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19.モンスター大戦Ⅰ

 とある地方で伴天連術師が陰謀を巡らせ、モンスタートレインを引き起こす。

 無数の昆虫型モンスター、万余のオーク、オーガ。そして数百の下級竜の襲来。

 やがて、森の主のドラゴンも参戦して来て・・・。

 対策が遅れた公儀が派遣できたのは43人の戦闘集団のみ!

 この物語序盤のクライマックス編です。


 2頭立て馬車はゆったりと進んでいた。

 御者席には若手武芸者という佇まいの2名。

 馬車の後部にも警戒に当たる若者がいる。

 馬車そのものは質実剛健というか、飾り気のない馬車だ。内部には貴族か羽振りの良い商人あたりの息子という感じの身なりの良い子が世話係の女性と一緒に乗っている。


 馬車の進む道はあまり整備が良くないような細い道。凸凹も多いし、小石と砂が混ざっていたりして馬車に乗っていても乗り心地は悪い。

 すっかり旅に飽きたらしい子供は、世話係の女性の膝でふて寝を決め込んでいる。

 当の女性は、満足そうな顔をして膝の上の子供の頭を撫でている。


「なんだろうか、あの先にいる馬車。商売人の馬車みたいだが、妙な所で止まっているな」


 油断ない顔つきの御者席の男が、脇にいる男に声をかける。


「ああ、様子を見て来よう。この辺で止めておいてくれないか」


 そういうと滑らかな動きで馬車から飛び降りて、男が走ってゆく。


「何かあったの?」


 馬車にいる女性が御者に声をかける。


「前方に不審な馬車が止まっているので確認させます」


「そう・・・」


 興味なさそうに女性は子供に視線を戻す。少々のことなら任せておけばいいという信頼はあるようだ。


 前方の馬車に駆け寄った男は、険悪な空気を感じていた。

 いかにも商人らしい馬車。実際に荷物は満載だ。

 しかし、先程から殺気が感じられる。


「やあ、こんにちは。何か事故でもありましたか?」


 一見、好青年風な笑顔で男が尋ねる。


「ええ、護衛に雇った男が脇の方に何かいるみたいだと言って、様子を見に行ってしまいましてねえ。

 ここの所は街道筋でもオークくらいは当たり前に出てきますので、念の為に確認しておいた方が良いだろうと」


 人当たりの良さそうな商売人という感じの中年男が答えて来る。


「こんな所でもオークが出るのですか?ここは幹線道路ですよね・・・」


「そうなんです。この数カ月は何か様子がおかしいのです」


「呆れますね。魔物が多いという噂でひと稼ぎしに来たけれど、これは予想以上のようですね」


 呆れた風を装っているものの、既に男は血の匂いを嗅ぎ取っている。

 既にひと戦闘あった筈なのは間違いない。今の状況は護衛とやらが勝って無事なのか、こちらで戦闘する必要があるのか。そこが気になっているだけだ。


「もう大丈夫、オークが3体程いたけれど退治してきた」


 暫くすると15か16歳位と思われる少年が、返り血を浴びて戻って来た。

 血の匂いを漂わせているが、落ち着いているようだ。


「ほう、腕のいい護衛なのだな」


「12歳からこの商売をやっているんだ。オーク位は物の数ではない」


 護衛を依頼してきた商人の横にいた男に声を掛けられて、そんな答えを少年は返していた。声をかけて来たのが同業者だろうことは想像しているようだ、視線は厳しいものがある。


「安心したよ、それでは我々は先に進ませてもらおうか」


 男は後方の馬車に戻って行った。


「何者だろうか、アイツは相当に強い。只者ではないみたいだ」


 少年は不思議そうな顔で呟いた。


「さあ、明るいうちに城門を超えましょう。このあたりは物騒です」


 商人も先に進みたいようだ。勿論、少年にも異存などはない。

 魔物が濃い場所で野営など、少年にも願い下げだった。


 彼らが再会したのは亀田藩の城門であった。

 もっとも、ここは藩都から離れた僻地。

 魔物の森の脇にある監視砦のある小さな町だ。


「通行手形と身分証を出せ、通行税は一人5千環だ。商人なら荷にも税がかかるぞ」


「モンスター・ハンターですので、商売用の荷はありません。

 王都の寛長寺様の通行手形とハンターギルドの身分証です」


 御者席にいた男が馬車から降りて、入城手続きをしようとしている。


「ふん、ひとりだけ出雲ギルドで登録してBランクだと?

