23. 死闘終結!
暗い闇の中に明るい光が差し込んだ。
とても温かいその光に吸い込まれるように引き寄せられ、そして、僕は目を覚ました。
「タイチさん!!」
目を開けると、心配そうにこちらを覗き込むマリ―とミーシャの姿が目に映った。
決闘の時とは違い、妙に意識がはっきりとしているため、至近距離のマリ―の姿に心臓がばくばくとしてくる。
「―――!?顔が赤くなってきてます!まだどこか痛みますか?」
「あ、いや、もう大丈夫だよ」
これ以上近づかれたらよけいに赤くなってしまうので
「タイチさん、良かったです。私のせいで死んでしまったのかと思って......私......」
ミーシャが大粒の涙を流しながら僕の胸に飛び込んだ。
僕はそんなミーシャの頭をなでる。
「僕には女神様がついてくれているからね。そんな簡単には死なないよ」
ある意味本当のことを話す。
「それでも私があんなやつに従わなければタイチさんを巻き込むこともなかったんですから」
「うーん、それはそうかもしれないけど。悪いのはあいつだから気にしないで。それに、あいつに従ったからこそミーシャちゃんに会えたんだからさ」
「タイチさん......」
うわーんとさらに涙を流しながら胸に抱きついてくる。
少し離れた所で立っていたテレサがこちらに歩いてくる。
「無事に治ったみたいでよかったわね」
「うん、これもマリーさんのおかげですよ」
「いえ、私にも治しきれるか自信がなかったんです。無事にこちらに戻ってこれたのはタイチさんの力ですよ」
マリ―がとんでもないと手を振りながら謙遜する。
マリ―がいなければ本当にあのまま死んでいたのだから、百パーセントマリーのおかげなのだ。あんなインチキくさい女神のおかげでは断じてないのだ。
僕は見ているかわからないが、空にむかってきっと睨んだ。
「それよりも、みんなもよくあいつを倒せたね」
あらためてこちらでの戦闘の跡を見てみると、なんだかとてつもないことになっていた。テレビで見るのと現地で見るのとでは大違いだ。
一方は草原だった所が焼け野原になっており、一方では隕石でも落ちてきたかのようなクレーターがあいている。まぁ、これはほとんどテレサがやったんだけど。魔法ってすごいな。
「そう!そうのことでタイチに聞きたいことがあったのよ!」
テレサはぐいっと僕の方へと顔を近づける。
「な......何かな?」
僕は突然近づかれたことへの緊張と、これからされるであろう質問に不安であたふたしながら視線をそらす。
「あの魔剣に刺された時、あなたの体から強力な魔法が発せられたのよ。あれは生半可な魔力じゃなかった。どうしてタイチの体からあんなとんでもないものが出てきたのよ!」
「それは......ほら......あれだよ」
「なによ」
「記憶喪失だからわからないんだよ。もしかして僕に眠ってた力でもあったのかな?」
僕は首をかしげながらそう応えた。
僕の答えにみるみると顔を怒りの表情に変えていくテレサ。そして、持っていた杖で僕の頭を小突いた。
「―――痛て!!」
僕の反応を見て、テレサはぷいっとそっぽを向く。
「言いたくないんならいいけどね。でも、あれは危険な魔法だったわよ。もしもその魔法に心当たりがあるのなら、その魔法をかけた相手には十分注意した方がいいわね」
そっぽを向きながらそう言い捨てるテレサ。
ある程度魔法のことを理解していて、しかも僕が嘘をついているのを察しながら、僕が話したがらないそぶりからあえて追求するわけでもなく、そっと忠告をするだけに留める。見た目は十代中ごろの少女なのに、本当にかっこいい人だなと、僕はテレサの背中を見つめながら思うのであった。
テレサがくいっとこちらを振り返えった。
「それとね。ミーシャちゃん」
テレサがミーシャに呼び掛ける。
「な、なんでしょうか」
ミーシャが涙を拭きながらテレサの方へと顔を向ける。
「ここに来る途中にある程度事情は説明してもらったけど、私達は別に怒ってないからね。だから何も気にしなくていいから」
「でも、私はみなさんの持ち物を盗もうとしたんですよ?」
「ミーシャちゃんが盗もうとした物って、もともとはあの家のおまけみたいなものだから特に思い入れなんてないのよ。それに無事みたいだし」
そう言ってテレサが指をさした方を向くと、大惨事の中、ぽつんとたたずむ風呂敷の姿があった。
これだけ荒れたのに無事ってすごいな。
「それでいいんですか。マリ―さんも怒ってないんですか?」
ミーシャはマリ―の方へも顔を向ける。
マリ―はにっこりと笑って応える。
「ええ、私も怒ってませんよ」
「そんな......本当にいいんでしょうか」
ミーシャは二人の言葉にまたも涙を流し始める。
「二人がいいって言ってるんだからいいんじゃないかな。僕だって気にしてないからね」
僕はミーシャの背中をそっとさすった。
ミーシャはより一層激しく泣き始めた。
「さて、これで一見落着したわけだし、とりあえず“グランマの家”に帰りましょうか」
テレサが腕を大きく伸ばしながらそう呟いた。
「え、でもこんなことになってるのをギルドに説明しなくていいの?」
「こんなのこの辺じゃ日常茶飯事よ。別にいいでしょう」
テレサがそう言って帰り始めようとした時、街の方から足音が聞こえてきた。
その姿が露わになる。
門番のカストルであった。
「お、おい。爆発音が聞こえたから駆けつけてみれば、これは一体何があったんだ!?」
草原の悲惨な現状を見て驚きの表情を作るカストル。
「ははは。一体何があったんでしょうね」
僕はとりあえず笑ってとぼけてみるのだった。
◇
今回の事件はテレサが言うような日常茶飯事ではすまされず、僕達はカストルに連れられて冒険者ギルドへと移動し、事の顛末をギルドマスターへと報告したのだった。その際、ミーシャのことは詳しくは説明せず、見知らぬ魔剣を持った男が暴れ出したということにした。ミーシャは驚きの表情を浮かべていたが、マリーやテレサは僕の話に顔色一つ変えずに乗ってきてくれた。
魔剣の話を出した時、ギルドマスターはとても渋い表情をし、突拍子もない話だと思われてもしょうがないような話を一言一句聞き逃さないように真剣に聞いていた。もしかしたら、ギルドマスターも過去に魔剣に出くわしているのかもしれない。
あ、それと、僕が死んでいる間に会った女神の話は誰にもしないことにした。話しても信じてくれないだろうし、話すのは異世界から来たことも含めてすべて話さなければいけないので大変だったからだ。それに、女神の話がどこまで本当なのかもわからないので、とりあえずこの件は僕の胸の中にそっとしまっておくことにした。
こうして、突如始まった魔剣使いのとの死闘は無事に幕を下ろしたのであった。




