47.博多湾に散る・・・
ご愛読ありがとうございます。
いよいよ、勇者vs英雄が博多湾で激突。
勇者2人と激突する貴志。そこに3人目の大三郎も乱入して。
そして、児雷也、才三、佐助が忍者の本領発揮!
まだまだ続く、博多湾での激闘です。
児雷也は防護結界が間に合わなかったにも関わらず、敵からの攻撃が霧散して驚いた。
しかし、自分が王宮に掛け合って頭目に据えた少年が尋常ではないことに、すぐに思い当たった。
「お頭様、助かりました。かたじけない」
「敵の船には魔法師が無傷で残っているんだ、気を抜くなよ。さっさと魔物をかたずけてから敵の船を潰そう」
「御意!」
波留と優人は、ポルトガル船からその光景を見ていた。
指揮を執っていた男が後方を振り返り、何事か打ち合わせを始めたのを。後ろにいたのは小さくて派手な羽織を着けている奴だった。
「いた、見つけたな優人。ナイス!ガキは後ろに埋もれていたのか。
でも、なんだ?妙なステータスじゃないか・・・」
「波留も見た!?妙だよね、全然魔法使いじゃないし。
そうかと言って、剣や槍も全然ダメだし。単純に召喚術が強いだけの事みたいだよね。
あんなのが魔王かな・・・」
そのステータスと言えば。
出雲貴志
召喚術師Lv98
スキル;召喚術Lv98、弓術Lv55、乗馬Lv50、槍術Lv15、剣術Lv13、洞察Lv30、策略Lv30、統率Lv30。
優人にサラリと“あんなの”呼ばわりされている貴志。召喚術以外は注目すべき点は無い。
その召喚術もまだ微妙に伸びしろがある。
この時に貴志の周囲にいたのは、魔法師の幹部や騎士団の幹部連中だったから比較対象も悪かった。
優人よりも若干低めという程度の魔法師は多かったし、槍術や剣術なら達人クラスという猛者が大勢いたのだ。
2人が戸惑っているとトリスタンが、声を掛けて来た。
「どうしました、お2人とも。魔王らしい子供がいたではありませんか?」
「でも、トリスタンさん。あそこにいるのは召喚術しか使えない奴です。
他の魔法は全然ダメだし、武術もたいしたことはないという程度。とてもあれが魔王とは思えません・・・」
「しかし、優人殿。現実にあなたの魔法を寸前で弾いたではありませんか?攻撃魔法が通らないのだから、何かの魔法障壁を使っているのは間違いありませんよ。
邪竜使いなのですから召喚術の使い手であることは間違いないです。
それを殺さない限り、あなた方は元の世界に戻れないのでしょう?」
「そうですけれど」
「でもよう。アンだけ厳重に警戒されている最中に殴り込む訳にも行かねえだろ。
下手したら、魔王の小僧よりも魔法や武術なら上という奴がゴロゴロしてるぜ」
「そうですね・・・。船を動かしましょう。敵の魔法師達の射程外に移動すれば、追撃してくるのはドラゴンだけになるでしょう。術師も同行してくる可能性は高いと思いますよ。
相手の術師を1人にしてしまえば、お2人にもチャンスができるでしょう」
「ふーん、そんなもんかねえ」
「波留、悪い手ではないかもしれないよ。僕が瞬間移動で彼の近くに波留を連れて行ってしまえば、ドラゴンブレスも関係ないだろうしね」
「そうです。それがいいでしょう」
「なんかトリスタンってご都合主義?」
「臨機応変とお呼びください。ここは戦場です。柔軟に考えませんとね。
さあ、艦隊をもう2kmほど沖合に移動させてください。参謀団は他の船にも命令を徹底してください。急いで!」
「敵艦隊が沖合に離れて行きよるか、このままではドラゴンに魔物を壊滅させらてしまうのが見えているからな。
さて、ここで逃すのも癪じゃの。出雲よ、ドラゴンで追撃せい!」
「了解です!児雷也、後はヨロシク」
貴志は機嫌良かった、妙にデッカイのも倒したことだ。その内にあのデカイ物も召喚できるようになるのだろう。
そこで、この戦場の最後の仕上げと行くつもりであった。
隠密状態で召喚していたドラゴンに命じて、自らは桜色ドラゴンの頭上へと瞬間移動させてもらう。
この手法だと、外から見ている分には出雲伯は瞬間移動の使い手だと認識されることになる。
だから、それを見ていた波留と優人も意外に思うことになる。
魔法使いとしてのスキルなどない人間が、何故魔法を行使しているのかと。
「よう、優人。あれは普通に瞬間移動だよなあ」
「そう見えたよ、波留。彼は魔法のスキル無しでも魔法を使えるみたいだね。
やっぱり、魔王なのかな。スキルを隠すようなことでもできるのかもしれない」
「油断できねーなあ。やっぱ、魔王確定か?
