5. 僕の奴隷は破天荒な猫耳少女:その3
サブタイトル少し変更しました。
僕が叫んだことで騒然とする冒険者ギルド。
一瞬シーンとした直後、すぐにわいわいと冒険者が僕達の周りに集まってきた。
「え!?何?タイチが切れた?あのうさぎの?」
「お?タイチじゃねーか。何?喧嘩?いいね~。やっちまえ!」
「なんだ~?タイチの横に小さい奴誰だ?え、嘘!奴隷買ったのか?あいつ生意気だな」
「シスコ!そんなやつぼこぼこにしてやれ!!!!」
「俺もあいつのこと気に食わなかったんだ。あんなやつぼこぼこにしてやれ~!!!」
野次馬根性が豊かな冒険者の方々は僕達の小競り合いを楽しそうに眺めて誰も止めに入ろうとはしない。
いつの間にか僕達を囲うように野次馬が立ちつくしていた。夕方ということもあって、人数はかなり多い。これが日本だったら喧嘩を促してるとかで有罪になると思う。ていうか、野次馬の中にガルボも混ざってるんだけど。なんとかして僕を助けてほしくて必死に視線を送るも、どういうわけか余計にテンションが上がっているだけだ。せっかく先輩カカシとの友情をとりもってあげたのに、薄情な人である。
僕は現在高ぶった気持ちが落ち着いてきて動揺百%であった。
僕にちょっかいをかけてきた冒険者Aも集まってきた人に動揺しているのか下を向いてわなわなとふるえている。
「ちょっとタイチさん、なんてこと言うんですか。喧嘩なんてやめてくださいよ」
ぺルぺルが受付の窓口から心配そうな声を飛ばす。
「ど、どうしたらいいでしょう。どうやったらこのお祭り騒ぎを沈められるんでしょう」
「そんな。私に聞かないでくださいよ。私、ちょっとマスターを呼んできます」
「え、ちょっと、置いてかないでくださいよ~」
ぺルぺルは受付の奥へと消えて行った。
僕はミーシャを見る。
さきほどまでは今にも殴りかかりそうな様子だった彼女も、僕が怒鳴ったことで落ち着いた様子を取り戻したようだ。この場をどう納めるのか、僕に期待した眼差しを向けているようにもみえる。
とりあえず、殴りかからないならよしとしよう。
「完全に!切れたぞ~!!!!!」
「――――!?」
先ほどまで下を向いてわなわなとふるえていた冒険者Aが叫び出した。
突然の大声に体をびくりとさせてしまう。
「お前をぶっとばす!」
じりじりと迫ってくる冒険者A。洋服を肩までまくりあげ、腕をぐるぐると回しながら近づいてくる。
―――――なんだ?やるしかないのか?
地球でさえ喧嘩なんてしたことないのに、やれるのだろうか。
しかし、ミーシャの前でかっこ悪いところは見せられない。というか下手にぼこぼこにされでもしたら、切れて冒険者Aに斬りかかるかもしれない。今日一日の対応を見てると、本当にやりかねないんじゃないかと心配になる。
まさに前門の虎、後門の狼といったところである。
僕がやるしかないと決意を固めたその時、ギルドの受付の扉がバーンと音を立てて開いた。
僕と冒険者Aを含む、ギルド内にいる全ての冒険者が沈黙し、開いた扉の方に視線を向けた。
ドシン、ドシン、ドシン、ドシン。
重低音とともに、男が中から現れた。
「こらこら、お主達、ギルド内で暴れるのはやめなさい」
「―――――!?」
中から出てきたのは二mはあろうかという異様な雰囲気をまとった巨人であった。背丈は先輩カカシと同じくらいでここ異世界では特別でかいというわけではないが、しかし、その男の纏う威圧感は先輩カカシの比ではなかった。まさに歴戦の強者といった感じで、その眼光は人を殺せるのではないかというほど鋭かった。その顔には真っ白いひげを蓄えており年齢はかなりいっているように思われるが、しかし、このギルド内で最も強い存在であると全身で感じるには十分な存在感を放っていた。
ドシン、ドシンとあっけにとられていた僕と冒険者Aの元まで歩いてくる。
彼が歩くと、僕達を囲んでいた冒険者も彼が通れるように自然と道を空ける。
僕は勿論全く動けなかったが、冒険者Aも同じように体を硬直させていた。
男は囲っていた冒険者の群れを抜け、僕と冒険者Aの元までやってきた。
近くでみるとその威圧感はさらに増し、この人の前では何をやっても無力だと痛感させられる。
一体僕達はどうなるのか。まさか殺されたりしないだろうな。そんな心配が胸をよぎった時、ふと小さな人影が僕と男の間に立ちふさがった。
