表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
欲しがり屋の姉に恋も結婚も奪われたけど、元気です! ~姉とエリート彼氏は勝手に破滅しました~  作者: 新川さとし


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/23

第6話 条件のいい家 

 私は、ちゃんと過去から学んでいる。


 幸人さんと「お付き合い」すると決めたら、真っ先に、両親に紹介した。


 思っていたよりも、数段、嬉しそうな反応が怖いほどだった。


「うちの娘は不器用でして、真面目なことだけが取り柄で」

「姉に比べると地味ですが、優しいところは長所だと……」


 褒めているのか、ディスっているんだか、ちっともわからない言葉を連発する両親。


 それでも「初めての彼氏が、こんなに立派な人だなんて」と父も母も、大喜び。

 

 その日、幸人さんに「よろしくお願いします」と頭を下げてくれる両親に、少しだけ心が動いてしまったのは事実。


 一方で、コイツの反応は予想通りすぎて、何の感傷も湧かなかった。

 

「姉の望未です。妹がいろいろと行き届かないところがあったら、言ってくださいね。ほら、メグって、頭は良いけど融通が利かないしぃ~」


 こっちは、本当にわかりやすい。


 ともかく、幸人さんの名前を確かめつつ、巨大な「ネコ」を被るノンが怖いほど。


 紹介したら、紹介されるのは普通のこと。

 誘われたのは突然だったけど、私はどこかで、そうなるだろうと思っていた。


 ランチを一緒に食べている時に、幸人さんが探るように言ってきた。


「メグミ、今度、ウチに来てみない?」


 それが、彼の実家を指していることは、すぐに分かった。


「今まで、さ、付き合った子を家に連れてきたことはなかったんだよね」


 彼は「結婚」をチラつかせるような雰囲気で「本気だから」と言うのが上手いと思った。

 実際のプロポーズはまだ。けれども、彼の家族に会うということは、結婚の話が現実味を帯びるということ。


 今は、着々と話が進んでいるはず。

 だから、迷ったけれど断るわけにはいかなかった。


 そして、幸人さんの家に来て、改めて、思った。


――情実枠は伊達じゃないのね。


 世田谷の瀟洒な住宅が建ち並んだ一角だ。門を入る前から、もう分かってしまった。


 確かに、すごい家……というより「お屋敷」と言う方が近い。


 門をくぐった瞬間、空気が変わる感じだ。敷地の広さも、庭の手入れも、全部が「余裕」を見せつけてくる。


 迎えに出てきたのは、お母様だった。


「まあ、メグちゃん。うちのユキ君がお世話になってるわ。ようこそ。わぁ~、お会いできて、ほんとうに嬉しいわあ」


 ほんわりとした柔らかい声に、上品な笑顔。私は、顔を平常に保つので精一杯。

 手を取られて、軽く抱き寄せられた。


『何、この距離感?』

 

 とっさに心に浮かんだのは「距離感バグってね?」というネットの言葉。それほど、私は驚いていたんだと思う。


「ユキ君がね。あなたの話ばっかりするのよ~ ベタ惚れね。だから、どんなお嬢さんかと思ってたのよぉ」

「ママ、それ、言っちゃダメなヤツだから」


 幸人さんは、少し照れたように笑ったけど、私は、もう一度、心の中で飛び上がっていた。


『ママ? ママって言った!』


「ほらほら、大切なお嬢さんをこんなところじゃダメよ。応接室にご案内して差し上げて」


 ユキ君と呼ぶ、その言葉が甘い、甘すぎる。


 私は笑顔を保ちながら、案内されるままに付いていった。


 ソファに座ると、お父さまが現れた。


「ははは。凍堂家へようこそ。さ、どうぞ、くつろいで」


 すぐに「ママ」が現れて、あれこれとテーブルに並ぶのは手作りお菓子に、手作りのオードブル。


 自ら淹れてくださる高級紅茶。


 そこから、話が始まった。


 お父さまは、物腰の柔らかい、いわゆるイケオヤジ風で、話は合わせてくれる。だけど、主導権は自然にママが握っていた。


 整えられたテーブルと途切れない笑い声。


 全部が、きちんと「名家」風に揃っていた。


 言葉が切れたタイミングで、ママは、背中をスッと伸ばして、何気ない口調で切り出してきた。


「メグちゃん、お仕事は楽しい?」


 にこやかな声だった。


「はい。まだ覚えることばかりですけど」

「まあ、えらいわね。でもね」


 ママは、ふふっと笑って、紅茶に手を伸ばす。


「仕事が楽しいなんて、家庭を知らない人の言い分よ。女はね、家庭で守られている時が一番幸せなの」


 さらりと常識を語るみたいな口調に、みじんも疑いを持ってないとわかる。

 私は、うまく言葉が見つからなくて、曖昧に笑いながら、でも、少しだけ言葉を返してみた。


 これも後々のためだ。


「今は、続けたいと思っています」


 それだけ言うと、ママは少し驚いたように目を瞬かせてから、すぐに微笑んだ。


「そう。若いうちは、そう思うものよね」


 それ以上、話を深くしてこなかった。でも、その一言で、ママの「答え」は決まっている気がした。


 私は、笑顔を貼りつけたまま、小さく息を吸った。


 ――これは、完璧みたいね。


 そう思った。

 けれども、まだ、自分を出すのは早すぎる。仮面を付けて「お嬢様」を演じ続けるしかなかった。


 帰り道、幸人さんは満足そうだった。


「どうだった? うち、すごいでしょ」


 その言い方が子どもっぽい。さっき「ママが」と言った姿が頭に浮かんでる。


 私は、家に帰り着くまでに、心を整理する必要があった。

 そのせいだろうか。翌日、ノンが、私の顔をじっと見て言った。


「ねえ。お宅にお邪魔したんでしょ?」


 家のことを知りたいらしい。


「そうよ。世田谷まで。遠かったなぁ」

「世田谷?」

「うん。古い住宅街なの。お屋敷みたいな所ばっかりで、きっと、一人で行ったら迷っちゃうと思う」

「お父さまって、どんな人なの?」

「物静かで、優しそうな人だったわ」


 そこから、話を打ち切ろうとする私を、何度も追いかけてきて、あれもこれもと、聞きだそうとしてくるノン。


 できる限り、曖昧に、そして、隠そうとして、でも、執拗なノンの言葉に、隠しきれなくなる私。


――でもね、あなたもだよ。


 目の中にある、ギラギラとした光を、ノンは隠せてなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