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54.連戦

 ご愛読ありがとうございます。


 いよいよ決着近し!

 与楽vsトリスタン。

 与楽vsメフィスト。

 そして、不動明王の降臨。

 大決戦の一幕、お楽しみください。



 

 マカオを占拠して、オランダとイギリスへ引き渡していた頃。


 居留していたポルトガル人達も含めて、怪しい話が流布されるようになっていた。


 完全に大環遠征が失敗してマカオまで陥落したとなると、ポルトガル王室は財政破綻するだろうと。


 遠征した軍隊が消滅、大艦隊も失う、得る物はなく、失う物ばかり。


 艦隊の再整備には膨大な費用と時間が必要だし、マカオを失うことで華帝国との絹の交易も失う。


 植民地支配に欠かせない艦隊と主力部隊も失ったから、植民地経営にも支障が生じるかもしれない。


 とにかく経済的な損失は大きすぎるというのだ。


 軍事的には中核魔法団を失ったのは非常に痛い。

 これで、遠征に参加できなかった高齢者か、未熟な若者しかいなくなった。若年層を実戦投入すれば、殺すだけの結果に終わるだろう。


 今、どこかと戦争するなら確実にポルトガルは負ける。


 外国人達は異口同音に、遠からずポルトガルはスペインに併合されるだろうと噂している。


 これではポルトガルと正規な終戦交渉などやれないかもしれない。


 終戦交渉した所で、相手が消えるなら意味は持たないだろうし。


 それなら実務的に極東地域の拠点を無くしてしまって、軍事的な侵略を不可能にしておく方が良い。


 かくして、マカオ侵攻部隊には引き続きマラッカ攻略の命が下された。


 毛利や九鬼などは殆ど出番がなかったから、これは現地側では歓迎されている。


 既にポルトガル側の抵抗力は弱っている状況だったから、大環側では特別な心配をする必要性は低下していた。


 現地の元責任者アルフォンソとディエゴが揃って、マラッカにはさしたる兵を残さなかったと言うのだから間違いはない。


 海に面して要塞が構築されていて、外敵からの侵攻は防げるようにはされている模様ではある。


 とは言え、主力部隊は大環戦に引き抜かれていたからまともな戦力にはなっていない。


 こうした情報を得て、意気揚々とマラッカに乗り込んでいた大環艦隊。




 マラッカを目前にして、危機に直面することになった。



「おーい、マラッカ方面から黒い雲は広がって来たぞ。嵐になりそうだぜ」


 櫓の見張り台で周囲の監視をしていた男が警告を発した。


 ゴロゴロ。


 ピカリ!


「雷がきたぞ~」


 轟々と暴風も突然に吹き荒れだしてきた。


「おおっと、いきなり風が強くなってきた。高い場所にいる奴は降りろ。こりゃ無理だぞ。うわああっ」


 ・・・言い出した本人が海に叩き落とされてしまった。


 風が強くなったし、波も急に高くなったのだ。


 晴天だった筈なのに、突然の嵐に襲われたのである。暴風に大波、おまけに雷まで落ちて来る。


 突然の出来事だった。


 元から外洋航海用に作られてはいない安宅船は大波に弱い、まともに揺れてしまって船から海に叩き込まれる者が艦隊としては数名出て来る始末だった。


「ええい、ドラゴン魔石の障壁を展開せよ」


「了解、障壁発動します」


 大慌てでドラゴン魔石の結界を発動させて、どうにか結界内だけを平穏に戻せた。


 艦隊周辺だけは穏やか、障壁の外側は大嵐。


 傍目から見たらなんとも珍妙な光景だっただろう。


 それでも雲で太陽が隠れたから障壁内も暗い状態ではある。風と波、そして雷がないというだけだ。


「ぬう、いきなり胡乱な嵐だな」


「誠に、あれは魔法の嫌がらせに相違ありません」


「しかし、敵の魔法団は壊滅したというではないか」


「参戦していなかった者がいたのでしょう。老齢なのか、怪我でもしたのか」


「なるほど少しは骨のある奴が残っておったか。


 まあ、よい。上杉魔法師がいかに精強な敵に見せてやるが良いわ」


「御意、お館様」


 上杉謙信は配下の魔法師に命じて、敵の魔法師を退治することにした。


 海に面した砦の上にあからさまに怪しい人影が立っていたのだ。遠視の術が使える者にはよく見えていた。


 かくして、上杉魔法師10人は砦の上の怪しい人物に掛っていった。


 しかし、この男。


 豪華な錦糸の刺繍の施されたローブを纏い、手には魔石付きの杖。

 顔はフードで覆っているが、何処から見てもカネ回りの良い魔法師にしか見えない。


「やい、貴様。我らに盾突くとは愚か者めが、くたばれば良いわ!」


「ふん、愚かは貴様らだ!


