第6話 F級の異常値と特別監察班
『生存者を確認!』
その声が響いた瞬間、レンの心臓が跳ねた。
(まずい……!)
足音が近づく。複数人。
レンは反射的にレッドオーガのカードを懐へ押し込んだ。
通路の奥から、管理局の職員たちが駆け込んでくる。
「君! 無事か!?」
「D級魔物が討伐されてる……?」
「誰がやったんだ……!?」
レンは息を整えながら、できるだけ自然に答えた。
「俺が来た時には、もう戦ってる人がいて……」
だが職員の一人が端末を見て顔色を変える。
「……いや、待て」
「戦闘反応が残ってる」
「この反応……F級の数値じゃない」
空気が一気に張りつめた。
(やばい……!)
その時。
『高反応エリアを確認。進路を開けろ』
低い声が響き、職員たちが慌てて道を開ける。
黒い戦闘コートを纏った男女が姿を現した。
胸元には銀色の紋章。
魔力監視局――特別監察班。
先頭の女性が、倒れたレッドオーガよりも長く、レンを見つめた。
「君が生存者?」
「……はい」
「名前は」
「レンです」
女性は端末を確認し、眉をひそめる。
「F級探索者、城崎レン。登録三日目……?」
周囲がざわつく。
「三日目の新人……?」
「ありえないだろ……」
女性――神代ユイは無表情のまま言った。
「確認する。この場で戦闘を行ったか?」
「……少しだけ」
「少し、ね」
視線が鋭く刺さる。
その瞬間――。
ピシッ。
レンの腰の召喚書に、小さな亀裂が走った。
「っ……!」
全身から力が抜け、膝が崩れ落ちる。
「おい、大丈夫か!?」
視界が揺れる。
《過剰使用を確認》
《魔力枯渇状態》
頭痛が走り、意識が霞む。
倒れ込むレンを、ユイが支えた。
「……無茶をしたな」
遠のく意識の中で、彼女の小さな呟きが聞こえた。
「この子、本当にF級……?」
レンが目を覚ますと、白い天井が視界に映った。
「……ここは」
身体を起こそうとした瞬間、鋭い痛みが走る。
「無理に動かない方がいいよ」
静かな声が耳に届く。
ベッドの横には、黒髪の女性――神代ユイが椅子に座っていた。
「ここは管理局医療室。君、丸一日寝てた」
「一日……?」
ユイは端末を閉じ、改めて名乗った。
「魔力監視局・特別監察班所属、神代ユイ」
「……レンです」
「知ってる」
淡々とした返答。だが視線は鋭く、完全に観察されている。
「君に聞きたいことがある」
「……なんですか」
「どうやってレッドオーガから生還した?」
やはりそこか。
「運が良かっただけです」
「D級魔物相手に?」
沈黙が落ちる。
ユイは小さく息を吐いた。
「まあいい。無理に聞き出すつもりはない」
そう言いながらも、視線はレンの腰元へ向く。
「その召喚書、少し変わってるね」
「支給品ですよ」
「……普通の召喚書には見えないけど」
空気が張りつめる。
その時、部屋の外が騒がしくなった。
「上層部が来るぞ!」
「新人のF級だろ!? 本当にレッドオーガ案件なのか?」
慌ただしい声が響く。
ユイは立ち上がった。
「どうやら想像以上に騒ぎになってる」
「え……?」
「訓練区域にD級魔物が出現したんだから当然でしょ」
そこで言葉を切り、ユイはレンを真っ直ぐ見つめた。
「しかも、その現場で唯一生き残ったF級探索者」
嫌な予感しかしない。
「しばらく君は監察対象になる」
「……監察対象?」
「簡単に言えば、“危険人物か確認中”ってこと」
レンの顔が引きつる。
最悪だ。
その時――。
《新規任務を確認》
召喚書が微かに発光した。
レンだけに見える黒い文字が浮かぶ。
《高位魔物の反応を検知》
《次回推奨探索区域:地下二階》
「……は?」




