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40.悪魔ダンジョンに遊ぶ

ご愛読ありがとうございます。


 書いているうちについスイッチが入ってしまって。

 エルフに小人、挙句に眠れる森の姫まで!

 登場予定の無かった面子が出るわ、出るわ。

 いつもより長めに、増量しております。

 ラスボスはメフストフェレスというダンジョン後半の物語。

 イザ!開演。


 *りおを理緒に改名しています。


 

第五幕一;森林地帯にて


 密林の階層を抜けると、依然として森林地帯ではあったが今度はさわやかな気候だった。


 熱からず寒からず。湿度もちょうどいい所だった。


 ヤレヤレと、安心したのも束の間。


 森林地帯なのだから、鳥くらいいてもおかしくはない。


 おかしくはないのだか、やってきたのは尋常ではない。


 人間の女の顔に体。


 但し、腕の代わりに翼が生えている。


 両足は普通に鳥だった。


 それが、ギャーギャーと騒ぎつつも、ワラワラと寄って来た、寄って来た。


 遠距離戦だとばかりに、優人、樹里、神楽耶が魔法攻撃を仕掛けるも、相手は非常に飛ぶのが上手い。


 案外うまく当たらない。


 それに綺麗な顔つきで、体つきだって女性らしい凹凸がちゃんとあった。


 優人などは赤面してしまって、まともに正面から見ていられなかったから、余計に狙いが定まらない!


 逆に、大三郎と波留は妙にハッスルして、接近戦に持ち込めと五月蠅い。


 そうこうしているうちに、実際に接近戦に持ち込まれてしまう。


 相手は相当に速い。足の爪も相当に鋭い。


 戦士の連中なら神槍を振り回して何とかなるものの、魔法使いにはやり難い相手。


 そして、フォワードの大三郎と波留は、相手に興奮してどんどん前進して行ってしまう。


 だから、理緒が樹里をフォローして、優人が神楽耶を守っている間に、距離が離れてしまっている。


 神楽耶は盛んに男2人に戻れ!と叫んでいるのだが、どうにも耳には届かないらしい。


 いつの間にか大三郎と波留は、4人と離れていた。


 そして、離れたスペースにハーピィが入り込んで分断されてしまう。


 理緒は戦士スキルだからどうしても動きながらの戦いになる。そのペアになる樹里も、彼女と距離を置きたくないから追いかける形になる。


 対して、優人と神楽耶はどちらかというと固定砲台という戦い方だ。


 自然と2人組と2人組で離れて行ってしまう。


 離れたスペースにはハーピィが入って来て、ますます分断されてしまう。


 最終的には2人組同士で散り散りになって、走って逃げる羽目になっていったのである。



第五幕二;セイレーンの湖


 男の本能を剥き出しにして、ハーピィを追い回す男2人。


 思春期真っ只中の少年達であるから、魔物といえども西洋風の顔だちと女性らしいプロポーションを持つ姿に興奮してしまうのは致し方あるまい。


 しかし、ここはダンジョンである。


 早々、都合のいい話などある訳がない。


 ハーピィを追いかけているうちに森が開けて、湖が見えて来た。


 そして美しい歌声が聞こえる・・・。


 久しぶりにまともな歌声を聞いたなと大三郎は思った。


 きれいな空気に、美しい湖。


 そしてうっとりするような歌声。


 体から力が抜けるようにリラックスしてしまえる気がした。


 歌声に魅かれて、湖に近寄って行く。


 そこは桃源郷もかくやという光景が広がっていた。


 湖畔には色とりどりの花が咲き誇り―。


 そして、大勢の美女達が憩いの時を過ごしていたのである。


 日本人の高校生にとって、ギリシャ神話を画題にした絵画に描かれているような女神や妖精のごとき美女達を見つめてしまったらどうなるか?