 それでいて他の者は登録したての駆け出しだというのか?

 通行手形に問題ないが・・・。

 貴族のボンボンが護衛を雇ったということでもないようだな。

 お前らは何しに来たんだ?」


 不思議そうに衛兵が尋ねる。全く、釈然としない顔をしている。


「最近、魔物が多くていい稼ぎになるという噂を聞きましてね。

 一勝負してみようかと旅費を作ってきてみたんですよ!」


 屈託なく笑顔で男は答える。


「まあよい。ギルドは大通りの右側にある。騒動を起こすなよ」


 如何にも型どおりという手続きを済ませる衛兵。


「ええ、気を付けます」


 ニコニコ顔で御者席に戻る男。


「次は大黒屋か。なんだ護衛は血塗れじゃないか、どうしたんだ?」


「はい、街道沿いでオークが3体現れまして」


「なんだと、また街道で魔物が出たというのか?

 なんてこった!ギルドにも報告しておけよ。早く行け」


 衛兵は上司に報告へ走って行った。


 その頃、ギルドではちょっとした騒ぎが起きていた。

 数日前にこの町に流れてきた5人組が、凄い調子で獲物を狩っているのだ。

 それも少し前に登録したばかりで、経験の浅い筈のメンバー揃いだというのに。

 当人達は武芸者の道を諦めて、ハンターに転職したのだと居直っている。

 あからさまに尋常ではない手練れであることは間違いない連中だ。


 今日も獲物の換金に来た連中は、ティラノ3体とトリケラ2体を狩っていた。

 こんなのは5人組で到底やれるはずのない戦果だ。

 元からいるベテラン連中ではこんなことはあり得ない。


 ハンターうちでは興味半分、怪訝さ半分という所だろうか?


「よう、お前らおかしくねえか?何故たった5人で大物を5体も倒せるんだ、それもたった1日でだぞ。昨日も良い調子で獲物を売っていただろう?

 何をすればそうなるんだ」


 酒が入っているのか、赤ら顔の中年男が絡んできている。


「王都の学校で修業すれば、なんとかなるもんだぞ」


 しれっとした顔で答える男。


「けっ、そんなトコに行けるのはエリートだけだろうによ。

 そんな奴がハンターになんかなるもんかよ」


「去年の卒業生筆頭と次席なんかは、二人そろって王国軍の誘いを蹴ってハンターになったぞ。ギルドなら知っているんじゃないのか?」


 カウンターで怪訝な顔をしていた女性に、男が話を振って来る。


「ええ、ギルド内部でも噂になっています。なんでもあの竜殺し様が、自ら稽古をつけた逸材がハンターになったと」


「ハンターの方が稼げるって話だろ?

 俺達も見習おうと言う訳だ。出遅れの新人だけれどな」


 ふふんと鼻息荒い男。


「オメーらも卒業生だってのかい?」


「もう、結構前の話になっちまったがな。武芸者で出世は無理みたいだが、稼ぐならハンターは良いだろうよ。実際に今日もいい稼ぎになったしな」


 笑いが止まらないという表情をする男。


「けっ、勝手にしやがれ!」


 ハンターを長年やっていても稼げるとは限らない。酔いどれ男はそれを実感しているのだ。


 そんなタイミングでギルドに入って来た集団がある。

 3人の剣士と2人の魔法師というパーティだ。

 このギルドでは見たことのないハンターだった。


「若、お早いお着きで何よりです」


 先程まで笑いが止まらないという顔をしていた男が急に真面目な顔をして、よりによって子供の魔法師に挨拶をした。

 それも敬礼の一つもしかねないような勢いで姿勢を正しながら。


「うん、調子はどんな具合だ?」


 大稼ぎしている男に上から目線で対応する子供。

 普通に考えればおかしい話だ。


「はい、魔物は多いです。森も深いので勝手がわからないと面倒です。

 暫し慣れる時間が必要です」


 異様に気を使って受け答えする男。口調は軍人風の者に変わっている。


「そうか、うん。

 そうだな、出来るだけ森で過ごす事にしよう。ここは俺の知っている場所ではないのだな」


 対して子供の方はいささか横柄な口調ではあった。

 そうした会話が当たり前という雰囲気が二人にはある。


「まずは、宿舎までご案内いたします。手頃な家をご用意しております」


 ピシッと姿勢を正したままで、まるで主従関係にあるかのようだ。


「ふん、貴族あたりのガキがカネに飽かせて、優秀な軍人でも雇ったのか?