 セイレーンよ、呪歌を歌え。


 彼の者共を海底へ誘え」


 突然、周囲から耳をつんざくようなキーンという嫌な音が響く。


「ぎゃあ」


 耳から血を流しながら上杉勢は海へと落ちて行く。


 大環には無い魔法だった。甲高い嫌な音を目一杯の大音量で一気に叩き込まれたような魔法である。


 喰らった上杉勢は、鼓膜が破られた上に脳震盪を起こして失神したのだ。


 軽めではあるが甲冑を着けていたから、失神して海に落ちれば助からないだろう。


「何奴だ、あれは・・・」


 子飼いの部下である貴重な魔法師を10人も一度に失った謙信は機嫌が悪い。



 部下連中がポルトガルの航海士に聞くと、どうやら房総から行方不明になった筈のポルトガル魔法団筆頭トリスタンではないかと言う。


 あそこまで優秀な魔法師など多くないというのだ。



 実はトリスタン。


 大三郎を救助したメフィストに、ついで仕事で一緒に回収されて一行3人で長崎へ落ち延びた。


 そこからオランダ商船にカネを積んで便乗。

 航海の途中で魔法に物を言わせて乗員を洗脳して配下に変えて、一足先にマラッカへと逃亡してきたのだ。


 だから、マラッカにはトリスタンだけではなく大三郎とメフィストも滞在している。


 トリスタンは意地で大環に一矢報いたかったのだ。だから、マラッカにいた少数の兵士を掌握すると砦を固めさせ自ら先陣に立った。


「ポルトガル魔法団筆頭だと!」


「上杉様、ここはお任せください」


 名乗り出たのは与楽だった。


「お主が出てくれるのなら、申し分あるまい。お任せしよう」


 鷹揚に任せる謙信公。

 彼は熱心な神仏の信奉者であるから、行者上がりの与楽への信頼は高いのだ。



 この戦には貴志は参戦していない。彼はマカオで留守番役をやっている。ポルトガルからオランダ/イギリスの共用地にしたのはいいが、当面は落ち着かないのも間違いない。


 主戦力がマラッカに出ると、少数の押さえの兵士だけで良いのか少々不安が残る。


 少数の兵しか残さないなら、一緒に強いのも残しておこう。

 ドラゴンが空を飛んでいるなら、滅多な事をやる奴もいないだろうし。

 かくして、マカオの用心棒として貴志は留守番であった。


 その代わりと言うのか。

 与楽とクルーガ夫妻が王宮から送り込まれている。

 ドラゴンを召喚することはできないけれど、天変地異ならいくらでも引き起こせそうな戦力だ。


 リューシャ達は王宮で留守番をしている。

 西国には暫く警戒を維持させておきたいから、戦闘魔法師は九州に重点配備している。


 そうなると王都警備の魔法師が手薄になる。それをリューシャと魔女軍団で補っているものだ。王宮としては身内を近くに置いておきたかったという面もある。




 かくして、与楽とトリスタンの対決が始まった。


「やあ、キミは大三郎君と一緒にいた異国の魔法師だね。大三郎君は元気なのかい?」


「貴様は邪竜使いを助けた奴か!ええい、邪魔をしおって」


 ポルトガル魔法団筆頭の実力は伊達ではない。


 咄嗟にトリスタンがやったのは、右から水の塊、左手から炎。両者をぶつけての蒸し焼き狙いだ。


 それだけではない、蒸気爆発が生じたタイミングで雷撃を叩き込むという器用な技を繰り出している。


 普通の魔法師なら少なからぬダメージを受けるだろうこの一撃。



 しかし、与楽は全く痛くも無いという顔で受け流す。



「ええい、貴様。さては実体のない亡霊風情なのか。ならばこれでも喰らえ。


 亡者は地に戻れ、聖なる者よ聖なる証を見せよ!」


 光が生じて辺り一面を包み込む。


 西洋型の邪霊払いの術なのだろう。


 光につつまれた与楽は、なかなか気持ち良い技だなと受け流している。


「ああ、僕は普通に生きている人間だから。


 こうした聖光魔法は意味がないよ。行者だから半分聖職者みたいなものだしね」


「ぬかせ、異教徒風情が聖職者を語るなど不敬もいい加減にしろ。天に代わりて罰を下してくれるわ。


 偉大なる御方に願い奉る。


 かの邪教の輩は改心の情なし。故に塩の柱と為し給え!!」





「?」






「・・・」





「えっと、何の真似かな?」


「何故だ、何故天罰が下らぬ」


「いや、別に天罰食らうようなことしていないし」


「邪教の徒ではないか。誠の神を信仰せぬ大罪人ではないか」


「いや、普通に僕の国の神様を信仰しているしね。妻はアテナ神殿の巫女上がりだし。神様に怒られるようなことはないと思うよ」


「アテナなど真の神などではない!仏など神に値せぬ」


「いやあ、そんな事ではキミこそ罰が当たるよ」


「下らぬ問答など無用。されば邪教徒どもはまとめて死ぬがよいわ。


 偉大なるミカエルよ、彼の者共を打ち払うべし!


