12.強襲
ご愛読ありがとうございます。
世の中には人間の力ではどうにもならない物がある。
主人公でも勝てない相手がいる。
今回はそんなお話です。
石庭の監修には細川の大殿様にもお手伝い頂いたので、細川夫人も当然ご存知。
それで、やんごとないご婦人の中では、ちょっとした話題になっていたそうだ。
一番乗りを側室腹の孫に持って行かれた婆ちゃん、本妻とその娘。
揃って、温泉入る!!と駄々をこねたそうな。
そうなると貧乏くじを引くのが柳生様。
お忍びで婆ちゃんと嫁と娘が温泉行くからヨロシク!と、この国の一番エライ方から言われてパニックだったそうだ。
お忍びでも警護はキッチリ固めたい。
王都にいる柳生配下の手の者を総員集合。
俺の講座に参加している師範代まで召集されている。
勿論、他人事で済むはずもなく。我が隊には総員全力で出撃が下命されてます。
講義という名の演習中に突然と、ね。
「魔物出現か!」
と騒然となったけれど、「おまえんちの警護を全力でやれ。特に風呂場の警護ならお前の側室が一番いいからな!」と言いつけられて何の事かいなと??
馬車の御者は柳生様のご次男。その横はご長男が固める。
場所の進行を服部さまの手勢が警護。
俺の部隊は、俺んちの警戒と。
うん、そうだね。俺がキチンと責任負わないと・・・ね。
特に女湯の中の警護となると、王宮で暮らしていたことがあって女の中で最強だろう二人の側室が頼りになる。
「で、いつの話でしょうかね」
「いや、もう出発したから」
「ダメー、何でそんな急なのサ。日付を聞いたら、時間で答えられちゃったよ」
「あきらめい!」
「そこで威厳出されても困りますから!
レキュアとシェイラは、とりあえずウチ帰って正装しなさい。
あと、柳生様。
やんごとないご婦人方はどんなお菓子がお好みなのでしょうかね」
「ああ、古都の老舗のな・・・」
「おーい、誰か瞬間移動で古都に行って来い。今すぐに!!」
「へい、合点でさあ」
「あっ柳生様、王宮の琴の名人を出してください。後は茶道頭も必要になりますから。
男子禁制でヨロシク。急いで!」
「お、おう」
「馬車の進行を遅くできないの?」
「十兵衛や半蔵が困るだろう。進行は順調でないと駄目だ」
「ぬうっ、総員全力で俺に続け!」
「「「「おうっ」」」」
“参道から緋毛氈を敷け”
“お前と娘達は湯殿の広間でご挨拶なさい”
“衣装は巫女装束だ”
“ぎゃっ、十六夜は重い物など持っては駄目”
“茶道具の一番いい奴はどれだ”
義父ちゃん、パニックでした。
まあ、そうなるわな。
勅使が対応するのが普通でやんごとない方の奥方が、直接来られるのは20年に一度くらいのもの。
「おーし、段取り確認」
「男衆は湯殿に出入り禁止!」
「義母ちゃん、十六夜、妹ちゃんは湯殿の広間でお待ちしてご挨拶」
「レキュアとシェイラは、広間から風呂場までご案内、そのまま警護」
「湯あみが終わったら2階にご案内」
「2階には王宮から琴の名人とお茶の名人を連れて来るから、そいつらに対応させる。
その時は義母ちゃんがおもてなしの役な」
「古都の茶菓子は来たか?」
「はい、こちらに」
「よし、王宮からの要員はどうか」
「琴と茶道要員到着です」
「よし、黒奈と里奈。2階に連れて行って準備させろ。必要なものはこちらに言え。抜かるなよ」
「馬車が社まで1kmを切りました」
「総員配置につけ!」
「「「「はっ」」」」」
「馬車が門前町に入った」
「服部様の先触れ到着」
「こちらへご案内しろ」
「馬車、あと500」
「服部様のご使者か。お客様は3名様とお付衆でよいな?」
「はい、お付方は15名になります」
「あい分かった、お役目ご苦労。お城に戻るまではくれぐれも慎重に」
「おうっ」
「馬車、あと100」
「馬車到着、下乗場所へ」
「義父殿、まずはご挨拶。そのまま湯殿までご案内」
湯殿に入ってしまえば、あとは義母ちゃん達に任せるしかない。
湯殿の脇に陣幕を用意しておいたので、男衆はそちらで待機。
柳生家のご兄弟にご挨拶して、警戒網の状況を打ち合わせして。
帰路については、我が隊も距離を取って警護に当たると。
レキュアとシェイラの事は十兵衛様も良くご存じで、あの強力な連中なら湯殿の内部の警護は任せていいと。
