24. 新しい関係の始まり
僕達は一通り説明を終え、冒険者ギルドを後にした。
日は完全に沈み、辺りは真っ暗になっていた。
「いや~説明の方が疲れたわね」
テレサが思いっきり背伸びをする。
「テレサって本当にこういう手続きとか嫌いよね」
「だって疲れるじゃない」
「魔法使いなのになんでなのかしらね」
「別にそれは関係ないでしょう」
マリーとテレサがいつも通りにじゃれ合っている。
しかし本当に今日は色々なことが起きた一日だった。地獄の特訓から始まり、お昼にはシスコとの決闘を経て、夕方は魔剣使いと戦闘をして、その戦闘で一回死んで女神と顔合わせることになったり。もしかしたら異世界に来てからの最初の一週間と同じくらいバタバタしたかもしれないな。
僕は無事に一日を終えられたことにほっと胸をなでおろした。
「それではみなさん、本当にありがとうございました」
ミーシャがそう言うと、こそこそと離れて行こうとする。
「え、ちょっと待ってよ」
僕はあわてて離れて行くミーシャを引き留めた。
「な、なんでしょうか」
「どこに行くつもりなの?」
ミーシャが戸惑いながらこちらを振り向いた。
「どこにと言われましても。あてもない旅にでようかと」
ミーシャは寂しそうな声で呟いた。
あれほど気にしないでいいと言ったのに、また一緒に楽しく過ごしたいと言ったのに、それでもここから去ろうとしているようだ。いくら気にしないでと言われても、自分のせいで人が傷ついたら心苦しくていずらくなる気持ちもよくわかる。僕はそんなミーシャの気持ちも痛いほどわかるので、離れがたいとは思ってもこれ以上どう声をかけていいかわからずに言葉を失ってしまう。
しばし無言の時が流れる。
「あー、もう。じれったいわね!」
沈黙を破るようにテレサが僕とミーシャの間に割り込んだ。
「わっ、なんですか」
「どうしたの。そんなにピリピリして」
僕とミーシャは突然割り込んできたテレサに驚きの声をあげる。
そんな僕達に向かってミーシャはぎろりと睨みつける。
「あんたたちは過ぎたことをうじうじと悩みすぎなのよ。ミーシャちゃん、あなたは私達が気にしなくていいって言ったんだからもう気にしなくていいの。そしてタイチ、あなたはミーシャちゃんともっと一緒にいたいと思うならちゃんと言わないと駄目でしょう。何回言わせれば気が済むのよ」
テレサの言葉を受けて、僕とミーシャは見つめ合った。
ミーシャは驚いた表情をしているが、しかし、その表情からは僕に引きとめてもらいたいと思っているような雰囲気を感じ取れる。
自分と一緒にいたいと思ってもらえてると思うなんてなんだかすごい自意識過剰な気がするし、実際その通りなんだろうけど、僕の本心はこれからもミーシャと一緒にパートナーとして冒険者をしていきたいと思っている。こういうのってなんだか告白みたいな感じがして改めてはっきりと言うのは気恥かしいけど、しかし、きっと言葉にして伝えないと駄目なんだろう。
僕は意を決して話し始めた。
「テレサの言うとおりだ。はっきりと言うね」
「は、はい」
「戦う前にも言ったけど、僕はこのままミーシャとお別れなんて嫌だよ。大変だったけど一緒にウサギ狩りをしたのは楽しかったし、ご飯も二人で食べれて嬉しかった。ミーシャが嫌じゃなければ、これからも一緒に冒険者として活動していきたいです。お願いします」
僕はミーシャに向かって頭を下げて、手を差し出した。
僕の手をもふりとやわらかい感触が覆う。
「奴隷になってからこんなに楽しい気持ちになれたのは久しぶりでした。私ももっとタイチさんと一緒にいたいです。これからも宜しくお願いします」
視線を上げると、ミーシャが僕の手を包み込むよう握り締め、瞳を涙いっぱいにしてにっこりと笑っているのが目に入った。
「うん、よろしくお願いします」
僕もつられて涙目になりながらにっこりと笑う。
「それでいいののよ。思ってることはちゃんと言わないとね。グスンッ」
