46.続第二次博多迎撃戦
ご愛読ありがとうございます。
いよいよ、大怪獣決戦のクライマックスです。
ドラゴンがベヘモスと戦い。
ミノタウロスが大猿と、そして大鷹と雌雄を決します。
勿論、この世界では怪物相手に人間自身も戦います。総出で魔物退治に挑む戦士達の活躍にもご期待ください。
大ガマが勤勉に労働し―単に食事を堪能しているのかもしれぬ―セッセとグリフォンとキュマイラを捕食し、大蛇も同様に尻尾で引っ叩いてから丸呑みを続けている頃。
大猿も負けず劣らずに働いている。
味方の大軍勢がいる場所では、「絶対に味方に甚大な損害を与える大絶叫を使うな!」と釘を刺されている佐助。
ここは慎重に対処している。
グリフォンとキュマイラは精々6~10mといったサイズである。対して大猿は30mを越えている。最近は上半身の筋肉が妙に発達してきて、たてがみの生えているゴリラ風に変化しつつある。それに牙が目立つようになっており、ガブリとやられるとミノタウロスでも無事では済まないだろう。
これだけの体格差があるのだから、大猿は慌てることもない。
周囲に寄って来るグリフォンやキュマイラに、当たるを幸いにぶん殴ってはガブリと噛みつく。
グリフォンやキュマイラは火炎や雷撃も放ってくる。
しかし、大猿の敏捷性は素晴らしいものだった。
グリフォンらが攻撃しようとして足を止めて狙いを定めようとした瞬間に、大猿はサッと飛び跳ねて狙いを付けさせない。
逆に足を止めた個体の後ろ側に飛びはねてしまって、後ろからぶん殴るくらいのことを平然とやってのける。
実際、全く危うげなく狩りというよりも、ゴミ掃除という風情で敵の排除にあたっている。
大ガマ、大蛇、大猿が真面目に全く危なげなく健闘している状況ではある。
しかし、200人のポルトガル魔法師が、それぞれに200近い魔物を召喚したらどうなるか?
4万近いグリフォン、キュマイラ、ケルペロスの群れがやって来ると言う寸法だ。
対して、大ガマ、大蛇、大猿は戦闘している。
しかし、大鷹とワイバーンの100程はドラゴンの戦闘に巻き込まれるのを嫌って上空待機中。
ドラゴンは依然としてベヒモスに攻撃を加えている。たまに空中でウロウロしているグリフォンを焼いたりしているが、それも多くは無い。
現在、4万もの魔物軍勢の7割程度が海岸線附近に集中していて、3割が海上を進行中という状況である。
要するに大猿や大ガマ、大蛇が相手にしているのは極少数であって、大半の魔物には大環の人間達が対応しているのだ。
博多の陣営に集まったのは実に2,000近い魔法師達。
この半数近くは、富士の演習場で散々に貴志達にしごき抜かれた精鋭である。
彼らの卒業資格とは、10人組で2体のグリフォンを撃破できることなのである。
特別に時間制限など設けていないけれど、5~6分程度の間で仕留める程度の練度を皆が持っているのだ。
10人1組の戦闘ユニットが実に100部隊。
そして、彼らは井伊から自由に魔石を使用して構わないという許可を得ているのだ。
こうなればやることはただ一つ。
亀田の騒乱で効果を発揮した、時差広域撃滅射撃である。
100個部隊が横並びに展開しての、一斉射撃を繰り返すのみ。
ティラノやワイバーンから採取される30cm魔石を魔力とした攻撃魔法なら、1人で1発につき直径50mを破壊する。
1個小隊で横に10人並ぶと横500m、縦50mに打撃を与える。
100個小隊なら横50,000m縦50mの範囲を1回の射撃で破壊することが可能という凄まじい必殺戦法である。
これを縦方向にずらしながら、何度か射撃を繰り返す。
初回の射撃では横50,000m縦50mを削る。
