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50.散る華

 ご愛読ありがとうございます。

 いよいよ、勇者vs英雄対決クライマックスの一幕です。

 勇者大三郎の手にかかる、竜殺しの英雄。

 そして、勇者達に悲劇が襲いかかる・・・。



 第49話で訂正しました。お詫びいたします。

 館山に布陣しているのは最上・佐竹勢。

 富津に布陣しているのは武田勢です。

 文中で間違っていた部分がありましたので訂正しております。

 混乱した方には大変に申し訳ありません。




「ああ、やっぱり駄目かあ。ケチるのはヤメだ、ヤメ。相手のペースになんて合わせるのが間違いだな!


 ええっと、味方の皆さんを巻き込まない奴しかダメだとすると・・・やっぱりこれに尽きるか。オイラの原点って、やっぱ埴輪だよな!」


 牛頭、馬頭が倒されても全く動じる気配のない貴志。

 15m級埴輪1万体、そして25m級埴輪3千体を一気に召喚する。


 随分と貴志の召喚術には余裕ができるようになっている。実際にはこの状態からでも、まだ桜色ドラゴンを召喚できるだけの魔力の余力が残されている。


 戦に身を置き続けている貴志の召喚術は、最初の頃に200体の埴輪を召喚して大喜びしていた時代の物とは全く異質の物に進化している。


 貴志が埴輪を召喚したのに合わせて、大ガマ、大蛇、大鷹が姿を消した。

 小隊長連中は自分の小隊指揮に専念するつもりのようだ。



 魔物達の戦力差としてはポルトガル側で依然として、グリフォンとキュマイラ、ケルベロスだけで23,000から100程度減った程度。

 ミノタウロスは6体健在。

 クラーケンは牛鬼が3体程食い殺して、残り1体。


 対して、貴志のゴーレムで13,000体。

 数では劣勢だが、実戦力では圧倒的に優位にある。


 15mゴーレムでグリフォンと戦うと、ゴーレムが1体やられるまでにグリフォン5体を屠れる。

 25mゴーレムに対しては、グリフォンの攻撃はほぼ無効化され通用しない。



 小隊長達はゴーレムの網から逃れて武田勢に迫る魔物を阻止することに専念できる状況になった。

 小隊長指揮する追討軍が主力なのではなく、あくまで貴志のゴーレム軍団が主戦力に切り替わったのである。



 但し、こうした感覚はあくまで大環側の人間だけに理解できる感覚だ。

 武田勢は貴志と狩りを共にしたから、その感覚を理解できてしまう。出雲がドラゴンを屠ることが出来る程度の戦力を投入したのだと。



 ポルトガル側では巨大な牛頭・馬頭を討たれて、苦し紛れに小さなゴーレムを大量召喚したという認識になってしまう。

 ミノタウロスが勝っただけに、気が大きくなってしまうのは止むを得ないだろう。



 ミノタウロス6体に対して、25m級ゴーレムが20体で取り囲み雷を叩き込んで行く。


 “ウガッ”


 “ギャアッ”


 “ヴモッ”


 ミノタウロスには生き物らしい感情を感じさせる。

 対して、ゴーレム軍団にはそうした気配は微塵もない。ただ、目の前の敵を蹴散らして蹂躙して行くという機械的な印象が強い。


 悲鳴を上げ、血飛沫を撒き散らし、肉が焦げる匂いを撒き散らし。


 やがて、ミノタウロスの6体は倒れて行く。

 ミノタウロスの方が大きいのだが、戦力としては圧倒的にゴーレムが上だった。魔法的な攻撃を行えるのは圧倒的なアドバンテージだ。


 そして、残るグリフォンとキュマイラ、ケルベロス集団は今や完全に狩りの対象と化していた。


 ゴーレム達は25m級を隊長格として、15m級がそれに従う兵士という組織だった戦闘をやる。本来ならここに3m級ゴーレムが加わるのだが、このサイズだとグリフォンにやられることが多いので今回は投入されていない。確実に勝てるサイズのみが投入されたのだ。