よくわかんねーなあ。まあ、ひとまずやってみてから考えるか。
そんじゃ、優人。あのドラゴンまで俺を連れてってくれや」
「うん、行ってみよう。彼には何かがある事は間違いない。僕達が戻るヒントがあるのかもしれないね」
次の瞬間には2人の姿はガレオン船から消え失せた・・・。
そして、桜色ドラゴンの頭上。
貴志1人が陣取っていた、その場所に突如として2人の少年が姿を現す。
「いよう、お前が魔王か?」
「正直に言って欲しいのだけど、キミは魔法を使えない筈なのに何で使えてしまうの?
魔王だからなのかな?」
「なんだなあ、人様のドラゴンに押しかけて来て自己紹介もなしか。
異世界から来たという勇者って、礼儀も知らなのかい。
俺は、出雲貴志伯爵様だ。正2位なんてエライ方なんだから、尊敬して接して欲しいもんだな。
いいかよく聞けよ、俺は魔王なんかじゃない。
正真正銘の竜殺しの英雄様だ!この国では神龍さえ追い払った救国の大英雄だっての。
英雄様になると魔法くらい簡単だっての。
この国最強魔法師は俺様だ。
どうせ天草四郎みたいに教王とやらから、適当なことでも吹き込まれたんだろう。
俺を倒したからって、お前らが戻れることなんてない。
心を入れ替えて真面目に修行するなら、異世界とやらに戻れる技が使えるように修行つけてくれるという親切な行者がいるぞ?
ええっと、魔法師の奴が優人だったか。戦士の奴は大三郎か波留かどっちだい」
与楽にはコテンパンだったが、彼は魔法を使えないという。最強魔法師を名乗っても文句は言われないだろうと、貴志は与楽の顔を頭に思い浮かべながらも強弁した。
「うっ、何で俺達の事を知っていやがるんだ!俺は斉藤波留だ。」
「僕は相良優人。
僕達勇者には相手の能力を見切る力がある。君には英雄なんてジョブは無い。魔法を使えるようなスキルは召喚術しかない。おかしいじゃないか!」
「そんなモンは知らない。魔法は使えるのだから仕方がないだろう!
お前達が波留と優人だというのなら、残るは大三郎とかいう奴か。
奴は江戸湾で負けて逃げ出したぞ。お前らの中じゃ、大三郎って奴が一番強いのだろう?
大人しく降伏するなら、元の世界に戻れる可能性だけはやろうじゃないか。
俺と戦うというのなら、ドラゴンに食われて死ぬだけだぞ」
神楽耶達からもたらされた情報は軍部で共有されている。浦賀沖でポルトガル軍が敗走したことも、当然報告は為されている。
単身乗り込んで来た自称勇者が与楽にやられて意識を失ってから瞬間移動したのか、もしくは遠方から瞬間移動させられて逃げたということも。
「嘘だ!大三郎が負けるなんて訳がねえだろ」
「どうも、この国では8人くらいは1対1で奴を楽勝で倒せるらしいぞ?