 来たれメテオ・ストライク!」



 天空から雲が割れ、地上に向けて隕石が落ちて来る。


 真っ赤に燃えているそれは長い尾を引いているようにも見える。


 あんなものが洋上に落ちたら流石にドラゴン魔石の障壁でも危険かもしれない。



「雲雷鼓掣電 降雹澍大雨 念彼観音力 応時得消散


 衆生被困厄 無量苦逼身 観音妙智力 能救世間苦


 具足神通力 廣修智方便 十方諸国土 無刹不現身


 種種諸悪趣 地獄鬼畜生 生老病死苦 以漸悉令滅」


 咄嗟に観音経を唱える与楽。


 観音様の霊験あらたか、隕石は遥か彼方へと過ぎて行った。



「なんだと、術式のコントロールを失うだと。貴様何をした!」


「見ての通り、ご祈祷しただけさ」


「ええい、この悪魔め!」


「うーん、ウチの国の人だと行者様って呼んでくれるけれどなア」


 もはや、正気を保てなくなったのか。


 トリスタンは魔法の杖で与楽に殴り掛かる。トリスタン本人も聖職者であり宗教的な熱意は教会幹部にも劣らない自信がある男だ。


 異教の徒になど敗けることが自分自身で許せなかったのだ。


 しかし、単純に殴りつけただけの杖は与楽に避けられる。


「キミはどうしたいのだい?キミでは僕に勝てないよ」


「五月蠅い、五月蠅い。貴様は死ねばいいのだ」


 杖を捨てて、腰に差していた短剣を抜いて与楽に襲いかかるトリスタン。


 この攻撃もヒョイと避けて、手刀で短剣を叩き落す与楽。


「キミはもう楽になった方が良いかもしれないね」


 拾った短剣で、トリスタンの胸を突き刺す与楽。


「ああっ、なんということだ。神の楽土を辺境に作り出す筈が・・・。


 おお、神よ目的をはたせ・・・」


 言葉の途中で力尽きて倒れ伏したトリスタン。


「まあ、キミの夢を果たされたらこちらは迷惑なのだからね。余計なお世話というものだよ」






 敵の魔法師を討ち取ったと喝采が飛び出す大環艦隊。


 それに対して、高名な魔法師を討たれて意気消沈のマラッカ守備隊。


 いよいよ上陸戦に移る大環艦隊である。


 士気を失った砦の城門からはポルトガル兵は逃げ出してしまったから、上陸作業は簡単だった。


 大環側は意気揚々と城壁に囲まれた要塞内部に乱入して、戦意を失った数少ない敵兵を捕縛していく。


 最後には司令部らしい建屋を取り囲む。



 この建物には現地の重鎮たちが集まっていた。


 マカオと違ってマラッカ方が遥かに拠点としての機能は大きく、行政機構や教会の幹部らの職位は高い連中だ。


 その連中に混じって大三郎はいた。大三郎の従士としてメフィストも人間の姿を借りて行動している。


 いよいよその幹部が集まっている建物が取り囲まれたとあって、勇者大三郎の出陣が求められた。


 しかし、当の大三郎は優人と理緒を自分の手で殺したことがショックで、依然として呆然としたままだった。


 そうなると従士であるメフィストに、期待の目が集まってしまう。


 内心では喜々としてこの状況を楽しみつつも、外面だけは深刻そうな顔をしつつ。メフィストは出陣に応じた。


「ワタクシめも勇者様に従う者でございます。皆様の危機に際しては我が身を以って、敵を打ち払いましょう」


 内心では美味そうな魂があれば頂くまでだと、舌舐めずりしているのだが。


 かくして正面から堂々とメフィストは出陣して行った。


 高級そうなフルアーマーながらも、兜だけはかぶらずにいるという出で立ちだ。


 手には槍、腰には剣。楯は持っていない。


「我こそは勇者大三郎様が従士メフィストフェレス也。さあ、腕に自信のある者は掛ってくるがよいぞ!」


 取り囲んでいた毛利兵が2~3人、早速とばかりに掛って行く。


 しかし、メフィストは先頭にいた者の突撃をいなして、最後尾にいた者をまず突き殺した。


 そして、2番目にいた男の槍を叩き落してから顔面に槍を突き立てる。


 激怒して突っ込んで来た先頭の男には脛をしたたかに打ちすえて、ダウンした所を止めの一撃をいれる。


 悪魔ながらも中々の武芸を持っているようだ。


 しかし、メフィストの持つ邪悪な気配を感じた与楽が奇襲をかける。


 得意の瞬間移動からの錫杖の一撃である。


 “ガキンッ”


 頭上への錫杖の一撃を見事に槍で防いだメフィスト。


 逆に与楽に突きを出してくる。


 それを避けることも無く正面から受けて、そのまま再度頭を狙った一撃を叩き込む与楽。どうせ敵の突きなどは通り過ぎるだけで効果などないのだ。


 与楽の一撃を後方に飛び跳ねてかわすメフィスト。


 しかし、一呼吸も開けずに追撃した与楽。


 3撃目を槍で受けるメフィスト。


 すかさず追撃を加える与楽。珍しく攻め込む局面が続く。


 “ガキンッ”


 “ガツン”


 “バシッ”


 錫杖と槍の応酬はやがて、多少与楽有利と言う形成になりつつあった。


 動きは多少与楽の方が速い、錫杖の方が短くて軽いということもあるだろう。


 “ガキンッ”


 “ガツン”


