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52.勝利の果て

 ご愛読ありがとうございます。


 今回は神龍の再襲撃決着編。

 そして、ポルトガル侵攻の決着編。

 2本立てになります。

 是非、ご一読ください。



 所は王宮。


 元筆頭魔法師天海の開発した王都全域を覆う魔法防壁展開兵器とドラゴンブレス発射砲。


 魔物追討軍の要員が、必至にしがみ付いて操作している。


 先程から神龍がブレス攻撃を始めたのに対応して、防壁発生装置を稼働させたのだ。


 エネルギー源になっているのは、貴志が屠ったドラゴンの魔石である。通常考えられる最高の素材を惜しげもなく王都防衛用に使用しているものだ。


 惜しむらくは相手がポルトガル軍ではなく、神龍であったことだろう。


 ドラゴン魔石では遥か上位の神龍には遠く及ばない。


 しかし、王都全域を防護できるようなシステムなど、このシステム以外にはありえない。神龍が出て来てしまったのは運が悪かったとしか言いようがない。


 幸いにして初弾のブレスは与楽を通り越したまま、空の彼方に飛び去って見事に空に大穴を開けている。恐るべきことに大気圏外にまで届いているのだ。


 しかし、与楽に命中しても効果が発揮しなかったことに立腹した神龍は、ブレスを連発し出している。


 中には低い軌道で王都上空を通り過ぎるケースが出始めた。


「ドラゴンブレス防壁の1,000m上を通過。コースは王都直上」


「防壁に多少熱を持っただけ、異常なし」


 ちなみに、綺麗な女性がオペレーションしてくれるはずもなく、以下全て追討軍のメンバーである。




「次が来るぞ、軌道低い!・・・総員直撃に備えろ!」


 轟!轟!轟!


 それは轟音と熱と衝撃で構成された、暴力の塊だった。


 接近してくる時間は本当なら一瞬だったのだろう。しかし、それを見ている者にとっては永遠にも感じられる時間でもあった。


 ゴーン!


 凄まじい衝撃音が王都中に鳴り響き、大地が震えた・・・。


「内藤新宿上方で防壁に掠った!ブレスはそのまま直進して通り過ぎた」


「防壁に穴が空いた。直径3kmほどの大穴」


「現地の被害を報告させろ、町奉行を走らせろ」


「防壁の修復できません、穴が大きすぎる」


「神龍のブレスなどに対応しとるわきゃないだろ!


 もう一発食らったらオワリだわい。


 ええい、ドラゴンブレス発射砲の魔石を防壁に流用しろ、迂回回路接続してしまえ。


 どうせあんな化け物相手に並のドラゴンブレスなぞ役に立たんわ!


