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欲しがり屋の姉に恋も結婚も奪われたけど、元気です! ~姉とエリート彼氏は勝手に破滅しました~  作者: 新川さとし


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第18話 誰も知らない


 その目が誰を見ているにせよ、結婚を約束した人間として、幸人さんの口調が軽くなると、ホッとする。


「順調だね。お家の方も進んでるんでしょ?」


 そんな言葉で、粘り着く視線を切るくらいは簡単なこと。


「毎日のように、インテリアコーディネーターや、業者さんが来てるみたいだよ」


 同居を受け入れるとわかって以来、ママの気分は最高らしい。もはや改築レベルで模様替えに爆走中。


「ママが張り切っちゃってさ。キッチンも二人が並んで使えるようにって考えてるみたいだ」

「そうなんだ」


 私は心からの笑顔を見せられる。


「お母様に、ありがとうございますと、伝えてね」

「まあ、ママの趣味みたいなもんだし。あんまりありがたがると、調子に乗っちゃうからさ」


 謙遜気味に喋ってるけど、嬉しそうだ。


 このあたり、何だかんだでお人好しなんだろう。それとも、私の「人が悪すぎる」のかな……


 結婚後の同居に向けて、お家の改修計画が進んでいる。


 お家に招かれるたびに、壁紙は、照明はと見せられる。


「メグちゃんはどれが良いと思う?」


 毎回、聞かれるけど、私の意見を入れて決めているわけではないらしい。ママにとっては「聞いた」ということ自体が大事な儀式。


「嫁と二人で、お家のことを考えているの。ほら、若い人の意見を取り入れないとねぇ」


こんなセリフを、ご近所との世間話で放っているんだろうなと考えるのは容易い。


 けれども――


「敵が来る前に砦を改修しておく」という姿にしか思えない私は病んでるんだろうなぁ。


 会社が見えてきたあたりで、ふっと、幸人さんの表情が変わった。


「ところでさ」

「はい?」

「結婚しても、今のままなの?」

「今のままって」

「仕事だよ。退職の相談、してないんだろ?」

「そうね。とりあえず、せっかく任されたプロジェクトは仕上げたいと思ってる。めったにないチャンスだし。オープンにするのはそれからかなぁ」

「プロジェクト……」


 その言葉を小さく繰り返して、幸人さんは、クッと口を閉じた。


「桜木と一緒のヤツだろ」

「そうね。私もメンバーにしてもらえたわ」


 二人しかいないのに、ホントは「メンバー」って言い方は変だ。だけど、婚約者の前で「パートナー」という言葉を使わない程度には、私だってデリカシーを持っていたりする。


「まあ、あいつなら、大丈夫とは思うけどさ、だけど、若手のプロジェクトなんて、社内婚活だってのは、よく言うじゃん」

「あら。やだ。心配してくれるんだ」


 肩をすくめて「浮気なんて最低なことしないよ」と首を少しだけかしげて見上げると、ネクタイを直す仕草の幸人さんだ。


「いや、まあ、な。そりゃそうだ。メグミは真面目だからな」


 幸人さんは、半分、呟くように言った。


「メグミも真面目だけど、あいつはクソ真面目だからな。心配はしてないけど。ほら、秘密プロジェクトだけにさ。そう言うので、デキるってのは聞くじゃん」


 心配しているのは、身に覚えがあるからでしょ?


 そんなツッコミは、絶対に避けておくのは、当たり前。ここでケンカをしても、ひとつも良いことがない。


 だから、私は努めて抑えた口調になる。


「たしかに、プロジェクトをきっかけに仲良くなる人っているよね」


 よく聞くウワサだから、そこは否定しない。


 なにしろ、幸人さんが口走ったように「真面目な若手の婚活作戦」とまで言われている。


 実際、社内結婚した人の大半が、同じチームを組んで、仲良くなっているのは公然の秘密だった。


 私は「大丈夫」と安心させるように、指輪をはめてない左手で、肩をポンと叩いて見せた。


「先輩にだけは、結婚の約束をしたって打ち明けてあるから」


 おかげで、信頼関係を作っても、ご飯一つ誘われない。桜木さんは、そういう所はキッチリしてる。


「へぇ~ あいつには言ったんだ」


 明らかにホッとした表情になった。


「幸人さんには、心配を掛けたくないからね」

「メグミのそういう所っていいな」


 そんなことで褒めてもらうのは心苦しい。


――だけど、最近は週に一回、ノンが遅く帰ってくるよね。この間はお泊まりしてた。


 心の中で相殺している私がいた。


 でも、念を押しておくのは大事なコト。


「幸人さんに安心してもらえるなら、それは良かったけど…… 人事の発表がある時期までは、秘密でお願いします」

「あぁ、わかってる」


 幸人さんとは、社内結婚という形になる。


 人事異動を決める時期に、社内結婚が広まれば、私が本社から異動になる可能性がある。


 何とかして、プロジェクトだけは最後まで頑張りたいというのは、私のささやかな主張だった。


 だから、少なくとも、今年の人事が決まるまでは、結婚のことを秘密にすると約束していた。


 もちろん、口の硬い桜木さんが、プライベートについて喋るわけがないのは、わかってる。


 社内では「お付き合い」は知られているはずだけど、それ以上の話は伝えてない。


――誰も知らない、私たちの結婚。


 最後まで、誰も知らなかったりして。


 クスッと笑った私に、幸人さんが怪訝な顔をした。

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