20. Eランク試験:その4
「必殺!スーパー眼つぶし!!」
僕は手のひらの砂をゴブリンの目に向けて思いっきり投げつけた。そして即座に魔法で追い風を作り出し、本来ならありえないほどの速度で叩きつけ、さらにそのまま顔面にまとわりつくように風を操作した。ただ砂を投げつける以上にうっとうしいことこの上ないというえげつない技なのである。
ゴブリンも突然の眼つぶしにうろたえている。
僕はその隙を見逃さず、胸元にずぶりと剣を突き刺した。
「ギョエエエエエエエエ!!」
ゴブリンが断末魔をあげる。しばらくもがき続け、遂に動かなくなた。
僕はゴブリンの胸から剣を抜く。ゴブリンはそのままばさりと地面に倒れ伏したのであった。
「フ、これが僕の秘密特訓の末に編み出した必殺技さ。この技にかかればゴブリンなんて敵じゃない」
キラ―ン☆
前歯をきらりと輝かせ僕は決めポーズをとった。
「なによそれ。ただ砂を投げただけじゃない。どこが必殺技なのよ」
「いや、あれはね、ただ砂を投げただけじゃなくて。というかそもそもあの砂も魔法で作り上げたもので、より視界を奪いやすいように考えて作りだした特別な砂あって、それに―――」
「ああ、もういいわよ。全然気にならないから」
「そんな~少しは気にしてくださいよ~」
僕はテレサの肩をつかんでわしわしとゆすった。
テレサはそんな僕に心底嫌そうな目を向ける。
「ちょっと触らないでくれる。手が泥らけじゃない」
「あ、ごめん。砂が手汗で泥になってたみたい」
「ちょっと勘弁してよ!」
杖でガシンと頭を小突かれてしまった。
地味に痛い。
「ふふふ、最初の一匹目を倒した時はブルーな感じだったのにだいぶ余裕がでてきましたね」
「ええ。僕は将来BIGになる男ですからね。この位すぐに乗り越えて見せますよ」
「そうなんですか。それは楽しみですね」
僕のしょうもない言葉にマリ―はにっこりと笑って応えてくれた。
全く嬉しい限りである。日本にいたころだったらきっと冷めた目で見られるだけだったと思う。ちらりとテレサの方をみると、彼女は冷めた目でこっちを見ていた。うん、マリ―が優しいだけだね。
そんなこんなで、僕はEランク試験の依頼であるゴブリン三匹を見事討伐したのであった。
「ふぅ、しかし疲れた~。ゴブリンって意外にいないもんなんだね」
最初にゴブリンを討伐してから、実に2時間位は森の中をさまよい続けていたように思う。
その間魔物らしい魔物には全く出会わなかった。しょうがないのでかなり森の奥までやってきてしまった。門番のおっさんはあんまり森の奥まで行かないほうがいいと言っていたけど、本当に強い魔物がうようよいるのだろうか。はなはだ疑問である。
「この前私たちがゴブリンの集団を壊滅させたからね。逆によく生き残っていたものだわ」
「そうだね。これでもかって位の魔物の数を狩ったもんね」
「ははは、そういうことだったのか。そういえば最初に会った時ゴブリンを討伐してきたって言ってたね」
「あの時は装備に身を包んだゴブリンが数十体はいたから、私たちじゃなかったら大変だったかもしれないわね」
「うぇ、そんなにいたんだ。気持ち悪そう」
「そうですね。あれはこの世のものとは思えないほどでした」
マリ―とテレサがそのことを思い出しているのか、とても微妙な表情を浮かべている。
僕もこうしてゴブリンと対峙したので気持ちはとてもよくわかる。
「さて、それじゃあそろそろ帰りましょうか」
マリ―が帰りの音頭をとり、僕達はモルカドの街への帰路につくことにした。
ザッと最初の一歩を踏み出した時、視界の端に今日一日で見慣れたものが映りこんだ。ニヤリと笑みがこぼれてしまう。
「あ、ちょっと待って。あそこに薬草が見えたから採ってくるね!」
そう言って、僕は二人が歩き始めた反対の方へと駆けだした。
「まだ採ってくんですか?もう腰袋パンパンに詰まってるじゃないですか」
「初めての薬草採集だからテンションあがってるんでしょう。まったく外見に比べて中身はおこちゃまね」
後ろで二人が何やら言っているが、まだ詰めればもうひと束位入るのだからいいじゃないか。ひと束銅貨一枚で買い取ってくれるのだから僕にとってはお宝に等しいのである。
僕はマリ―から借りた短刀で薬草を綺麗に切り取る。まだまだ慣れずに時間がかかる。
「よし、入ったっと」
薬草が無事に腰袋に入り、二人の元へ戻ろうとする。
すると後ろの方でごそごそと音がした。
「ん?なんだ?」
僕は慎重に木の陰に隠れながら音のした方を覗き込むと......