 急げ、児雷也!」


「ええい、繋げ繋げ。急げ、ホラ急げ!」


「次弾来ます、2発続けて!」


「軌道高い。逸れる。」


「魔石直列接続完了。魔力増幅を確認。出力2倍に」


「ブレス上方に外れ。被害なし」


「内藤新宿は火災なし。ただし、驚いて怪我した奴が多数」


「それくらいなら暫く放置しとけ。今は外出禁止にしとけ。何が起きるか分からんぞ!」


「次弾発射。太平洋方面に抜ける軌道だ」


 男達は額に脂汗を垂らし、血眼になっている。この状況でも確実にオペレーションを実行してのける辺りは流石に万余の魔物相手にして来た連中だった。


 本来なら技術開発部門の要員で操作させるつもりだったのだが、その要員達は神龍接近の報にすっかり怯えて混乱してしまったのだ。


 前回、王宮にあって唯一戦意旺盛だったのが児雷也以下の部隊だけだった。


 そこで今回の作戦要員として引っ張り出されているのだ。どうせ放っておくと、また暴れ出すかもしれないという危惧もあったようだが。


 しかし、彼らに運用を託したのは正解だったようだ。クソ度胸が据わっているというのか、とにかく動じていない。




 その頃の玉座。


 陛下は悠然と座している。


 皇太后と皇后も一緒だ。


 じっと、目を閉ざしている。


 実は神龍出現の報に接した彼らは、長男の皇太子を古都に、次男の皇子を那古屋に、末の皇女はイルマータ領へと瞬間移動の術者に退避させている。


「もし、自分達に何かあった場合は、皇太子が、それが叶わぬ場合は皇子に、それが叶わぬなら王女が。


 しっかりと後を継げ」


 神龍の襲撃。

 前回は貴志の陽動作戦が成功したが、二度も通用するとは限らない。

 実際に貴志は行方不明になって、捜索に難渋したほどだ。


 流石に幸運に何度も期待はできないだろう。


 せめてもの心づくしに古都には柳生但馬を、那古屋には柳生十兵衛を同行させている。そして、イルマータ領では柳生宗冬を頼れと。


 主立った武将達は戦場にあるか、国元で警戒しているか。

 王宮に出仕しているのは家康旗下の限られた部将たちしかいなかったのだ。


 皇子や皇女を外に逃がせたのも、房総の戦場から逸早く出雲が帰城して、与楽が先陣を切って神龍に向かってくれたからに他ならない。

 それだけで、王宮に精神的な余裕が生まれたのだ。

 座して死を迎えるよりも、抗うだけ抗ってやろうという意志が首脳陣に生まれたのである。




 場面を神龍と与楽の戦っている場所に戻そう。


 空中を一歩一歩、歩んで来る若者に神龍は生まれて初めての恐怖を感じていた。


 一切万象を悉く焼き尽くす筈のブレスが通用しない。


 そんな人間などいる筈が無い。


 いる筈が無いのに、目の前で歩んで来る。


 手には龍殺しの神剣を持ったまま。


 その表情は昂ぶるでもなく、怯えるでもなく。


 全く平常心という佇まいだった。


 生を得てから数万年経っている神龍は、初めての恐怖に逃げ出した。


 瞬間移動で南へと。


 しかし、直後に若者は追いかけてきた。


 再び瞬間移動で逃げ出す神龍。


 今度は北へ。


 それでも、若者は追いすがって来る。


 結局、神龍はねぐらのある富士の樹海に戻ってきた。


 若者もすぐに追いついてきた。


 文字通り神龍の眼前にだ。


 若者は神龍の右眼に思い切り神剣を叩きつけた。


 たちまち飛び散る多量の血液!


 神龍は自らの体を傷つけられることすらも初めてだった。


 痛いという感覚、流れる血潮、そして視界が半分消えたという衝撃。


 “ギャアッ”


 思わず痛いと叫び声を上げる神龍。


 本来なら傷ついても、直ぐに自己修復する筈の神龍なのに傷が治らない。治り始める気配すらない。


 やがて、巨大な右目が散々に斬り裂かれて眼球がボロリと落ちてしまった。


 苦痛と体の一部が失われてしまったという恐怖が神龍を苛んだ。


 やがて、若者が左目の前に移動して来た。


 神龍には、もう戦意など無かった。


 目を閉じて、慌てて樹海の巣穴に瞬間移動して逃げてしまった。



 “ぐぎゃあ、ぎゃああ”