 槍と錫杖で遣りあう中で多少なりとも、メフィストの小手や胴に良い一撃が入るようになりだしている。


「ふむ、武芸では劣りますか。それではこうした芸ではいかがでしょうか?」


 突然にメフィストが振るう槍から猛烈な衝撃波が飛び出す。


 その衝撃波は与楽をすり抜けるが、後方で観戦していた毛利勢に飛び込んで100人近い死傷者を出している。


「これではすり抜けるだけですか。これはどうです?」


 メフィストが槍を振るうと辺り一面が凍り付いてしまった。


 しかし、与楽はそのままだった・・・。


「むう、これでは?」


 メフィストが槍を振るうと、爆炎と雷が同時に与楽に襲いかかった。


 しかし、与楽は涼しい顔をしたままだった。


「さても面妖な御仁ですな。しからば・・・」


 次にメフィストが槍を振るうと、与楽の左右の地面が裂けていく。


 しかし、与楽は落下することもなく空中に立っている。


「なんとも面倒な御仁ですなあ。しからばこれは如何か?」


 メフィストから煙が立ち上り、煙が消えるとそこにいたのは1人の老齢の行者だった。


「お師匠様、悪い冗談です。あの世で良寛じいちゃんと茶のみ話でもしていてくださいな」


 そう、与楽が子供の頃に死に別れた慈雲師匠がそこにいたのだ。


「抜かせ、小僧。貴様に術を教えたのはワシだぞ。まだまだ、小僧になど敗けはせぬ!」


「残念でした、今の僕の技は師匠が死んでから身に付けたんだよね。


 そうしないと守れない者がいたんだ。師匠の技だけでは今の僕には勝てない」


 一瞬、与楽の姿が消える。


 慈雲の後方と左に与楽が現れて錫杖の痛撃を加える。


 左からの一撃を受け流したものの、後方からの攻撃をしたたかに受けてしまった慈雲。


 これで変相が解けて、元の西洋人の姿のメフィストに戻ってしまった。


「ええい、なんとも面倒な相手だな。守りたかったのはあの娘か!」


 メフィストは離れた所で観戦していたクルーガの元に瞬間移動で飛んだ。


 そして、クルーガを後ろから抱えて人質に取ろうとする。


 しかし、クルーガを抱えようと触れた瞬間の出来事だった。


 クルーガの胸元が一瞬だけ輝いた。


 その光を浴びたメフィストは、思わず悲鳴を上げたのだ。


「うぎゃあっ、なんだこれは。


 これは本物の神の聖光ではないか!何故、貴様はそんなことが出来る」


 クルーガに触れたメフィストの右腕は手の平から溶け出している・・・。



「ああ、これね」


 ゴソゴソとクルーガが取り出したのはアテナ神殿の御守りだった。


「私はアテナ神殿の巫女だったのだ。


 お務めをしていた数年間、この御守りには念を込めていた。


 しかし、女神の御守りに触れて溶け出してしまうお前は何者なのだ!?」


 クルーガは魔法袋から小瓶を取り出して、メフィストに中身を振りかける。


「ギャアッ、聖水ではないか!」


 地面を苦しそうにのたうち回るメフィスト。


 アーマーを纏った西洋人の姿だった筈なのだが、姿が変貌して行く。


 徐々に異形の人影が浮かんでくる。


 上半身は人型だが、頭上には横に広がる山羊のような角。