 セイレーンといっても、下半身が魚という物ではない。鳥めいた存在でもない。


 如何にも女神や妖精という佇まいなのである。


 そして、多くのセイレーンの絵画にあるように、彼女達は服を身に付けていない。


 初めて女性の全てを見てしまった大三郎と波留。


 手招きをするセイレーン達。


 そして、彼女達は杯を差し出してきた。


 彼女達が差し出す杯を飲んでみると、初めて知るような甘くサッパリとした果実のジュースのような味がした。だが、勿論これは酒である。


 暫くするとすっかりといい気分になって来る両名。


 美しい女性達は2人を座らせて、まとわりついて来る。


 甘い香りのする、布一つ付けていない美しい女性達。


 こみ上げる男の本能に負けて、良心をどこかに仕舞い込んでしまった2人であった。


 このダンジョンのセイレーンは歌で迷わせて、水に男沈めるような存在ではない。


 あくまでダンジョンの防衛兵器である。


 即ち、男を魅了して吸い上げて干乾びさせてしまうという、対男性用の必殺兵器なのである。


 何しろ、男がフラフラと迷い込んだら10ヶ月後には群れが増えて来る仕組み付きである。


 蟷螂の場合は交尾後の不要になったオスはメスの餌になるようだが、セイレーンの場合は流石に餌にはしない。ただ、体力尽きて男は死んでいくのみだ。


 ある意味では、男にとっては幸せな死に方なのかもしれない。

 そうした仕組みの中に、まんまと2人は入り込んでしまったのである。




第五幕三;エルフの村


 一方、優人と神楽耶はハーピィに追われて森の中へ。


「まったくシツコイわね」


「ウインド・ストーム!ついでに、ショットガン・ライオット!」


 竜巻が巻き上がり、内部では雷撃が無数に散っている。


 ハーピィ達には相当なダメージを与えてはいるらしい。追いかけて来る個体は多くはない。


 息を切らして走っていた2人は、息を整えるようにゼイゼイとしながらも周囲への警戒を怠らない。


「あれ、金子さん。アッチに何かあるみたい」


「家かしら、ダンジョンの中に村があるの?さすがファンタジー世界ね」


「行ってみようか、敵か味方かわからないけれど。どちらにしてもはっきりさせないとダメだろうし」


「そうね、行きましょう。でも、警戒をしておいて」


 近付いて行くと、人間らしい人影がある。


 いや、人間らしい姿なのだが耳が非常に長い。


「ねえ、優人。あれって・・・」


「うん、金子さん。多分エルフだよね」


「何でもアリなのね」


 はい、何でもアリです。面白ければいいの!


