18. Eランク試験:その2
「おいおい、まじかよ。本当にお前さんがEランク試験に挑むのか?ウサギにやられてたんじゃなかったのかよ。大丈夫か?」
初日に会った門番のおっさんであるカストルが心配そうに尋ねてくる。
マリ―とテレサはとっくに通過して門の外で待っている。二人の方を見ると、テレサがいらいらし始めているように見える。
「大丈夫ですよ。僕だってこの一週間ただ過ごしていたわけじゃないですから。ちゃんと必殺技もありますしね。フフフ」
僕は不敵にほほ笑んだ。カストルさんもそれをうけてガハハと笑い、どしどし鎧を叩く。
「そうかそうか。それなら安心だな。頑張れよ。ガハハハ」
「ははは。痛いんで叩くのやめたください。ははは」
「おいおい、そんなんで本当に大丈夫か?ガハハハハ」
「そ...それじゃ本当に行きますね」
「おう、行って来い!」
またもバシンと背中を叩かれ、体が大きく揺らいだ。なんとか倒れないようにこらえたものの、それを見たカストルはまたも豪快に笑っている。
まったく勘弁してほしい。かまってくれるのは嬉しいけども。
「あ、そうだ。あんまり森の奥には行かないように気をつけろよ。なんでも危険な魔物が数多くみられるようになってるらしいからな」
「わかりました~」
僕はペコペコお辞儀をしながらマリ―とテレサの元へと向かった。
「すみません、お待たせしました~」
「本当に遅いわよ!何やってるのよ。随分楽しそうにしてたけど、私がいないところでからかわれるのやめなさいよね。気になるじゃない」
「もー、なんですぐ喧嘩腰になるのよ」
テレサがいらいらしながらそう応え、それをマリーが呆れながら眺めている。
楽しそうにしてる=からかわれてるという思考はやめてほしい。まぁ、大体あってるんだけどさ。
「ごめん、ごめん。それじゃあ行きますか!」
こうしてゴブリンを退治しに森へと出発したのだった。
しばらくして...
「ちょっとタイチ、何読んでるのよ?」
「ん?これだよ~」
僕は読んでいたものをテレサの方へと向けた。
「ぺルぺルの初心者用ゴブリン完全攻略本...?」
「そうです。ぺルぺルさんが書いてくれてるパンフレットです」
「へー、こんなのあったんですね」
「どんなことが書いてあるのよ?」
「えー、ゴブリンは緑の肌をしたとても醜い魔物である。基本的に成体でも人の腰ほどしかなく、力もそれほど強くはない。簡単な知能も有しており、まれに冒険者から盗んだ武器を使用する場合もあるが、振り回したりなど単純な使用しかできない。単体であればそれほど危険はない。しかし、複数体が群れになって行動している場合もある。その場合は注意が必要だ。単体でも醜悪な存在だが、それが群れをなしていたらそれはもう恐ろしいほどに気色が悪い。一節ではその醜さで数々の生物が――――」
「あ、もういいわ。わかったから」
「まだまだゴブリンについて書かれてるけど?」
この後はゴブリンの醜悪さについて色々な学説を交えながらわかりやすい説明が続く。この一冊でぺルぺルがいかにゴブリンが嫌いかがよくわかる。パンフレットとしてはどうなのかと思うけど、読み物としてはなかなか良くできている。これを読む限りでは大体イメージしているゴブリン像であっているようだ。
「もう結構よ」
「私も今度依頼をこなす前にもらってみようかな」
「是非もらってみてください。きっとぺルぺルさんも喜びますよ」
「そうですね。もー、ぺルぺルさんも言ってくれればいいのに」
もしかしたらぺルぺルもベテラン冒険者に渡すのは気恥かしかったのかもしれない。
「ゴブリンのことなら私達に聞けばいいのに」
「じゃあ、ゴブリンのこと教えてくれる?」
「じゃあ、っていうのが気になるけど。いいわ、教えてあげる。ゴブリンはただの雑魚よ。何百匹いても敵じゃないわね。遠くから魔法を当てておしまいよ。............何よ?そんなに見つめて」
「え!?それだけ?」
「そうよ。これ以上なにかあるかしら?」
テレサが聞いてくれというから聞いたのにそれはないだろう。魔法が満足に使えない僕には役にたたない。というか何の説明にもなってない。
「タイチさん、テレサに聞いても無駄ですよ。テレサにとってみたらほとんどの魔物が雑魚ですからね。詳しいことはわからないですよ」
「そうみたいですね」
「まあそうね。私にかかれば大抵の魔物は一瞬で消し墨になるからね」
「だから同じ戦士として私が教えてあげますね」
「ありがとうございます」
「ゴブリンはですね。剣をこうぐっと握って、一気にぐあっと振れば倒せますよ。もしも相手が鎧を着ていたら首を狙います。こうです―――」
マリーが剣を構え、そして思いっきり剣を振った。
その剣圧でマリーの周辺2m近くの草が一気に刈られた。
「―――以上です。わかりましたか?」
「......はい、わかりました」
「そうですか。それならよかったです」
正直全然ぴんと来ていない。この二人天才肌で説明が下手なタイプのようだ。多分ふたりともあっさりゴブリンを倒してきたんだろうな~。僕みたいな凡人の気持ちはわからなだろう。
マリ―もテレサもなんだか満足顔をしているのでこの話はこれで終わりにしようと思う。
そして遂に森へとやってきた。
日はまだまだ高いが、森の中はどこかうす暗く感じるほどに木々が生い茂っていた。森の道はうねうねしているようで、草原からずっとまっすぐ続いていた道の先が見えないのも恐ろしく感じる。はたしてこの道はどこに続いているのだろうか。
「ふぅ、なんだかドキドキしてきた」
「大丈夫ですよ。さっきのアドバイスを忘れずに臨めばなんとかなるはずです」
マリ―がにっこりとそう言ってくれるが、ちっとも安心できない。だって、僕にはあんな凄い剣技はもっていないのだもの。
「そうですね。よっしゃあ、気を引き締めて行きましょう。いや、でも―――」
「いいからぐずぐずしないでさっさと行きなさい」
「痛て!!」
テレサにけつを思いっきり蹴っ飛ばれ、その勢いのまま僕は森へと足を踏み入れた。
森の中はひんやりしている。草原と5度位は違うだろうか。
その涼しさでちょっぴりと気がひきしまる。外から見るとうす暗く見えた森も、入ってみればそれほど暗くは感じない。
「もー、だからそういうはやめなってば」
「私うじうじしてるやつ嫌いなのよ。こういうのはやってみれば大したことない場合が多いんだから」
「そうだね。確かにちょっとビビりすぎてたかもしれない。これなら大丈夫そう」
「でしょ?じゃあ行くわよ」
そう言ってテレサはづかづかと森の中へと消えて行った。
「ちょっとテレサ待ってよ~」
マリ―もテレサの後を追って森に入る。
そして、ふとこちらを振り向いて手招きする。
「タイチさんも早く!早く!」
「わ、わかりました」
僕もあわてて二人の後を追って森へと入って行った。




