6. 地獄の特訓:その1
「え、じゃあ何?もしかしてアンタ明日決闘なの?」
「そうなんですよ」
「それ超面白いんですけど、タイチが決闘?ぼこぼこにされるでしょ」
テレサが大爆笑して、地面を叩き始める。
後ろで寝ているミーシャがびくりと反応するも、依然起きてはこない。
「テレサ、そんなに笑わないの!タイチさんにとったら一大事なんだから」
「いいんです。なんだかもうどうにでもなれって気分ですよ。ははは」
マリーがテレサをたしなめるも、テレサの反応はごもっともだからしょうがない。
僕自身、準備はしてもやはり明日はぼこぼこにされる気がしてならない。
「でも、ミーシャちゃんかっこいいですね。寝顔はあんなに可愛らしい感じなのに、すごいたくましいです。ご主人様を信じて決闘を受けるなんて」
「それはそうなんですけど、まだ会ったばかりだったんですよ?それなのに僕を信頼しすぎというか。なんというか、常識がぶっ飛んでますよ。あの子。それに戦うのは僕自身なんですから、勝手に決闘を受けられても困るんですよね」
「あら、そんなこと言うの失礼なんじゃないですか?ミーシャちゃんはタイチさんのことを思って行動してるみたいなのに」
「それもその通りなんですけど......」
僕はこれ以上何も言えなくなった。
テレサは未だ爆笑していたが、しかし、ふと何かに気づいたように笑うのをやめた。
「あ、ていうか、まだどうして屋敷がこんなに悲惨な状況になってるか聞いてないんだけど。あと耳を触っちゃダメな理由も!」
「確かにそうですね。私たちがいなかった間にいろんなことが起きてたのはわかりましたけど」
二人の疑問はごもっともである。
「実はですね......」
僕はさらに物語の続きを話し始めた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
決闘を受けた翌朝、僕達は草原にやってきていた。
「昨日はご主人様の狩りを見させていただきましたけど、正直無駄な動きが多すぎるように感じました」
ミーシャが僕の前で演説を始める。
鞘に入った短剣を、手にぺしぺしとさせながら話す。
教師かとつっこみたい気持ちをぐっとこらえる。
しかし、昨日の微妙な表情というのは僕の動きに対してのものだったのか。
僕の心配を返してほしい。
「無駄な動き......ですか」
「ええ。カラスに陽動をさせるというのはいい案だと思うんですけど、実際に攻撃する際のご主人様の手つきが素人すぎます」
「はぁ、そうですか」
そりゃあ、別に何かしら習ったわけじゃないんだからしょうがないだろう。
僕はちょっぴりミーシャに対していらっとしてしまった。
「このままでは明後日の決闘にも負けてしまうかもしれません」
「―――!?」
僕はミーシャの言葉に言葉をなくす。
勝てますからって勝手に決闘を受けたのはミーシャじゃないか。確かに最後は自分で戦うと言ってしまったけど、正直そこまでの流れを作ったのはミーシャだ。ミーシャが受けるというまでは、靴をなめてでも決闘は回避するつもりでいたのに。
僕が言い返そうとすると、それを阻止するかのようにミーシャが話し始める。
「しかし、今日と明日でしっかり準備すれば、きっとご主人様はあのごろつきに勝利することができるはずです」
「な......」
僕はまたしてもミーシャの言葉に言葉をなくす。
ミーシャはさらにテンションを上げて話を続ける。
「私がみっちりとたたき込んであげます。無駄のない動きというのもを。そして、必ずやあの男をぎゃふんと言わしめてください!」
「は、はい!」
僕を信じる屈託のない瞳、力強い言葉、僕はなんだかやれるような気持ちになってきていた。
ミーシャの言うとおりにすれば、あのにくたらしいやつに勝てるかもしれない!
「今日はウサギ狩りを通じて、びしばし鍛えますから覚悟してくださいね!」
「はい!」
「カ―?」
僕達二人が意気込んでいるのを横目に、ボッスンは状況が理解できずに悩ましい声で鳴いていた。
そしてミーシャの地獄の特訓が始まった。
「ご主人様、遅いです。最短距離を最速で動いてください」
「はい」
「ご主人様、そのような構えではいざという時に反応が遅れます。体の重心をもっと意識してください」
「は、はい」
「そんな動きじゃウサギには通用してもそれ以上の敵には全く通用しませんよ。疲れた時こそ意識して体を動かしてください」
「はぁ......はぁ......はい」
「足が止まっています。どんな時でも足を動かして!」
「はぁ......はぁ......」
「寝てたら何も始まりませんよ!どんなに辛くても立つのです!立って戦うのです」
「............」
「日も暮れ始めましたし、ウサギ狩りはこれで終わりにしましょうか」
一体何匹のウサギを狩っただろうか。十匹を超えた辺りから数えるのをやめていた。
こうしてミーシャの地獄の特訓は終わった。
「戻ったら対人戦の練習をしましょう。私も対人戦の経験はないですけど、できる限りのことをしますから」
やっぱり終わっていなかった。
僕は地面に倒れ伏しながら、意気消沈していた。
もう立ち上がれません。
「さぁ、戻りますよ」
この人猫やない。鬼や!