 ハンターは貴族も平民も関係ないぞ!」


 先程オークを倒した少年が返り血を浴びたままギルドに入ってきた。

 入った早々に子供の魔法師に嫌味を言う。


「俺は確かに貴族の子弟には違いない。けれど、コイツには俺の家から給料なんて払ってないぞ?」


 少年魔法師はあくびしながらつまらなそうに言う。


「貴族なんて汚いものだ!どうせカネで言う事を聞かせているに決まっている!」


 激高しながら少年が突っかかろうとした瞬間。


 “ガツッ”と衝撃音と共に少年がすっ飛ぶ。

 受け身も取れない程の速さで床に叩きつけられた少年は、白目を剥いて口から泡を吹いている。


 ぶっ飛ばしたのは魔法師の少年と一緒に入って来た剣士の一人だ。


「先程、そこのガキが街道脇でオーク3体と遭遇して撃破している。

 大黒屋という商人の護衛中のことだ。

 街道を使う者には注意喚起をしておくように手配して欲しい」


 剣士はぶっ飛ばした少年に目もくれずにギルドの職員に伝える。

 話すべきことを話したら、ギルドから出て行こうとしている仲間達を追いかけていく。


 失神している少年は健太といいAランク・ハンター、最近ではこのギルド有数の実力者に成り上がっていて、対抗できるのはほんの数人くらいのものだ。

 その少年を苦も無くたたき伏せる剣士。

 大物を狩るハンターの仲間もまた余程の実力なのだろう。

 ギルドでこれを見ていた者はそう信じた。


 どこかの落ちぶれた貴族の末裔がお家再興を目指してひと稼ぎ狙ってハンターをしているのでは無いかという見方が、ギルドにいた人間に広がった。

 明らかに偉そうな若と呼ばれる少年は、自分から貴族子弟だと言いながらも、家臣団に給料を払っていないと言う。それを零落して支払えていないと判断したのだ。


 お家再興を願う元貴族率いる強力なパーティが現れた。

 この話が広がって興味を示したのは二通りの人間に分かれる。

 実力を試して家臣にしようかという貴族連中。

 あるいは逆に自分の実力を誇示して仕官したい連中だ。


 亀田藩は小領ではあるが、一応は佐竹家の一門でもあって居住している貴族は領主だけではない。

 有力な家臣を揃えて立身を夢見るような若い貴族も存在はしている。


 自分になまじの自信を持って宿舎まで押しかけてくるような輩も存在しているのだ。


「私は藤原氏の末裔である鳩山準男爵である。腕が大層立つそうではないか、我が家臣となれば安泰であるぞ。今日から貴様らは、我が家臣であるからよくよく仕えるように」


「誰アンタ。寝言は寝て言え」


「うん、アンタはバカだ。貴族なんて止めた方が良いぞ?」


「そうだ、身の破滅だぞ」


「田舎貴族だとこんなもんか」


「死んでも治らん病気なんだろ」


「貴様ら、無礼にも程があるぞ。この下郎が!そこに直れ手打ちにしてくれる」


「いや、俺達を手打ちにできるほど強けりゃ、アンタとっくに軍団司令くらいになっているから」


「うん、出来もしないことを出来ると信じてしまうあたりで致命的に駄目だな」


「なあ、アンタ。強え奴がなんでアンタごときに従うと思えるんだ?」


「強え奴なら、一番強い御方に仕えそうだとは思わんかな?」


「従士を従える事すらままならない貧乏貴族じゃ、常識すらあり得んのかな」


「貴様ら!覚悟せよ!」


 血相かいて腰の剣に手をかけても、誰も相手にしない。


「ええい、この下郎!」


 いよいよムキになって剣を抜きはらって斬りかかろうとした時。

 準男爵は容赦なくたたき伏せられた。

 そして、あっさりと捕虜にされてしまう。


 ちなみに、準男爵というのはカネを王家に払えば名乗る事が出来る爵位だ。あくまで貴族を名乗っているだけのカネ持ちということであって、本来の大名家としての貴族ではない。