「テレサって本当に涙もろいわね。でも、私も二人が本当の意味で仲間になれたみたいで嬉しいです」
テレサはうるうるとしながら、マリーはにっこりと笑いながら、僕達のやりとりを見守っていてくれたのだった。
これでようやく本当の意味で一連の騒動は幕を閉じたと言っていいだろう。
◇
「それで二人の関係性はこれからどうなるの?」
ある程度涙も収まってきた頃、テレサがそんなことを呟いた。
そうか。奴隷契約が偽物だった以上、ご主人様と奴隷という関係性はないのか。人間と獣人とはいえ、二十過ぎた男と十五歳の女の子が二人で冒険者をするというのはどういう関係になるのだろう。ボッスンと僕のような相棒といっていいのだろうか。
悩む僕の表情をミーシャがそっと覗きこむ。
「もしもタイチさんが嫌でなければ、今度こそ本当に奴隷と主人という関係でもいいと思ってます。現にタイチさんからお金をもらってますからね」
「いや、そんなの駄目だよ。僕とミーシャちゃんは対等な関係にしよう。マリーさんとテレサみたいにコンビとして活動しよう」
「わかりました」
僕の言葉を聞いてにやりと笑うテレサ。
「だったらミーシャちゃん。私達一緒に生活しましょうよ。もう既に何日か過ごしてるみたいだし、少しでも住み慣れた場所の方がいいでしょう?」
「え。でもいいんでしょうか。二人の家にお邪魔しても」
「もちろんいいよ。テレサと二人じゃ広すぎるなってずっと思ってたもん」
ミーシャの周りをテレサとマリーが囲う。
「そ、そうですか?それならお言葉に甘えてもいいでしょうか」
「うん、これからよろしくね」
女の子のほほえましい友情をみて、僕はほっこりと暖かい気持になった。
「あ、でもタイチさんはどうなるんですか?」
「ああ、タイチはもうお役御免で追い出すわ」
「え!?」
僕はテレサの言葉に固まった。
「なに驚いてるのよ。当たり前でしょう?もともと留守番を頼んだだけじゃない。マリ―だって嫌よね?」
「え、まあ。確かに男の人がいると恥ずかしいです。もちろんタイチさんのことは嫌いじゃないんですけど、それでもやっぱり一緒に暮らすのはちょっと」
ええええええええ!?
僕はてっきりここからなんやかんやで、女の子と一つ屋根の下、楽しい異世界ライフが始まると思ってたんだけど!?
「ミーシャちゃんがタイチの奴隷になるっていうんならしょうがないかと諦めようと思ってたけど、対等な関係なら一緒に住む必要もないと思うしね」
「うわ~、それ嘘でしょ。絶対どっちにしろ追い出してたんでしょ?」
「さぁ、それはどうかしらね。さ、マリー、ミーシャちゃんお家に帰りましょう」
「はい」
そう言って、僕を置いて三人は仲良く屋敷に向かって歩き始めた。
僕はそんな三人の背中を寂しい気持ちで見送る。
ミーシャがこちらを振りかえった。
「タイチさん、明日からもよろしくお願いしますね。それじゃあ、おやすみなさい」
満面の笑みであった。
僕はそんなミーシャに向かって手をふった。
ミーシャはそんな僕の様子をみてさらににっこりと笑い、尻尾をゆらりと揺らしながら振り返って歩き始めた。
僕はギルド前の噴水の前に一人取り残されたのだった。
そんな僕の前に一匹のカラスが舞い降りた。
「カ―」
そうだ。僕にはお前がいるもんな。
決して一人なんかじゃない。
僕はボッスンの背中をなでた。
「カ――――」
ボッスンも嬉しそうな声をあげる。
「うーーーん、でもなんだか」
―――――期待していた異世界ライフとちょっと違うんだけど
僕はそう言いたい気持ちをぐっとこらえて今日の宿を探しに行くのだった。
第二章~完~
お読み頂きありがとうございます。
第二章は奴隷の話が書きたいなと思って書いてみました。
どうだったでしょうか?お楽しみいただけたなら嬉しいです。
第三章は少し長めの話にしたいと思ってます。
でもどうなるかわからないので暖かい目で見守ってくれると嬉しいです(笑)
ありがとうございました。




