48.夜襲
ご愛読ありがとうございます。
今回は忍者無双回です。
霧隠れ才蔵が、猿飛佐助が忍術をさく裂させて大暴れ!
是非、ご一読下さい。
異様なカンの良さを発揮して、咄嗟に優人を突き飛ばした大三郎。
魔法でも何でもなく第六感とでも言うべきものが異常に鋭いのだ。
他人の殺気を本能的に素早く察知する性質らしい。
だが、大三郎は分身する能力を持っていなかった。ギリギリで自分への攻撃をかわすと共に、優人を救うのが精一杯だった。
大三郎が感じた殺気は3人。
自分と優人は助かったものの、3人目の刺客からの攻撃は防げなかった。
その結果が波留に降りかかった不幸だった。
心臓を一撃で刺されている。
ご丁寧なことに刀に即効性の毒でも塗っていたのか、波留の顔色はあっという間にどす黒いものに変わっていた。
そして、さっきまで食事をしていたテーブルは波留から飛び散った血で真っ赤に染まっている。
「テメエ、何者だ!優人、治癒魔法を急げ」
「・・・もう、間に合わないよ・・・。僕、死んだ者を治せない・・・」
「そんなことはない。波留が死んでたまるものか!早くやるんだ、急げ」
優人を急かしながらも、大三郎は嫌な気配のする辺りに魔剣を叩き込んでいる。
ガツンッと大きな音を立てて、船室の壁が吹き飛ぶ。
しかし、既にそこには誰もいなかった。
大きな音を聞きつけて、隣室から三銃士が慌てて駆けつけて来た。
「勇者殿、夜分に何事ですかな?」
あちらも夕食でワインを飲んでいたのだろう、赤い顔をして三銃士筆頭のアランが扉を開けて声をかけてきた。
「刺客が侵入したぞ、3人は確実にいる筈だ。至急、探し出せ。
船の警戒はどうなっているんだ!こんな場所まで、賊が侵入して来るなんて」
「ボルガー、総員戦闘配置につかせろ。
斉藤殿の怪我を治療しないと。おい、テラミスは魔法衛生兵を連れて来い」
三銃士筆頭は酒を飲んでいても、的確な指示を仲間に出してく。
「佐々木殿と相良殿には怪我はないのですな?
賊はどのような者でしたかな?」
「俺達に怪我はない。敵の姿は見えない奴だ、ただし気配だけはする。3人の殺気を感じた」
「波留が・・・。波留が・・・。
ねえ、波留。起きてよ、こんな冗談つまらないからさあ。ねえ、波留・・・」
怒り狂う大三郎、混乱してしまっている優人。
その時にドカドカと騒がしい駆け足の音が近付いてきた。
「おいアラン!不味いぞ魔法団の3人が揃って殺されている。この船の魔法戦力はここにいる者だけになった」
「なんだと!」
その時である。遠くから怒号と悲鳴が聞こえてきた。
「貴様ら何者だ!」
「うああっ」
「ぎゃああっ」
「ああっ」
「大変だ~、テラミス様と魔法衛生兵が殺されたぞ~。賊は黒ずくめの3人組だぞ」
今度はアランが怒り狂う番だった。
「ええい、何をやっている、敵は隠形に秀でた魔法使いなのだぞ。
敵を甲板に誘き出す。開けた場所で仕留める。
勇者殿も着いて来てくれ、キミらにも敵討ちが必要なのだろう?」
「ああ、やってやるぜ。絶対に殺す」
アランは瞬間移動を使えるから、そのままボルガーと大三郎、優人を伴って甲板上へと移動する。
「むうっ、外は霧か。船内では潜める場所が多いが、外は霧とは運が悪いな。
松明をあるだけ使え。夜間に霧ではどうにもならんぞ」
「アランのおっさん、来るぞ。嫌な気配がする」
「佐々木殿、何処からくる」
「真正面・・・」
霧の中にうっすらと松明の明かりに浮かび上がる影。
目だけを出した黒装束の男達。だが、3人どころではない30人以上はいそうだった。
「ええい、何処からこれだけの人数が入り込めたのだ・・・」