「あ、あの言葉は通じますか?」


 オズオズと優人が声を掛けてみる。


「ああ、わかるよ。


 珍しいな若い男が湖を抜けて来るとは。


 ああ、女の子と2人だったのか。それならセイレーンも手を出さないかな。


 まあいらっしゃい。久しぶりのお客さんだ、歓迎するよ」


 愛想のいいオジサンの家に招かれて、お茶を頂いている。

 紅茶ではなく、日本茶だったのが意外だった。


「おいしいお茶ですね。久しぶりに飲みます・・・。

 あの、この村の皆さんはエルフの方なのですか?」


「ああそうだよ。ここはエルフの村だ。人間はいないね」


「エルフの方は魔法に御詳しいのでしょうか?」


「そうだねえ、人間に比べると詳しいね」


「私達はこの世界に召喚されてしまったのです。元々はこの世界の人間ではありません。

 なんとか元の世界に戻りたいのですが、何か方法をご存じないでしょうか?」


「それはまた面倒事に巻き込まれたようだねえ。異世界なんてあるんだね。


 もしも、あなた達に狙いを付けて、こちらの世界とそちらの世界を繋いで、強引に連れて来ることが出来たというのなら。

 その逆に、戻るべき場所と時間を正確に規定できるのなら転移系の魔法で戻れるのかもしれないね。


 召喚術に詳しい人間なら何とかなるのかもしれない。

 この村には、そんなすごい技をやれるような者はいないけれどねえ」


「召喚術ですのね。それが問題なのね・・・」



第五幕四;小人の家


 さて、理緒と樹里も、ハーピィに追われ森の中。


 だが、優人と神楽耶とは別方向だった。


 逃げ回っていると、突然と弓矢の援護射撃を受けるようになった。


 余り威力は大きくないけれど、それでも牽制には十分だ。


 これで集中できる時間を稼げた樹里は、半分威嚇を兼ねた大規模なファイアー・ストームをぶつけた。


 目の前に巨大な炎を見たハーピィ達は、2人を諦めて散って行った。


「ああ、よかった。樹里サンキュ」


「何とかなったわね。あの弓矢は誰かしら」


「あのー、助けてくれたのはどなたですかー?」


「ちょっと、理緒そんな大声で!」


「でも、無駄じゃなかったみたいよ。ホラね」


「えっと、小人サンですか?」


 出会ったのは小人達だった。

 大きさは精々30~50cmくらいだろうか。

 持っている弓矢も小さい物だった、余り威力がないのも当然かもしれない。


「うん、小人族だ。キミ達は人間だろう?良く、ここまで辿り着けたね。

 運がいいのだろう。

 何でこんな所にまでやって来たんだい」


「ダンジョンの50階層まで行ってみたかったんです。

 修行して強くならないといけないので」


「私達はこの世界ではない、別の世界から連れて来られてしまって。

 元の世界に戻るには魔王を倒さないといけないらしくて」


「それはまた難儀な話だ。魔王を倒すだって!!

