15. 熱き友情:前編
二日後...
異世界にきて六日が経った。宿を無料で利用できるのも明日で最後である。ちなみに殺人事件が起きた日とその次の日もカカシをして過ごした。日当銅貨五枚だから二日で銅貨十枚でゴミ袋の時の銅貨五枚と会わせて合計銅貨一五枚を稼いだわけである。お昼ご飯で使ったり必要な雑貨を買ったりして手元には五枚しか残っていない。
正直生きていくのに精いっぱいな金額しか稼げていない。“グランマの家”の一泊の料金が銀貨一枚だから このままでは住む場所も失ってしまう。全くブルーな話である。
「どうしたらいいでしょうかね?」
「いや、私に聞かれても困りますよ。頑張ってもらうしかないですね。でも、あそこは倒した鳥を買い取ってくれるんじゃなかったですか?そしたらそこそこ良い金額になるんじゃないですか?」
「実は最初はぽんぽん倒せたんですけど、あっちも戦術を変えてきたみたいで全く倒せなくなっちゃったんですよ。でも僕も攻撃は受けてないんですけどね」
そう言って、汚れ始めてはいたけれどどこも破れていない洋服をぺルぺルに披露する。
くるりと一回転、気分はモデルだ。ちょっぴり決めポーズを作ってみたり。
「はは、すごいすごい」
ぺルぺルの渇いた笑いと棒読みで僕は急に恥ずかしくなってきてしまった。
「...今日こそ倒して見せますよ。僕の活躍をお楽しみに」
「はい、楽しみにしてますよ。頑張ってくださいね」
いつものようにぺルぺルが笑顔で見送ってくれた。
しかし、実はまだ話したいことがあるのであった。
「あと、もうひとつ要件がありまして」
「なんですか?」
「実は明日Eランクになるために討伐依頼を受けたいんですけど、何か特別なことってあるんでしょうか?」
「そうですか。わかりました。それでは準備をしておきますね」
「準備?普通にうさぎを受けようと思っていたんですけども」
「ああ、確かにこの前Eランクになるための条件をお話しましたけど、実はただ受ければいいわけじゃないんですよ。こちらの指定したEランクの討伐依頼と、監視員が一緒に同行するんですよ」
「そ...そうなんですか。ということはうさぎではな...い?」
「そうですね。明日説明しますのでお楽しみに。討伐依頼なのは変わりませんから準備はしっかりしてきてくださいね」
「わかりました」
「それでは今日も頑張ってくださいね」
ちょっぴり不安が残りつつも今日も一日が始まる。
今日こそボスガラスを倒して見せるぞ~。
僕は筋肉痛でバキバキになった体に鞭を打って歩き始めた。
冒険者ギルドを出ようとした瞬間、肩をがしっとつかまれた。
僕はびっくりして後ろを振り返る。
「あ、なんだガルボさんですか。びっくりしましたよ~」
そこにはひげもじゃで小さいけどガタイのいい男がいた。
初めてカカシの任務を終えた日に仲良くなった冒険者のおっさんである。あれ以来顔を合わせば挨拶をする仲になっていた。
「おう、タイチ。今日もカカシに行くのか?」
「ええ、そうですよ。どうしたんですか。今日は。まだ朝早いですよ?」
ガルボは大体いつも昼過ぎにきてギルドで酒を飲んでいるらしい。働いているのを見たことがないんだけど大丈夫なのだろうか。
「いや、実はな、今日は俺もカカシをしに行こうかと思ってよ。一緒に行かないか?」
「珍しいですね。あれ?でも冒険者って自分のランクとその上の依頼しか受けれないんじゃ?」
「ああ、低いやつは別にいいんだよ。ま、あんまり受けるやつはいないんだけどな」
「そうなんですか。じゃあ、一緒に行きましょうか」
「おう、頼むな」
こうして今日は仲間連れでカカシに挑むことになった。
歩きながらガルボさんと話をする。
「しかし、なんでカカシの任務を受けてみようと思ったんですか?」
「お前の話を聞いてたら昔のことを思い出してよ。ちょっと心にひっかかってることを解消しようかなと思ってよ」
「心にひっかかってること?」
「ま、俺にも色々あってよ。すぐにわかるさ」
「そうですか」
ガルボさんはニコニコ農場に近づくにつれ表情が険しくなる。
よっぽど恐ろしい思い出もあるのだろうか。なんだが僕もつられて険しい表情になってしまう。
そして遂にニコニコ農場が見えてきた。
いつもなら先輩カカシが手を振って迎えてくれるんだけど、今日は僕達が近づいてきているのに気付いてると思うんだけど手を振ってくれない。そっとガルボさんの表情を覗き込むと、表情はさらに険しいものになっている。なんだか不穏な空気が流れているような...
そして先輩カカシの前にたどりつく。
「おはようございます。今日も一日頑張りましょう」
「......」
「......」
僕が場の空気をなんとかしようと努めて明るい声であいさつをするも先輩カカシは反応さえしてくれない。先輩カカシはガルボをぎっと睨みつけている。
沈黙が流れる。
「...どの面下げてここに来た?」
先輩カカシが沈黙を破って話始めた。その声を受けてガルボがびくっと反応する。
「...あの時は悪かったな。あれから一度も謝れなかったからよ。タイチの話を聞いてたら会いたくなってな」
「...そうか。俺はあの時お前にされたことを許すつもりはないが、しかし、今日はカカシをやりにきたんだろ?こき使ってやるから覚悟しろよ」
そう言って先輩カカシがにやりと笑った。
「お、おう。あの時とは違って今度はやりきってみせるぜ。どんと使ってくれ」
ガルボさんもそれを受けてにやりと笑った。
なんだろう。最初はすごい険悪な雰囲気だと思ったけど、お互い笑っているのをみると思ったよりも仲が良いのかもしれない。ちょっとよくわからない。
「よし、じゃあ今日もやるか!タイチは例の場所で暴れててくれ。ガルボ、お前は俺と一緒に畑を回るぞ」
「あいあいさー」
「おう、どんとこい」
先輩カカシはそう言ってガルボと一緒にずかずかと畑へと歩いて行った。
僕は例の場所へと移動する。
畑の横のちょっとしたスペースだ。
僕が来るとボスガラスがものすごい襲ってくるので、畑から離れてもついてくるんじゃね?ということで移動したら案の定僕の方を優先して襲ってきたのである。
自分で仕事を作っているだけな気もするが、僕に大部分が寄ってくるので畑はいつもより安全になるんだそうだ。だから無駄ではない。
そして例の場所に到着する。
「今日はもう来てたのか」
そこには左目に傷を負ったカラスが一羽、悠然と立っていた。
辺りを見回してみても他の鳥の気配は感じられない。これも新たな作戦だろうか。
ボスガラスを睨みつける。
その目は澄んでいて、一対一の対決を望んでいるように見える。
おかしな話だと思う。普通ならカラスがそんなことを思うわけがない。しかし、ここ数日剣とクチバシを交わし合って思うのは、思っている以上にカラスは賢く熱い。
僕はそっと剣を抜いた。
「決着をつけようか」
僕の声に応えるように、ボスガラスはカ―と鳴いた。
今僕とカラスの最終決戦の幕があがる。