 そして、無礼打ちを主張するのなら、相手を殺した後の話だ。斬りかかって返り討ちされるような武家貴族などは想定されていない。


 この時代、戦争捕虜は普通に売り買いされる。

 貴族が剣を抜いて斬りかかった以上はもう負けの許されない戦闘だ。

 貴族が戦闘に負ける。それは捕虜になるか、殺されるか。そこに文句は言えない。

 家の者が身代金を払うなら解放されるし、支払いを拒否するのなら奴隷として売却されるか、見せしめに殺されるか。

 貴族の当主本人がノコノコを出歩いて、正体不明の連中に捕まること自体が稀というか、相当に恥ずかしい出来事だ。貴族の当主なら複数の護衛を連れ歩くのが普通だから。


 準男爵を捕虜にした男達は早速身代金交渉を始める。年収1千万環弱が王家からの準男爵家に与えられる基本年収である。男たちは30年分相当として3億環を要求。


 前当主である準男爵の父親は要求を拒否。準男爵は病死、次男を代わりに当主としたい旨を公儀に届け出る。

 鳩山準男爵家の当主交代は公式に発表されたが、既に人質にされた男は鉱山に奴隷として売られた後だったという。




 魔法師の少年が到着してから、男達はギルドで獲物を滅多に売却しなくなった。

 余りギルドに近寄らなくなったというのが正しいのかもしれない。


 もっぱら、魔物の森で過ごしているらしい。


 途中で目撃した者の話だと2人1組になって森で散らばっているようなのだ。5~6人位でパーティを組んで行動する普通のハンターとは異質の行動だ。

 それでいてモンスターに遭遇しても全く危なげなくバッタバッタと狩りをするのだと言う。


 これは、経験3年程のまだ駆け出しハンター5人組が森の深い場所まで迷い込んでしまって、オーガ5体に追いかけられるという場面でたまたま2人組に出くわした時のこと。


 恐怖で泣き叫ぶ5人組を無視して、面倒事は嫌いだという顔で去ろうとした2人組。


「待てよー、助けてくれよ。お前ら強いんだろう!カネなら払うから」


「ハンターは自己責任だぞ。このあたりに来れば、オーガ程度の獲物などいくらでもいるだろう。死ぬのが嫌な奴が何でハンターやっている?」


 2人組の片割れが冷たく言う。


「迷ってしまっただけだ。こんな所にまで来るつもりなんて無かったんだよ!なあ、カネなら払うから、助けてくれよ」


 5人組は必死だった。

 それぞれが、なけなしの金貨や銀貨の入った革袋を二人組に投げ出している。


「身の程を理解できない奴は、遅かれ早かれ死ぬだけだぞ?周りに迷惑かけないうちに死んだ方が良くないか?」


 どうも必死で泣き叫ぶ奴を見ても動じないというか、見飽きたモノを見ているような疲れた顔に変わって行く様子だ。


 そこに別の6人組がやって来た。

 槍兵3名、弓兵2名、魔法師1名という構成だ。


「どうしたんだ?向こうにはオーガがいるじゃないか、それも5体だぞ。早く逃げろよ!」


 リーダーらしい20歳過ぎくらいの魔法師の青年が叫んでいる。

 この6人組にとっても5体のオーガは逃げ出すべき相手なのだろう。

 5人組に大した怪我人がいないことを確認して、リーダーらしい青年は指示を出す。


「楓とスミレは後方へ牽制射撃。前衛3人は血路を開け。そっちの2人も手伝ってくれ。おい、5人組は走れるな?全力で走るぞ!それ行け!」


 青年の指示に従ってタッタッと駆けだすメンバー達。

 走りに走る。生き残りたければ走るしかない。そう誰もが思った。


 どれだけ走ったのだろうか。

 5人組は息が切れてぶっ倒れた。


 やがて5人組のメンバーは、6人組の介抱を受けて意識を取り戻した。


「あ、あのAランクの“魔槍弓”の皆さんですよね。助けて下さってありがとうございます。もう助からないと思ってましたッス。

 俺達はDランクで“進撃”ってパーティです、俺はリーダーの与作です」


「でも、あの2人組が実際には助けてくれたと思うぞ、俺達だとオーガ5体は苦しいからな。

 オーガが追いかけて来ないのは、追いかけて来られない事情が出来たんだろう。

 妙に強いという噂の連中なんだろう?オーガを足止めしたか、仕留めたのか。どちらかだろうな」


「でも、でかいオーガを5体も2人だけで倒すなんて・・・」


「5人でティラノ5体倒すような連中だと、オーガなんて楽勝なんだろうな。

 あの2人は全然怖がっていなかったじゃないか?