 まあ、50階層に行くならエルフの村から抜けて行くようなものだ。そこまでは案内してあげよう」


 運のいい出会いからエルフの村に案内される2人。


 そこには優人と神楽耶が滞在していた。

 彼らも下層に移動するのなら、この村を通る筈だと知らされて待っていたのである。


「三鷹さんに、井上さん。無事でなによりだったね。心配していたよ」


「心配させてゴメン。優人」


「こっちも安心したわ、優人、神楽耶」


「これで4人が揃えたのはラッキーだったわね。後の2人はそうそう死なないでしょうし」


「なあ、エルフよ」


「なんだ、小人よ」


「あの男は結婚しているのか?」


「そうじゃないらしいぞ。友達だと言っている」


「なあ、若いの。一つ頼まれてくれないか。

 ワシらは1人の姫様を保護しているんだが、眠ったままでな。

 人間の若い男の口づけが必要なんだ。

 人助けだと思って、ちゅうっとしてくれんか」


「寝たきりで意識の無い人なんでしょ?・・・そんな勝手になんて」


「優人、何を言っているのよ!」


「そうよ、眠り姫を目覚めさせなさい!」


「そうよ、ファンタジーなのよ。この出会いは必要なのよ!」


 女子組は瞳にキラキラとお星さまを浮かべている。


 ここまでの道中にはGあり、蟷螂や蜘蛛やら。大猪にも追いかけられて。


 ファンタジー色が不足し過ぎていたのである。-女子組限定のロマンにだけれど。


 女の子には純情ロマンなのである。異世界から来た勇者様が眠れるお姫様を目覚めさせるべきなのだと、彼女達は一致したのである。


 自分達の置かれた境遇の理不尽さに切れているという面もあるが。


 かくして、小人の家まで押しかけて。


 気が付けばエルフの村人も総出になっているけれど―ヤンヤ、ヤンヤとお祭り騒ぎで囃される中で公開ファースト・キスを披露する羽目になった優人であった。


 クラスメート達を少しだけ恨んだ優人・・・。


 優人のキスが効いて見事に目覚めた少女。


 彼女の名はアリアドネ。自らをダンジョンの精霊だという。


 彼女はダンジョンを案内してくれるという。エルフの村から先というのは、入る人間が現れる都度に順路を変えるのだという。


 だから、以前は行ったことのある人間の地図などはあてにならないのだという。


 ダンジョンの50階層に行き着くには、ダンジョンの妖精を目覚めさせることが条件だったらしい。


 これを聞いた女子組は大喜び、


「これじゃなきゃね」


「うん、ファンタジー」


「眠り姫は精霊さん!」



第五幕五;最低、フケツ


 その翌日。


 フラフラになりながら合流して来る大三郎と波留。


 2人を見て、エルフと小人達曰く。


「若い男が湖に近づくと、1年後にはセイレーンが増えるからなあ」


「はたして、今度は一体何人増えるのだろう」


 ニタニタと笑いながら、話している。


 それを聞き咎めたのは神楽耶だ。


「一体、何の事かしら?」


「ええっと・・・」

「・・・」


 都合が悪いと、相手と目を合わせられない・・・。


 それでは、脛に傷があると自白しているようなモノだ。


 口先だけで丸め込んで騙すような手練手管など、若い2人には無かった。


 代わりにエルフと小人達が庇い立てる。


「まあまあ、セイレーンに誘惑された男などそんなものだぞ?」


「男ならおかしなことでもあるまい。セイレーンに誘惑されて生きて帰れるだけ立派なものだ」


「エルフだと干乾びて死んでしまう方が普通だからなあ」


「うん、生きて帰れる男は久しぶりじゃないか」


 これはしかし決して庇っているとは言えないだろう。


 女性軍には余計に火に油だ。

 有罪確定!


「大三郎、波留。貴方達は、昨日一体何をしていたの!

 勝手に走り出して、散々心配させて!キチンと説明しなさい」


「いや、なにも・・・」


「うん、迷子になっていただけで」


 だんだん小さくなっていく2人組・・・。


「なんじゃ、お主らはこの娘達と結婚しているのか?」


「いえ」


「ただの友達です」




「こんな下品な男など御免です。魔物相手に何をしているのか・・・」


「戦いに来ているというのに、緊張感が足りないわね。人間として信用できないわ。汚らわしい」


「最低、フケツ」


「ねえ、苦戦して皆と離れ離れになっていた時にさ。

 やっていい事と、ダメな事ってあるよね。

 正直に何をしていたのか、話してくれない?男同士でしか話せないというのなら、そうするけれど」

 優人も今度ばかりは味方をしてはくれないらしい。


 エルフと小人からダンジョンのセイレーンがいかなる存在か、それを聞かされた女性組は以降2人を信用しなくなっているのだが、それもまた身から出た錆というものだろう。



第六幕;オーガとの決戦!