俺もその1人らしいけどな。
もっとも、ウチの部隊の連中でもやりようによってはイケルだろうけどな。
お前ら実戦の経験がそんなにないだろ?ガキの頃から生きる為に戦っていたような奴に、お前らは勝てないんじゃないか」
「・・・僕達の国では戦争なってやっていなかった。けれど、この世界に召喚された時から、僕らは変わった。持っていなかった超常の力を貰ったんだよね。
キミに降伏して修行したら、元の世界に戻れるという保障なんてないんでしょう。
修行すればというのは言いようだけれど、それが有効だという証拠なんてない。
だったら、先ず魔王を倒す。僕達が勇者であることは間違いが無い。それは自分達で認識できるからね。
勇者であるなら、その務めを果たす。そうすれば、この世界でやることは終わる気がする」
「わからず屋だな全く。お前らにしても、天草四郎にしても、やっていることに意味なんて無いと気が付けよ!」
「言いたい事はそれだけか、意味があるかどうかはお前を倒せばわかることだろ。
やる前からグダグダ言うんじゃねえっ、先ずは喰らいな!」
焦れた波留はついに神剣を振った。
超音波を生じさせるその斬撃は、しかし、貴志には届かなかった。
貴志と波留の間に、突然として3mほどのゴーレムが出現して身を挺して貴志を庇ったのだ。
貴志が埴輪と呼ぶそれは、波留と優人にはゴーレムだと映る。
そのゴーレムの手には頑丈そうな楯が握られていたのだ。
もっとも、神剣の斬撃をまともに食らって、楯は砕けているが。
「ああ、その程度じゃやっぱり俺には勝てないぞ、波留よ。ソッチの優人はどうだい?」
波留の隣にいた優人の背後にも突然とゴーレムが出現して、雷をまとった矛が振るわれる。
慌てて宙へ飛び、障壁を張る優人は辛うじて無傷だった。
「ドラゴンを使役するから俺が強いのではなく、ドラゴンを殺せるほどに俺は強い。
そこを勘違いするなよ、異界からの勇者とやら。
お前らは俺達にとってはタダの侵略者に過ぎない。
逆らうというのなら、遠慮なく殺すだけだ。お前らを保護しなきゃいけない理由なんてないからな」
貴志は桜色ドラゴンに乗った際に、3m埴輪を4体召喚して隠形状態で近くに置いていた。
単純に何かあった場合の壁役としてである。実際には小心な彼は保険を掛けていた。
「本気で行くぜ勇者とやら、お前らを殺して俺はこの国を守る。
お前らはポルトガルの走狗に過ぎない。
あいつらはこの国を焼き払おうとした。そんな真似は絶対に許さん」
「邪竜を使って他国を焼き払った奴が偉そうに何を言ってやがる」
「対馬を侵略して、人間を根こそぎ攫いやがったんだ。文句は言わせない。
急々如律令、来やがれ埴輪ども!」
波留は近くにいたゴーレムに斬りかかるが、ゴーレムは矛で受ける。その隙に他のゴーレムが波留に襲い掛かる。
波留の攻撃はゴーレムに対しては有効だった。
石のゴーレムに、風の振動を浴びせるのは相性が良いのだ。
しかし、一刀両断とまでは行かない。
複数を相手にしていると、致命傷を与えるには至れないのだ。
優人の方はもっと状況が悪い。
少しタメを作れると一気に数体倒せそうなのはわかるのだが、逆に複数相手に掛って来られてはタメ無しでも繰り出せる威力に欠ける牽制程度の攻撃しか出来ていない。
こうした乱戦の修羅場を潜り抜けるという経験に、波留と優人は欠けている。貴志が指摘したように、戦闘経験が足りなすぎるのだ。
ゴーレムを相手にするからダメなので、貴志を狙うべきなのである。なにしろ武芸の面ではサッパリという男なのだ。貴志を近接戦闘に巻き込めば活路は見いだせる筈なのだ。