敵が魔法師3人らしいから、こちらも魔法師4人で相手をしようとしたアランの目論見は早々に崩れたかのようだ。
「いや、アランのおっさん。気配はそんなに多くない、あれは幻術だろう」
「佐々木殿、本体はどこに・・・」
「あの、どれかだ・・・。面倒だ、全部吹き飛べ」
大三郎は魔剣を振るった。雷撃で幻像も本体も全部まとめて叩き潰すつもりだった。
霧で霞む夜の海。
そこに一瞬の閃光が煌めく。
見事に正面にいた人影は全部消え去った。
しかし、今度は四方八方全てに幻像が現れた。その数は60人を超えている。
これぞ、霧隠れ才蔵の本領である。
野戦において霧を生じさせ、方位を惑わせる。そして、幻像を駆使して敵を混乱させる。
相手が万余の軍勢であっても、延々と何日も迷子にさせたり、迷子にさせて崖から落とすといったことを平気でやれる。
かつて、徳川秀忠がこれをやられて関ケ原に遅参したことで、一躍勇名を馳せることになった技である。
そして、この霧の中でも喜々として、走り回る者がいる。
気配を消して、一切の物音も立てずに。それでいて猛スピードで神出鬼没。
気が付けば死がそこある。-才蔵と共に秀忠の軍勢に痛撃を与えたのが猿飛佐助だった。
トリッキーで掴みどころのない動き方、まるで猿のような身のこなし。それが佐助の身上だ。
実の所、才蔵と佐助は大阪の陣で主君の真田幸村を失ってから、家康を狙っていたのだ。
機会を伺って潜伏していた所を、主の兄である真田信之に説得され家康に許された。
信之は言ったのだ。
「なるほど弟の奴は豊家の再興を願っておっただろう。しかし、本当の奴の願いとは何だ?
ワシら親子兄弟で信州に暮らしていた時代に、奴が願っていた事とは領民の安寧であっただろうに。
これからは家康公が、この王国に安寧を齎すだろう。
もう、戦乱の世は終わりだ。お主たちがここで家康公を害したとて、秀忠公を本多様や柳生が支えて豊家の出番などやって来ることなど無いのだ。
才蔵、佐助。
お主達のその力を、この王国の安寧に役立たせてみないか。
幸村は良く戦った。家康公の本陣に討ち入って御旗を踏みにじったのだからな。
真田の武門の誉れここにありだ。ワシにとって自慢の弟だった。
その弟の自慢はお前達だった。ワシに手紙を出す時にはいつもお前達の自慢話だったものよ。
これからは、王国の為にその力を振るって、家康公の―いいや陛下の自慢の臣下になってはみないか」
才蔵と佐助は、貴志の部下となって戦いに参戦することが楽しかった。
信之の言った通り、王国の為に己の力を存分に振るえたのだ。
古都の騒乱から島原の乱。その後始末の土蜘蛛退治。
そして、万余の魔物と戦った亀田の変。
古都の庶民達から喝さいを浴びた戦勝パレード。
島原や亀田の後に王都で浴びた称賛。
みな良い想い出だった。
生き恥を晒すことなく堂々と胸を張って暮らす日々が、どれほど2人には嬉しいことか。
異国の侵略者相手に、万感の想いを抱きつつ才蔵と佐助は躍動する。
かつて、幸村と共にかけた戦場は実に素晴らしかった。
しかし、今の頭目と侵略者退治をするのも、もっと良いかもしれぬ。
霧の向こう側にいる忍者たちの心の奥底など知らぬ大三郎達。
大三郎は元の世界に戻りたいと願って悪魔と契約をした。
アランとボルガーは、このまま敗戦して帰国するなら責任を問われて処刑か奴隷落ちだ。
彼らにはどうしても勝ちぬかねばならない理由がある。
だから、引けない。
アランが取った戦法は単純明快だった。
「全兵士諸君。幻像など恐れるな!1人1殺で簡単に終わる、さあ行きたまえ!」
ガレオン船には1,000以上の兵士が乗り込んでいる、その相当数が甲板に上がって来ていたのだ。