2度目の射撃では横50,000m縦50~100mの範囲を削る。
こうして、縦方向に破壊範囲を広げていくのだ
ただし、今回の戦場は実際には幅10km圏内という程度である。
飛行可能な敵の魔物がドラゴンを恐れて地上付近に降りてしまっているのだ。その為にそれ程広い範囲には散らないという結果になっている。
20個部隊単位で射撃して、幅10,000m、縦50m単位で攻撃して、徐々に縦方向に目標をずらして行けばいいということだ。
横に狭い分、縦方向への攻撃が早くなる筈だ。
魔石を利用した一糸乱れぬ集団射撃訓練こそが富士演習と言っても過言ではない。
その訓練の為にこそ、広大な演習場を必要としたのだ。
火力至上主義。
これが現在の大環王国の魔法集団なのである。
攻撃範囲内に20mのティラノがいても完全に吹き飛ぶ威力がある。
当然ながらグリフォンやキュマイラがいても、まず助からない。
「よーし、始めるぞ!第一班用意。
5、4、3、2、1。撃てっ」
児雷也の号令一下。待ち構えていた第一班の20個部隊が一斉に攻撃を開始する。
“ドーン”
“ゴーン”
“ボッ”
“ギャアアッ”
“キュアア”
“グオオッ”
砂浜を削っただけの攻撃と、敵を巻き込んで殺した攻撃。
それが混ざり合って、轟音と悲鳴が戦場に響き渡る。
今回は号令係りに専念するつもりらしい児雷也が次の指示を出す。
「さあ、第2班。行くぞ。5、4、3、2、1、撃てっ」
“キュアア”
“ガアッ”
“ドーン”
“ボーン”
“キュアア”
“ガッ”
第二撃の方がどうも敵の犠牲は大きかった模様だ。
「ほい、第3班。行くぞ。5、4、3、2、1、撃てっ」
“ガアッ”
“キュアア”
“キュアア”
“ドーン”
“ドーン”
“キュアア”
「よっしゃ、第4班。行くぞ。5、4、3、2、1、撃てっ」
“轟!”
「おお、一体なにごとだ!?」
「なんじゃ!」
見物していた研究者や引退していた老人達から一斉に驚嘆の声が上がった。
幅は通常の範囲なのだが、縦方向の範囲が尋常ではなかった。
一気に500m以上は猛烈な勢いで燃えている。
「ああ、気にしないでいいわ。特別なことはしていないから」
サラリと言ってのけたのは勿論シェイラである。精鋭の10倍位の仕事は簡単な物の範疇らしい。
「ああ、お前か。まあいいや。
気にするな、ホレ。次は第5班。
行くぞ。5、4、3、2、1、撃てっ」
シェイラの凶悪な攻撃を“まあ、いいや”とか“気にするな”と済ませてしまう児雷也も児雷也だが、本当に気にせずに攻撃を続けてしまう。
精鋭部隊というのは、本当に精鋭部隊なのである。
富士での理不尽なシゴキに耐えきった彼ら精鋭部隊にとっては、シェイラやレキュアが少々気合を入れた攻撃をしても驚くこともない。平常運転そのままである。
“ガアッ”
“キュアア”
“キュアア”
“ガッ”
“ガッ”
4万もの大軍で侵攻してきた魔物軍団は為す術も無く一方的な攻撃にさらされている。
正直、ベヘモス以外には新顔がいないというのが有利に働いている。
グリフォン、キュマイラ、ケルベロス、ミノタウロスといった軍勢では、既に対応に慣れているというのが非常に大きい。
散々に訓練をしてきた相手、一緒に訓練をしてきた教官と仲間達。
想定通りに一糸乱れぬ攻撃を展開する。
それで赫々たる大戦果を挙げているのだ。
こうした安定した戦を家康が見ていたら大絶賛したことだろう。
こうした局面を予想して、その為の要員訓練をしてきたのだ。
この戦を避けることはできない。
ポルトガルは絶対に攻めて来る。だからこその準備だったのだ。
「第6班、行くぞ。5、4、3、2、1、撃てっ」
“轟!”