貴志のステータスを見てそれを知っていても、実際には活用できない。これが経験の無さということになるのだ。
それでも波留と優人は必死であった。
上手くすると帰れるのかもしれない。いや、絶対に帰るのだと自分に言い聞かせている。
波留は超音波を衝撃波に切り替えて周囲を薙ぎ払う。優人が近くにいるから威力は控えめのものだったが、一端はゴーレムを引き払うことには成功した。
そこで波留は、優人に接近して彼に背中を預ける。
優人にタメを作る時間を与える為に、自分が楯になったのだ。
優人が背後にいるから、今度は遠慮なく全力で波留は衝撃波の斬撃をゴーレムに振るった。
しかし、前方にいた筈のゴーレムは一瞬で全て姿を消し去った。
衝撃波は虚しく空を切っただけだった・・・。
これは貴志が与楽に食らった攻撃だ。
目の前からの瞬間移動で、相手の虚を突く。
貴志は召喚術に関してだけは優秀である。帰還させて、再召喚するのはお手のもの。
再召喚したゴーレムの行先は、優人の下後方と真後ろだった。
集中していた優人はそれに気が付けない。
相手を見失った波留の方は、それでも下に敵がいると認識して咄嗟に衝撃波を放つ。
しかし、放った瞬間に波留と優人は強烈な雷撃を受ける羽目になった。
真後ろに回っていたゴーレムからの攻撃だった。
そして、波留の攻撃は数体のゴーレムにダメージを与えた物の、致命傷には遠かった。
ゴーレムへの攻撃は貴志にも跳ね返る。しかし、ここでそれを教えてやるほど貴志は優しくない。彼は無理して我慢している。
まともに攻撃を浴びた波留と優人は、飛行術のコントロールを失って墜落していく。
しかも、墜落しながらも雷撃の追撃を受けている。
この攻撃でさえ即死しない程度には勇者の体は強化されているものらしい。
海面に水柱と共に墜落した2人。
このまま放置しておいても、溺死するだろう。
しかし、貴志は敢えてドラゴンブレスで止めるつもりだった。
桜色ドラゴンが息を吸って、思い切り吐き出そうとした時のことである。
キラリと輝く槍が貴志を襲った!
幸いにドラゴンの障壁によって槍は弾かれたものの、明らかにガレオン船とは違う方向からの攻撃だった。
いや、博多湾に侵攻したガレオン船とは別のガレオン船が急速に接近している。
これは浦賀水道から敗走してきた江戸湾攻撃部隊の生き残りだった。
先程の槍の攻撃は勿論、大三郎の攻撃だ。
彼はメフィストに命じたのだ。博多の2人が死ぬ前に何とか合流させろと。
かくしてギリギリの場面で、大三郎は合流することに成功した次第である。
「トリスタン!波留と優人を回収しろ。2人を見殺しにしたらお前も殺すぞ」
大三郎はそう叫ぶと、一気に貴志に向かって飛んだ。
「俺は佐々木大三郎。竜殺し、お前を殺す者だ」
「お前が3人目か。正2位、出雲貴志伯爵である」
「今日がお前の命日だ!遠慮なく死ね、邪竜使い」
「死ぬのはお前だ。俺は殺せない」
貴志の場合、正しくは蘇生術で甦る仕組みなのだが、簡単には死なないというのは間違いない。
ここに来るまでに、大三郎はメフィストにより強力な武器を求めた。
それに応えてメフィストは大三郎に、2本の剣を与えている。
片方は攻撃用、もう片方は防御専用の魔法を使える仕組みの施された魔剣である。
大三郎は全力で飛翔して、ドラゴンの結界に魔剣を叩き込む。
魔剣の威力は中々の物で、見事にドラゴンの防壁にヒビを入れることに成功した!
