17. Eランク試験:その1
「う......頭痛い」
「おいおい、ちょっと動かないでくれるか?」
武器屋のひげもじゃドワーフのおやじさんが鎧を着せてくれている間に、頭を押さえながら必死に吐き気をこらえている。僕が少し動いたせいでおやじさんは鎧を着せ辛そうに顔をゆがめる。
「す、すみません」
「まー、いいけどよ。しかし大丈夫なのか?これからEランクの試験なんだろ?」
「ふ、僕にかかればEランクの試験なんて朝飯前ですよ」
「そうか?ならいいけどよ。最初だから本来は銅貨十枚の鎧を銅貨八枚にまけてやった上に装着の仕方まで教えてやってるんだ。いきなり死ぬんじゃねーぞ」
「死!?」
「冒険者ってのは何があるかわかららないからな。気をつけろよ。よし、できたぞ」
おやじさんがどしんと背中を叩く。衝撃で少しはきそうになるも、必死にこらえて店の鏡を覗き込む。革製の胸当てと腰当てをつけた駆け出しの冒険者が映っている。うん、なんとも頼りなそうである。
「ま、あれだな。これから頑張ってこの鎧に見合う男になればいいんだよ」
僕と同じ感想を持ったのかおやじさんまでそんなことを言う。どうして僕は年齢に見合った風貌が持てないのだろうか。クールな成人男性をすっ飛ばして一気におっさんになる気がする。頑張らなければ。
「そうですね。頑張ります」
「おう、じゃあ行って来い」
おやじさんにまたもどしんと背中を叩かれ、僕は遂に臨界点を超えてしまい...
「オロオロオロー」
武器屋の隅に置いてあった坪に豪快に吐いてしまった。
「おいおい、勘弁してくれよ。本当に大丈夫なのか?」
僕の嘔吐のせいで武器屋に気まずい空気が流れる。はたして無事にEランクになれるのだろうか。
壺を綺麗にしてから、武器屋を後にし、冒険者ギルドへと向かった。
「すみません、遅くなりました」
「本当に遅いわね。私たちを待たせるなんてどういうつもりかしら?」
冒険者ギルドの窓口に駆け込むと、そこにはマリ―とテレサの姿があった。どちらも最初に会った時のような冒険者らしい格好をしている。テレサは心底いらついた表情をしているが......
「あれ?どうして二人がいるんですか?」
まさか僕の応援にきてくれたのだろうか。
僕が疑問の声を上げると、窓口にいるぺルぺルが説明を始める。
「それは私が説明しましょう。二人にはタイチさんのEランク試験の監視員をしてもらいます」
「監視員ですか?」
「ええ。Eランク試験で受けてもらう討伐依頼というのは依頼主のいない依頼ですからね。確実に依頼をこなしているかどうか、Eランクとして十分にやっていけるかどうか。また、予期せぬ出来事がおきた際に対応してもらうために、ベテラン冒険者の人と一緒に行動してもらうんです」
「私達に見てもらえるなんて感謝することね」
「何かあっても私達がいますから、安心して試験に集中してくださいね」
「よろしくお願いします」
見慣れた二人がついて来てくれるなら安心である。
僕も案外やるもんだと二人にみせつけてやる。特にテレサにはそろそろ認めてもらいたものだ。未だに会うたびに馬鹿にされるのはうんざりなのである。僕のやる気が一気に上昇し、冒険者ギルドを突き抜けて天にも昇るほどだ。
「では、次にタイチさんに受けてもらう依頼を説明します。ずばり、受けてもらうのはゴブリンの討伐です」
「ゴ...ゴブリン!?いきなり大物ですね」
僕はあまりの衝撃に後ずらりをする。RPGやら小説ではゴブリンなんてただの雑魚だろう。しかし、この世界ではウサギやカラスまでもが化け物だ。そんな世界のゴブリンなんて、きっとさぞ恐ろしい化け物に違いない。僕にはチートがあるわけでもないし、きっとミンチになってしまう。上がったやる気が一気に下降して地面すれすれを低空飛行し始める。
「Eランク冒険者になると街の危機などに強制招集されますからね。最低限の実力は必要なんですよ。もしも不安でしたらこのままFランクとして活動することもできますが。どうしますか?」
ぺルぺルさんが尋ねてくるが、すぐには即答することができない。
マリ―とテレサも何も言わずにこちらを見ている。額に汗が滴り落ちる。
もしもEランクになれなければどうなるのだろう。
このままFランクとしてカカシ業に勤しみ、ぎりぎりの生活を続けて行ことになるだろう。一日銀貨一枚以上を稼ぐのは厳しいから、もちろんグランマの家には泊れなくなりもっと安い宿に移ることになるだろう。それでもガルボさんや先輩とそこそこ楽しくやっていけるかもしれない。しかし、マリ―やテレサと関わることはなくなるに違いない。このままだらだらと生きるのか、それともマリ―やテレサのように刺激的に生きるのか。
「僕は―――」
今までは自分から何かをすることは少なかった。いや、なかったかもしれない。そんな人生を送ってきたからか、やりたいこともみつからず仕事にもつかずにだらだらと生活しているだけだった。このままFランクとして生きるのはそんな生活の延長でしかないような気がする。何の因果かこんな世界にやってきた。これを機に人生をドラマチックにしていきたい。
そうと決まれば答えは一つだ。
「―――やります!!!」
胸に手を当て、はっきりと応える。
恐怖に打ち勝ち、新しい道を歩むのだ。
「頑張りましょうね、タイチさん」
「ゴブリンごときにびびりすぎよ」
満面の笑みのマリ―としかめっ面のテレサ。反応は正反対だが、どちらも心配してくれていたように思う。まぁ、ただの願望ではあるけれど。
「では、詳しい説明に入りますね」
ぺルぺルも安心したような表情を浮かべている。彼女はパンフレットを読んでもらいたいだけかもしれないがそれでも嬉しい。
「よろしくお願いします」
「えー、それでは。タイチさんには森に生息するゴブリンを三体倒して頂きます。以上です」
ぺルぺルさんがにっこりとほほ笑む。
「え!?それで終わりですか?」
「ええ。今回はマリ―さんとテレサさんが監視してまるからね。倒すだけで結構です。本来でしたら証拠として耳を切り取ってきもらいます。あ、あと集団のゴブリンは危険度が一気にあがりますので気をつけてくださいね。それと、プラスで持ち帰ってきたものがありましたら引き取りますので色々持って帰ってきてくださいね」
「わかりました。ありがとうございます」
なんだが拍子抜けする位あっさりとした説明である。
僕が緊張していただけで本来は大したことでもないのかもしれない。Eランクだしこんなものなのかな。
「では、頑張ってくださいね。マリ―さんとテレサさんもよろしくお願いします」
「はい、頑張ってきます」
「わかりました」
「ええ、しっかり評価してあげるわ」
こうして僕のEランク試験が幕を開ける。