 巣穴で痛みと恐怖に泣きわめく神龍。


 しかし、その巣穴まで若者は瞬間移動で追ってきた。


 一片の慈悲も期待できぬと神龍は悟った。若者から表情など消えていたからだ。


 一切の感情を消し去ったような無表情。


 神龍はパニックに陥った。


 ただ恐怖に怯えて、体がすくんで動かない。


 そこに容赦のない斬撃が繰り出されて来る。


 何物をも通さない筈の神龍の鱗が容赦なく切り裂かれる。決して広くない巣穴に血の匂いが充満する。


 神龍はもはや体を丸くして、切り刻まれるに任せるだけだった。


 涙を流して、失禁して、悲鳴を上げるだけの神龍。


 既に右腕を肩口から切り飛ばされて、左腕も肘から無くなっている。



「お待ちください、行者様。


 その龍は性根悪く、龍王方の諫言にも耳を貸さない邪龍です。しかし、神格を持っていることも事実です。


 どうか命だけはお助けくださいませ」


 突然と姿を現したのは女神であろうか、荘厳な空気を纏った美しい女性。


 清浄な空気に思わず殺意が消える与楽。


「某は与楽と申します、御身はどなたでございましょうか」


「私は善女龍王、皆さまは清瀧権現とも呼ぶようです」


「この邪龍は王国を焼き払い民草に迷惑をかけるのですが」


「はい、同じ龍の一族としてお恥ずかしい限りです。


 しかし、このまま討ち果たせば御身は呪を受けてしまうでしょう。それは良い事ではありません。御仏の教えの道を行く方ならば、お慈悲を賜りますよう。


 その代わり、この者が二度と悪さをせぬように私が封じておきましょう。


 誓約の印にこの宝玉を差し上げます。3度あらゆる願いを叶えてくれる霊玉です。


 どうぞお好きなようにお使い下さいませ」


「何でも良いのですか?死者を甦らせたいとかでも」


「御身が慈悲から望みを叶えて差し上げたい方がいるのなら使い下さい。それもまた因果なのです」


 笑顔を残して権化様は姿を消して行った。


「まあ、ここまでかな。そうだ、鱗と血を少々もらって帰ろうか・・・」


 与楽が瞬間移動した直後。


 樹海を地震が襲い、神龍は地中深くへと沈下して行った。





 王宮では神龍が逃げ出したところまでは遠視の術で確認できていたが、神龍と与楽が姿を消してからのことまでは見えてはいなかった。


 だから、与楽が王宮上空で陣取っている貴志の元に突然現れて何事かを伝えて、一緒に帰城してはじめて危機が去ったらしいと認識された。




「出雲殿。もう終了です、神龍は清瀧権現様が封じて下さいました」


「えっと、神龍に勝っちゃたの!?」


「いいえ、僕は右眼と両腕を切り飛ばしただけです。そこに清瀧様がご降臨されて、封じて下さっただけで」


「いや、それって・・・・・・・・・俺には絶対無理だから」


「いやあ、大丈夫でしょう。こうしてここで踏ん張っていた訳だし」


「俺は死ぬだろうと思っていただけだから・・・。


 もう、何というか・・・。そうだ、今日からアニキと呼ばせて頂きます」


「え、正2位殿からですか」


「いえ、俺にはドラゴンが限界ッス。アニキみたいに神龍退治は無理ッス」


「その話し方は止めて・・・」


 貴志が呆れた顔をして、与楽が苦笑いしているのを遠視の術で見たものは、与楽の神龍殺しを確信してしまった。


 大騒ぎになっている王宮へ帰還して、宰相立ち合いの元で陛下に経過報告。


 神龍の鱗5枚と血液一升瓶1本の戦利品を献上した与楽。


「なんと、神龍を引かせた挙句に清瀧権現様のご加護までいただくか!」


「いや誠に天晴れ」


「さすがアニキ!」


 陛下、宰相、貴志の順である。


 いままでどちらかと言うと与楽に反発傾向にあった貴志が、いきなりのアニキ発言に宰相と配下連中はビックリだったが、和解してくれた方が楽でいいと納得したようだ。



 与楽が献上した神龍の鱗と血液。


 それを見た天海はまたぞろ次はアレを使って・・・とブツブツ言いだしたが、今回は見事王都軌道へのブレス一発を何とか逸らす事に成功して防壁の威力を証明したから鼻高々であった。





