19. Eランク試験:その3
大森林の中をしばらく道なりに進み、途中で道をそれて森の奥地へと進んで行った。
進むにつれてどんどんと自然が豊かになってきて、行ったことはないけれど富士の樹海もこんな感じなんのかなと思いながら足を進めた。進むだけでも一苦労なこの道を、テレサとマリ―の二人はひょいひょいと進んでいる。先頭を進む僕はへとへとなのに後ろの二人は汗一つかいていないようにみえた。
ゴブリンを求めてさまい始めて一時間ほどが経ち、ついにゴブリンを発見したのであった。
「あれがゴブリン?」
「そうよ」
僕達は木の陰に隠れ、そっとゴブリンを覗き込む。
思い描いていた通りの存在がそこにいた。緑のごつごつした肌。大きさは子供ほどの背丈だろうか。しゃがみこみ、むしゃむしゃと何かを貪っている、どうやら食事中のようだ。ゴブリンの足元には血の池ができている。
うわ~気持ち悪い。確かに気色悪い。ぺルぺルの気持ちがよくわかる。
しかし、ゴブリンは食事に夢中のようで僕達の存在には全く気付いていないようである。今なら後ろから一気に倒せるかもしれない。
「あのさ、戦い方ってどんな戦い方でもいいんだよね?」
「もちろんですよ。剣でも魔法でも倒せばOKです」
「そっか。わかった」
隣のマリ―に確認をとり、僕は必殺の暗殺剣を披露することを決意する。
後ろから不意打ちなんてかっこ悪い?
いやいや、この世は非情なもので、周りの警戒を怠っているあのゴブリンが悪いのだ。
僕は悪くない。
剣を鞘から取り出し、ギュッと握りこむ。緊張で手には汗が、口はカラカラに。
やれるだろうか?いや、やるのだ。
隠れていた木からこっそり身を乗り出した。
ゴブリンと僕との距離はおよそ五メートルほどだろうか。これなら気付かれずにいけるだろう。
そろり、そろり。こっそりと足を進める。
ゴブリンの背中を見降せる距離までやってきた。
ゴブリンはまだ気付いていない。
僕は剣を大きく振り上げた。
「これで終わりだぁあああ」
大きな掛け声とともに一歩を踏み出し、思いっきり剣を振り下ろそうとしたところ......
―――ズル!!
「ゴギャ!?」
踏み出した一歩がゴブリンの下に溜まっていた血でズルりと滑ってしまい、渾身の一撃はゴブリンに命中することはなくゴブリンの食事の残骸に叩き込まれた。
「う、やばい」
ゴブリンが僕から距離をとり、敵意に満ちたうなり声を上げている。
口元は真っ赤に染まっており、元々醜悪で凶悪なその表情をより恐ろしいものにしていた。
僕はそのあまりの表情に思わず体が硬直する。
そんな時、後ろから二人の声が響いた。
「ちょっと何やってるのよ~!あれだけ好条件で不意打ち決められないなんてどんだけよ!」
「タイチさん、落ちついて対処してください!落ち着けば大丈夫ですよ!」
二人のおかげで体の硬直がとける。
そして急いでゴブリンに向きなおり剣を構えた。
凶悪な表情から目をそらし、ゴブリン全体を観察する。
どうやらこいつは武器も鎧も持っていない個体のようだ。腰にぼろい布をまとい、腕を大きく広げて威嚇をしている。こいつの武器は大きく広げた腕の先にある鋭い爪だろうか。僕は爪を警戒する。
ゴブリンも僕を観察しているようにじろじろとこちらの様子を眺めている。
森に張りつめた空気が流れ始める。
「だらだらしてないで早く戦いなさいよ!」
テレサの怒号を合図に僕とゴブリンはお互いに駆け出した。
ゴブリンが両腕を一気に振り回す。
単純だがするどい猛攻だ。距離をつめることができない。
僕は意を決し、ぐっと盾を構えてゴブリンへと突撃する。
踏み込んできた僕に対して「ゴギャ!?」という鳴き声を上げながらゴブリンはひるみ、その鋭い爪を利用した猛攻撃に一瞬の隙が生じた。僕はそのまま盾を横に振り切り、その勢いのまま剣を振った。
僕がふったその一撃はゴブリンの体に一閃の傷をつける。
しかし、倒すには至らない。
冒険者ギルドから借り受けたこの剣はとても古く、手入れはされているが切れ味はとても落ちているようだ。もちろん僕の腕前もあるだろうが、傷は浅いようである。
「あと少しです!頑張ってください!」
マリ―さんの声援を背中でうけ、僕はさらに追い打ちとして剣を振る。
右、左、右、左。
剣を振り、振った先からすぐに剣を振りなおす。体を一刀両断なんてできない僕は、剣を鈍器のように叩きつけ続ける。
「はぁ。はぁ。はぁ」
十回以上剣を叩きこんだだろうか。
遂にゴブリンは動かなくなった。
僕は急に吐き気がこみ上げて来て、倒れたゴブリンの横に嘔吐した。
それは昨日の酔いによる吐き気なのか、それとも人の姿に似た魔物を殺したことによる忌避感のせいなのか、あるいはその両方かもしれないが、こらえることができなかった。
「お疲れ様です。大丈夫ですか?」
「よくやったわね!って何吐いてるのよ!」
後ろから二人がやってくる。
僕は急いで呼吸を整えて、表情を作る。そして元気よく振り返った。
「どんなもんよ~。これが僕の実力さっ」
「うん、すごいです。無事に倒せてよかったですね。これで剣を吹いてください」
「全然余裕なさそうだったけどね」
「ありがとうございます」
マリ―から受け取った布で剣から血をふきとる。
思っていたよりも耐えられるかな。確かに忌避感は半端なかったけど、これくらいならやっていけるだろうか。う~ん、でもできればあんまり人型は相手にしたくないかなぁ。平和な日本で暮らしてきた僕にはちょっぴり刺激的な出来事なのであった。
そして無事にふき終わり剣を鞘へとしまった。
「大丈夫よ。そのうち慣れてくるから。さて、あと二匹よ。さっさとクリアしちゃいましょう」
周りから見てもわかるくらい苦い表情をしていたのだろうか。珍しくテレサが優しい言葉をかけてくれる。
僕も気を取り直し、頬をパチンとはたいて元気よく返事をした。
「そうだね。この調子で頑張るよ!」
残りは二匹だ。
さくっとクリアしてEランク冒険者になるぞ。
僕達はゴブリンを求めてさらに森の奥へと入っていった。




