第7話 監視対象
「……は?」
レンは思わず声を漏らした。
召喚書へ浮かぶ黒い文字。
《高位魔物の反応を検知》
《次回推奨探索区域:地下二階》
まるで“次の獲物”を示すような表示だった。
(なんなんだよ、この召喚書……)
レッドオーガを倒した直後だというのに。
その時。
「どうしたの?」
ユイの声に、レンは反射的に召喚書を閉じた。
「い、いえ……」
ユイは数秒だけレンを見つめる。鋭い視線。まるで嘘を探るようだった。
だが結局、彼女は深く追及しなかった。
「まあいい。それより、君はしばらく医療室から出ないように」
「……監視のためですか」
「半分は正解」
ユイは椅子へ座り直し、静かに脚を組む。
「もう半分は、本当に危険だから」
「危険?」
「レッドオーガ出現の原因がまだ分かってない」
レンの表情が変わる。ユイは端末を操作しながら続けた。
「普通、訓練区域にD級魔物は出ない。発生する魔物のランクは厳密に管理されてるから」
「じゃあ、なんで……」
「現時点では不明」
その返答は短い。だが、その重さは十分伝わった。
「ただし――」
ユイの目が細くなる。
「何者かが意図的にゲートへ干渉した可能性がある」
「……!」
レンは息を呑んだ。もし本当に人為的なものなら、ただの事故では済まない。
「現在、魔力監視局が地下区域を封鎖してる。特別監察班も調査中。だから君は、“唯一の生存者”として保護対象でもある」
監視対象。保護対象。
言い方が違うだけで、結局は自由を制限されるということだ。
レンは無意識に拳を握る。
(まずいな……)
能力がバレれば、もっと厄介なことになる気がする。
その時、部屋の外が騒がしくなった。
「その新人はどこだ!?」
「事情聴取が先だろ!」
「まだ安静が必要です!」
怒鳴り声と足音。どうやら本当に大事になっているらしい。
ユイは小さくため息を吐いた。
「……思った以上に騒ぎになってるね」
「そんなにですか」
「当然でしょ」
ユイは呆れたように言う。
「F級探索者がD級案件から生還した。しかも現場に残ってた魔力反応は異常値。局内でもかなり話題になってる」
レンの胃が痛くなる。目立ちたくなかった。本来なら、静かに強くなるつもりだったのに。
ユイは端末画面をレンへ向けた。そこには数値グラフが表示されている。
「通常、F級探索者の平均魔力量は100前後。でも君は戦闘中、一時的に340まで上昇してる」
「340……」
「ありえない数値」
レンの背筋へ冷たい汗が流れる。当然だ。召喚書の能力なんて説明できるはずがない。
ユイはレンを見つめたまま言った。
「安心して。今のところ局は、“覚醒型能力”だと考えてる」
「覚醒型?」
「極限状態で突然能力が変異する現象。稀だけど存在する」
レンは内心で少しだけ安堵した。完全には疑われていない。
だが、その時だった。
ドクン――。
腰の召喚書が脈動する。
「っ……!」
レンだけに見える黒い文字。
《地下二階にて高位カード反応を確認》
《適合率上昇中》
《ユニーク個体の存在を確認しました》
「ユニーク個体……?」
思わず呟く。ユイが眉をひそめた。
「何か見えたの?」
「……いえ」
レンは即座に否定した。
だが召喚書の脈動は止まらない。まるで地下二階へ来いと、そう誘っているかのようだった。