気を良くした大三郎は2撃目、3撃目と叩き込んでいく。
やがて、パリンッという音と共に防壁が砕けた。
メフィストから邪竜殺しは接近戦が苦手だと、事前に知らされていた大三郎はとにかく距離を詰めようとして突撃する。
「うおりゃあっ、死ね魔王!」
ついに魔剣必殺の間合いに入り込んで、気合の籠った一撃を繰り出す大三郎。
しかし、目の前の敵に集中し過ぎた。
勝ったと思った瞬間に、大三郎を巨大な拳がぶん殴ったのだ。
貴志お得意の25m級ゴーレムである。
ドラゴンの結界すら破られるのなら、強力な奴を追加で呼べばいい。それが自分には出来るのだから。
貴志はグリフォンやキュマイラを掃討していた20mドラゴンを帰して、ゴーレム軍団を招集していたのだ。
そもそも、ゴーレム集団の集中砲火でドラゴンを葬ったのだ。ドラゴンよりもゴーレム集団の方が強い。
一瞬、頭の中が真っ白になった大三郎だが、海中に叩き落とされた時点で水の冷たさで目が覚めた。
一体何事かとみて見れば、空には無数の埴輪型ゴーレム集団!
「野郎は邪竜使いじゃなくて、魔神使いなのか!話が違うぞ・・・。くっそう」
歯ぎしりしてみても、現実は動かない。
埴輪を使うと、埴輪のダメージが貴志に返ってくるから普段はドラゴンを使っているだけだ。
火力至上主義の貴志にとって、ドラゴンブレスでも埴輪の攻撃でも役に立つならどちらでも構わないのである。
「大三郎、引いて。敵の戦力が見えただけでも良しとしよう。こちらは消耗し過ぎた」
目覚めた優人が、大三郎に大声で叫んでいる。
確かに、今まで噂話程度の情報でしか敵の戦力を把握できていなかった。
今回正面から戦って、簡単な敵ではないということだけは体で理解した。
「今日の所は、ここまでか。魔王、明日こそは貴様を殺してやる!」
大三郎はガレオン船に向かって脱出する。
勿論、貴志の埴輪軍団は容赦なく追撃の雷撃を撃ち込んでいくが、大三郎の飛翔の匠さと防護用の魔剣が中々に高性能だったようで多少血を流しているようだが、致命傷になるようなダメージは与え切れなかったようだ。
夕日が沈み始めていて、そろそろこれ以上の戦闘は諦めた方が良さそうな時間だった。
それに貴志に返って来ていたダメージも少なくなかった。
大人しく陣営に戻ることにした貴志だった。
「お頭様、お役目お疲れさまです。結局、面倒なのはあの3人組のようですね」
「うーん、落ち着いてやれば普通に勝てそう。3人目の大三郎とかいう奴の魔法付与された剣だけは面倒だけど」
「ところで、お頭様。私ら小隊長は忍びの出でございます。昼も夜も私らには関係ありません。ここは夜襲でも掛けて、あの3人組を仕留めさせてはいただけませんでしょうか。
奴らの逃げ込んだ船は分かっておりまする故に」
「そうだなあ、まあ飯食ってから行ってみようか。面倒事はチャッチャと済ませてしまうのが良いかもな」
「お館様、それならシェイラもお連れ下さい。あの者達はお館様を魔王だとか!許せません」
「あなた、私もお伴させてください。もう、あなた御1人を危険な事に晒すのは辛いのです」
「ああ、お前らは何かあった時の俺の回収係な。小隊長連中は死んでも2階級特進で済ますけれど、お前らに怪我されたり、死なれたりしたら俺はスンゴク凹むからな。
絶対にダメだからな、絶対だぞ!」
「お館様・・・」
「あなた様・・・」
美しい女達が涙を流して胸の前で合掌しながら訴えるものの、その美しさ故に怪我をさせたくないと夫に思わせてしまう。
強力な魔法師であっても、戦場で何が起きるか分からない。
死んでもいいのは小隊長。
貴志のいつもの口癖である。
小隊長達は小隊長達で、2人の魔女と違って大将閣下の先陣を担って死んでよいと言われるのが嬉しい。
元々忍者というのは目立つことなどない。
間違っても戦場を華々しく突っ走るなどありえないことだ。
しかし、今は境遇が違う。
大環王国軍にあって、最精鋭の戦闘魔法師集団の指揮官である。
王国中の魔法師を指揮できるというこの名誉。
魔法師としての栄光この瞬間にあり。
戦士として戦場を駆けて、それも主役を務めて死んでも構わない。
正2位という高位高官の大将閣下から、それを許されるという名誉!