 アリアドネという援軍を得て、いよいよ下層に進んで行く一行。


 確かに通路などはひたすら複雑怪奇である。


 数時間おきに内部構造が変わって行くものらしい。ダンジョンは生き物のような存在なのだろうか。


 そうした内部構造をアリアドネは苦も無く進んで行く。


 まるで羅針盤でも体内に設置されているかのように迷子にならずに淡々と進んで行く。


 ただし、彼女はすっかり優人に懐いていて、腕を組んで歩いている。優人によって目覚めたということは認識できているようで、完全に彼の僕というべき対応をしている。


 大三郎と波留はそれが不満ではあるのだが、女性組はアリアドネの味方で2人には冷たい。

 完全に2人を軽蔑している様子だ。


 アリアドネの能力はあくまでもダンジョン内の道案内というものだった。


 ダンジョン内に出て来る魔物の退治や魔物を避けて通るという能力までは持っていなかった。


 だから、迷子にはならないけれど戦闘自体は避けて通れない。


 下層に入って来て、敵もドンドンと強力なものになっている。


 ゴブリンなどは出てこない。


 殆どはオーガに率いられたオークの集団である。


 3~4体程のオーガに率いられて、15~20前後のオークがやって来るようになっている。


 勇者達はダンジョンに入った時にはレベル12前後だったのが、この段階では30くらいまで上昇している。


 特にオーガを倒すと良いらしいのである。


 だから、大三郎や波留は専らオーガに向かって突撃していく。


 彼らの神剣は依然として、敵を切り裂くのに男の不足も無いのだ。


 一刀のもとに巨大なオーガが沈んでいく。


 先にオーガを倒すと、残ったオークは指揮系統を引き継ぐことなく烏合の衆と化す。


 そうなると、魔法を叩きつけて行くと簡単に始末できるようだった。


 ただし、問題はあった。


 余りにも頻繁に遭遇するのである。


 戦闘経験を稼ぐのには都合が良い。しかし、疲労が抜けない。


 休む時間が取れないのである。


 今までなら魔物が少なかったから、当番を決めて休みながら行動をしていた。


 しかし、相手が強力で交代しながら休むという余裕が無いのである。


 敵が出てきたら総員で戦闘するしかない。そして、実に頻繁に敵が出てくる。


 レベルアップには都合が良いけれど、心身ともに疲労が溜まっていく。


 一度、エルフの村で休養するか。


 恐らくは戦闘してレベルを上げては休養する。休養したら、またレベルを上げる。


 それを繰り返して強くなるべきなのだろう。


 女性組はそれを希望しているのだが、大三郎と波留は行ける所まで行くべきだと主張して折れない。


 感情的なしこりが生まれていて、それが悪い面で現れているのだ。


 指揮官担当の賢者スキル保有者の神楽耶の指示に従うというのが不文律だったのだが、それが崩れ出している。


 魔物に誘惑されてしまったのだから仕方がないだろうという側と、皆が離れ離れになって危険な状態なのに魔物相手の女遊びなど信じられないという4人と。


 4人にして見れば、勝手に走り去ってしまった2人にはペナルテイが必要だろうと思っている。

 対して、乱戦になってしまえば、きれいごとでは済まないだろうと意地を張る2人。


 両者ともに依怙地になっているだけなのだが、女遊びに寛容になれるほど成熟している年代の女性達ではないから彼女達が折れることは無い。


 そして、脛に傷を持つ2人も気恥ずかしくて折れることも出来ない。


 これは、若さゆえの誤りという物なのだ。


 感情面を切り捨てて、戦力の保持を考えて見れば休養すべき局面であった。


 神楽耶はそろそろ2人を切り捨ててでも、生き残るべきではないかと思え始めていた時。


 それはやって来た。


 オーガが30匹ほどの集団で襲撃してきたのである。


 敵を見て、ヤケクソに突撃していく2人。


 やがて、仕方がないと言いたげに理緒も突撃して行った。


 魔法使い達は戦士達が戦っている相手以外の個体を、彼らに近寄らせないことを目標とした。


 目の前の敵を倒したら、次の敵まで少し間隔が空く。


 そういった間合いを取らせている。


 そうしないと少数の戦士が数で追い込まれてしまう。


 戦士達は依然剣の切れ味が落ちていない事に安心している。だから強気で押している。


 だだし、剣を握る腕が疲れて、痺れ始めているのも確かである。


 それに魔法使い達の放つ魔法の威力が、徐々に落ちているとは感じている。


 戦場にはやたらと激しく電光や炎が飛んでいるけれど、やはり疲労は隠せないのだろう。


 一撃で敵を倒せていたものが、2発、3発と必要になっているのが現状なのである。


 ここは何としてでも乗り切って、それから休息が必要なのだろう。大三郎はなけなしの気合を入れて、何度目かの突撃を敢行して行った。



第七幕;ボスは30mのミノタウロス!


 なんとかオーガ集団を倒して、これで一休みだと誰もが思った瞬間。


 床が徐々に落ちて行く。


「このまま1階層分降りて行きます。

 そこが50階層。

 このダンジョンの最下層です。

 ケルベロス、キュマイラ、ミノタウロスが支配する場所です。

 私が皆さんをお連れできるのはここまでです。

 皆さんのご武運をお祈りいたします」


 そう告げてアリアドネは光の粒子となって消えていく。

 ダンジョンの道案内役を終えた精霊は、また小人の村にでも戻るのだろうか。


 体力、気力とも限界ギリギリ。


 恐らくはそうしたコンデションに追い込んだ上でボス戦をやらせるというのが、このダンジョンの意志なのだろう。


 ギリギリになるまではひたすらにオーガを仕掛けるという仕組みになっている、そうとしか思えない陰湿なやり口だった。


 現れたミノタウロスは、身の丈30mはあるだろう戦斧を抱えた大物。

 ケルベロス、キュマイラにしても20mくらいはありそうだ。


 危険なことにケルベロスもキュマイラも、口から炎がこぼれ出ている。


 キュマイラの尻尾は、いかにもと言いたげな毒蛇にしか見えない・・・。


 ケルベロスが襲いかかってくる。


 火炎を撒き散らすのに対抗して、優人と樹里が障壁を展開する。


 しかし、限界なのだろう。障壁を火炎は破ってしまう。


 多少は減少したとは言え、まともに火炎を浴びてしまった2人。


「ぎゃあっ」


「ああっ」


 初めての心底から絞り出される両者の悲鳴だった・・・。


「しっかりして!」慌てて、神楽耶が治癒を始める。


 辛うじて2人とも息はあるようだ。


 神楽耶に襲いかかろうとするケルベロスを、波留が押しとどめようと斬りかかって行く。


 神剣には風を纏わせているようだった。


 波留の斬撃は見事、ケルベロスの首の一つを叩き落した。


 悲鳴を上げて後退するケルベロスに替わって、キュマイラが前に出てきた。


 理緒は神剣に雷を纏わせて叩きつける。


 キュマイラの山羊の頭は吹き飛んだ。そして、尻尾のヘビが噛みついてくるのを、難なく迎撃して切り飛ばして見せた!