「おお、今度はなんだ!?」
「ぬぬう、一面氷じゃ!」
これだけの広範囲を一瞬で氷漬けにする女など1人しかいない。
その1人も隊列に入っているのだ。今さら驚くこともない。
児雷也一行にとってはその程度のことだ。
しかし、隠居してしまっていたような老人魔法師達にとっては驚愕の技ではある。
250年以上生きて来たような魔法師であっても、シェイラやレキュアなどは明らかに異常な存在なのだ。
こうして戦の最前線において、その能力の一端を見せつけられる。老人達は自らの生涯をかけて修行してきた魔法が、いかにも小さい物に感じさせられてしまう。
そもそもが一糸乱れぬ統率の元に、見事な一斉射撃を披露する現役魔法師達。
戦国乱世が過ぎて久しいというのに、彼らは妙に戦慣れしているではないか。
勝てそうだからと奢り昂ぶるでもなく、敵に怯えることもなく。
淡々と、正確に攻撃を続行していく。
自分がもう100才も若ければ・・・。
老人達はそう思う。
「よし、第7班やるぞ。5、4、3、2、1、撃てっ」
“キュアア”
“キュアア”
“キュアア”
“キュアア”
“ガッ”
“ガッ”
グリフォンのまとまっていた場所にまともに命中したらしい。着弾の轟音よりも、断末魔の悲鳴の方が良く響き渡っている。
この時になってようやくと沖合から3匹のミノタウロスが、海岸線からも良く見える位置に到着してきた。
グリフォンやキュマイラ達は、ミノタウロスに合流せんとばかりに後退していく。
「第8班、第9班。
逃げるグリフォンの先頭辺りを狙え。逃げる集団を始末しろ。5、4、3、2、1、撃てっ」
バッシャという水面に着弾する音。
“キュアア”
“キュアア”
“キュアア”
そして、グリフォン達の悲鳴。
見事逃げ惑うグリフォン集団が削られていく。
既に2割以上の敵は削ったようには見える。しかし、敵は4万の大軍だったのだから、まだまだ先は長い。それに沖合からはミノタウロスに遅れてケルベロス集団も迫っているのだ。
「おーい、佐助、才三。牛は猿と鷹でやれ、俺もガマと大蛇でやる。
お頭様、ドラゴンは沖合に移動させてください」
「ああ、わかった」
「心得た」
「合点!」
かくして、
ミノタウロスvs大猿
ミノタウロスvs大鷹
ミノタウロスvs大ガマ+大蛇
三つ巴の怪獣大決戦の幕が切って落とされた。
佐助の使役する大猿は、島原でもミノタウロスと戦っている。
今回は前回の切り札になった大音響の雄叫びが禁手になっているハンデがある。
しかし、以前の巨大なニホンザルという佇まいから、現在では鬣付きのゴリラという風情にレベルアップしている。
上半身の筋肉の盛り上がり具合などは、むしろミノタウロスを上回っている程だ。
それでいて俊敏さは増している。
それに完全に肉食獣並みの立派な牙を生やしている。以前なら牙攻撃が通用しなかったけれど今なら十二分に有効だろう。
お互いに敵意剥き出しにして、ぶつかり合う30mの巨獣達。
下半身は海に浸かったままだから、それほどの速度では動けない。
だから、真っ向からのパワー勝負になった。
お互いにノーガードでぶん殴りあう、ミノタウロスと大猿。
今回はどうやら大猿の方がパワーで勝ったようだ。数発のパンチの応酬で、悲鳴を上げて逃げ腰になったのはミノタウロスであった。
“ウギャ”
“ブモッ~”
“ギャ”
“ブギイ~”
すっかり逃げ腰になったミノタウロス。殴られた拍子に海底の砂に足を取られて、スリップダウン。
溺れそうになって慌てて顔を上げようとした所を、角を抑え込んでミノタウロスを溺死させようと狙う大猿。腕力に相当に自信があるのだろう。
暫く、ジタバタした挙句になんとか脱したミノタウロス。
しかし、一瞬大猿に後ろを見せてしまった。
今やサーベルタイガーのように牙が発達している大猿は、待ってましたとばかりにミノタウロスの首筋に噛みついた!