後で聞いた話になる。
やんごとないご婦人方は、それはそれはゆったりと楽しまれたそうだ。
レキュアの証言による湯船でのやんごとない方々の会話より。
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「温泉なんて、何十年ぶりかしら」
「お婆ちゃん、私初めての温泉」
「お母様は地方へのご行幸でたまに入れるでしょう。私なんて王都から滅多に出られないから15年ぶりくらいよ。ああ、檜の香りが素敵だわ」
「お肌がぬるぬるしてくるみたい」
「このぬるぬる感が消えるとお肌がしっとりするのよねえ」
「ああ、いいわねえ」
「極楽よねえ、これからは気軽に来られるわね」
「月に一度くらいは、来てもいいわよねえ~」
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ナニヤラ危険な方向に進んでいるような・・・。
王宮にも温泉を出してしまおうか。
(後日、献策するも地盤沈下が怖いからダメと却下される。)
シェイラの証言による石庭を眺めてのやんごとないご婦人方の会話。
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「あら、素敵なお庭」
「細川様の監修なんですってねえ」
「まるで古都にいるみたいだわ。古都なんて何年も行っていないけれど」
「懐かしいわ」
「はあ、なごむわねえ」
「ええ、本当に」
「いいお風呂に、いいお庭。お庭の反対側には王宮も見えるのね。
ここは良い場所ね。やっぱりまた来ないといけないわね」
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なごみ過ぎですから、お願いですからお城で大人しくなさっていて下さい。
結構な人数が困りますから、本当に。
恨まれるのは俺になりますから。
主に俺の精神に相当打撃が来ますから。
無事にご帰城になったご婦人方の自慢話によって、やんごとないお方その人から「んで、男湯はいつできるんだ?」と御下問があったとか、無かったことにしたかったのにとか。
「女房の産後の養生に造った風呂なんだから、男湯なんて先の先に決まってんだろ!」
思わず雄たけびを上げる俺に、氏子総代家の諸侯が「俺達も入りたいんだけれどな?」と容赦ない責めが入った。
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(上杉家忍び衆の報告書からの抜粋)
もっとも高貴な家庭での夕食時の母、息子、孫の会話。
「お父様、私は出雲様の妻になりますわ」
「ふむう?」
「あら、側室の末娘があの少年の側室になりたいのかい?」
「違います、お婆様。正室になりますの!」
「あの少年にはお腹が大きくなっている可愛らしい正室がいたでしょう?」
「ですから、私が降嫁して正室になって、十六夜さんは側室になるのですわ」
「今ではあの少年こそが出雲ですよ。
出雲10万石の領主は実態としてあの少年。
今更、あの子から出雲は離せない。
出雲家はあの可愛らしい少女を与えたのではなく、出雲家そのものをあの子に差し出した。
あの子は、かつてない程に出雲を繁栄させつつある。
おまけに、私達の菩提寺まで綺麗にしてくれるわ。
あなたごときが、あの子に出雲程の名声や10万石の領地を差し出せて?」
「でも、私は王女ですし」
「あなたは何の権力も持たない、さしたる財産もないただの側室の娘です。
あの可愛らしい出雲の正室を捨てて、あなたを選ぶようなバカな男などいません。
それに、仮にあなたが側室を望んだとしても、あの子の側室達は精霊のごとく美しく、男を迷わせるような体をしている。
なにより、竜殺しと共に戦場を駆けることが出来るほどの稀有で強力な魔法を持つ。
とても、あなたが寵愛を争えるような相手ではありません。
身の程を知るのです」
「・・・お父様。何か言ってくださいませ!」
「出雲と事を起こす意味などない」
「そんな・・・」
「アナタはお情けで王族扱いしているんだ。
いい加減におし。
王家が出雲と争うような理由などありはしないんだよ。
お前の情欲の為に王家をつぶす訳があるものですか!