 25mの石の巨人が、15mの石の巨人を3~4体引き連れて、重量感溢れる足音を立てて進撃していく。


 大環の人間なら良く知る古代の甲冑を身に纏うその姿は、防人を原型にされている。古の世に半島や大陸勢力からの侵攻に備えた“もののふ”達を写した姿なのだ。


 その“もののふ”達が今やポルトガルからの侵略者を排除せんと矛を手に進撃して行く。


 大環の人間には頼もしく、胸が熱くなるような光景。

 しかし、ポルトガル兵にとっては、まるで魔神が進撃して来るようなものだ。不吉の象徴のような物だっただろう。


 次々と召喚された自慢のグリフォンが、ケルベロスが、キュマイラが一方的に殺されていく。


 ポルトガル軍と武田軍の正面からの戦闘はこうした状況だった。




 この少し前の頃。


 ポルトガルと武田勢が戦闘開始した直後のことである。


 山に退避した佐竹・最上軍に増援が訪れている。

 イルマータの魔女集団である。


 彼女達の狙いは兵士達が降りて、兵士がいなくなった黒船だ。

 今回の房州戦では敵を包囲殲滅する事が求められている。わざわざ本土に上陸させたのは、二度とポルトガルに戦意を抱かせない程度にトコトン叩く事に意義がある。


 当然、敵兵を逃がすようなことがあってはならないのである。


 逃がさない為には、船が無くなってしまえばいいのだ。

 船を沈めてしまうか、こちらで乗っ取ってしまうか。

 どうせなら速度が速い船を全部貰ってしまえばいい。浦賀で敵船が悠々と逃げ去っていくのを見過ごしたリューシャは、そう主張したのである。


 敵が上陸するのなら、船はそこにある。

 どうせなら留守番の兵士だけを殺して、船自体はコチラで貰えばいい。


 そうそう忍者に忍び込ませるのが困難だというのなら、大規模魔法をかまして船の中の人間だけ死んでもらえばいい。

 与楽と出会ってから、すっかり野生的な部分が目覚めたご令嬢であった。


 具体的には毒霧でも充満させるとか、船を燃えない程度に熱くして殺すとか。

 与楽に突撃させて、乗組員を殺させるとか。


 再利用を考えると、船を熱すると火薬があったら危ない。

 凍らせて中の人間を殺すのがいいだろう。ついでに船にいるだろうネズミ退治にもなるだろうし・・・。


 大慌てで軍議の席で妻の発言を修正する与楽だった。

 どうせ、側室達がいれば船を燃えない程度に熱するか、凍らせるくらいは簡単だろうと、非常にカンタンに考えていた夫であった。


 実際にこのプランが採用された。

 上陸していったら、帰るべき船が消えていたらどうなるのか?

 いや、この際だから分捕った船からポルトガル軍を砲撃したらどうか?

 本多の顔が徐々に悪人面に変わって行った・・・。



 この作戦。


 やり方は簡単で、極めて乱暴なものだ。


 敵船まで乗り込んでいって凍らせる。


 どうせ敵主軸の魔法師連中は上陸して行く兵士に同行するのは間違いない。


 だったら、こちらは強力な魔法師で乗り込んでいて、留守番程度の魔法師如きは、蹴散らしてしまえ。恐らくは留守番の士官や漕ぎ手などが残っているだろうけれど、まとめて始末してしまえばいい。


 魔法師4人1組にして、魔法障壁を展開しつつ敵船に瞬間移動で乗り込む。


 その後に魔法を行使。


 その後、佐竹と最上勢を手引きして船を乗っ取る。


 どうせ敵の主力は前進した後だろうから、留守番部隊は多くないだろうから簡単だ。


 この話に大喜びしたのが隠居状態だった魔女連中だった。

 そんな経験したことが無いとノリノリ。


 人を殺した事が無いというような魔法学校のお嬢さんたちと違って、スレッカラシ連中には容赦がなかったのだ。


 かくして、魔法女学校生と老魔女が組んで作戦開始となっていった。




「さあ、行くわよ!