既に100人以上の兵士が、先程出したボルガーの総員戦闘配置の命令に従って集まっていた。
魔法団の戦闘要員はいなくても、通常の兵士なら大勢存在していた。そして、3銃士と言われているが、アランとボルガーは騎士団のエリート幹部である。
彼らは3銃士と言っても決して銃器専用要員という訳ではなく、同年代の若手エリート3人への称号だ。
彼らの命令には常備兵である騎士団の人間も、強制徴用されて来た兵士も命令に従う。
ボルガーが、士官らしき男に告げる。
「鉄砲隊、射撃を許可する」
「鉄砲隊射撃開始!霧の中の敵を掃討せよ」
バンッ
バンッ
バンッ
バンッ
霧の中へ銃弾が叩き込まれた。銃弾が命中したらしい幻像は消えていく。
先程まで60人近かった幻像は、一気に半数近くまで減ったようだ。
「ヨシ、その調子だ。まだ続けろ!」
とは言え、火縄銃であるから一発撃てば、次弾は手で装填しないといけない。
この時代には早合と言われる弾丸と火薬をひとまとめにした、簡単なカートリッジ式の装填方式は西洋にも東洋にも存在している。
これを使うと30~45秒くらいで、装填は終了する。
逆に30~45秒くらいは次の弾は撃てない。
そして、霧がいきなり濃くなるのには十分な時間だった。
敵味方とも完全に濃くなった霧の中。
隣にいる兵士の輪郭はなんとなく分かるが、顔や装束までは確認できない。
特に夜間だったから、色彩も余り判別できていない。
そして、惨劇の幕が開く。
ポルトガル鉄砲部隊にとって、隣にいるのは味方の兵士の筈だった。
しかし、その仲間が突然に斬りつけて来るのだ。
霧の中から素早く、一瞬で斬り裂かれる。
“ぎゃああっ”
“うわあっ”
“な、なにをするんだ”
夜の霧に紛れて、黒い影が走る。
それも1人や2人の影などではない。20人ぐらいの人数だった。
実際には児雷也、才蔵、佐助が走り回っているだけなのだが、濃い霧の中を高速で移動していると残像が生じているようにも見えてしまうのである。
彼らは忍者であるから虚を実と見せて叩くというのは得意中の得意。
たちまち、ガレオン船の甲板は血の匂いで充満してしまう。
鉄砲の射撃音など全く聞こえなくなった・・・。
しかも、進行形で悲鳴だけは上がって行く。
“助けてくれー”
“もう嫌だー”
“ああ、神様お助け・・・ギャッ”
“ガアッ”
“うわああっ”
惨劇が進行する中で、アランとボルガーは自分の身を護る事で精一杯だった。
何処からともなく黒い影が接近して来ては、一撃を入れて離れて行く。
その一撃は相当に速く、しかも確実に急所を狙って来る。
一瞬の対処の違いで、命を落としかねないのだ。
大三郎と優人は、甲板上にポルトガル兵が集まってしまったから大威力の魔法攻撃が封じられている。
優人が張った結界の中から、近寄ってくる黒い影を迎撃するのが精一杯という状況におかれている。
ポルトガル兵に襲い掛かる黒い影は、実に精妙な機械のごとくポルトガル兵を屠っている。
もっとも、甲板での戦闘音を聞きつけて、どんどん兵士達が加勢に来ている。
流石に1,000人相手には敵の攻撃は続かないだろう。
アランとボルガーはそう信じて、黒い影をいなしてひたすら忍耐の時間を過ごしている。
そんな時である。
何者かが、瞬間移動してきて詠唱を始めた。
「恐れることなかれ。我は汝と共にあり。
怯むことなかれ。我は汝が神なり。
神は全てを叶えるものなり。
神の教えに従う者の願いなら、神はその願いを叶えてくださる。それこそ我が信仰なり。
おお、我が主よ。
邪教蔓延り、邪竜跋扈し、魔
神跳梁せし、この地に主の福音をお与えください。