 その隙に大三郎はキュマイラの獅子頭を叩き斬った。


 これでキュマイラは終わり。


 そう油断したのが不味かった。


 斬り飛ばされた蛇の尻尾は単独でも生きていた。


 毒蛇は一瞬気を抜いた理緒に噛みついた。


 噛みついてしまった・・・。


「いやっ」

 即効性の毒なのだろう、噛まれた腕がたちまちに黒ずんでしまった。

 苦しそうにのたうち回る理緒。


 慌てて毒蛇を始末する大三郎だが、後の祭りだ。


 神楽耶が慌てて、駆け寄っていく。余り治癒魔法が得意ではないが彼女に期待するしかあるまい。


 大三郎が蛇を始末している間に、波留はケルベロスの止めを刺しに走った。


 嫌がるケルベロスを追う波留。


 しかし、ここでミノタウロスが動いた。


 巨大な戦斧を振り回し、波留に一撃を加えて来た。


 これを神剣で受け止める波留。


 しかし、ここで神剣に限界が来た!


 戦斧の衝撃を弱めた代わりに神剣が真っ二つに折れてしまった。


 武器を失った波留に対して、ケルベロスが襲いかかる。波留は折れて半分になった神剣に有りったけの魔力を流し込んで最後の雷撃を撃ち放つ。


 雷撃はケルベロスに留めの一撃となったが、しかし、ケルベロスも最後とばかりに波留に噛みついていた。


 波留の首筋に牙が食い込んだ状態で、ケルベロスは死んでいた。


 神楽耶は慌てて波留の元に走った。

 けれど、既に魔力の限界を迎えていた。彼女は走る足取りすらおぼつかない状態であったのだ。


 無情にもミノタウロスの蹴りが彼女を吹き飛ばした。


 そして、彼女は動きを止めてしまった。


 かくして、戦場に残ったのは大三郎とミノタウロスのみ。


 最後の決戦が幕を開いた。


 強大な腕力で巨大な戦斧を振り回すミノタウロス。


 それをかわして、飛行術でミノタウロスの眼球に雷撃を叩き込む大三郎。


 小回りが効かないミノタウロスは片目を失って悲鳴を上げる。


 しかし、片目くらいでは戦意を挫けなかった。


 いよいよ怒り狂って襲い掛かってくるミノタウロス。


 今度はアキレス腱を断ち斬る大三郎。


 “ごがっ”堪らずにダウンするミノタウロス!


