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欲しがり屋の姉に恋も結婚も奪われたけど、元気です! ~姉とエリート彼氏は勝手に破滅しました~  作者: 新川さとし


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第10話 理想のカタチ

 とんでもないものを見せられて「お腹いっぱい」になった私は、それでも、笑顔を消さないように頑張った。


――これは、始まっちゃってるね。


 実は、もう気付いていた。


 はっきりと意識したのは、かなり前。


 通勤電車の中で、インスタを開いた時だ。


 私だってインスタを見るくらいはする。特に、幸人さんが投稿したら「イイネ」を付けておかないと、難しい顔をされてしまうから。


 通勤電車の中で、インスタを開いた時だ。


「あ、やっぱり」


 そこから飛んだのはノンのインスタ。いくら、いろいろと想うところがあっても、姉妹だけにフォローくらいはしている。


「増えてるよね」


 知らず、言葉に出していたらしい。そばの男の人がチラッと見て、気付いた。


 慌てて口を閉じたけど、指は止まらない。 


 ノンの投稿が、以前とは様変わりしていた。


 前に見たことがある写真がバッサリと削除されている。


 それまでは、月に数回載せていれば多い方だし、美肌加工がガチのセルフィーや、職場の同僚とのランチに、新しいコスメの写真と言う感じだったのに……


 それが、ここ最近は、ほぼ毎日。しかも、雰囲気がガラリと変わっていた。


 同じセルフィーでも、白い壁や柔らかい光で演出して、清楚イメージを作り出す。


 そこに映り込んでいるものも、ちゃんと計算済みなのだろう。


 どれも、加工が入っているのは分かる。方向性も、ちゃんとセルフプロデュースされているのは、ある意味すごい。


 毎朝、一番に貼られるのも決まってる。


 我が家にはありそうにないテーブルクロスに、花まで置かれたテーブルで、手の込んだ朝食を食べている姿だ。


 いや、フツーに、アンタ朝食なんて食べてる時間ないじゃんと、突っ込みたいところだ。


 全ての写真は、派手さとは反対方向。「清楚」という言葉を、コンセプトにした写真ばかり。


 もちろん、自分で作ったと言いたげに、作り方まで丁寧に載せている。だけど、ギリに起きて、食べる時間も無く飛び出していくノンには、どう考えても無理。


 しかも「お休みの日は、つい、朝食にも手を掛けちゃいます」とか言って、ノンが作っているのを見たこともない料理ばかり。


 この間のお休みの朝食は、エッグベネディクトのオランディーヌソースってことになってる。


 ――賭けても良いけど。


 ノンは「オランディーソース」なんて、知らない。そもそも、エッグベネディクトなんて、食べたことないと思う。


 いや、料理もそうだけど、、そもそも、こんなお皿に、こんなテーブル。絶対、ウチにないよね?


 一緒に暮らしているから――断じて「家族」って言いたくない――わかる。これは、誰かのインスタをパクって、AIで自分の顔にしたやつだ。


 たまに映り込んでる「指」が違うし、背景にある壁もコンロも、電子レンジも違う。


 ……っていうか、使ってる電子レンジがちょくちょく変わってるよ? 我が家には、何台の電子レンジがあるんだろう。



 何をどこから突っ込めば良いのかわからないほど意味不明なインスタだけど、毎回「イイネ」をしている人は、気付いてないらしい。


 次々と見ていくウチに、気が付いた。


 短いキャプションも「いかにも」になってる。


《価値観が合う人と話す時間って、大切》


《守られるって、安心》


《家庭を大事にできる人でいたいな》


 ハッシュタグも思わせぶりだ。


 #日常

 #感謝

 #丁寧な暮らし


 またしても、乾いた笑いが浮かんで来て、押さえ込むのが大変だった。そもそも、ノンが「感謝」とか、ないから。


 冷えた笑いを抜きにして見るのが大変なくらいだ。いや、感情的なことを言えば、一種のホラーを見ているのに近かった。


 私は知ってる。ノンの考えは、もっと直接的で、もっと分かりやすい。「欲しいものは欲しい」につきるし、面倒なことは嫌う。


 なのに……


 画面の中のノンは、まるで誰かにとっての理想を、そのままなぞっているように、パターン化された世界だった。



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