14. 隣人はシリアルキラ―?
「ああ、夜風が気持ちいいなぁ」
僕は現在モルカドの夜の街をゴミ袋片手に散策していた。
やっぱり日当が銅貨三枚では少々心もとないというわけで、お昼ご飯を食べた後にもう一度冒険者ギルドに行ってゴミ袋をもらってきたのである。やる気が出た時に行動をしないと駄目だからね。いつまで続くかはからないしさ。
「そろそろ帰ろうかな」
ゴミ袋が五つ一杯になったのでそろそろ潮時だろう。
日が沈んでから結構時間も立った。ゴミを求めてスラム街の方までやってきていたので辺りは街灯もなく真っ暗である。やはり町の中心部に比べて不穏な空気が漂っている気がする。道にもホームレスらしき人が寝ころんでいるし、睡眠の邪魔をしては申し訳ない。本当は夜風を堪能している場合ではないのだ。
僕はふっと視線をあげた。空には星が綺麗に輝いている。こんなに綺麗な星は元いた場所でなかなかみれなかった。山奥とかにいかないとみれないレベルだ。あれだね、こうやって綺麗なものを見てれば恐怖はどこかへ吹き飛んでくれる。
ドン
星に見惚れていると誰かにぶつかってしまった。
「あ、すみません」
「......」
「あれ?あなたは」
視線を下げると、そこには僕の寡黙な隣人、通称黒騎士様がいた。
黒騎士様は表情はほとんど変わっていないが、しかしその目には驚きの色が見えた。
「どうしてこんなところにいるんですか?ここスラム街ですよ?はや―――――」
僕は見知った顔に会えてほっとして話しかけたが、突然口を押さえられ路頭に連れ込まれる。
「おいおいどうすんだ?こいつのせいでバレちまったかもしれないぞ。どうするよヘルファイヤ。やっちまうか?」
「......静かにしてくれ」
誰かと話しているのか?黒騎士様は僕の口に手を当てながらそっと道を覗き込んでいるように見える。話している相手は見えない。
襲われるのかと全力で暴れてみるがちっとも拘束をほどけない。どうやら黒騎士様は見た目以上に力強いようだ。体格は同じくらいなのに不思議である。
だんだんと息ができなくて辛くなってきた。あ、やばいかも。そう思った瞬間拘束が解かれた。
「む~、ちょっと何をするんですか」
「......今日のことは忘れてくれ。俺をみなかったことにしてくれないか?」
「別にいいですけど、何があったん―――うわっ!!!」
突然突風が巻き起こり、ほこりやゴミが舞い上がった。
落ち着いてみるとそこには誰の影もなく、もとから何もなかったかのような静寂のみがあった。
「なんだったんだ?」
はてなと首をかしげながら僕は宿への帰路についた。
その後は何事もなく宿に着き、今日は銅貨八枚の稼ぎで終了である。
翌朝、僕は昨日のゴミ袋を持って冒険者ギルドまでやってきた。
今日も今日とてぺルぺルの窓口に足を運んでいる。
「はい、では報酬の銅貨五枚と依頼用の書類です」
「ありがとうございます」
「しかし、すごいですね。あの後に五つも集めたんですか?大変だったんじゃないですか?」
「いやぁ、スラム街の方まで行ったんで案外すぐに集まりましたよ」
「え!?スラム街の方まで行ったんですか!?」
スラム街という言葉を聞いた途端ぺルぺルが驚いた表情でそう言った。
「い、行きましたけどどうかしたんですか?」
「朝早くに騎士の方が来られたんですけど、なんでも町はずれのスラム街で死体が1つ見つかったそうなんですよ。運が悪かったらタイチさんが死んでたかもしれないんですよ」
「え!?そんなことがあったんですか?」
「タイチさんはまだひよっこ冒険者なんですからあんまり危険なとこには行っちゃだめですよ」
「そんなこと言ってたら冒険者なんてできないんじゃ・・・・」
「スラム街はある意味じゃ外より危険ですからね。それにこの事件の依頼はDランクになってますからね」
「Dランクですか!?」
「そうですよ。先々月から月に1人死んでるんです。犯人はきっと凶暴で凶悪なやつですよ。だから夜は気を付けてくださいね。特にスラム街は昼でも近付かないほうがいいですよ」
「そ、そうなんですか。わかりました。気をつけますね。ではカカシをやりに行ってきます」
「はい、いってらっしゃい」
僕はぺルぺルに見送られながら冒険者ギルドを後にした。
随分と怖い話を聞いたものである。もしかしたら始まったばかりの僕の異世界生活があっさりと幕を引いていたかもしれないなんて。確かにスラム街の雰囲気は恐ろしかったけど、こんなことが起きるとは。異世界に突然転移することの方がよっぽど確率は低くてとんでもないことなんだろうけど、連続殺人の方が身に迫る危険を感じて恐ろしい。
しかし、自分の身の心配以上に僕はちょっぴりと気になることがあった。
黒騎士様のことである。
あの人はあんな時間にあんな場所で一体何をしていたのだろうか。誰かと話しているようだったし、何かを追っているような雰囲気もあった。しかも俺を見なかったことにしてくれと言っていたし、怪しすぎる。まさか殺人犯なんじゃ・・・・。いや、でも怪しいというだけで疑うのはよくないな。第一、犯人だったらあの時殺されていたのは僕だったはずだし。うん、僕はあの時誰にも会ってない。そういうことにしよう。その方が安全のはず。しかし、次会った時どんな顔で会えばいいんだろうか。
そんなことを考えながら僕はニコニコ農場までやってきた。
「よう、兄ちゃん。また来てくれたのか」
先輩カカシが手を振って迎えてくれる。
ここからは真剣勝負だ。ごちゃごちゃ考えるのは後にしよう。
僕はそっと剣を構えた。
さぁ、今日もカカシとして頑張るぞ。




