか。どうしたんだ?そんなに慌てて」
私は急いで事情を説明します。
「ほう。タイチとシスコが喧嘩をしている、か」
「はい、だからマスターになんとかしてもらいたくて」
「ほっほ。マスターなんて言わずにいつもみたいにお父様と呼んでくれていいんだぞ?」
「いえ、仕事中はちゃんと切り替えたいので」
そうか。そうかとお父様でもあるマスターは笑いました。
「じゃあ、ちょっくら騒ぎを鎮めてくるとするか」
マスターは豪快にイスから立ち上がりました。
二メートル以上あるお父様が立ち上がるととても威圧感があります。見なれた私でさえ、時々びっくりしてしまうことがあります。これならきっと二人も落ち着いてくれるはずです。
「噂に聞いていたタイチの顔を見るのが楽しみだわ」
マスターがにやりと不敵に笑った気がしました。
マスターが下に降りてからは一気に問題は解決しました。しかし、どういうわけかタイチさんとシスコさんが決闘することになってしまいました。
私は騒ぎが落ち着いた後、マスターの部屋へとやってきました。
「ちょっと!どういうことなんですか。どうしてタイチさんが決闘することになってるんですか!?」
私はお父様に詰め寄りました。
「ホッホッホ。騒ぎは無事に収めただろう?何が問題なのかな?ん?」
お父様がにやにやしながら、逆に私に詰め寄ります。
私も負けじともっと詰め寄ります。
すると、お父様の口からもくもくと煙が出てきて、私はたまらず、距離を取りました。
「ごほっ、ごほっ。そりゃあ問題ですよ。決闘なんて公平じゃないです。タイチさんはまだまだ駆け出しの冒険者なんですよ。確かにシスコさんよりは年もいくらか上かもしれませんが、絶対ぼこぼこにされてしまいます。下手したら死んでしまうかもしれないんですよ。もっと力なんて関係ない公平な仲裁ができたはずです」
私の言葉を受けて、お父様はふむっと笑う。
「公平じゃないか。それは違うぞ、ぺルぺルよ。お前の言い分だとタイチが有利になるように違う方法に変えてくれと言っているだけじゃないか?その方が公平ではないんじゃないか?」
「それは違います。私は二人にとって勝つチャンスが平等にあるような方法がいいのではないかと言っているんです」
「それも間違っておるな」
「なんでですか!」
私は思わず、お父様の机をばしんと叩いてしまいました。
お父様はそんな私の様子を見て、さらに笑いながら応えました。
「それは、わしらが冒険者だからだよ。街の外に出れば危険は平等に降り注いでくる。ある意味で、危険は平等で公平にやってくるのだ。しかし、その危険に対し、わしらは対応することができる。対応力で生死がきまるのじゃ。それはお主だってわかってるだろう?」
「それはそうですけど」
小さかった頃、お父様と一緒に色々な所を冒険していたことを思い出しました。
「だから、わしらにできることは、あくまで場を整えてやることだけなんだ。その場でどういう結果を残すことができるかは、それはもうタイチの力量にかかってくるだけだ。負けるにしても、シスコに一矢報いることができれば、理不尽な絡みだってなくなるかもしれないだろう?これはとても公平なことだと思うぞ」
私は何も言い返すことができませんでした。その日はしょうがないので引き下がることにしました。
次の日、いつものように私は受付に座りました。
冒険者の方がやってきたらこんなことになってしまったことを謝ろうと思っていたのですが、いつまで待っても冒険者の方はやってきませんでした。
こんなのは冒険者の方がやってくるようになって初めてのことです。いつもは絶対お昼までには来ていたのですけれど。
そして、ついにその日は一度もやってくることはありませんでした。代わりに冒険者の奴隷がやってきました。
「タイチさんはどうしたんですか!?」
私は心配のあまり、つい取り乱して冒険者の奴隷に迫ってしまいました。
奴隷の方はしかし、落ち着いた様子で応えてくれました。
「ご主人様は冒険者ギルドに顔を出しづらいということで代わりに私がやってきました。今日もちゃんとウサギ狩りをしてきてますので安心してください」