 お嬢ちゃん達準備イイ?


 障壁張ったわね・・・。


 そうれっと」



「はいっ、とーちゃーく!


 それじゃ凍結魔法用意して頂戴よ。


 いーち、にーの、さんっ。ドーン!」



「おい、お前らは何者だ。何故こんな所に女が来た!」


 ポルトガルには真面目な留守番がいたらしい。


 突然現れた連中が妙な事を叫ぶ。


 しかし、この留守番氏。誰何したまま答えを聞くまでも無く死んでいった。


 船が急速に低温化したのだ。


 こうした光景はあちらこちらで見られた。


 中には突然現れた魔女達に怯えて鉄砲を放った番兵もいたが、魔法障壁を展開していたので魔女達に被害はない。


 凍った甲板に足を滑らせて転んだという例は、数件あったけれども。

 学生の中にはドジッ娘属性の者がいたらしい・・・。


 流石、平均280才の魔女連中は凄かった。皆揃って瞬間移動くらいやってのけたのである。


 移動要員と障壁要員。そして、凍結要員2名で事を運ぶ手筈だったのだが、大抵は老魔女連中が移動を務めた挙句に凍結要員も兼ねていた。


 多少混乱したのは皆同じような外観の船だったから、誰がどの船を目標にするのかという点だった。


 こればかりは仕方がないので、結局は1組ずつ先頭から順番に乗り移るしかなかった。

 敵船は23隻だったから、順番に移動していくのが一番の手間ではあった。


 けれど、作戦開始から最後の船が凍結されるまでが都合20分ほど。

 実際に時間がかかったのは順番待ちの時間が一番長かったというオチであった。


 船に残っていたのは各船とも概ね30~50人程度。


 瞬間移動に気が付いた者も、気が付かなかった者も、全部差別なく船は凍って行った。




 さて、船から降りて館山に仮設陣地を設営していたポルトガル留守番兵が800名程。


 彼らは最上・佐竹勢と正面から衝突した。


 最上義光が1.5万人、佐竹義重が1万人と、対して800人の留守番では、どうにも勝負にはならない。


 ポルトガルは少数の大砲を備えていたが、最上・佐竹共に魔法師がいたから簡単に沈黙させてしまう。


 後は、大環側の人数が多すぎてポルトガルの抵抗は焼石に水に終わった。


 かくして、館山には2,000人の兵を残して、最上/佐竹勢は武田勢との合流を目指してポルトガル軍を追撃に移って行った。


 彼らにはイルマータ魔女軍団が同行する。


 捕獲した船に関しては、湘南方面から榊原配下の水軍が応援に来て操船してみようという事になっている。


 貴志が牛頭・馬頭からゴーレムに主戦力を変更した頃、別の戦場でも動きは起きていたのだ。


 魔物同士が戦っている最中に、ポルトガル兵は帰国する術を失っていた・・・。






 さて、貴志がゴーレム軍団を召喚した戦場に場面は戻る。


 ミノタウロス、クラーケンは既になく。


 グリフォン、キュマイラ、ケルベロス集団が、あっと言う間に18,000まで削られている状況だ。


 ポルトガル軍は魔物が展開している平地部分を迂回。海の反対側にあたる小高い山に沿って武田軍へと進撃していた。


 武田勢は富津の海沿いにある小高い山に本陣を置いて、周囲に馬防柵を設けて鉄砲隊を配備。

 本陣の山から少し離れた位置に騎馬軍団は控えている。


 ポルトガル軍の先頭には鉄砲集団。

 その後ろには既に召喚獣を失っている魔法師60人に支援させて、大砲と弾薬を魔法袋に入れて運ばせる。

 砲撃要員達は手ぶらで進撃について行っている形だ。


