23. 黒騎士様と同族殺しの魔剣:その2
僕の目の前に広がる異様な光景。
壁をささえに三mほどの空中にたたずむ女と、大剣を構えた黒い騎士。突如始まったスラム街の攻防だが、観客は僕一人だ。元々暗く細い道だったこともあるが、僕の悲鳴で数少ない浮浪者達もどこかへ避難したようである。
「今まで何本の魔剣を狩ってきたのかは知らないが、はたして私を狩ることはできるかな?」
高みでたたずむ女が不敵に笑う。
いつの間に手にしていた短剣はまがまがしい形状をしている。その刀身は赤黒く、仄かに光り輝いているように見えた。
「......俺が今までに狩ってきた魔剣の数は四本。お前で五本目だ」
「がははは、俺達にかかればお前なんて瞬殺だぜ。ひゃっは~」
黒騎士様はその場でジャンプした。
女は三m上空にいる。いくらジャンプして大剣を振りまわしたって届くわけがない。黒騎士様が飛んだ瞬間はそう思ったのだが、しかし、黒騎士様は僕の予想をはるかに超えた跳躍力を見せた。
「――――!?そんな馬鹿な」
黒騎士様は余裕で女の元へと接近する。いや、女のいる位置をわずかに超えているだろうか。
女は上を見上げて黒騎士様を捉えている。その瞳に驚きの色はなく、口元はにやりと笑っているようにみえる。
黒騎士様は剣を大きく剣を振りかぶった。
「ふ、宿主を完全に支配下に置くことができない魔剣に、この私が倒せるかな?」
「は、その余裕がいつまで持つかな?」
黒騎士様が振り上げた剣を、振り下ろす。
「―――ぐぁ!!!」
僕の目には剣が女に直撃したように見えたのだが、しかし、吹き飛んできたのは黒騎士様の方であった。
黒騎士様は衝撃で地面へと直撃し、僕の横を通り過ぎて壁に激突した。
三m以上の高さから高速で地面へと激突。僕はその悲惨さを想像しながら後ろを振り返った。
黒騎士様はがれきに埋もれて見えなくなっていた。
僕は最悪の結果を想定したが、しかし―――
「この狭い場所じゃ不利だな。少し行った先に広場がある。そこまで誘導しよう」
「......わかった」
謎の声と会話をする黒騎士様の声が聞こえる。
よかった。生きてる。僕が安堵した瞬間、女がすたりと僕の横に着地した。
「ふふふ、アナタ口だけのようね。そんな遅い攻撃じゃ、私に指一本触れられないわよ?って、もう聞こえてないかしらね」
僕は女を見る。女の顔面は血管が浮き上がり、腕は異様なほど筋肉が発達していた。僕はあわてて、女から距離を取った。すると、突然ふっと、顔だけが僕の方へと向きを変えた。
「......あら。あなたまだいたのね。気分がいいからさくっとあたなを食べちゃおうかしら」
女がにやりと笑った。
「ひ......ひぃ」
僕はあわてて逃げだした。
全力で走る。しかし、女はすぐに僕の前へと回り込んだ。
「活きがいいわね。穢れをしらない純白な、よく熟成された獲物ね。久しぶりの上物だわ」
「く、くるな~」
宿屋に剣も盾も鎧も、身を守る全ての道具を置いて来ていた。
僕は歩み寄る女にこの世界にきて一番の死を感じる。
女はそんな僕を見ながら舌舐めずりをしながら距離を詰めてくる。
先ほどは色気を感じたそのしぐさも、今は恐怖しか感じない。
「えい!!!!」
「――――!?」
金縛りにあいそうな恐怖の中、僕は女に向かって思いっきり砂を撒き散らした。
必殺スーパーめつぶしである。
女が死角を奪われてるうちに全力で逃げ出そうとしたその時、突然すなぼこりを押しのけ、首元をものすごい力でつかまれた。
「ぐぇ!!」
なんとか、ふりほどこうとするも、尋常ではない力でまったくふりほどくことができない。
「全くしょうもないことしてくれるじゃない。ものすごくむかついてきたわ」
女が怒りの表情でこちらを睨んでいる。
もう駄目だ......
こんな所で死ぬなんて......
ぺルぺルの言うとおりスラム街になんてくるんじゃなかった。そう人生を諦めかけたその時、後ろから黒い閃光が走しった。
「......グッジョブ」
「はっは~。やるじゃねえか!あとは任せな~」
黒騎士様が女にタックルをかます。
女は僕の首から手を離し、後ろにステップすることでそのタックルを回避した。
「あら、まだそんなに元気だったの。ちょっとアナタを舐めすぎてたみたいね?」
またしても睨みあう黒騎士様と女。
「今度はさっきみたいにはいかねーぜ」
「......ここで倒す」
「そんなにうまくいくかしらね?」
ぶつかりあう黒騎士様と女。
先ほどの攻防では女に見事なカウンターを決められた黒騎士様であったが、今度は女と打ち合っている。
「さっきよりは反応がいいわね?」
「ここなら思う存分俺をふれるからな。さっき見たいに行くと思わない方がいいぜ?」
辺りを見回すと、いつの間にか広場まで来ていたようである。
さきほどは振り下ろすしかなった大剣を、黒騎士様は縦横無尽にふってた。
一.五mはあろうかというその大剣を木の枝のように軽々と振りまわす黒騎士様と、目でとらえられないほどの速度で移動しつつさらにはその大剣を短剣でいなす女。どちらも常識を超えた化け物であった。昼間にみたテレサとマリ―も凄まじいものがあったが、二人の攻防はそれすらもはるかに上回る。まるで神話の世界に迷い込んだかのようであった。
一見互角の攻防を繰り広げている二人であったが、次第にその差が表れ始める。
「――――!?」
「はっは~追い詰められたな。もう逃げられないぜ?」
女が広場の隅に追い詰められた。ここでは自慢の速度も活かせない。一方で、黒騎士様にとっては絶好のポジショニングである。黒騎士様は大きく剣を振り上げる。
「......これで終わりだ」
「くっそったれ~」
振り下ろされたその一撃を、女は短剣で防ごうとしたものの、しかし、その一撃は女の短剣をぶちおってそのまま女の体を切り裂いた。
「ギョアアアアアアアア!!!」
女は絶叫を上げ、地面に倒れ込んだ。
そして、女の体とまがまがしい短剣はしゅ~という音を立てて塵となった。
「......ふぅ」
「ひゃっは~。うまいぜ~」
突然始まったこの戦闘は黒騎士様の勝利で幕を閉じたのであった。
「で、こいつはどうするよ?」
謎の声とともに、黒騎士様がこっちを向いた。
このまますっきり終わると思ったのに~
僕の額を汗がつたう。
「......どうしようか」
黒騎士様が悩ましい声を上げた。
どうやら僕はまだ完全に助かったわけではないようである。