ハレルヤ!霧よ退け!」
ポルトガル魔法師筆頭トリスタン・ヴァス。
彼は教王から信頼されている神父でもある。
魔法師にして、神の秘奥にも触れることのできる聖職者でもある。
なにより、本気で大環に布教させたいと願っている男でもある。
異教徒たちが怪しい技を以って、布教の為の船団を襲う。そのようなことなど、彼には信じがたい出来事だ。
神より授かりし神獣を殺すような不敬者。
あまつさえ、霧に紛れて夜襲をするような卑怯者。
神父として、宗教者として、魔法師筆頭として。
トリスタンは異教徒に報復すべく立ち上がった。
手始めに立ち込める霧を払った。
魔法で発生させた霧でも、霧は霧である。発生させた魔法よりも大きい魔法で払うことができる。
霧が打ち払われた跡には、幻像が消えて3人の男が立っていた。
いずれも黒装束で背中に刀を背負っている。
彼らに対峙するのはトリスタン、アランとボルガー。そして、大三郎と優人。
「ふん、俺の術を破るか。では、これはどうだ!」
忍法影分身の術。
魔法や神通力ではなく、純粋なる体術である。
才蔵は5分身して、トリスタンに迫る。
そうはさせじと、アランとボルガーが、両者の間に飛び込んで来る。
彼らは武芸でも優秀な男達なのである。
アランが咄嗟に手前にいた分身に斬りかかる。分身は何事も無かったかのように消える。
ボルガーが次の分身を迎撃する。この分身もまた消えてしまう。
結局、3分身がトリスタンに迫ることになる。
しかし、その3人の才蔵をまとめて大三郎が薙ぎ払う。
「邪魔だぜ忍者、消えてしまえ!」
魔剣による超音波の斬撃は、見事3人の忍者を切り裂いた。
しかし、斬り裂かれたと思しき場所にあったのは甲板に置かれていた樽だった。
忍法変り身の術である。
では、才蔵の本体はというと、分身から少し遅れたような位置からアランに襲い掛かった。
“ギンッ”
咄嗟にアランが出した剣がまんまと才蔵の斬撃を受け流した。
才蔵が使っているのは刀身部分が黒く染められている刀だった。夜襲において金属らしい光を反射し難い細工を施された忍者独特の装備である。
一撃を防がれると、サッサと退避して距離を置く才蔵。
今度は反対側から佐助がトリスタンに迫る。
それを、身を挺して守るボルガー。
だが、咄嗟に体が動いたという印象のボルガーに佐助の刀が突き刺さる。
彼は斬るというのではなく、体ごとぶつかって行って刺すという動き方をしたのだ。
佐助の刀には毒が塗られていた―鞘の内側に毒袋があって、刀身にそれが塗られる仕組みになっている。これも忍者仕様の独特の装備だろう。
その毒を塗られた刀で刺されたボルガーは、たちまちに苦痛にのたうち回った。
彼が苦しむ時間が長くなかったのは幸いだったのだろうか。
波留とテラミスを仕留めたのも佐助だ。奇襲からの一撃は当たればとにかく相手に死をもたらす。
気が付けば死がそこある。そう評された技の実態がこれだった。
3銃士が今やたった1人。
アランは激昂して、佐助に掛って行く。
だが、猿飛の名は伊達ではない。
アランの攻撃をかわし、逆におちょくるかのようにトリッキーな動きで翻弄する。
攻撃をかわしては舌をだしてアカンベーをしたり、おしりペンペンという仕草をしてのける。
アランとて決して木偶の棒などではない。将来は騎士団長だろうと目される優秀なおとこである。
それがいい様にあしらわれる、揶揄われる。
いよいよアランから冷静さを奪う結果になって行く。
甲板におかれた松明の明かりの近くでのことだった。
アランに一撃入れた佐助がサッと後ずさる。それを追って一歩踏み出すアラン。
そのアランの影の中から突如として才蔵が出現!