 武田勢とポルトガル先頭部隊の距離が1kmを切ったあたりで、ポルトガル側は大砲を設置し始める。


 砲兵が準備している間には、魔法師達が防壁を展開。

 武田側の魔法師は魔物に対処していて、ポルトガル軍への対処には手が回っていないように見受けられた。


 しかし、武田本陣の山頂からはポルトガル側で砲列の用意が進んでいることが見えていた。

 当然、砲撃などさせるものかと、妨害に出る。


 武田騎馬軍団の出陣である。

 今回は騎馬8千を大奮発しての参戦だった。騎馬集団たちはいきり立っていたのである。


 眼前で繰り広げられている、巨人と獣の戦いには些か関与し難い。

 しかし、相手がポルトガル軍ともなれば話は別だ。

 大砲と鉄砲?それがどうした!気合でそんな物蹴散らしてくれるわ!


 かくして、山県昌景、高坂昌信、内藤昌秀といった猛者たちが突撃を開始する。

 武田魔法師達20人はこの騎馬軍団に同行していた。


 本陣の魔物への対処は武田勢の鉄砲と大砲に任せて、進撃する騎馬兵の火力支援と防壁支援を行う要員とされていたのだ。


 この形態が近年の武田式騎馬軍団なのである。


 かくして、決して広くはない平地部分でお互いに衝突していった。


 突撃するのは武田騎馬。

 ポルトガル側の砲撃準備が整うまで戦線を支えるのは鉄砲隊と魔法師の役目だ。


 武田騎馬軍団が8,000人なのに対して、ポルトガルの先陣部隊は約4,000人。

 しかし、ポルトガル側には大砲が500門と鉄砲が2,000丁。

 それに魔法師が60人。


 武田騎馬軍団を支援する魔法師は20名。これで8,000人全てを支援するという訳ではなく、あくまでも第一波の突撃要員1,200人の支援にあたる。


 山県直卒の第一波突撃隊。


「行くぞ、皆の者。魔法ばかりが戦場ではないことを見せてやろうではないか!


 敵はポルトガルの大砲隊。あれを蹴散らせば敵の主力が消えたも同じ。


 ここで武勇を挙げずにいかにせん!


 突撃だ!」


 ほら貝の音響き渡る中、馬蹄の轟音を響かせながら突撃は開始されて行った。


 “おおっ”


 “イザ、行け~”


 “後れを取るなよ!”


 “おお、血が滾るわ”



 土埃を上げながら猛烈な進撃は進んで行く。


 ポルトガル側では砲撃準備できているのは70~90門程度の大砲のみ。

 しかし、2,000丁の鉄砲部隊は準備完了している。

 魔法師達によって高さ1m程度の土壁が構築されて、しゃがんで射撃する態勢らしい。


 彼我の距離が500m。

 ここでポルトガル側準備出来ていた大砲が火を噴いた。


 “ボンッ”


 “ボンッ”


 “ボンッ”


 “うわあっ”


 “ぎゃあっ”


 “があっ”


 轟音と共に大砲から打ち出されたのは砲弾ではなく石だった。

 大砲を散弾銃の代わりにした訳である。


 武田魔法師20人ばかりで、1,200人もの騎馬を守り切れる筈も無く。

 1/4近い兵力が削られてしまった。


 そこにポルトガル魔法師達による雷撃魔法が叩き込まれる。

 幸いなのだったのが、彼らはこの期に及んでも大環流の集団攻撃ではなく、少数集団による攻撃に固執していたことか。


 魔法攻撃は数十名の損害をもたらした物の、騎馬軍団の突撃は継続されていく。


 しかし、距離100mまで接近した所で、ポルトガルの2,000丁の鉄砲が火を噴いた。


 “ダ~ン”


 “ダ~ン”


 “ダ~ン”



 “あがっ”


 “があっ”


 “うわあっ”


