表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
欲しがり屋の姉に恋も結婚も奪われたけど、元気です! ~姉とエリート彼氏は勝手に破滅しました~  作者: 新川さとし


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/23

第16話 凍堂家

 凍堂家の空気は、ある意味で「想像していた通り」だった。


 今日は玄関の中で出迎えをしてくれる。


「いらっしゃい、メグちゃん」


 笑顔だけど、ほんの少しだけ固いことに気付いてしまった。


 でも知らん顔をして、手土産を渡すのも、三度目。


 本日は、あえて、ヨックモックのシガールを選んだ。ごく薄の生地を葉巻上に、サラッと巻いたお菓子。


 美味しいけど、すぐに崩れちゃって食べにくいんだよね。


 まあ、私の持って来た手土産を食べるのかどうかは知ったことではない、と思える自分がいた。


 リビングに通されると、同じようにパパもいた。


 あれ? 

 

 ちょい悪イケオヤジ・パパの雰囲気は、全く同じ。というよりも、心がここにない感じ。

 

 息子の結婚なんてどうでも良いと言うことなのか、それとも理由があるのか……


 そこに触れてはいけないくらいのことは、私だってわかってる。


 だから、今まで通りの笑顔で挨拶をする。


「お邪魔いたします」

「今日はわざわざありがとう」


 挨拶をしてから「お茶を用意しなくちゃ」と、立ち上がってみせると、パパが少し狼狽えた。


 案外良い人なのかも。


 この間と同じことをしようとしただけなのに、さすがに、それは、と思ってくれるだけでも、この家ではなんだか、ありがたく感じてしまう。


 今日はママが、お茶を出してくれた。


 そして、すぐ本題に入った。


 幸人さんが、軽い調子で言う。


「今日は、メグミが挨拶に来たんだ」

「まあ」

「本日は、幸人さんとの結婚をお許しいただきたく、参りました」


 ママは目を丸くした。


「まあ、いきなりなの?」


 彼氏の家に、三度目だ。それなのに「いきなり」と言われても……


 だけど、顔には笑顔を貼り付けてある。


「この間、メグミの家には行って、喜んでOKしてもらったよ」


 幸人さんは、軽い感じで、言った。


「それは、ユキ君だから当然よ。どこに出しても、恥ずかしくないんですもの」


 まるで、目の前にいる女だと恥ずかしいと言いたげ――あ、言ってるんですね、はい、そうですか。


 笑顔で「ユキ君」を見つめた後、尖らせた視線が私に突き刺さった。


 それでも、声のトーンを上げてみせる程度には「上流夫人」のプライドがあったらしい。


「それで、メグちゃんは」


 一拍おいて、右の口角を上げてから続けた。


「お仕事は、いつ辞めるつもり?」


――来た!


 私は笑顔を崩さなかった。


「まだ、具体的には考えていません」


 ママの眉が、ほんの少しだけ動く。


「結婚したら忙しくなるわよ? すぐに赤ちゃんだって」

「そうですね」

「家庭を守るのは、女にとって大事な仕事よ、わかってるの?」

「わかっているつもりです」


 肯定はする。でも、決して約束はしない。


 ママは、少し黙ってから、さすがにトーンを下げてきた。


「幸人の仕事は、かなり忙しいのよ」

「聞いています」


 って言うか、同じ会社なんだけど。ついでに言うと、私の部署の方が、残業が多いんですけど。


「だから、家庭を支える人が必要なの」

「そうあると良いとは思いますね」


 私は同じ言葉を使わずに、ママの言葉を肯定し続けた。けれども、絶対に約束をしないというワザ。


 その程度の芸は社会人の一年目で覚えた技術だ。


 言質を与えない私に、ママは、はっきりとため息をついた。


「……やっぱり」


 小さく呟いた。


「凍堂家の家風に、染まらない人はねぇ」


 語尾の「ダメ」を発音しないだけ。


 部屋の空気が、少しだけ固まった。


「ちょっとママ」


 幸人さんが困った声を出す。


「まだ決まったわけじゃないだろ」

「でも、考えていないんでしょう?」


 ママは私を見たまま言う。


「それって、結婚の覚悟が足りないんじゃないかしら」


 パパが慌てて口を挟んだ。


「まあまあ…… ほら、結婚も、チャンスがあったら、どんどんした方がいいよ。後になると何があるかわからないからね」


 パパは、息子に結婚を急がせたいらしい。


 気持ちはわかりますよって、言ってみたいけど、私は社会人の常識として「そんなこと」は、絶対に言わない。


「そうね。立派な社会人になったんですもの。早く結婚して、凍堂家の跡継ぎを産んでもらう。できるかぎり早い方が良いわね」


 ママは言い切った。


 取りなすようなパパの、腰の引けた援護射撃と、幸人さんの「なんで、話を合わせねーんだよ」という非難の目。


 誰が味方なんだか少しもわからない一幕を演じた後、私は、お暇を告げる。


 家を出ると、すっかり夕方になっていた。


「ごめん」


 歩きながら、幸人さんが言った。


「ママ、ああいうとこあるんだよ」

「知ってます」

「悪気はないんだけどさ」

「悪気はないのはわかりますけど。でも……」

「でもっていうかさ、どうせ、後でなんとでもなるんだから、メグミが適当に合わせてくれれば良かったんじゃね」

「適当にですか? 絶対に、後で揉めると思いますけど」

「いや、結婚しちゃえば、なんとでもなるって」


 私はそれ以上、何も言わなかった。


 住宅街の道を通り抜けようとしたときだった。


 ふと、視線を感じた。


 辺りを見回した。


「どうしたの?」

「ううん、なんでもない」


 ……気のせい、なんだろうか?


 幸人さんがタクシーを呼ぶためにスマホを取り出した。


 その間、私はもう一度だけ後ろを見た。


 やっぱり、誰もいなかった。



 *

 

 その日の夜、私は部屋に籠もった。


 どこかに出かけていたノンが、いつ帰ってきたのかもわからない。


 階段を上がってくるノンの足音が、とても軽いと感じた。


 妙に機嫌が良さそうな雰囲気が、伝わってくる。


 私の部屋の前で、足が止まった。


 しばらくして。


 くすっ。


 小さな笑い声。


 そのまま足音が遠ざかっていった。


 私は、ベッドの上で天井を見上げた。


 始まったのかもしれない。

お読みいただき、ありがとうございます。

ここから、エンディングまで突っ走るつもりです!

応援のために、ポチしてくれると嬉しいです。


こちらも、完結部門で4位まで上昇しました。

良かったら、ご一読ください。


「 顔は平凡な婚約者なのに、浮気はするのかよ! 」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