後ろからアランをザックリと切り捨てる。
忍法影渡り。これは体術では無く、瞬間移動系の魔法である。相手の影に移動するという限定的な瞬間移動術。
「ぬっぐう、貴様ら・・・」
憤懣やるかたなしという表情を残して、大量の吐血をするアラン。
そのままバタリと倒れ込んだ・・・。
トリスタンにとって今回の遠征における子飼いの部下が易々と討たれていく。
甲板上には既に累々たる屍。
甲板に上って来る増援は、片っ端から児雷也が始末している。
大三郎は逆に味方の損害を気にする必要がなくなって、衝撃波を遠慮なくぶっ飛ばしている。
甲板上への被害甚大な割には、逃げ足の速い才蔵と佐助を捕えきってはいない。
それでも攻撃は多少カスっているようで、黒装束が切り裂かれて赤い血が混ざりはしめている。
優人も2人が接近すると防壁を展開し、離れると火炎か雷撃で追撃している。
時間を掛けると火力で勝る大三郎と優人に有利なのだろう。
このままなら才蔵と佐助を、仕留めることが出来る可能性が高い。
貴志が大火力主義だとすると、大三郎も同じなのだ。
細かい技を使いこなす経験などない。あるのは大技だけ。
それで相手を削って行けば、いつかは勝てるという物だ。
単純明快なだけに単純な子供向きなスタイルではある。
しかし、百戦練磨の忍者達は簡単な思考では動かない。
上下左右、そして動きの緩急を自在に利用して、攻めては引いてを繰り返す。
戦場で戦い続けるには精神を集中させ続けないと生き残れない。
集中しつづけるならば、心身共に疲労が蓄積されていく。
ベテラン戦士と若手戦士では、こうした面では若手に不利だ。特に戦闘向きな性格をしていない優人はそろそろ足に来ている。時々転びかかっている。
一撃をまともに食らうと才蔵と佐助の負け。
このままジリジリと削られて行っても才蔵と佐助の負け。
しかし、大三郎と優人が隙を見せたら、一発逆転もあり。
そうした様相になっている。
トリスタンはこの状況に不満だった。
3銃士が討たれて、勇者の1人も姿を見せない所からすると既にやられているのだろう。
沖合に魔法の目を向けると、味方のガレオン船団は水平線附近に逃れている。
トリスタンがここに来る前に、艦隊に離脱を命じていたのだ。
彼は味方を避難させる時間を稼ぎに自ら乗り込んで来た。
ここで決戦をやるつもりなど無かった。
昼間の会戦で大環側の戦力はおおよそ把握できた。
魔法戦力を大動員したらしい大環側の防備は鉄壁だった。あの防御を崩すのは容易なことではない。
切り札だと思っていたベヒモスがドラゴンに撃破されたのは痛かった。
それに邪竜殺しと期待した勇者は、確かに街を一つ焼き払ったという邪竜使いを相手に戦って生き残ってきたが、絶対的に強いということでもない。
彼らには作戦を考えてやらねば駄目なのだろう。
ベヒモスを撃破したドラゴン使いを相手に対抗できそうなのは、今や自分とこの2人くらいだ。ここで2人を失う訳にはいかない。
ここでトリスタンは撤退を決意した。
大三郎と優人を伴って、一気に沖合の味方艦隊まで瞬間移動したのだ。
万一に備えて旗艦には戦闘魔法師を50人程待機させていた。追撃して来たら逆襲するまでのことだ。
一瞬で戦場から離脱して、見慣れた旗艦に飛ばされた大三郎と優人。
「あれ、なんだ?」
「ここは旗艦なのかな」
「ええ、あれ以上の被害は困りますのでね。特に今ここでお2人を失う訳には参りません。
あの船1隻の犠牲は止むを得ないですね。
博多の侵攻は諦めます。ここまで防御が固いとこちらでも手が出せませんし。
江戸湾では迎撃に出てきた船が少なかったそうではありませんか。なら、ここは江戸に向かいます。