「―――!?ミーシャちゃん駄目だよ」
なんとその人影は先ほどまで僕の後ろにいたはずのミーシャであった。
僕は急いで戻るように声をかける。
「ホッホッホ。まともに動けたのはこのお嬢ちゃんだけだな。そちらの二人は威勢は良かったようだが、いざとなったら置物か?」
そう言うと、突然ふっと姿を消して僕と冒険者Aの間に一瞬で移動した。
「「――――!?」」
僕と冒険者Aはあわてて男から距離をとった。
男が移動する姿はミーシャにも見えなかったようで、慌てて後ろを振り向いて驚いた表情を浮かべている。
周りを囲む冒険者たちは興奮して、「お~」という感嘆の声が上がっていた。
「もしもわしが魔物だったならお前達は死んでいたな」
男の言葉に僕はぎくりとした。
「それで、お主達よ。まだギルド内で喧嘩をするかい?」
男が低い声でそう言う。
もちろん僕は喧嘩なんて最初からしたくなかったので全力で首をふる。
「うむ、お主の気持ちはよくわかったが、しかし、相手はどうやら納得いっていないようだぞ?」
僕が冒険者Aの方を見ると、男の存在に僕と同じような恐怖を感じているそぶりであるにも関わらず、首を横にふることを拒んでいた。
いいから早く首を横に振れよ。
僕は必死に冒険者Aに念を送るも、冒険者Aは首を振らない。
冒険者Aがぼそりと話始めた。
「俺は......」
「ん?なにかね?」
男はもしゃもしゃと白いひげをいじりながら冒険者Aに尋ねる。
僕は嫌な予感に冷や汗が止まらなくなる。
「俺はこいつが許せない!!!」
冒険者Aはそう叫んだ。
「お~」と囲んでいた冒険者達が雄たけびを上げる。
なんだって僕はこんなにもこいつに恨まれてるんだ?僕が何かしたか?
「そうは言っても、ここで喧嘩はさせないぞ?」
「く......」
冒険者Aは下唇を噛んで悔しそうな表情を浮かべている。
男の言葉に僕は安堵した。
よかった。本当によかった。
これでなんとか無事に我が家に帰れるかもしれない。
「だが、正式な決闘ならば認めよう」
「「――――――!?」」
僕と冒険者Aはそれぞれ、全く異なる感情でもって男の言葉に驚愕の表情を浮かべる。
僕は恐怖と絶望の気持ち。そして、おそらく冒険者Aは歓喜の気持ちを持って。
「決闘の日付は今日より三日後。正午より行うこととする」
男のその言葉で、ギルド内は再度「お~」という絶叫が湧きおこる。
「そんな!待ってください。僕は決闘なんてしたくありません」
僕はあわてて、男に詰め寄った。
しかし、男はホッホッホと笑って応える。
「これはお主にとってもチャンスなんだぞ?ここでばっちり勝てればもう二度と馬鹿にされることもなくなるじゃろうて」
「で、でも、負けたらもっと悲惨になるかもしれません」
「負けなければいいだろう?」
僕は絶望した。
こういう生まれ持っての勝者のような男には勝てないものの気持ちがわからないのだ。
「おい、どうした?怖いのか?お前の方が家に帰って母ちゃんの乳でもしゃぶってた方がいいんじゃないか?」
冒険者Aが挑発をしてくるも、僕には最早言い返す気力も湧いてこなかった。
しかし、僕の代わりに応える者が......
「いいでしょう!その勝負ひきうけます!」
「――――!?ミーシャちゃん!?」
なんとミーシャが僕の代わりにりりしく返答する。
僕はミーシャに近寄って小声で話す。
「なんてこと言うんだよ。ここはなんとかして穏便に解決してもらわないと」
「いいえ。それでは駄目です。あのお方が言うように、一回がつんと叩きのめしてやらないと駄目です。ご主人様の様子をみるに、絡まれるのは今日が初めてではないんでしょう?大丈夫ですよ。勝てばいいのですから。ご主人様なら勝てますよ」
そう言って、ミーシャは不敵に笑った。
この子はなんで昨日会ったばかりの僕にこんなに信頼を寄せてるの?なんなの?もう逆に怖いんだけど。普通もう少し一緒に過ごしてから信頼は寄せるものでしょ?ちょっとこの子ぶっ飛びすぎじゃない?
「お譲ちゃんはそう言っているようだが、お主もそれでいいのかの?」
「わかりました。わかりましたよ!戦います。戦いますよ!!」
僕の言葉を受けて男はにやりと笑う。
「それでは正式に決定だ!三日後の正午、ギルド内の闘技場にて、ここにいるタイチとシスコの決闘を開催する」
本日何度目かになる大絶叫が冒険者ギルド内で響いていた。