 背中にはカラスのような翼。


 下半身は黒毛の山羊そのもの。


 長くしなやかな尻尾。先端は鏃のような鋭い刃になっている。


「お前は悪魔ではないか!何故このような場所にいるのだ!ポルトガルは悪魔に操られていたのか!」





 クルーガの叫びに、観戦していたマラッカの行政機構や教会の高官連中は騒然となった。


「辺境に布教するために邪竜使いの魔王を倒すという話だったのではないのか?」


「しかし、あれは間違いなく悪魔だ!」


「敬虔王は悪魔に魅入られていたのか」


「勇者召喚は教王猊下の御意向もあったとか」


「しかし、悪魔を使役するなど有得ないだろう」


「我が祖国は悪魔に乗っ取られていたのか・・・」






「そいつから離れてクルーガ。魔物はここで封印してしまう」


 与楽は印契を結びながら九字を唱える。


「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前」


 そして、不動明王の種子字カーンहांを描く。


 これでメフィストは動けなくなった。


「ノウマク サンマンダ バサラダン センダンマカロシャダヤ ソハタヤ ウンタラタ カンマン」


「ノウマク サンマンダ バサラダン センダンマカロシャダヤ ソハタヤ ウンタラタ カンマン」


「ノウマク サンマンダ バサラダン センダンマカロシャダヤ ソハタヤ ウンタラタ カンマン」


「ノウマク サンマンダ バサラダン センダンマカロシャダヤ ソハタヤ ウンタラタ カンマン」


「ノウマク サンマンダ バサラダン センダンマカロシャダヤ ソハタヤ ウンタラタ カンマン」


 与楽は印契を変化させつつ、不動明王のご真言を唱え続ける。


 やがて、地面が割れて大穴が開かれる。


 開かれた大穴こそは地獄の釜。


 今ここで地獄の蓋が開けられたのである。


 開けられた地獄の釜から、不動明王が現れる。


 一切の不浄を焼き払う迦楼羅炎を撒き散らしつつ、今その神の御姿が現世に降臨したのである。


 従者の八大童子を従えての荘厳なる爆炎の降臨。


 一切の不浄はこの地から払われるということが、目にしていた者達には直感で理解できてしまう。


 不動明王はメフィストに羂索を投げつける。


 たちまちにメフストは羂索で縛り上げられて行く。


 そして、地獄へと連れて行かんとするその刹那だった。




 その土壇場で大三郎が叫んだ。


「契約に基づき、俺を元の世界に戻せ!」


 メフィストフェレスは確かにその一瞬笑った。


 宙に扉が浮き出て来て、やがて扉が開けられる。


 大三郎はその扉に飛び込んだ。


 咄嗟にルーガを掻っ攫って・・・。



 次の瞬間には不動明王はメフィストフェレスを地獄へと突き落としていた。

 次回はいよいよ決着戦になります。

 異世界から与楽が現代に殴り込み。

 大三郎と最終決戦をやらかします。

 次回「決着!」、乞うご期待。



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