“ブモ~ッ”
断末魔の叫び声と共に大量の血を吹きだしてミノタウロスは死んでいった。
“ウゴッ、ウゴッ”
ご機嫌で自分の胸を叩いて誇示する大猿。生態もゴリラに近づいているのか。
“キューィ”
鋭い雄叫びを上げて大鷹は、ミノタウロスに急降下をかます!
下半身が海に浸かっているミノタウロスでは素早い回避行動は無理だった。
上空から狙いすました急降下攻撃は、鋭い爪でミノタウロスの目を潰すことから始まった。
第一撃目で早々にミノタウロスの右眼を損傷させた大鷹。
視界の悪くなった右側から今度は後頭部を狙った、急降下攻撃を敢行。
滅茶苦茶な動きをしたミノタウロスは、しかし、そのお蔭で後頭部直撃を免れた。後頭部を救われた代償に右の角をポキンとへし折られてしまったけれど。
“ブモ~ッ”
目の傷に海水は沁みる。しかも片方の角も折られた。
なんとか一矢報いたいというミノタウロス。
しかし、大鷹は賢かった。
角をへし折った直後には高度をとることもなく、低空のままで再度後頭部への攻撃を敢行したのだ。
背後を取った大鷹は鋭い爪で、ミノタウロスの両肩をがっしりと掴んだ。
そして、思い切り嘴をミノタウロスに叩きつけた!
ミノタウロスの頭蓋骨は大鷹の嘴に見事に砕かれてしまった。
一撃で脳を撒き散らしつつ、海を血に染めてミノタウロスは倒れて行った。
さて、大ガマである。
重量であれば圧倒的にミノタウロス。パワーでも比べようがない。
水中戦であるだけ多少の救いはあるのかもしれない。
大ガマは水中に潜ると体色を変化させて、一見すると水に溶け込んだかのように見せた。
そして、海中から下を伸ばしてミノタウロスの左目を攻撃した。
ガマの武器は毒である。攻撃を食らった左目はあっという間に血が噴き出て、腐り始めてしまう。
“ブギイ~”
いかにも苦しそうなミノタウロス。しかし、彼は海中に潜む者を上手く攻撃する術はない。
行き当たりばったりに、海面にパンチを振るうばかりだ。
逆に水中から体当たりを食らって、ダウンする始末だった。
それにガマの体表面は粘膜だ。ガマを捕まえて攻撃することは難しい、それに迂闊に障ると毒腺が体表にもあるのだ。
あたり構わずにパンチを出して、ケリを出してみて。
全く手ごたえの無い攻撃を繰り広げた後、ようやくとガマを捕えることに成功したミノタウロス。
ネバネバとして、捕まえて引き裂くというのは困難だった。
悪戦苦闘して何とかガマの両腕を掴んで、引き裂いてやろうかとした瞬間である。
足を止めていたミノタウロスに大蛇が襲い掛かったのである。
シュルシュルとミノタウロスの体をよじ登って、首筋にガブリと噛みつくと同時にそのまま首に巻きついて締め上げる。
苦労して捕まえたガマを離してしまうミノタウロス。
自由になったガマは再度体当たりを敢行して、ミノタウロスを海中に引きずり込む。
やがて毒が回って、呼吸もできず・・・。
海面に浮かんできた時のミノタウロスは、既に呼吸が止まっていたのだった。
大物決戦が終わった頃。
いよいよ、本当の大物対決も結末に近づきつつあった。
ベヘモスにドラゴンブレスの直撃や至近弾を数発命中させていた桜色ドラゴン。
ベヘモスの対空射撃は徐々に弱く、頻度も落ち始めている。
逆に、桜色ドラゴンは至近距離の光線を少々受けた程度で済んでいる。
状況的には圧倒的に優位になりつつある。
海岸付近にいたグリフォンやキュマイラは後退し、
やって来たミノタウロスは壊滅して、
残存している魔物の数は依然として多いとしても、その程度はさしたる脅威にはなりそうにない。
そこで、貴志は勝負に出た。
20mドラゴンも追加で召喚したのである。
ベヘモスは頭部の角から光線を発しているが、頭の向いている方向にしか撃てていない。
そこで2対のドラゴンで複数方向からの攻撃に出たのだ。
桜色ドラゴンは70m程だから、20mドラゴンは小柄に見える。
しかし、そこはドラゴンである。
ドラゴンブレス自体は、ちゃんと強力だった。
神龍相手には分が悪いと言っても、200m程度の相手なら問題は無かった。
桜色ドラゴンと20mドラゴンは、お互いに相手の頭と尻尾方向に位置するように飛んだ。