 しかし、この一撃で大三郎の神剣も折れてしまった。


 ここで神槍を取り出す大三郎。彼は長らく剣道をやっていたから神剣の方が使いやすかったのだが無い物は仕方がない。


 かくして、槍を奮ってミノタウロスの残る片目を潰しにかかった。


 立ち上がれないミノタウロスに対しては、攻める側が一方的な優位に立てた。


 飛行術で機敏に移動して、残った片目に神槍を突き立てる。


 しかし、魔力を絞っても既に限界だったのだろう。大三郎の神槍は魔法を纏うことは無かった。


 それでもなんとか両目を潰すことには成功している。


 後は止めの一撃が欲しい。


 死んでいるケルベロスの胸を裂いて、魔石を取り出す大三郎。


 魔石の力を借りて、最後の止めに雷撃を目一杯討ち放つ。


 その一撃は見事ミノタウロスを仕留める事に成功した。


 ミノタウロスの断末魔が響き渡ると、突如として大三郎の居た場所の地面は崩落してしまう。

 一瞬のことだったが大三郎は、さらなる下層に墜ちて行ったのである。




 終幕;契約


 辛うじてボスを倒した大三郎。


 既に体力・気力ともに限界一杯である。


 彼を突き動かしているのは、重傷の仲間を救わないといけないという想いか。

 それとも、元の世界に戻りたいという願いなのか。



 ダンジョン最後の試練は、まさに彼の心を試すものになった。


 下層に落ちて、暫く気を失っていた大三郎である。


 気が付くと周りには誰もいなかった。


 墜ちて来た筈なのだが、天井には墜ちた時の穴は無かった。自動的に修復するのだろうか。


 彼は魔法袋から水を出して一息つくと、今度は周りを観察してみた。


 いかにも洞窟らしい、岩の地肌を削っただけといった空間である。


 但し、広い。


 ドーム球場並だろうか。


 障害物などないし、階段らしいものもない。


 どうやって他のフロアと往来するのか、不思議な空間である。


 フラフラと中央付近に歩いて行くと、そこには石版が埋められていた。


 “望みがある者は石版に願え。

 契約に応じるならば、24年間に渡り全ての願いが叶えられる。”


 こう石版には刻まれている。


 何かで読んだ気がする。大三郎は朧げな意識の中で思った。


 このままでは仲間は助からない。

 そうなると一人で魔王を倒さないといけない。こんなダンジョンで苦戦するようでは話にはならないだろう。


 望みがあるとするなら、皆でさっさと元の世界に帰りたいことかな。

 でも、24年後に舞い戻るのは御免だけれど。


 16才だから40才になる頃までには、願い事が何でも叶うというのは悪い話でもない。


 どうせファンタジー世界の契約事の話だ。


 魂を寄越せとかいう悪魔との契約なのだろう。


 最後は神様が助けてくれるか、それとも魂を持って行かれるか。


 この世界から脱出してしまえば、神も悪魔もないのかもしれないけれど。


 朧げだった意識が徐々にはっきりして来る。


 そもそも、今のままだと仲間達は死ぬ。疲労の極みでボス戦を強制させたのは自身の責任だとも感じている。


 それに自分自身が、このダンジョンを抜け出す方法すらわからない。


 現実問題として、このまま仲間を見殺しにして、自分は食糧が尽きて死ぬか。


 それともここは悪魔に魂を売って、24年後に一勝負するか。


 大三郎は真剣に悩んだ。


 恐らく救助などは来ない。いや、来られないだろう。


 あのミノタウロスは強すぎた。ダンジョンの魔物だから暫くすると復活してしまうとして、まず仲間は助からない。


 その後で救助隊が来ても、あのボス達には太刀打ち出来ないだろう。


 ボス達がどれくらいの時間で復活して来るのか知らないけれど、数年単位ということではなく。

 数日か、あるいは数時間かというレベルの問題だろう。


 だから、ここは自力で仲間を救って脱出するしかない。


 選択肢としては、自力を頼りに仲間を救助するか。

 それにしても自分では治癒魔法を使えないから問題は残る。

 そもそも、脱出方法など皆目見当がつかないのだし。


 それとも悪魔に魂を売り渡して、この場を脱するのか。

 24年間という時間があるのなら、その間に何か細工することもできるかもしれない。

 自分はまだ若いのだから、可能性などいくらでもありそうなものだ。


 最悪な結果としては、このダンジョンで全員死んでしまうことだろう。

 それでは、この世界に召喚された意味すらない。

 最良の結果とは、望みを叶えるだけ叶えてしまって24年後に契約を反故にしてしまうことだろう。


 大三郎は思う。

 1ヶ月前の自分はこんな境遇など考えもしなかった。

 だったら24年後の自分だって、想像しても意味はないのかもしれない。


 いや、勇者なのだからレベルを上げるだけ上げてしまえば、悪魔など倒してしまえるかもしれない。魔王を倒せるのなら、一介の悪魔位は倒せるだろう。

 それこそ仲間達に手伝ってもらうことだって出来るかもしれない。


 大三郎は指先を切って、石板に血を垂らした。

 そして、唱えた。



「エロエムエッサイム!我は求め訴える!