 平常通りって感じの態度だった。俺達に対しては面倒臭そうだったけれどな。

 俺達は嫌われたのかもな」


 リーダーの青年太助は安堵して笑っていた。




 その頃、噂された2人はオーガの血抜きをしていた。


「オーガの肉なんてマズイよなあ、よくこんなの食うよ」


「ああ、オークだと脂の乗った猪みたいで美味いけれど、オーガだと筋張って固いよなあ。

 バサバサしてるし、匂いもきついしな。カネ出して買う奴の気がしれないな。

 手頃な魔石が手に入らないなら狩る必要は無いようなもんだな」


 余裕というのか、緊張感が根本的に抜けているというのか。

 先程の若者など眼中には無いようだ。




 “魔槍弓”と“進撃”の合同隊は、暫し休息の後に帰路に就いた。


 しかし、レベルの低い“進撃”に合わせると速度が上がらない。

 テキパキした動きは出来ないし、周囲への警戒も十分とは言えないレベルだ。

 困ったことに先程逃げるのに必死で、全力で森の奥の方へ走ってしまっていた。

 帰り道は遠くなった結果になる。

 慌てて走ったから食糧な水も捨てていた。走って生き延びるには必要な行為だったけれど、今度は空腹と渇きに悩まされることになる。

 ついてないこともあるさ、と割り切れなければこの商売はやっていけない。


 オーガに襲われた場所を迂回しながら森を歩く。

 しかし、人間の警戒を上回るような待ち伏せ能力を持つモンスターもざらにいる。それも魔物の森である。

 後方を歩いていた進撃メンバー2名が忽然と姿を消した。


 誰も気づかない、一瞬の出来事だった。


 すぐ前を歩いていた少年が、後ろにいた筈の仲間が消えたことに気が付いた。


「おい、健吉と吾作が消えた」


「さっきまでいたじゃないか」


「何処に行ったんだ」


「ああっ」


 突然上がった声の方を全員が見た時に敵の正体を知った。


 7~8mの巨大カマキリだ。


 その足元には3人分の首なし死体が転がっている。3人目が立った今しがた声をあげた者だ。


 動きが止まった瞬間にさらに4人目が鎌に捕えられて、首から上を食われた。


 そして、首なし死体が4人分になった。


 さらにカマキリの攻撃は続く。


 今度は“魔槍弓”の槍兵が襲われた。両腕の鎌で捕えられて頭を食われる。


 “魔槍弓”のメンバーは、それでも再起動は素早かった。

 弓兵の2人は即座に反撃したし、太助も電撃魔法を撃ちこんだ。


 反撃されたカマキリは電撃がきつかったのか、足元に転がる死体を一つ抱えて飛翔して逃げだす。


「逃がすかよ!」


 追撃の魔法を撃ち込む太助。攻撃は命中してカマキリは落下して行く。


「仲間の遺体は魔法袋に入れて回収してくれ。カマキリの回収は諦めよう。

 出来るだけ早くここから去らないと血の匂いで他のモンスターが寄って来ちまう」


 太助の握りしめられたこぶしは震えていた。

 その眼差しは怒りに満ちている。


 その後の“魔槍弓”の逃亡は悲惨を極めた。“進撃”唯一の生き残りは既に心神喪失状態でヨタヨタとしか歩かない。

 その男は早々に蜘蛛型モンスターに襲われて殺された。糸を樹上から落とされて絡め取られたのだ。

 ヨタヨタした動きの少年は避けもせず捕まり、横を歩いていた弓兵の楓は辛うじて避けた。付近の樹上には巨大蜘蛛型モンスターの群れ。

 気が付かないうちに大蜘蛛の群生地に踏み込んでしまっていたのだ。

 “魔槍弓”は全力で走って逃げるしかなかった。


 彼らがAランクになったのは1ヶ月前のことだ。

 子供の頃から近所で一緒の友達で集まったメンバーでハンターをやって、稼げるようになるまでに8年かかった。

 気心知れたメンバーの連携と十分強力な魔法のお蔭で、それでも相当に早いランクアップだった。

 新人の頃は敵に追われて逃げ回るというのはよくある事だったが、最近では大抵の敵なら太刀打ち出来ていた。

 それなのに今日はどうしたことだ。

 オーガ5体に追われるのは仕方がない、相手が悪すぎる。

 しかし、大型カマキリごときなら先手を取れば簡単にカモにできる筈の相手だ。

 蜘蛛にしても、気が付いていれば対処の難しい相手などではない。

 何かがおかしい。

 歯車が噛み合っていない。そんな調子なのだ。

 この「モンスター大戦」は6話続きます。

 お付き合いの程、宜しくお願いします。


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