そんなに男が欲しければ、どこかの側室にでも行くがいい」
「お婆様の意地悪!」
2日後、正妻を亡くしていた掛川松平家当主の後添えとして王女の降嫁が発表された。
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瓦版を読みながら、
「有馬の姫さんに続いて、あの王女様も嫁入りか。
めでたいねえ、このままおめでた続きで十六夜もいい子を産めるといいなあ」
などと朝メシ後のひと時を妻と過ごしていました。
十六夜のお腹を撫でて、帯はきつくないかなと気にしながら。
妻の髪を撫でて、お腹を撫でて、目が合ったら頬ずりして。
幸せを実感しつつ、さてそろそろ学校に行こうかなという時でした。
魔石を利用した緊急通報です。
「富士から神龍が出現。現在、箱根の砦を攻撃中。魔物追討組は即刻王城へ集合せよ」
「こりゃ、最悪の状況だね・・・」
「あなた・・・」
俺達にとって神龍という言葉は死神と同義です。絶対に抗うことにできない相手。
「まあ、相手さんの気まぐれにでも期待するさ。小田原城あたりでひと暴れして気が晴れたら、ねぐらに帰ってくれるかもしれないね」
「でも・・・」
「お腹に障るよ、今度こそいい子を産もう」
「貴志さん・・・」
口付けをして、登城しました。
いやな予感しかしない。
王宮では大騒ぎになっていました。
状況的には駿河方面を蹂躙後、箱根方面に侵攻し箱根の諸砦は既に炎上して放棄されている。
小田原城で迎撃したいが、実際上攻撃手段が無いに等しい。
当然ですけれど、神龍相手にまともに攻撃できるような手段など人間は持っていません。
俺が上位ドラゴンを召喚しても、相手にならないでしょう。
「ジタバタしても始まりません。
柳生様、王都住民は屋内で待機。外部には火の気、煙は一切立てないように。
また、軍勢も外に出さない、一切の攻撃も厳禁。
王族方は地下壕へ退避。
箱根あたりでチンタラしていてくれるなら幸いです。
奴さんを何とか海へ誘き出します。
なに、もう少し暴れたら気が済んで寝床に帰ってくれるでしょう。
俺が奴さんを海へ誘導して、奴さんが疲れるまでお相手しておきますよ」
「しかし、神龍相手だぞ。何ができるのか」
「こちらも上位ドラゴンを召喚して、ドラゴンブレスをかまします。
奴さんは必ず俺にくらいつくでしょう」
「そんなことができるのか」
「やれます。召喚術は倒した相手を服従させますから」
「しかし・・・」
「俺以上に神龍を知っている奴がいるんですか?
アレに出合って生き残った貴重品ですよ、俺は!
サッサと手配をしておいてください。
いいですね。余計なことをやって敵を怒らせたら王都は灰燼と化します。
余計なことは一切しない。これを厳守です」
「お館様、私達もお伴します」
「邪魔になる。神龍相手じゃお前らでも足手纏いでしかない。
お前らは俺個人の所有物だ。
俺の命令に従え。十六夜を守れ。いいな」
「・・・でも」
「くどい、時間が無いんだよ、時間が。すぐに出るぞ」
窓から飛び出して、屋根伝いに召喚術を発動します。
「急々如律令!火竜よ、疾く来たれ」
50m級上位ドラゴンの召喚成功です。
王城からは突如出現したドラゴンに恐怖の悲鳴が上がっていますが、無視。
屋根からドラゴンの背中に飛び乗ってイザ出撃!
海に出て、沖合から箱根の山を目指します。
目標はあくまで遠洋への釣り出しであって、正面切って戦う気など最初からありません。
そんなのは無理な話ですから。
一応、海に落ちた場合に備えてウミガメを召喚して、万一の時には陸地まで運ぶように命令しておきました。弱虫な俺ですいません。
でも、必要なことだよな、保険って。
50m級ドラゴンに加えて、20m級ドラゴンも召喚できるので、2体がかりで勝負しようかと2体目を海上で召喚しておきます。
流石にドラゴン。
気が付いたら、既に目視圏内に敵さんがいるではないですか。
身の丈はタップリ1km位ありそうな超大物です。
いやはや、こりゃ最悪ですな。
完全に大人と子供です。
絶対に勝てない。
もう、無理無理、話しにはなりませんね。
20mドラゴンに一発ブレスを命令!