 大砲と魔法で兵力は800まで減っていた第一波はたちまち半減させられて400に。


 戦場は悲鳴と雄叫び。そして、硝煙と血飛沫に塗れて行った。


 だが、大砲や鉄砲の射撃には時間がかかる。


 騎馬で100mを走り切るまでには、次弾装填は間に合っていなかった。


 弾のない銃などはタダの棒に過ぎない。


 かくして、第一波突撃隊は400人を以って敵陣に乱入したのだ。


 これを見て、武田騎馬勢は第2波として2,400の突撃を開始。


 対してポルトガル側では200門近い大砲の射撃準備が整い始めていた。


 騎馬第2波には魔法師の支援はない。魔法師は第1波の突破専用だった。

 だから、第2波が突撃して間もなく射撃された大砲の直撃をまともに食らう羽目になった。


 今回の砲撃は遠距離射撃を狙ったようで通常の砲弾だった。

 距離700~800m程度から射ち込まれた200の砲弾は、容赦なく馬と武者を打ち払った。


 一度の射撃で死傷者160人ほど。


 第2波が距離500mになった所で、90門の散弾搭載の大砲が火を放つ。


 魔法師の支援がない第2波に放たれた大量の石の礫は900人近い死傷者を齎すことになった。死者自体は多くはないのだが、目や腕、足の負傷で戦闘不能に陥った者が多い。


 そして、更に突撃している間にも射撃準備が整った大砲から、散発的な砲撃を受け始める。


 距離100mまで接近した頃にはさらに射撃準備の整った200門近い大砲からの攻撃を受けて、第2波突撃隊は敵陣に辿り着けたのは400人だけだった。


 第1波、第2波で合計800人の敵陣突入に成功したものの、敵側には60人の魔法師がいて、武田側には20人しか魔法師はいなかった。


 武田魔法師が専ら守りを固めるのに対して、ポルトガル側は侵入してきた兵士を積極的に排除することが可能だった。


 ポルトガルの鉄砲隊に果敢に斬り込んで500人程に手傷を負わせた頃には、武田の斬り込み隊は実質的な戦闘が終結しつつあった。


 砲撃陣地を得たポルトガル側では陣地へ更に増援を送り、都合10,000人の大陣地と化していく。


 召喚獣を倒された魔法師達も随時、こちらの陣営に加わって魔法師は都合100名に上った。

 逆に言うと、武田騎馬軍が奮戦している間に、貴志は敵の召喚獣を半数程度にまで削っていたことになる。その為に魔法師が手空きになったのだ。


 信玄は本陣を後退させ、騎馬突撃も中断させた。

 砲弾の射程外にいれば、大砲など怖くない。


 それに黒船奪取の報が入った。

 そのうちに最上と佐竹が敵の後方から来る筈だ。

 彼らには黒船を奪取した魔法師が100人同行している。

 今は彼らを待てばいい。




 アルフォンソは機嫌が良かった。

 後方の留守部隊が壊滅したことを、彼は知らないのだ。


 アルフォンソとしては、迂回させた大砲部隊のお蔭で敵の迎撃部隊が後退した。

 敵側にはそれほどの魔法師はいないし、大砲を防ぐ手立ても無いらしいと見えている。


 問題があるとすれば、敵のゴーレムだけだった。

 ポルトガルの魔物軍団の被害が酷すぎる。

 アレは何とか手を打たないと、どうにも困る。



 かくして、大三郎と優人に声が掛った。


 今回の目標は敵の魔神使いをとにかく潰すこと。

 魔王を何とか召喚しているゴーレム達から引き離して、近接戦闘に持ち込んで倒すしかない。


 その為にトリスタンも同行することになった。

 トリスタンが奇襲して、瞬間移動で魔王を拉致。

 拉致した場所で、大三郎が一撃で仕留めるという案になった。


 貴志は武田勢が撤退した後も、依然として前線に留まっている。

 こらから最上と佐竹が来るにしても、眼前の魔物は出来るだけ潰しておかないと駄目だろうと考えているのだ。



 目立つ緋羽織の子供だから一目瞭然だった。周囲には追討軍の一党が従っている。


 そこに優人が突如として、貴志に襲い掛かった!