 契約者よ、疾く来たれ!」



 石版を中心にして、魔法陣が浮かび上がる。


 複雑怪奇な幾何学文様が、地面に光り輝く。


 そして、地面全体が光に包まれていく。


 光の中心が徐々に沈み始める。


 光を闇が飲み込んでいくかのように、闇が広がっていく。


 地下広場の温度が下がっているようで、大三郎は震えを感じている。


 闇が魔法陣を、光を飲み尽くす・・・。




 そして、地の底から異形の人影が浮かんでくる。


 上半身は人型だが、頭上には横に広がる山羊のような角。


 背中にはカラスのような翼。


 下半身は黒毛の山羊そのもの。


 長くしなやかな尻尾。先端は鏃のような鋭い刃になっている。


「我はメフィストフェレス。我と契約を望むは汝なりや?」


「そうだ、俺は異界から召喚された者。佐々木大三郎だ」


「ふむ、異界から召喚とは面妖なり。


 されど、我に汝の魂を渡すという条件ならば、我は汝の願いを聞き届ける。


 24年である。24年間に渡り汝が願いを聞き届け、それを叶えよう。


 されど、いくつかの制約がある。


 即ち、神は殺せぬ。


 即ち、汝が我に害を為すことはならぬ。


 即ち、我は汝に害を為すことはせぬ。


 即ち、24年間を延長することも叶わぬ。


 即ち、汝が24年に満たずに死にたる場合には、汝の業によりて魂の行方は変わる」


「俺の業だと?」


「汝が神を信仰するのなら神の元に。我と共に―悪魔と共に過ごすのならば悪魔の元に」


「はん、俺は宗教なんて信じていない」


「ならば地獄に墜ちような」


「それもいいだろうよ。俺は死後の世界など信じてはいない。もし、神様がいるのなら俺がここにいる理由がわからない。理不尽過ぎるじゃないか!」


「好きにせよ。されば、契約と行こうではないか。


 汝、我メフィストフェレスの条件を認め、我と契約を締結するや否や」


「我、佐々木大二郎。汝、メフィストフェレスの条件を認め、契約を締結する!」


「うむ、ようかろうぞ!」


 魔法陣が俄かに生じて、光が地面を覆い尽くしていく。


 光が収まると、メフィストは人間の姿になっていた・・・。


「まずは、上にいる仲間達の怪我を治してくれ。それからダンジョンからの脱出だ」


「ふむ、それだけで良いのかの?

 汝はこの迷宮に何を求めたのだ。


 世界を征服したければ、それだけの強さをやるぞ?

 富が欲しければ、比類なき富をやるぞ?

 この世で最も美しい妻が欲しければ、与えてやるぞ?


 汝がこの迷宮に求めたるは、一体なんぞや」


「俺は元の世界に帰りたい。

 この世界の魔王とやらと呼ばれる男を殺せるだけの強さが欲しい。

 ああ、元の世界に美しい妻を連れて帰れるのなら、それもいいが・・・」



「この世に魔王様など顕現してはおらぬ!そのような者はまがい物よ。

 この世で一番美しい娘は、極東の地にある。行け辺境の地へ。

 その娘の名はクルーガ也。いずれ出会うことになろう」


 一瞬、視界がグラリと揺れた。


 次の瞬間に大三郎はダンジョンの1階層にいた。


 仲間達も意識を失っているが一緒にいた。


 皆は血塗れだったけれど、傷口はふさがっているようだ。


 この時、大三郎はLv70になっている。


 他のメンバー達を確認するとLv45だった。


 ラスボス撃破の恩恵という事にでもしておこうか。大三郎は独り呟いた。

 魔王退治に召喚された勇者が、リアルな悪魔と契約してどうすんだ!という突っ込みなんて、本人には届きはしないのでしょうね。

 今を切り抜けるにはそれしかなかったのだと、奴なら言い放つでしょうし。

 神を殺せない悪魔と契約した大三郎。そして、幼い日に山の神を弑逆した与楽。

 神様からすると両方とも大罪人なのでしょう。


 次回はアフリカ、インドあたりを回ってマカオに到着する一行。

 これでいよいよ本格的な決戦に向かって進んで行きます。

 途中のあれこれの細かい仕込みを抜きにして、ラストシーンだけは先に出来ているのですけれど。

 果たして使えるのは、いつなんでしょうか・・・。

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