周囲を丸ごと高温にさらしながら強烈な火柱が神龍に向かって突き進む。
20mのドラゴンから直径で30m、長さに至っては不明という強烈な炎の奔流が吐き出されてる。
これぞ、高位ドラゴン魔法の威力。人間の魔法では到底出来っこない。
でもなあ、神龍相手だと効果がない。
軽く弾かれる。
神龍の周囲に無色透明な壁があるようで、ドラゴンブレスが全く効果ナシ。
予想していたとはいえ、流石に神龍は桁が違う。
上位ドラゴンにも相当大きな格差がある。
まあ、人間の俺に殺されるようなドラゴンと、人間では手が出せないような奴の差なんだろうな。
おっ、でも神龍がコッチを向いて、ギロリと睨んでいるじゃないか。
これ幸いだ。
後は沖合まで連れ出してしまえ。
さあ、コッチに来い。鬼さんこちらだ!
2体のドラゴンから交互にブレスを吐き散らして、精々神龍を挑発してみる。
どうせ暴れたくて出て来たんだろ、好きなだけ暴れさせてやるよ。
肝心なブレスは神龍の障壁に阻まれてしまって依然として効果ナシ。
50mドラゴンのブレスでさえ、効果が出ない。
50mドラゴンの本気のブレスなどは直径500m近いような爆炎なのに。
人間がその周囲にいると炎に触れなくても、付近の高温で簡単に丸焼けだろうに。
ドラゴンの交互射撃3発でも全く効果ナシ。
でも、その間に相当沖合までは引っ張って来れていると思う。
ドラゴンの飛翔速度だから、短時間でも距離は稼いでいる筈だ。
海上だからまるで距離感が掴めないけれど、ここからは陸地は見えていない。
後は、神龍が飽きるまで相手をしてやらないと駄目か。
2体のドラゴンで引っ張るだけ、引っ張って。ドラゴンが倒れたら埴輪軍でひとあてしたい。
鬼ごっこに飽きたのか。
神龍もブレスを使って来た。
もうね、辺り一面真っ赤。
ひたすら、あっちい。
服は焦げ臭い、髪の毛燃えてないだろうな・・。
20mドラゴンの姿は見えなかった。
神龍は先にチッコイ方を燃やしたんだろ。
一瞬で一辺の欠片も残さずに消滅させてくれた訳だ。
ドラゴンの1体が消えたことで、魔力に余裕が出て埴輪を召喚。
一気に3千体召喚。
乗っていた50mドラゴンから飛び降りて、ドラゴンには急上昇を命じる。
いいカンジでドラゴンが離れたと思ったら、神龍のブレスが50mドラゴンの周囲を包み込んだ。
強烈な閃光と爆風。
やっと視界が回復した時には、空に大穴が空いていた。
ぽっかりと。
大きな穴が空に。
その空の大穴に周りの雲が吸い込まれているみたいに見える。
不思議な光景だった。
この世の終わりってこうなるのかな。
俺は海に落ちる前に埴輪に拾って貰って無事。
ドラゴンが消えたことで魔力に余裕が出来て、今度は25m級埴輪を主力として、さらに3千体の埴輪を召喚。
でも、埴輪がやられるとダメージが俺にも返って来るから、まともに埴輪がやられると、俺も正気を保てないだろう。
ううっ、神龍に跡形なく消されるか、丸呑みされる未来しか想像できません。
ああっ、開国主様お助け下さい。
俺って随分お社に貢献してますよ。ええ、ほんとに。
埴輪軍で神龍を四方八方から取り囲んだら、神龍のやる気も刺激しちゃったみたい。
明らかにノリノリといった風情で、一層強烈なブレスで一気に前方から上方にかけて取り囲んでいた埴輪を焼き払いやがった。
ああっ、もう駄目。まともに俺にもダメージが入りやがった・・・。
今までに無いような強烈な痛み。
鼻血が垂れて来た。
むせて、咳が出たら血が混じってる。
頭が痛い、ガンガンする。
神龍め、今度は後ろ側にいた埴輪軍にブレスをかました。
あれ、視界が血の色に染まってる。
意識が遠のく。
ああ、これ駄目な奴だ・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(レキュアの物語)
「邪魔になる。神龍相手じゃお前らでも足手纏いでしかない。
