11. 初任務完了
「お、おい大丈夫か?」
「やってやりましたよ。この畑を守りきました」
僕は満身創痍の状態で、しかし胸を張ってそう応えた。
僕の後ろには鳥の死体が十羽ほど転がっている。鳥たちの最初の戦闘の後、左目に傷を負ったボス鳥が何度も襲ってきたのである。十羽ほどの戦隊を組み、突撃と離脱を繰り返す。最初の戦闘こそ無傷で済んだものの、次第に僕も傷を負うようになり、今では体中に無数の切り傷がつけられていた。
「しかし、初日からこんなに襲われてるやつを初めてみたぞ。よく無事ですんだな」
「はは。なんか左目に傷の付いた鳥に目をつけられてしまいましてね」
「なんだって!!あのボスカラスにか!?」
おや?有名なやつだったのか?
「ボスカラスかはわからないですけど、いろんな鳥を率いていましたね」
「それならきっとボスカラスだ。お前、本当によく無事だったな。それで倒せたのか?」
「いえ、ボスカラスだけは最後まで倒せませんでした。でも、こんだけ仲間を倒してやりましたからね。あいつもすごい悔しそうにしてましたよ」
そう言って、僕は後ろに広がるカラスの死体を見せる。
先輩カカシは驚いた様子で僕をみつめる。
「お前はもしかしたらカカシ界の救世主かもしれないな...」
「そんなだいそれだものじゃないですよ。ははは」
「いや、お前はきっと救世主になるぞ!」
先輩カカシは僕の手を取ってニコニコしながらそう言った。
疲れと雰囲気に酔って調子に乗っていた僕であったが、他人まで熱を帯びてくるとだんだんと気分が覚めてきてしまった。
「は、はい。頑張ります」
僕はこれ以上先輩カカシのテンションが上がらないようにこれで終わりにしようとする。
そんな僕の様子に影響されてかどうかはわからないが、先輩カカシの興奮も収まってきた。
「よし、じゃあ今日の仕事はこれでお終いにしよう」
そう言って、先輩カカシが銀貨1枚と、最初に渡した依頼書を手渡してきた。
「あ、あの?これはどういういう?」
僕は銀貨一枚を見せてそう尋ねる。
「ここでは鳥一羽につき銅貨一枚と交換してるんだよ。だから十羽で銀貨一枚だな。なんだ?鳥を持ち帰りたかったか?」
「いえ、ありがとうございました」
「おう、おつかれさん。本当に期待してるから是非またきてくれよな!」
こうして僕の最初の依頼は、全身ボロボロになりながらも無事に終了したのであった。
日は暮れ始め、空は鮮やかなオレンジ色になっている。
そんな中、僕は朝来た道をとぼとぼと歩いていた。
「冷静になると体中が痛い......」
スウェットのいたるところが破れてしまっている。
歩くとスウェットがすれてとても痛かった。
冒険者ギルドからニコニコ農場までは結構遠い道のりである。
意気揚々と歩いてきた朝でさえ1時間近く歩くほどであった。そんな道を傷を負ってとぼとぼと歩いている今、一体どれくらいの時間がかかってしまうのだろうか。早く戻って傷の手当てをしたかった。
思いがけずもらえた銀貨を眺めて気をそらしながら、必死に足を動かす。
銀貨には何やら王冠をかぶった男の人が描かれていた。この国の王様だろうか?
王様だとしたらこの世界に一国だけなんだろうか?
もしくは過去の偉い人かな?