攻撃をする時は同時に。
これにはベヒモスは大打撃を受ける羽目になった。
頭方向からの攻撃は迎撃できても、後ろからの攻撃は受け放題だった。
巨体と頑丈なウロコを持っているとはいっても、そうそう何度もドラゴンブレスなど受けていられる筈もない。
後部から背中にかけてのベヘモスのウロコはすっかりと焼け落ちてしまって、その下の筋肉部分は焼け爛れている。
“グオオッ”
気合を入れた雄叫びと共に、桜色ドラゴンが勢いをつけてドラゴンブレスを叩き込む。
これ以上攻撃を受けるのはマズイと必死に光線を浴びせようとするベヘモス。
そのベヒモスの角を目がけて、20mドラゴンは必殺のドラゴンブレスを放つ!
頭部のウロコと共に吹き飛んだ角。
これでベヒモスの攻撃手段と防御手段は封じられてしまった。
後は簡単な顛末になった。
桜色のウロコを輝かせながら、止めのドラゴンブレスを放つ。
まともにそれを浴びたベヒモスは、全身を炎に包まれてしまった。
海水を蒸発させつつも、ベヒモスの肉体を焼き払うという猛烈な火炎。
蒸し焼きにされて死んでいったベヒモスであった。
相次いで大物怪物が脱落したとしても、この段階で未だ3万近い集団の魔物が残っている。
しかし、それを有効な戦力と見るか。
それとも、いたずらに戦力を消耗するだけだと考えるか。
後には引けないアルフォンソにとっては、何が何でも利用しなければならない戦力。
トリスタンとしては、無駄に消耗することなど許されない貴重な戦力だった。
この時点では双方共に知らない問題がある。
召喚術と言っても西洋式の物と、大環式の物では根本的に違う点がある。
西洋型の召喚術で召喚されて来る魔物達は死んでも魔石を残す。
西洋式の召喚術師は、その存在自体が金の卵を産む鶏なのだ。
但し、一度殺してしまった魔物と同じか、もしくは同程度の魔石を残す物を次に召喚するには30年以上かかる。都合よく、次々には再召喚など出来ないのだ。
これに対して、大環式の召喚術では召喚獣は死んでも魔石を残さないで消え去るのみだ。
召喚術そのものでは富を産めない。労働力として使役するくらいだろう。
しかし、召喚獣が死んでもすぐに再召喚ができる。貴志達は富士で何度でも演習に召喚獣を使役できるのである。
だから、トリスタンは召喚獣の使役に慎重にならざるを得ない。
なにしろ、相手にはドラゴンが大小2匹もいるのだ。本気で掛られるとポルトガルの召喚獣など数分の内に壊滅させられてしまうだろう。
それは大変に困る出来事なのだ。召喚術師としては商売に窮してしまう。
トリスタンとしては自分達のモンスターは対大環の兵士用として、ドラゴン相手には別の方法を講じたいと思った。
そして、すっかりと敵の強力な魔法攻撃に気を取られて、更に大物怪物達の抗争に目を見張らされてしまったが、こちらには邪竜使いを退治するための勇者がいることを思い出した。
そうだ。
勇者を使おう。
トリスタンは早速行動に移った。
「波留君と優人君を呼んでくれ」
波留と優人は、完全に理解を超える状況に混乱していた。
邪竜殺しの魔王に辿り着く以前の段階で、ポルトガル軍が弱すぎると感じていたのだ。
先日の博多湾を巡る大規模な潮の満ち引きの操作。
今回にしても、魔法使いが一糸乱れぬ統率の取れた戦闘を行っている。
中にはトンデモナイ威力の攻撃をしていた者もいる。
それに、邪竜だけではなく他にも相当に強力な魔物がいるではないか。ミノタウロスなど簡単に倒せるような魔物がワラワラと出てくる。
おかしいのだ。
魔王さえいなければ、ポルトガルは圧倒的に強いという話をここまで来る航海中ずっと聞かされていたのに、蓋を開けると完全に旗色が悪い。
ポルトガルは、一方的に弱すぎる。
このままでは波留や優人が出た所で、戦局の打開などは到底不可能だろうとしか思えなかったのだ。
戦場にドラゴンが2体も飛び交っているのだから、敵の魔王とやらも戦場にいるのだろう。
しかし、その姿が見つからない。
戦場の中心で指揮を執っている者―ポルトガル側からは児雷也が指揮官と映っている―は、ドラゴンを操ってはいない。あの指揮官はガマとヘビを使っていた。
では、どこにいるのか?