「まったく、与楽の真似が流行っているのかな。どいつもこいつも同じことしやがって」


 慌てずに近くで護衛させていたゴーレムで対処しようとした瞬間に、貴志の姿は消えていた・・・。



 貴志は一瞬驚いたが、誰かに瞬間移動させられたことに気がいた。

 彼もポルトガルには遠距離から移動させる術者がいるらしいという報告は聞いている。


 実際には貴志の意識が優人に向いた隙に、トリスタンが貴志の後方に瞬間移動して拉致しただけだ。

 貴志は、それには全く気が付いていない。


「うん、どこだ?ここは・・・」


 キョロキョロする貴志に、隠れていた大三郎が飛び出して来て言い放つ。


「ここがお前の死に場所だ!クタバレ魔王」


 大三郎の魔剣が、為す術もない貴志の腹に突き立てられる。


「えっ」


 貴志のへそ辺りにまともに突き立てられた剣。


 剣が突き立てられた衝撃と腹が裂かれる激痛。


 “グッ”


 貴志は大量の吐血をして、意識が遠くなって行くのを感じていた。


「お見事、佐々木殿。魔王を倒しましたね。さあ、止めを」


 トリスタンが興奮して、止めの一撃を促す。


 貴志は血の海でピクピク痙攣している。


「精々苦しんで死ねばいいだろう、こいつのせいで波留が死んだんだ。

 簡単になど死なせるもんかよ」


 大三郎の殺気にトリスタンは黙り込んだ。


 優人は敵陣に放置されていたが、少し遅れて自分で飛行して合流してきた。


「僕も波留の事は許せないかな。僕も一発いれておきたい」


 普段は女の子みたいと称される大人しい少年なのだが、波留を失ったことは許せないようだ。


 優人は容赦ない電撃を加えた。


 貴志は声を出すことも無く、ぐったりとした・・・。




 ゴーレム勢が大暴れしていた戦場は異常な興奮に包まれた。


 貴志の意識が失せたことで、ゴーレムが一斉に姿を消したのだ。


 ポルトガル勢からは大歓声が生じ。


 追討軍は絶句した。


 まさか!


 しかし、貴志は姿を消して、召喚獣も消えて別の場所で暴れている気配はない・・・。


 衝撃は武田勢にも広がった。


「消えたぞ・・・」


「まさか・・・」


「一体何が起きたのだ・・・」




 大環側で、この状況を見ていた者が1人だけいた。


 与楽である、彼は大三郎を監視していた。遠隔から瞬間移動するような術者の正体が気になっていたのだ。


 貴志が連れ去られるのを見て、遠隔操作ではなく死角に入ってうまい具合に瞬間移動させるだけと納得して、ようやくと与楽はやる気になった。


 どうせ出雲なら蘇生術で簡単には死なないらしいと、完全に放置していたのだ。


「さて、金子さん達は着いておいで、面白い物が見られるよ」


「なんでしょうか?」


「あっ、シーも着いてく!」


 咄嗟に与楽の背中にしがみ付いたシード。



 与楽が神楽耶、理緒、樹里。そしてシードを伴ってやって来たのは、貴志の死に際を見ていた大三郎の元だった。


「やってくれたみたいだね。でもなあ、出雲殿は簡単には死んでくれない。


 多分、大三郎君と優人君がこれで戻れることはないよ?」



「テメーはいつぞやの。何を言ってやがる、コイツが死ねば俺達は戻れる!」


「いや、彼は死なないというよりも、甦るらしいぞ?俺も、彼の頭を潰しちゃったことがあったし」


「なんだと!」


「うん、多分キミの努力は無駄に終わるだろうね」



 与楽と大三郎のやり取りに、神楽耶が割って入る。


「大三郎いい加減にして。アンタだってあの王女や敬虔王に騙されたって気が付いているのでしょう?私達は単にポルトガルに騙されていただけ、勝手に拉致されて連れて来られただけよ!」