 さて、同時刻の房総の富津から木更津にかけての地域。



 ポルトガルの大砲陣地は陥落寸前の状態だった。


 イルマータ魔女軍団からの冷却魔法で大砲に着火できなくなったポルトガル陣営に、ここぞとばかりに武田騎馬軍団が一斉に突撃を敢行したのだ。


 それも、今度は鉄砲部隊と歩兵部隊も後ろから突撃して行く断続的な攻撃だった。


 大砲と鉄砲を封じられたポルトガル軍は、魔法団を押し立てて抵抗せんとする。


 しかし、イルマータ陣営からは魔法師だけをピンポイントに狙撃する。

 器用な術の使い方に長けている者が大勢いた。


 大威力の魔法は敵味方入り乱れた乱戦になると使い難い。


 そうした乱戦の中でも器用に、敵だけを狙い撃つ。魔法の精密制御の訓練をじっくりやった術者なのだ。


 なにしろ齢280才という魔女が50人もいるのだ。

 体力は衰えても技の精密さにかけては、若い者の追随を許さない。

 12才や14才の子供と280才のベテランが同じ場所にいると、実にコントラストが鮮やかになるのだ。


 才能に任せて大雑把に使用される魔法と、磨き上げられたベテランの精密な魔法。

 乱戦の場では間違いなく精密さが求められた。


「実戦をくぐってみるものね。私達では荒っぽくて駄目な場所にもお姉様方は器用に当てて行くわね。参考になるわ、学校でもっと精密制御の指導をしないと」


「そう思うわ、リューシャ。これだけ乱戦の中でも安定している。私達だと大雑把にやり過ぎるみたい」


「私の風魔法だと確実に武田勢も巻き込んでしまいそうで・・・」


「シオーヌ、絶対にやめておいてね。後で問題になるわ」


「いっそ、斬り込みに行ってしまおうか」


「それこそ駄目よ、公爵勢が武田勢の手柄を横取りしたと文句を言われるわ。ここはあくまで魔法師を潰すだけにしておいて」


「ああ、難しい・・・」




 武田勢がポルトガル砲撃陣地を攻め込んでいる時、ついにポルトガル本陣後方からも混乱を告げる悲鳴が上がって来た。


「後方にも大環軍がきたぞー」


「まずいぞ、大軍じゃないか」


「鉄砲が先頭にいるぞ、伏せろ、伏せろ」


 “バーン”

 “バーン”

 “バーン”

 “バーン”

 “バーン”


「うああっ」

「いだっ」

「だめだっ」

「ぎゃっ」



 アルフォンソ直卒の本陣部隊は、後方からの攻撃を全く想定していなかった。

 後方には有力な部隊などいないと考えられていたのだ。


 所がどうだ、どうにも後方から押し寄せて来る連中だけでも、十分に2万以上いそうな大軍ではないか。


 前方の敵も2万以上いる大軍勢だったが、それが後方にもいる。

 そして、横合いからは船上から魔法攻撃してくる面倒な連中すら存在している。


 アルフォンソは躊躇した。

 本来ならここで後方の敵を突破して、船で脱出を図るべき局面だ。


 腹背に敵を受けて戦い続けるなど無意味だ。


 しかし、このまま逃げ帰っても自分は処刑されるだけだろう。

 なにがなんでも手柄が欲しい。


 最悪の局面ではあるけれど、何とか乗り切らないとダメだ。

 イラつくことには、トリスタンがいない。


 邪竜使いを殺しに、勇者と共に出たまま帰ってこないのだ。

 確かに邪竜使いはいなくなった。


 これは相打ちにでもなったのか・・・。


 しかし、邪竜殺しが不在になったら、代わりに威勢のいい魔女軍団が登場してきた。


 一体、この国にはどれだけの魔法師がいるというのか!


