22. 黒騎士様と同族殺しの魔剣:その1
冒険者ギルドから外にでると辺りは暗くなっていた。夕暮れ時の美しい時間というのはあっという間に過ぎ去ってしまうのもである。帰ってきた時はまだ賑わっていた噴水周りにも、今は人がまばらになってきていた。
久しぶりの遠征と慣れない先頭で体はへとへとだ。さらに昨日は遅くまで飲んでいたので眠気も半端ない。しかし、今日は宿屋の制度が利用できる最終日でありFランク最後の日(予定)でもあり、気持ちは大分高揚していて、まだまだ家でのんびりする気分ではなかった。夜の街をゆっくり散歩でもして、のんびり考え事でもしたい気分なのであった。
そんな気分ではあるのだが、ゴブリンの返り血や泥汚れなどでだいぶ汚れてしまっていたので一度宿屋へと戻ることにした。
「あれれ、お兄さん。今日はなんだか冒険者っぽいね」
宿に入るなり宿屋のマスコットガールであるメルと出くわした。
今日も三つ編みのように編みこまれた髪の毛を右に左に揺らして元気いっぱいのようである。
「Eランク試験だったからね。無事に依頼をこなせたから合格確実かな!」
「そうだったんだ。よかったね。必殺技は役にたった?」
「役にたったよ。ゴブリンの視覚を一瞬で奪い、そのすきにぐさっと剣で一突きだったよ」
「やったじゃん!練習に付き合った甲斐があったわね」
「この前は本当にありがとうね」
「いいよ、いいよー。そのかわり今度クレープおごってね」
そう言って、メルは髪の毛をしっぽのように振り振りと揺らしながら厨房の奥へと消えて行った。
未だになめられてはいるものの、この七日間で最初よりは大分なついてくれたように思う。必殺技の練習にも付き合ってくれたし。今度美味しいクレープを御馳走して完全に懐柔したい。
さてさて、さっそく着替えに行こう。
部屋へと戻り、タオルを持ってシャワー室がある庭へと移動した。
鎧を地面に脱ぎ捨てる。鎧を見ると、返り血でだいぶ汚れていた。鎧のおかげで下に来ていた洋服はあまり汚れてはいなかったものの、新しい鎧なのでテンションが下がる。
僕は魔法で布に水をしみこませ、鎧を清掃する。
まさか自分が返り血を吹く日が来るとは思わなかった。なんとも不思議な気持ちになりながら血を拭きとり、そのまま庭の隅に立てかけた。
そして、次はシャワーを浴びようと思う。
シャワーを浴びる時間が一番好きだ。
暖かいお湯が体全体を包み込み、疲れていた体が一気に解きほぐされ、最高に癒された気分になる。地球にいたころにはこんな気分になることはほとんどなかった。やはり体を動かすのは正義である。
貯水タンクの水を魔法で温めてから紐を引いて水を出す。魔法が使えるようになった初日は加減が分からずにものすごい熱湯を浴びたのも今になっては良い思い出だ。今はもう快適な温度でシャワーを浴びられる。思えば魔法も大分上達したものである。初日におばあちゃんに魔法を教わって以来ちょくちょくと教えを請い、最初は全然使えなかったものの、ふとした瞬間に使えるようになってからはどんどんと上達している。自転車に乗るような感覚なのだろうか、一度乗れれば後は簡単みたいな。今では簡単な生活魔法なら使えるようになってきていた。
「ふぅ、さっぱりした」
シャワーを浴びてさっぱりした僕はそのままモルカドの夜の街へと繰り出した。
実は前まえから行ってみたい場所があったのだ。それは夜の街でゴミ拾いをしていた際にみつけた場所で、街の外れのスラム街の近くにあった。その時はお金も持っていなかったし、それ以降は殺人事件があって怖くて近づけないでいた。今はEランク試験でもらった報酬があるし、試験で気持ちも高ぶっていたので突撃するなら今日しかない。
そうこうしているうちに、例の場所へとやってきた。
街の中央よりも明かりの少ない暗く細い道。お店らしいお店はなく、犯罪が横行する危険な場所。住む場所もない浮浪者達がたむろするスラム街である。こんなところに何があるのか、何ができるのか。しかし恐れることはない、目的の場所はここであっているのだ。
僕は堂々と道を歩く。
すると細い道のさらに暗い死角から、女性の声が聞こえてきた。
「お兄さん、良いことしない?」
僕は声のする方へ顔を向ける。暗くてはっきりとは見えないが、胸元が空いたセクシーな洋服をきた艶めかしい女がそこにいた。
......そうなのである。
ズバリ僕が行きたかったのはこういう怪しい夜のお店(?)なのであった。
日本にいたころは怖くて行くことができなかったが、ここは異世界だ。知っている人もいなければ、いつ死ぬかもわからない。もしも死ぬことになろうとも、童貞のまま死ぬくらいならば、意を決して行動あるのみだ。僕は今日童貞を卒業するんだ!
そんな意気込みの元、僕は女性に返答をした。
「は、はひ。お願いしっしゅ―――痛い!!」
緊張のあまり唇を噛んでしまった。
そんな僕の様子をみて、おねえさんはくすりと笑った。
「ふふふ、お兄さん。初めてですか?」
「ええ、実はそうなんですよ。恥ずかしながら」
「そう。ふふ」
お姉さんが舌舐めずりをしている。
そんなエロいしぐさに僕のパトスは爆発寸前である。
お姉さんが僕へと手を差し伸べてきた。
緊張のあまり小刻みに手をふるわせながらも、その手を取ろうとした瞬間、僕とお姉さんの間に何かがわりこんできたのであった。
む、割り込みか。
マナーのなってないその男にいらっとしたが、その男の姿をみた瞬間、すぐにその怒りは吹き飛んで行った。
「な......黒騎士様!?」
なんと僕とお姉さんの間に割り込んできたのは、僕の不気味な黒き隣人、黒騎士様であった。
なんでここに!?いやそれよりも、見られてしまった。この恥ずかしい場面を!やばい。恥ずかしい。死にたい。
吹き飛んで行った怒りの後を埋めるように、羞恥心がぐんぐんと湧きおこってきた。
「あ、うーん。違うんですよ。これは。あの道を聞こう―――」
慌てて誤魔化そうとしゃべる僕の口を、黒騎士様が指でふさぐ。
「......大丈夫」
「がははは。またこいつかよ。なんか最早笑えてくるな」
黒騎士様と、別の声が僕の弁明を止める。
きょろきょろとあたりを見渡すも、またもその声の出所がわからない。
「なによ。別に悪いことはしてないわよ」
お姉さんが弁明をする。その声からは僕のような焦りは感じられない。
こういったことは慣れっこなのだろうか?
「今日はまだ、だろ?」
「――――!?」
黒騎士様とは別の声の指摘に、お姉さんが動揺した表情を浮かべる。
「......それはどういう意味かしら?」
「はん、もううすうすは感づいているんだろ?こういうことだぜ!」
黒騎士様が背中に背負っていた大剣を抜き放ち、お姉さんに向かった振りおろした!!
「ええええええええ~!!!!!!??????」
突然の出来事に僕一人が大絶叫を上げる。
「......逃した!」
「ヘルファイア!上だ!」
僕はその別の声に従って上の方へと視線を向けた。
「ふふふ、そういうこと。アナタ、巷で噂の魔剣狩りね?良い度胸じゃない。私に喧嘩をうるなんて」
地面から3mほどの地点に、両足を壁に押さえつけて制止したお姉さんが不敵に笑って剣を構えていた。
これは一体どういうことだ?