権力者の走狗に過ぎなかった自分達でも、死ぬまで戦場で思うがままに働いても良いという幸運。
この少年を頭目に据えて本当に良かったと児雷也は思う。
児雷也は心が昂ぶってくることを抑えることができなかった。
そして、それは才蔵と佐助も同じだった。
この2人は豊臣方の武将であった真田幸村の家臣であった。元より服部忍軍や柳生達とは散々火花を散らしてきた天敵だった。
豊臣方が破れて、主君だった幸村は討死。幸村の兄である信之が家康の家臣であり、信頼を得ていたから彼を頼って落ち延びた。
そして、2人の能力が高い事を知り尽くしていた柳生但馬の手引きで、王宮魔法師という名の走狗を務めていたのだ。
裏柳生や服部忍軍に犠牲が出そうな困難な任務に駆り出される日々を、鬱屈しながら過ごす才蔵と佐助だった。
それが今や竜殺しの英雄の副官として、王国中の魔法師達から尊敬される日々だ。
教え子達からは感謝され、若い学生達は直立不動の姿勢で彼らに接する。
この上、祖国大環を侵略者から守る為の戦で、この晴れがましい戦場で主役をやれる!
大阪の陣で家康を討ちそびれた時の主君幸村の無念が忘れならない。
しかし、今度はヘマなどしない。
必ず外国の走狗共を自分達で討ち果たしてみせる。
才蔵と佐助は、この戦場で死ぬ覚悟を決めた。
一方その頃の大三郎、波留、優人。
ひとまずポルトガル魔法師により傷の治療を受けて体を回復させて。
食事をしながらのミーティング。ワインを飲みながらの怪気炎である。
「やっぱり魔王に間違いないな。魔神まであんなに沢山使役するなんて」
「ああ、アレは面倒だな。パッと消えて、すっと出てきやがる」
「でもさ、彼自身はそんなに強くない。周囲に魔神やドラゴンがいるから強力に見えるけれど、一端近接戦闘に巻き込めれば倒せない事も無いように思う。
今度は僕が2人を瞬間移動させるよ。2人が別々の方向から一気に掛れば行けるように思うよ」
「そうだな、アイツは近接戦闘を嫌っているようにも見える」
「ああ、2人に話しておかないといけない。
江戸でな、妙に強力な奴らにあった。仙人なんてジョブを持っている退魔師Lv99+なんて奴と、それにLv90代の魔法を使う女が4人もいた。あいつらが出て来ると、また面倒なことになる。瞬間移動して、スッと攻撃するのは仙人の奴もやっていた。
この国では流行っているのかな・・・」
「大三郎、Lv90の魔法って異常じゃないか!」
「いたんだよ、すげえ綺麗な連中だった」
突然にガタンと何かが転がる音がする。
「なんだ、波で揺れたか?」
「うん、今ちょっと揺れたかも」
「何が転がったんだ?
船は揺れるんだから、ちゃんと固定しとけばいいのにな。
ポルトガルの連中は戦闘下手だし、船の管理もできねえのかよ」
「どうしたのかな?」
波留の悪態に呆れて、食卓から立ち上がって音がした方を調べに行こうとする優人。
「そこはダメだ!」
何故か、咄嗟に飛び上がって優人を突き飛ばす大三郎。
「えっ!何が・・・」戸惑う優人。
「なんだっ・・・」
座っていた波留は、最後まで言葉を出すことも無く吐血した。
その波留の胸から刀の刃が生えていた。
背中側から突き刺された刀が・・・。
次回は、小隊長3人組が夜の博多沖で無双!
忍者にして魔法使いという強者が、勇者を追い詰める。
そして、戦局は大きく動いて行きます。
まだまだ続く、ポルトガルの侵略編。
乞うご期待。