王都近郊に上陸して現地の人間がいる場所を移動する。それなら敵も簡単にはドラゴンブレスを打ち込めない筈です。
江戸方面で地上の迎撃態勢の薄い場所を探して上陸しましょう。
あんな大規模な潮流操作をやれる魔法を使える者は多くないでしょうから、急いで移動します。敵が陸上を移動するよりも、この船の方が速い筈です。
波留殿には残念でした。
3銃士達もね。彼らとは付き合いも長かったのですが・・・。
今は彼らの安らかな眠りを神に祈りましょう」
そう言うなり、合掌するトリスタン。
つられて合掌する2人であった。
小中高と一緒だった波留とは付き合いも長い。
まさか異世界に連れて来られて殺されるとは思いもよらない事だった。先程までは戦闘で興奮していたが、それが終わると無性に悲しくなってしまう。
それが顔に出たのだろう神父であるトリスタンに甘言を以って慰められて行く2人だった。
さて、突然に戦闘していた相手が消えたガレオン船上の才蔵と佐助。
「あちゃ、逃げられたか」
「アッチの艦隊のどこかでしょう。どの船か見当もつかない・・・」
「仕方がないか。この船でも分捕って帰るか佐助」
「そうすね、才蔵さん。どうせもう強い奴はいないでしょうし。
でも、あの2人はやっぱり面倒でしたね」
「ああ、あの2人は分断しないと駄目だな。片方だけなら行けそうだけどな」
「それは俺も思ったッス。魔法師が結構いい塩梅に支援して邪魔でしたし」
「剣士の方は攻撃力あるけれど、動きが荒っぽいからな。付け入るスキはありそうだ。
まあいいや俺は児雷也殿を手伝って来る。佐助は大猿で船を浜まで運べや」
「了解ッス。でも久しぶりに忍び働きで大暴れして気持ちがいいッス、自分」
「あ、それは俺も思う。霧隠れの術なんて久しぶりだったしな」
真夜中に突然と浜に寄って来た黒船に、大環警備兵は騒然となった。
しかし、大猿が後ろから船を押していて、上空には大鷹が舞っていた。
見覚えのたっぷりある2匹に味方勢は安心した。
そして、黒船を分捕っていたのかと騒然としだしたのである。
博多湾での第2回戦は敵船への損害はゼロ。
味方にも被害は少ない。
そして敵の魔物を大量に殺したから、素材と魔石を大量に得ている。恐らく経済面では黒字になる戦だった。
最後の最後にガレオン船を入手である。
甲板部などに相応の損害があるが、大環国内で修理可能な範囲だ。
搭載している大砲と火縄銃、火薬も相当に上っている。
それに乗り込んでいた戦闘員の捕虜も約500人。漕ぎ手なども100数人。
何といっても航海士が捕虜となったのは、大環としては大きかった。外洋航海では大環は後進国なのだ。魔法で洗脳すれば従順でいい航海士になるだろう。
この大手柄を立てたのは3人の小隊長だという報告を受けた宰相徳川家康。
感状を出すと共に、魔法学校での不祥事で剥奪していた官位・爵位を戻し、報奨金を出している。
翌日、3人にそれを伝達しに来た王都からの使者は真田信之であった。
「ようやったな、あの世で弟も喜んでおることだろうよ」
「御意」
「はい・・・」
「ありがとうゴザイマス・・・」
男達を祝福するかのように、博多の空は晴れ渡っていた。
さて、次回。
舞台はまた江戸湾へ。
房州へと上陸するポルトガル軍vs本多軍と与楽一家。
そしていよいよドラゴン魔石利用の兵器が投入されます。
それにアレが登場する予定なのですが、次回に間に合うかどうか。
地上の全てに抗う事を許さない存在が、またまた乱入の予定で準備していたりします。
博多湾編を終えて、いよいよ関東大騒乱編に突入の次回。
乞う、ご期待。