そう言って、一角ウサギの討伐の記である角を差し出してきました。
その数は今までで一番多く、私はびっくりしてしまいました。
「こんなにたくさん......」
「はい。だから体調はばっちりなので大丈夫ですよ。あ、それでちょっと練習用の剣とかを借りたいのですが」
「それでしたら......」
私はギルドの練習場内に置いてある練習用の木刀を渡しました。
木刀を受け取った奴隷は「ありがとうございます」と言って出て行きました。
ちゃんと練習するつもりがあるのなら大丈夫かもしれないと、不安になっていた気持ちが少し安らいできました。
その次の日も冒険者の方は来ないで奴隷が代わりにギルドへとやってきました。
私は心配で胸がどきどきしています。どうして私はこんなに心配しているのでしょう。
そして、遂に決闘当日です。
もの凄い数のお客様がやってきました。決闘は数少ない娯楽の一つなので当然のことなのですが、こんない人がいっぱいいる中で冒険者の方は全力を出し切れるのか心配です。とても小心者な方なので。
お客様も入りきり、対戦相手の冒険者の方もやってきて、残るは件の冒険者ただ一人となりました。
私は心配で一人ギルド内に残りうろうろと歩きます。
「ぺルぺルさん?」
そんな時に、聞きなれた声が耳に入りました。
私はすぐに振り返って走り始めました。
冒険者の周りにはベテラン冒険者のマリ―さんとテレサさんの姿もありました。それで大分安心したのですが、しかし、心配の方が勝り色々と質問をしてしまいます。
しかし、ふと、どうして私はこんなにこの人のことを心配しているのだろうかと思いました。
決闘が決まってからの二日間は、ずーっと心配で全く気持ちが落ち着きませんでした。
大好きなパンフレット作りも一日三千文字も書けませんでした。いつもなら一日二万字は書くのに。こんなのおかしいです。普通じゃありません。
「数少ない読者に怪我でもされたら大変ですからね」
会話の中でふと口にしてしまった言葉。考えられる原因はこれしかないなと自分でも思いました。
しかし、そんな私の言葉を聞いたせいか、冒険者の方が酷く悲しい表情をされているのが目に入りました。その瞬間、自分の言葉で傷つく冒険者の方を見て、心がずきんと痛みました。
本当にさっきの言葉が本心なんでしょうか。
私自身もわけがわからず困惑した気持ちになってきます。しかし、今は決闘前です。私は気持ちを整えて極めて平常心で話始めました。
「さて、それでは本当に行くんですね?」
「はい、行きます!」
冒険者の方は私の目をしっかりとみつめ、はっきりとした口調でそう応えました。
またしても心がどきりとします。
私の心臓は一体どうしてしまったんでしょうか。
そうして、冒険者同士の決闘が始まりました。
私は決闘の間中心配で今すぐにでも試合を止めたい気持ちに駆られていました。
しかし、ぐっとこらえて見守りました。
決闘の内容は最終的には引き分けに終わりました。
ダブルKOです。
私は冒険者が倒れた時、つい、とっさに走り出していました。
私は回復魔法が使えませんので、私が近づいたって大したことはできません。それなのについ体が動いてしまったのです。
私は一体どうしてしまったのでしょう。
今まではこんなに心が動くことなんてなかったのに。
私の生活は平凡で平坦な穏やかな生活だったのに。
この日を境に私の心は酷く取り乱すことが多くなってしまいました。冒険者の方の笑顔をみるとほっこりするし、悲しそうな表情をみたら私も悲しくなります。
今までこんなことになったことは一度もなかったのに。
一体私はどうなってしまったのでしょうか。
突然崩れ去ってしまった少し退屈だけど穏やかな日常ですが、しかし、なぜかそのことを悲しく思う気持ちはありません。
ちょっとしたことで心乱されてしまうけど、なんだかとても心が温かいのです。
私はそんな新しい日常が嫌いではありません。
一章の終りに別視点を書いてみて、すごい楽しかったので今回も書いてみたのですが、どういうわけか今回は苦労しました(笑)