お前らは俺個人の所有物だ。
俺の命令に従え。十六夜を守れ。いいな」
お館様は、そう命じて出て行ってしまった。
始めてお館様のドラゴン召喚を目の当たりにしたけれど、いつになくお館様には余裕が感じられなかった。
なぜ、このレキュアに俺と一緒に死ねと命じてくださらないのですか。
黒奈には奥方様の楯になって死ねと命じられるのなら、私には主と共に死ぬ事を命じていただきたいのに。
このレキュアはあなた様お一人のモノですのに。
あなた様がいなければこの世になど何の意味がありましょう。
呆然とお館様を見送っていたら、シェイラが私の脇腹を叩いた。
「お館様が出撃されたなら、次に最強なのは私達。
私の炎と貴女の氷で必ず、お館様の戻る場所を守る。
夫の帰る場所を守るのは妻の役目。
妻である私達が今すべきことを為すべき」
お互い異形異能の存在で、世間から疎まれて、いる場所の無かった二人。
お互いの能力が正反対の炎と氷ということもあって、いつの間にか盟友となっていた存在。
青と赤の魔女。王宮では汚らわしいという蔑みの意味合いで語られる二人だった。
ある日、筆頭魔法師が竜殺しと勝負するから、学校まで同行しろと命令して来た。
普段は無視していた癖に、竜殺しは筆頭など及びもしない強力な魔法を使うのだろう。
私の異能が必要なくらいに。
竜殺しはゴツイ男というイメージがあったけれど、まだ小さい子供だった。
そういえば闘技場でこの少年の妻を助けてあげたのを思い出した。
まだ若い二人が、お腹にいたはずの赤子を亡くして泣いていたのだっけ。
魔法の理論面は得意ではなかったらしく私が水系統の治癒魔法を教示したら、いくつか理論面の質問をされて。
答えていたら「こんなに優秀で親切な美人ならお抱えに欲しい」と仰る。
私の事が怖くないの?こんな髪の色で、広域魔法で訓練場を氷漬けにするような女を。
生まれて初めて本気で褒められた。
それが心から嬉しかった。
同行していた児雷也と才蔵についつい自慢したら、いっそう俺達を丸ごと抱えて貰えないかなと言い出した。
筆頭の奴は少々才能があるらしく児雷也は大人しく従っていたけれど、常日頃から問題ばかり引き起こして部下にとっては迷惑この上ない奴だ。
私には無能にしか見えなかった。
でも、あの優しい竜殺しのお傍仕えが出来るのは大賛成。
児雷也たちは、竜殺し殿と話をしてきてから帰城。
早々に、お抱え魔法師を集めて、全員の退職願いを取り集めてしまった。
「くだらぬ筆頭の下いることには意味が無い。
いずれ成人のあかつきには竜殺し殿こそを筆頭に仰ぎ仕えるべし」
それからは早かった。
私達は晴れて竜殺し様の配下に。
特に私とシェイラは児雷也が気を利かせてお傍仕えにしてくれた。
可憐な奥方様も、側室として認めてくださった。
ただ、正室の意地で子供だけは認めないとも。
子供などなくてもいい、私は幸せを掴めた気分だった。
まだ幼い部分が抜けないお館様は、大人の女性がいてくれると助かると仰ってくれる。
古都の騒乱に出陣した際には周辺諸藩との連携を強いられて、しかも不慣れな指揮官役に戸惑っていたお館様。
御側役としてお館様をお慰めしていたら、お館様から私の体を求められた。
可憐な奥様がいらして、でも戦陣では逢うこともかなわず。
男として女の温もりを欲しいのだろう。
まだ、お若いけれど子作りには慣れているお頭、世間的には年増とされるけれど経験のない私。
けれど、喜んでお館様に私の全てを差し上げた。
お優しかった。
私の全身を味わうかのように、愛しそうに可愛がってくださった。
お館様に女にして頂けた。
そして、祝言はちゃんと挙げようとも。
私は、人生の全てを手に入れたと思った。
もう、何も望むことなどないと信じた。
それが眼前で崩れて行く。
愛しい方が、死を覚悟して出撃してしまった。
次回は残された妻達の戦い。
お楽しみに。