「――――!!!!????」
そこにはなんと数匹のトカゲ人間の姿があった。
トカゲ人間といわれてもわからないかもしれないが、僕もよくわかっていない。人間大のトカゲが二本足で立ち、手には刀身が太めの剣を持っているのだ。恐竜か!?それとも亜人というやつか!?
僕はやつらにみつからないように姿勢を変えないままそーと足を動かした。
しかし......
――――バキ
足元の枝を踏んでしまい、大きな音が出てしまう。
バッとトカゲ人間達が一斉にこちらに振り向いた。ハ虫類独特の冷たい瞳が僕を捉える。
「こ、こんにちは」
僕の声を合図にトカゲ人間達が一斉にこちらに向かって駆け出してきた。
ばれてしまったら仕方がない。僕も全力で振り返って走り始める。
「トカゲ人間が!トカゲ人間が攻めてきた~」
僕は二人に危険を知らせようと大声で叫びながら走る。
「何よ、トカゲ人間って」
「タイチさん、慌ててどうしたのかしら」
テレサとマリ―は僕の必死の声を聞いても全く逃げるそぶりをみせない。
このままではあいつらに簡単に追いつかれてしまう。
「いいから早く逃げて~」
僕は必死に叫び続けるも、二人は全く動かない。
そうこうしているうちに、茂みを超えてトカゲ人間の姿が彼女達の前にもあらわになった。
「なんだ。リザードマンじゃない。そんなにあわてることはないわ」
「タイチさーん、安心してください。もう大丈夫ですよー」
彼女達は何をのんきにしているのだろうか。
この恐ろしい生物が目に入らないのか?こいつらに比べたらゴブリンやウサギなんて可愛い小動物にすぎない。こいつらこそ本物の魔物ってやつだ。もう駄目だ。僕達はここで死ぬんだ。ああ、Eランクになろうとしなければ。Fランクとしてほそぼそとやっていればよかったんだ。
僕の目からは自然と涙があふれ出してきていた。
僕が人生を諦めかけたその時――
「サンダ―レイン!!!」
テレサの叫び声が森に木霊する。その直後、僕の後ろで轟音が鳴り響いた。
僕はびっくりして後ろを振り返る。
するとそこには信じられない光景が広がっていた。
森の木々の隙間を縫って、雷がトカゲ人間達に降り注ぐ。トカゲ人間達はその突然の天変地異になすすべもなく真っ黒焦げになっていた。
「す......すごい」
僕はあまりの光景にただただ口を開けてポカーンとしているしかなかった。
「マリ―、一匹仕留め損なったわ」
「まかせて!」
運よく雷の嵐を抜けだしていたトカゲ人間が突然の出来事に立ちつくしてしまっていた。しかし、仲間が殺されたことを認識したのか、ものすごい形相でこちらを睨んだ。
「残念だけど、もう遅いわ」
しかし時すでに遅く、トカゲ人間の元へと駆け出していたマリ―がその首を打ち取っていた。首が体から地面へと落ちて行く際、その表情が怒りの表情から何が起きてたのか全くわからないといった表情へと変わっていくのが見えた。斬られたことさへ感じさせない、まさに神速の一撃であった。
「へ!?」
僕の口はさらに広がり、あっけにとられるばかりであった。
「いい?必殺技っていうのはこういうことを言うのよ」
遠くでテレサがそんなことを言っていたような気がしたが、僕の耳には全く入ってこないのであった。