 アルフォンソは結局副官のディエゴに後方からの敵に対処させて、その間にとにかく全面の敵を潰す決意をした。


 大砲陣地に攻め込んでいる敵を撃破して、それから後方の敵を叩いて帰還する。


 大環勢を壊滅させる必要などない。敵に引かせればそれで十分だ。


 ディエゴに5,000の兵を預けて、自らは主力の10,000を以って突撃を敢行することにしたのだ。


 アルフォンソは武田という武将を知らない。

 権謀術策に長け、戦場での駆け引き、突破力。どれをとっても当代一流の指揮官であると知らぬままに突撃を開始した。


 アルフォンソは大砲陣地に向けて前進する。左手に海、右手に山を見ながらだ。


 大砲陣地に断続的に突撃している武田勢左手に山、右手に海を見ての突撃だ。

 そして、武田勢は突撃しては徐々に海側に位置して行っている。

 イルマータ勢の黒船を背中に置くような位置関係だ。


 海                   山

 海          武田勢      山

 海       ←   ↓        山

 海     ↓     ↑        山

 海    武田勢  大砲陣地      山

 海           ↑        山

 海        アルフォンソ     山

 海         ディエゴ      山

 海           ↓        山

 海           ↑        山

 海         最上・佐竹      山



 やがてアルフォンソは大砲陣地に到着する。

 この時に大砲陣地から見ると、武田の主力部隊は海側にいるようだ。菱形マークや漢字の軍旗は海側に翻っている。正面側の方が兵は少ない。


 武田側が兵を2分して、ポルトガルの正面と側面を突こうとしているのだろうと、アルフォンソは考える。

 だったら、正面の兵を突破して敵の王都方面に進撃するまでだ。

 アルフォンソは海側の敵を無視して前進することを命じた。



 海                   山

 海          武田勢      山

 海       ←   ↓        山

 海     ↓     ↑        山

 海    武田勢  大砲陣地      山

 海        アルフォンソ     山

 海                   山

 海                   山

 海         ディエゴ      山

 海           ↓        山

 海           ↑        山

 海         最上・佐竹     山




 既に役に立たない大砲を捨ておいて、魔法団を先陣に配置して前進を開始したアルフォンソ。

 海沿いの敵の攻撃は無視して、ひたすらに前進する。


 しかし、そこでアルフォンソは発見してしまった。

 前方にはさらに強力な防衛ラインが構築されていて、どう見ても5万やそこらの兵力がありそうだと。


 前面には大軍。

 側面にもこちらと似た軍勢。

 背部にも、相当の軍勢が攻め込んできている。


 完全に包囲されてしまった状況だった・・・。


 後方の敵にあたらせようとしたディエゴとの距離も、アルフォンソが進撃したことで開いてしまっている。



 海         本多勢       山

 海                   山

 海                   山

 海                   山

 海                   山

 海                   山

 海           ↑        山

 海    武田勢  アルフォンソ    山

 海                   山

 海                   山

 海                   山

 海                   山

 海                   山

 海         ディエゴ      山

 海           ↓        山

 海           ↑        山

 海         最上・佐竹     山



 やがてアルフォンソの前方に展開していた敵陣から法螺貝が鳴らされる。


 “うおお~”

 “いけや~”

 “かかれ~”