それすら波留と優人には解っていないのだ。
「やあ、呼び立ててしまってすまないね。ご覧の通りで戦況は思わしくない。
まずはあ邪竜を排除しない限りは、どうにも都合が悪いのです。
君達2人には、どうかあの邪竜を使役している魔王を倒して欲しいのです」
「でも、トリスタンさん。
どこに魔王はいるのでしょうか?ずっと探していたのですけれど、前線で指揮を執っている男はカエルとヘビを使役していても、ドラゴンは使役していません。
一体、どこに魔王はいるのでしょう。それすら分からずに突撃なんてできませんよ」
「そうそう。優人の言う通りだぜ。
あのドラゴンを直接叩けってえのは無しにしてくれよ。冗談じゃない。
このまま敵さんが見つからなければ、どうにもならないじゃないか」
「それは心配には及びませんよ。邪竜殺しの魔王は子供の姿をしています。
確か13才かそこらです。この戦場で貴族の格好をした子供を探せばいいのです。
如何に未開の辺境だといっても、この戦場にいるような子供は特殊な存在です。
あの指揮官の見える場所にいる子供。それが間違いなく魔王ですよ」
「何故、あの指揮官が見える場所にいると言える?」
「あの指揮官が本来の指揮官では無いからですよ。必ず、本当の指揮官は近くにいます。
そうしないと戦争などできませんしね」
「そうなると指揮官を目がけて、ドーンとデカイ魔法でもぶつければいいのか?」
「そうです!それが良いでしょうね」
「うんじゃあ、優人。一発頼むわ」
「なんだか物凄く荒っぽい発想だし、ホントかどうかも怪しいけれど・・・。まあ、仕方がないかな」
優人は無言で意識を集中させていく。
徐々に魔力が高まるのを感じてから、敵の指揮官目がけて電撃を撃ち込んで行く。
児雷也は嫌な殺気を感じた。
彼とても百戦練磨の戦士である。危機が迫ったことは気配で感じる。
「全員、障壁を展開!急げ」
その直後には威力のある電撃が児雷也の眼前で炸裂した。ただし、魔法障壁に遮られてしまったが。
児雷也自身が障壁を展開することは間になっていなかったのにだ。
障壁を咄嗟に展開したのは、貴志が隠密状態で召喚していたドラゴンである。3匹目のドラゴンは最初から隠密状態で展開していたのだ。
貴志にとって一番馴染深い50mドラゴン。ジッと彼の上空で戦機が熟すのを待ち構えていたのである。
そして、いよいよ自分の出番が来たのだと理解したのである。
次回はやっと波留、優人が貴志に決戦を挑みます。
大三郎も江戸湾から何とか駈けつけて無事に合流して・・・。
魔王を倒して欲しいと亡き王女から依頼された勇者達が、やっと魔王と邂逅を果たし戦闘開始となるお話。
第47話は、「博多湾に散る・・・」です。
乞う、ご期待。