「でも、このままじゃ帰れないだろう。どうする気だ。こんな世界に死ぬまでいる気なのか」


「与楽様が神通力の修行を付けてくれるわ、何年もかかるかもしれないけれど可能性はあるわ」


「そんなのアテにできるか。俺は魔王を殺して」


「だからその子は魔王じゃなくて、タダの召喚術師よ。それに死なないならダメじゃない!」


「そうよ、タダの人間だってステータスを見ればアンタにだって分かっている筈じゃないの?分かっていて何故そんなにこだわるのよ」


 理緒も神楽耶に加勢してきた。


「波留がそいつの子分に殺された・・・。夜に奇襲して来て、殺しやがったんだぞ!」


「アンタが戦争のお先棒担ぎなんてしているからよ!馬鹿っ、アンタが殺したのと同じじゃないの!」


「うるせい理緒。お前らなんて逃げ出しただけじゃないか!お前らに何が分るんだ」


「私達は自分で旅をして大環に来たわ。そこでこの国の人達に出会った。ポルトガルの言う事は必ずしも正しくはない。ポルトガルにしても、スペインの顔色を伺っているようだし。

 彼らの言葉を全面的に信用するのは無理ね。


 大三郎、あなたはオロシア人やノルウエー人と話したことがあるの?大環の人とは?

 何故、ポルトガル人だけが正しいと思うの?」


「五月蠅い、黙れ神楽耶。お前の言う事が正しい保証だってないだろうが」


「ねえ、優人。少し落ち着こうよ。

 神楽耶、僕と大三郎は彼らの奇襲で死にかかった。生き残ったのは幸運だったと思う。

 殺されかかった相手を殺しても、この状況じゃ仕方がないと思うよ」


「優人、アンタまで何を言っているの。それじゃお互いに死ぬまで殺し合えって言うの?」


「盛り上がっている所を申し訳ないのだけれど、ホラね。出雲殿の傷が治り始めている。


 結局の所、彼を殺してキミ達の国に戻るという選択はできないのさ」


 確かに腹に大きな傷があったのが消えていく。優人の雷撃で出来ていた火傷も消えかかっている。


「そんな・・・」


 優人が呆然としている。


「まあ、理不尽な技だと思うよね。彼を殺すのは厄介だと思うよ。


 キミ達がポルトガルに攫われただけだと言うのなら、この戦争から手を引いて欲しい。


 異世界に渡れる術なら稽古をしてあげてもいいだろう」



「五月蠅い、テメエにゃあ用はねえ!」


 ムキになって与楽に斬りかかる大三郎。


 しかし、斬撃は与楽の体を通りすぎてしまう。


「出雲殿は死なない。僕は殺せない。妙な技だろう?」


「うるせい、黙れ!」


 再度、渾身の力で与楽に飛びかかって行った大三郎。本気で与楽を殺そうとして、目一杯まで魔剣に雷を纏わせている。


 しかし、与楽の体には実態が無いかのように通り過ぎてしまう。


 悲劇はそこに待っていた。


 与楽を通り過ぎた大三郎の前には理緒がいたのだ。

 大三郎は目標を失って、勢いが止められない。


 咄嗟に理緒を突き飛ばしたのは優人だった。

 その代わりに優人は、大三郎の魔剣を胸に受ける羽目になってしまった。


 本気で与楽を殺そうとして、目一杯まで魔剣に雷を纏わせていたのだ。

 即死だった・・・。

 最大の威力を発揮させていた魔剣は見事に威力を発揮してしまったのだ。


 これには理緒が激怒した。


「この大馬鹿!」


 理緒は手にしていた魔杖で大三郎を思い切り叩いた。

 咄嗟に大三郎は、魔剣を振るってしまった。


 大三郎には理緒を殺す意志などなかったのだが、魔剣の威力は強かった。

 理緒を魔杖ごと引き裂いてしまったのだ。


 次回はいよいよ錯乱する大三郎。

 そして、ポルトガルの切り札が発動されます。

 それに対抗して、王都の必殺兵器もようやく登場です。

 乞う、ご期待。

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