まるで鬼畜の所業。
僕は顔だけをミーシャに向けて睨みつける。
「そんなに睨んでも私は倒せませんよ。視線だけで敵を倒したいのなら、昨日のあのお方位に強くなってください」
「......はい」
僕のためにやってくれてるんだもんな。ミーシャを恨むのはお門違いか。
僕はぐっと力を込めて立ち上がった。
「頑張りましょう。見返してやりましょう」
「そうだね」
僕達は屋敷に向かって戻り始めた。
ボロボロの僕に変わってミーシャが冒険者ギルドへと換金に行ってくれることになった。正直、かなり気まずかったのでありがたかった。冒険者Aにも会いたくないし。
街に戻り、噴水の辺りまでやってきた。
「じゃあ、私は今日のウサギを換金してきますね」
「すみません。お願いします」
「私が戻ってくるまでゆっくり体を休めてくださいね」
「はい」
こうしてミーシャと別れて僕は屋敷への帰路につく。
なんだろう。なんだか今日一日で一気に関係性が変わってしまった気がする。あれ?最初は上手くいってたよね?ご飯を御馳走したりテンプレっぽく展開してたよね?信頼されて好意をよせられるようなご主人様を目指してたのに。まぁ、信頼は怖いくらいされてるんだけど。
どうしてこうなった。
僕はびきびきの体を引きずりながら歩き続ける。
その時、僕の目の前にふっと小さな人影が現れた。
「うわ!?」
視線を下げると、そこにはメルの姿があった。
「あ、メルちゃん」
僕が声をかけると、メルちゃんは辺りをきょろきょろしてから話し始める。
「あの子はいないみたいね」
「あの子?ミーシャちゃんのこと?」
「そう!なんなのあの子!初対面なのに酷くなかった?」
メルがぷんぷんとしながら詰め寄ってくる。
「まぁ、あの子もよかれと思ってやってるみたいだから許してあげて」
「許せないよ。別に最近はお兄さんのこと馬鹿にしてなかったでしょ?というか逆にちょっと優しくしてあげてるくらいだと思うんだけど!」
「そうだね。たまにお弁当とかも作ってくれるしね」
「でしょう?それを急に表れて何なのかな?ぽっと出の新キャラが古株のキャラにはむかうなんて」
「まぁ、まぁ。僕もここにきてからまだ三十日位だから新キャラも古株もないよ」
「でもさ~」
メルは未だ納得がいっていないようである。
というか僕も一緒になって嫌われたと思ってひやひやしてたんだけど、僕に対してはそんなにムカついていないようで良かった。いや、こういう風なこと考えるのは酷いことだとは思うけど。
これは今度仲直りする場をつくらないと駄目そうだなぁ。
「今度ミーシャちゃんと一緒に食堂に行くからさ。その時にもう一回ちゃんと話してみよう」
「え~、う~ん。わかったよ。でも、どうなるかわからないけどね!」
「うん、話すのが大切だし。それでも駄目ならしょうがないよ」
やっぱりどうしても相性が合わない人ってのもいると思うしね。
僕と冒険者Aみたいな!
「ていうか、あれだね。お兄さん、いつにもましてボロボロだね。なんだか久しぶりにそんなボロボロな姿見た気がするよ」
「ははは。ちょっと特訓中でさ」
「特訓中?」
「うん、なんだか明後日に決闘することになっちゃって」
「決闘!?え、よわよわしいお兄さんが!大丈夫なの?」
ははは、ここにミーシャがいたらまた喧嘩になりそうなことを。
「大丈夫か大丈夫じゃないかはわからないけど、頑張ってみるよ」
「そうなんだ。応援に行くから頑張ってね」
「ありがとう」
「死なないでよ。お兄さん」
「死!?」
「多分木刀を使うんだろうけど、当たり所が悪かったら死んじゃうかもしれない」
なんでここにきてからこんなにも死が身近なのだろう。
「そ、そうだね。そのためにも訓練を頑張るよ」
「うん、頑張って!じゃあ、私はこれで戻るね」
そう言ってメルは手を振りながら宿屋へと帰って行った。
うん、辛いけどもう少し頑張りますか。




