16. 熱き友情:後編
僕とボスカラスはお互いにじっと見つめ合い隙をうかがう。
硬直状態がしばらく続いた。
これは長引くかもしれないな―――そう思った瞬間、突然突風が僕の方へと吹きあれた。
それに合わせるかのようにボスガラスは羽を広げ弾丸のように僕に向かって迫ってきた。
その速度は今まで見た中で一番早い。追い風を利用した超速効攻撃である。
僕は左手に装着された盾を体の前に掲げ、ボスガラスの強襲を防ごうとする。あわよくばカウンターでその首をへし折ってやるとばかりに。
衝撃に備える。
しかし、想像した衝撃はいつまで経ってもやってこない。
僕はあわてて左手を下げる。
「い......いない!?」
ボスガラスの姿が消えていた。
「どこだ!?」
僕は前後左右くまなく確認するが、ボスガラスの姿はどこにも見当たらない。
農場とは言っても街の中である。森の中にあるわけでもないし、視界を遮るものなんて何もないのだ。にもかかわらずその姿をみつけることができない。
どういうことだと頭を?≪クエスチョンマーク≫で埋め尽くされた瞬間、突如衝撃が僕の顔面を襲った。
まるで見えないハンマーで殴られたかのような衝撃に僕は無様に地面に這いつくばった。
鼻に手を当てると、手には赤い血がべっとりと付いている。
鼻血がどばどばとでている感触を感じながら僕は急いで立ちあがった。
「一体何が......」
この状況ではボスガラス以外の要因で傷ついたとは考えにくい。
ということはあの鳥に何かをされたということだが、速過ぎてみえなかったのだろうか。
辺りを警戒するも鳥の姿は依然みつけられない。
しかし、びゅん、びゅんと空を裂く音だけが不気味に響いている。
僕の心が恐怖心で一杯になった。
見えない敵に見えない攻撃。
カラスを相手にしているとはとても思えない。
「ぐぁあああ!!!」
またも鋭い衝撃が僕を襲った。
敵の攻撃を見定めてやると必死に目を凝らしていたものの、やはり何も見えない。
こんなの聞いていない。
まるで魔法のようだ。
魔法......
まさかあのボスガラス、魔法が使えるのか?
そんなまさかと思いながらも、ここは異世界だからなんでもありえるとさらに警戒心を強める。
姿を消す魔法と、僕に衝撃を与えている魔法。
おそらく二つの魔法を使っているのではないかと考えられる。
鳥が魔法とかめちゃくちゃ意味わからないけどそれが事実だと仮定してもわからないことが一つある......
しかし悩んでいてもしょうがない。
僕はそっとしゃがみこみ、砂を握って立ち上がった。
「おい、ボスガラス。どうやってるかは知らないが、姿を隠しているんだろう?みつからないと思って安心してるかもしれないが、それは甘いぜ」
そう言って、僕は握った砂を辺りに振りまいた。
透明人間をみつける定番のあれだ。最近は雨が降っていないから渇いた砂が辺りに漂う。
僕は必死に砂ぼこりに目を凝らした。
そしてびゅんという音と共に砂ぼこりに一閃が走る。
「てりゃああああああ!!」
僕は雄たけびをあげながらその線に向かって剣の背を振り下ろし、その一撃は見事見えない何かを捉えた。
「ギャー」と鳴き声が響き、砂ぼこりが晴れた地面にはボスガラスが横になって呻いていた。
僕はすぐさま剣をカラスの首元につきつけた。
「勝負ありだな」
僕がそう告げると、カラスは悔しそうに「クゥア......」と鳴いた。
僕はそんなカラスに向かって語りかける。
「でもひとつわからないことがあるんだ。姿を消せるのなら、そのまま僕に突撃した方が効果的だったんじゃないか?見えない一撃というのは確かに恐ろしかったけど、もしもあれがお前のくちばしの鋭い一撃だったならきっと僕は死んでいたはずだ。もしかして僕のことを殺すつもりはなかったんじゃないか?だから―――」
僕はそう言って、カラスのクビに押しあてた剣を鞘へとしまった。
「―――僕もお前を殺さないよ」
こうして僕とボスガラスの因縁の戦いは幕を閉じたのであった。
「ふぅ、疲れた~」
僕はどさりと地面に座った。
時間にしてみれば短い時間であったと思う。しかし、見えない敵への警戒心、体を襲う謎の攻撃、この短い時間に僕の体力はどっさりと奪われていた。もともと体をあまり動かす方でなかったのもあるし、最初から筋肉痛やらが酷かったのもある。
とにかくめちゃくちゃ疲れました。
僕が座ったのと同時位にカラスがすっと起き上がる。
その目は僕の行動に驚いているように見える。
「もう何もしないから安心してよ。それに上手く行けば今日でカカシは引退だから決着がつけられてよかったよ」
僕の言っていることを理解しているのか、カラスは「カ―――」と寂しそうに呟いた。
短い間だったが全力でぶつかりあった仲だ。僕もどこかもの寂しい気持ちを感じていた。
「達者でね。僕もこの不思議な世界で頑張るよ。あ、でももう畑の野菜を襲うのはやめてよ。そんだけ強ければ外でもやってけるでしょ」
カラスはしばらく僕を見つめ、それからばっと羽を広げて空へと羽ばたいていった。
きっと僕の言ったことは伝わったと思う。
はたから見たら滑稽に見えるかも知らない。カラスに語りかける人なんて日本で見かけたら完全にやばいやつだと思う。しかし、僕とカラスの間には確かに熱い友情があったのだ。
その後、鼻血がおさまるまで休憩した僕は先輩カカシとガルボさん達に交じって最後のカカシ業務に勤しんだのであった。
そして無事にその業務を終え...
「いやぁ、タイチも今日で卒業か。俺としてはカカシの救世主としてカカシ業に専念してほしかったんだけどな」
先輩カカシが寂しそうにそう言った。
「まだEランクに受かるか決まったわけではないですけどね。もしも駄目だったらまたよろしくお願いします」
はははと笑いながら僕は応える。
「いや、お前はあのボスガラスを倒したんだ。きっとEランクの試験だって突破できるさ。ま、カラスが魔法を使ってきたとかいう話は流石に盛りすぎだと思うがな」
「な......本当ですよ。カラスが姿を消して、多分風魔法か何かで攻撃しきたんですよ」
「それが本当ならDランクの討伐依頼がでてるよ」
「全くだ」
先輩カカシと隣にいたガルボがガハハと豪快に笑う。
先輩達のその笑い顔を見ていたらなんだかどうでもよくなってきてしまった。
一日中話しても信じてくれないし。
しかし、そんなことよりも気になるのは......
「でもあれですね。朝の時は先輩とガルボさんは不穏な感じだったのにこの一日で仲直りできたんですね」
「んー。まぁ、昔は仲良かったしな。一緒にカカシやってたら昔のいざこざなんてどーでもよくなってきちゃったんだよ」
「これもタイチのおかげだよ。タイチがあの時楽しそうにカカシの話をしてくれたから仲直りするきっかけができたんだよ」
ふたりは肩を組みながらそう応える。
「でも、なんで喧嘩してたんですか?」
「実はな―――――」
その後、先輩とガルボの昔話が大いに盛り上がり、冒険者ギルドに場所を移して朝まで酒場で語り明かしたのであった。