でも銀貨に王様が描かれているということは金貨には何が描かれてるんだろう。
僕は銀貨の美しさを眺めながら、この世界のことや金貨へと思いをはせた。
なんとか気を紛らせながら歩いていると、ようやく周りに建物が見え始めてきた。
辺りは完全に暗くなってきていたが、街灯のおかげで完全に真っ暗というわけではない。
街灯の中を見ると、ろうそくが置いてあるのが見える。
「へ~。ろうそくの明かりでもこんなに明るいんだなぁ」
もちろん日本にいたころよりは全然暗いが、それでも道や建物を把握するには十分な明るさであった。
そんなこんなで、昨日は見る機会がなかった夜の街を眺めながら歩く。
その美しさに傷の痛みなど気にならくなっていた。
きょろきょろと歩いていると、騎士風の男が声をかけてきた。
甲冑に身をつつみ、冒険者とは全く違う気品を感じるいでたちであった。年齢は僕と同じくらいだろうか。身長は僕よりも小さめであったが、顔はカブトをつけててもわかるくらいにイケメンであった。
「あの、ちょっとよろしいですか?」
「なんでしょうか」
「身分証をみせていただけますか?」
僕は身分証を取り出して、騎士風の男にみせた。
「Fランク冒険者ですか。依頼の帰りですか?」
「ええ、ニコニコ農場というところでカカシをやってました」
僕は依頼書も見せた。
「わかりました。しかし、すごい体中ボロボロじゃないですか。ちょっといいですか」
そう言って、僕の体に手をかざした。すると手が緑色に光輝きはじめ、次第に僕の体も淡く輝き始めた。
「うわ!?」
僕が驚くと騎士風の人も驚いた表情を浮かべたがすぐに戻って、手をかざし続ける。
「はい、終わりましたよ。どうですか?まだ痛いところはありますか?」
「いえ。もうどこも痛くないです」
銀貨を見て、町の景色を見て、どうにかこうにか痛くないと思いこませようとしていた全身の痛みが、騎士風の人が手をかざしたとたんになくなってしまった。僕はスウェットをまくって傷を確認するが、やはりどこにも傷はみられない。
「うわ!?街中で何をしてるんですか?早く洋服を下ろしてください」
「完全に傷が治ってます!何をしたんですか?」
「回復魔法で治したんですよ。回復魔法を知らないんですか?」
騎士風の人は怒っているのか若干顔を赤らめながらそう応える。
しょうがないじゃないか。魔法自体昨日初めてみたんだから。
「初めてみました。ありがとうございました」
「いえ、いいですよ。騎士として当然のことをしたまでです。しかし、夜の町は何かと危険もありますので、気をつけてくださいね。」
そう言って騎士の人は颯爽と去っていた。
かっこいいな......。
傷も完全に癒えた僕は小走りで冒険者ギルドまでやってきた。
がちゃりと扉を開けると、昨日のお昼同様冒険者達が豪快に酒を飲んでいた。
「お~、昨日のウサギの兄ちゃんじゃないか」
僕が入ってきたことに気付いた冒険者が声をかけてくる。
ひげがもじゃもじゃの小さいがガタイのいい男であった。
僕はすこし頭を下げて、受付嬢の元へと向かおうとすると、男がばっと腕を掴んできた。
「おいおい、頭さげておしまいか~?ちょっと話をしようぜ」
そう言って、強引に僕を席の横に座らせた。
本当は早く手続きを済ませて洋服を買いに行きたかったのだが、いきなり冒険者仲間に嫌われてもしょうがないかと僕もこの人と話をすることにした。
「全身ボロボロだが依頼は上手くこなせたのか?」
「はい、カカシの依頼だったんですけど、なんとか無事に終えることができましたよ」
「げ、お前カカシをやってたのか?」
カカシという言葉に男は眉をしかめる。
「はい、やったことあるんですか?」
「ああ、俺も冒険者になりたてのころにな。あれは酷かった」
男はどこか遠い目をしてそう話した。
もしかしたら、この人も鳥達に苦戦したのかもしれないな。
こうしてお互いに共通点を得た僕達はいかに鳥達が危険な存在かを話し、途中からカカシ経験者の冒険者がどんどんと集まって行き、ちょっとした集団ができあがっていた。途中から僕も酒をのみ、気分がよくなっていた。
「そこで、ボスカラスに言ってやったんですよ」
「おうおう」
「たとえこの身ががぼろぼろになろうとも、この畑の野菜達には絶対に手出しさせないってね」
「お~かっこいいじゃなねえか」
「悔しそうに顔をゆがめなら飛んで行きましたよ」
ひゅ~っと口笛が響く。やるじゃねえかと僕の肩をどんどんと叩く。
僕も気分がよくなり、机の上に登って叫んだ。
「僕はカカシ界の救世主だ~」
お~っと雄たけびが響く。
グラスを天に掲げながらゆっくりと視線をおとすと、そこには苦い顔をしたらテレサの姿があった。
「あ...」
僕が何か言おうとすると、テレサはそそくさと冒険者ギルドを後にした。
「やっちまった...」