 勇ましい声。

 そして、地響きのごとく響き渡る大軍の進撃の足音と馬蹄。


 今や5万の大軍が怒涛の勢いでアルフォンソに向けて動き出した。


 それに呼応するかの如く、武田勢も横合いからの攻撃に厳しさが増してきた。


 鉄砲を散々に撃ち込んで、崩れた場所にはすかさず突撃を敢行して。


 実に段取りよくアルフォンソの陣営を削り取って行く。


 かといって、アルフォンソには増援を繰り出す余力などなかった、前方の敵は明らかにアルフォンソ陣営の2倍以上の敵だったのだから。


 ジリジリと前方の本多勢がアルフォンソ陣営に接近して来る。


 ここで恐怖に駆られたポルトガル軍兵士達が恐慌を起こして、三々五々勝手に山の方向に駈けだしていってしまう。


 もはや、槍や楯など放り出しての逃走だった。


 しかし、彼らの逃亡は未遂に終わる。


 突然、山と逃亡兵の間に巨大な地割れが生じたのだ。


 勿論、イルマータ魔女軍団による魔法による地形変容だ。


 戦意を失って、逃げ道を失ったポルトガル兵士達はその場に座り込んでしまった。


 一部とは言え、兵士が逃げ出し始める。それを押しとどめる策などアルフォンソにありはしなかった。


 なによりアルフォンソ本人が逃亡を企てたのだ。


 彼は近くに置いていた魔法師に、乗って来た黒船まで瞬間移動するように命じた。


 ひゅん。


 一瞬のうちに船に戻ったアルフォンソ。


 しかし、そこに待っていたのは浦賀水道を横切って、館山に到着していた榊原勢だった。


 既に黒船にはポルトガル人など乗船していなかったのだ・・・。


 たちまち捕縛されるアルフォンソ。


 瞬間移動させてきた魔法師は、そそくさとアルフォンソを置いて逃げ出してしまった。


 逃げ出した魔法師はディエゴの元に行った。


 ディエゴはディエゴで圧倒的な敵勢に押し込まれて大苦戦の真っ最中だった。


 彼らはアルフォンソに本多勢が向かっていることに気が付いていなかった。そこに忽然と魔法師が現れてアルフォンソの逃亡と捕縛されたことを告げたのだ。


 ここでディエゴはついに匙を投げた。


 停戦を命じ、降伏を申し出たのだ。


 彼の指揮していた部隊はまだマシだった、指揮官がしっかりとしていたのだ。


 アルフォンソ逃亡後のポルトガル本陣は悲惨だった、戦意を失ってへたり込む者がいれば、パニックになってひたすら突撃する者と。


 大環側では攻撃して来る者がいる以上攻撃の手は休めない。


 だから、戦意旺盛だったポルトガル兵が壊滅するまで、戦闘が継続されることになってしまったのだ。


 ポルトガル本陣の1/3以上がこの戦闘で討たれている。


 そして、戦意を失った者だけが最後に残っていた。


 最終的に大環の捕虜となった者は本陣とディエゴ勢の合計で8,000人程に上った。


 当初33,000人で討ち入りして、生き残ったのは8,000人だけ。


 終わってみれば、大環の圧勝だった。




 戦勝の報に王宮は大いに沸いた。


 しかし、まだまだ問題山積である。


 ポルトガル王に公式な賠償を求めなければならないが、そもそも国交などないのである。


 金や銀を出せといっても大環側がポルトガルまで、遠路はるばる取り立てに行くというのはあり得ない話だろう。


 かくして、より面倒な第二段階の作戦が発動されることになった。


 マカオの占領である。


 マカオのポルトガル資産を差し押さえてしまう。

 そして、マカオの租借権をポルトガルから取り上げて、それをオランダとイギリスに大環から貸し出す。


 オランダとイギリスから租借料を回収することで、今回の賠償に当てようという腹積もりだ。


 オランダとイギリスはこれに合意している。


 彼らとしてもポルトガル勢力を極東から追い出したいくらいだったのだ。


 大環がやってくれるのなら、勝手にやってくれと言う程度の話だった。


 かくして、マカオ侵攻部隊。


 上杉、前田、九鬼、毛利、合計3万。

 動員艦船;伊呂波丸以下、安宅船10隻、関船30隻、朱印船30隻。

 それに鹵獲した黒船を3隻。


 これだけの軍勢を動員しての一大侵攻作戦が発動されることになったのである。


 さて、次回は逆侵攻編へと場面が変わります。

 大三郎とメフイスト、トリスタンの逆襲なるか!

 そして、神楽耶と樹里は理緒と優人の蘇生を願うのか?


 上杉勢が動くので、当然ながら慶次郎も参戦します。

 異国を見て慶次郎や直江は一体何を言うのか?

 乞う、ご期待です。


 ただし、申し訳ありませんが所要につき25日月曜の更新はありません。

 26日からの再開になりますので、ご了承くださいますようお願い致します。

 それでは、火曜日にお会いしましょう。


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